『わたしと古民家と毎日 ~古民家ベーカリー&カフェとまり木~』作者、衿乃光希さんにインタビュー!

  1. TOP
  2. 「本」の挑戦者たち
  3. 『わたしと古民家と毎日 ~古民家ベーカリー&カフェとまり木~』作者、衿乃光希さんにインタビュー!
「本」の挑戦者たち
  • クリエイター

シェア

X X(Twitter) Facebook Facebook
『わたしと古民家と毎日 ~古民家ベーカリー&カフェとまり木~』作者、衿乃光希さんにインタビュー!

イントロダクション

HAPPY! “本”と“ことば”がなにより大好き、いっちーです!

今回お話をうかがう、衿乃光希先生のデビュー作『わたしと古民家と毎日 ~古民家ベーカリー&カフェとまり木〜』は序盤から最後までおいしそうなものがいっぱいで! 読後、パン屋さんに直行しちゃったほど!
しかも、それまでパンはあまり好きではなかったぼくを、休日にパン屋巡りをするほどのパン好きに変えた作品なんです。

一人の男の嗜好を変えてしまうほど面白い作品と、その作品を生み出した作者様について、たくさんお話をうかがっていきますよ~!

それじゃ~いってみよー!

Chapter 1 本を読むことについて

どのような幼少期を過ごされていましたか。

幼稚園ぐらいのころは、あんまり落ち着きのない子でした。
でも、ちっちゃいガラス細工とか、ぬいぐるみとかはすごく好きでしたね。父にアヒルとかカエルの小さなガラス細工を買ってもらって、今でも大事に持っています。

本を自分から読むようになったのはいつからなのでしょうか。

本を読み出したのは、小学生の頃からですね。いろんな本を読んでいましたが、とくに『トム・ソーヤーの冒険』は、繰り返し何度も読んでいた記憶があります。
読んだ日の夜中に、体が重くて起きるっていう“ちょっと怖い体験”をしたこともあるくらい入り込んで読んでいました。

これまでどんな本を読まれてきたのでしょうか。

中学生のころは、友人たちと集英社コバルト文庫やティーンズハートを読んでいました。
藤本ひとみ先生の『まんが家マリナ』シリーズや、氷室冴子先生の『なんて素敵にジャパネスク』『銀の海 金の大地』、折原みと先生の作品にも親しんでいましたね。宗田理先生も好きでした。

『【復刻版】なんて素敵にジャパネスク』
著・氷室冴子(集英社コバルト文庫)
 『銀の海 金の大地』 1巻 著・氷室冴子(集英社オレンジ文庫)

“作家になりたい”とはいつから思っていたのでしょう。

小学校の卒業文集には、“将来の夢”の欄に作家って書いていましたね。

小学生の頃から! なにかきっかけがあったのでしょうか。

小学校のときに絵本を作る授業があって。そのとき、“オリジナルのねずみのキャラクターが冒険する話”を作ったんです。それを今でも覚えているということは、物語を作ることが楽しかったのだと思います。

冒険譚が作家活動の始まりなのが意外でした。ちなみにその当時から今のようなほっこりするお話を書かれていたのでしょうか。

実は小学生のときは歴史がすごく好きで、「歴史ものを書ける人になりたい」と思っていたんです。でも気がついたら、歴史小説自体を読まなくなっていた時期もありました。
でも、「作家になりたい」という気持ちは、ずっと持っていました。

歴史小説!? これまた意外です。歴史にハマったきっかけがあったのでしょうか。

大河ドラマで伊達政宗を取り扱っていたんです。そこから歴史が好きになりました。
6年生のときには、司馬遼太郎先生の『馬上少年過ぐ』や、井上靖先生の『風林火山』なんかを担任の先生に借りて読んでいましたね。

歴史が好きというのが、先生の作品を読んだだけではわからなかったので、とても意外でした。もしかしたら歴史や本以外にも、好きなものがあるのでしょうか。

音楽がすごく好きです。
子どものころは、レベッカとかサザンオールスターズとかが流れていて、よく曲を聴いていました。ただ、そのころは特定のアーティストが好きというより、曲が好きで聴いていました。
アーティストは男闘呼組にハマりました。アイドルでもありながら、バンドでもあるっていう、今でいうTOKIOとかSUPER EIGHTみたいなスタイルで、 「バンドってかっこいい」と思って、そこからずっとバンドばかり聴くようになりましたね。
さらに、自分でもやりたくなってギターを始めて、高校では軽音楽部に入り、部長もしていました。

軽音部に入って部長まで!? ここまでお話をうかがっていると、小説家よりミュージシャンになりそうな経緯ですね……。

確かにそうですね。音楽はかなり好きだったと思います。でも、プロを目指すほどではなくて。音楽の専門学校には行かず、趣味として続けています。

音楽のほかにも影響を受けているものはありますか。

ゲームやアニメ、漫画ですね。母が厳しかったので、小学生の頃はゲームも漫画もほぼ禁止で。アニメだけはOKで、見ていました。
中学生からいろいろ解禁されて、ゲームが大好きでした。ファイナルファンタジー、ドラゴンクエスト、ゼルダの伝説、聖剣伝説などストーリー性のあるRPGゲームをよくプレイしていました。ストーリーを重視していた影響なのか、物語は作れても、“このキャラは忘れられない”というレベルまで個性の立ったキャラを作れていなくて、課題なんです。なので、アニメやドラマを見ながら、今もずっと勉強しています。

これまでの経験で、「これはいまの創作活動につながっている」と感じる出来事があれば教えてください。

わかつきひかる先生の小説教室に通っていたのが大きいと思います。
先生に作品を読んでもらって、「ここは説明になっています」とか、「この表現はすごくいいです」とか、具体的に添削していただけたのが、本当に勉強になりましたし、少しずつ「自分の出力が上がってきた」という実感もありました。
そこで、“いつか先生に褒めてもらえる作品を書きたい”という目標もできて、4作目で初めて、先生に「面白かった」と言っていただけたんです。

コンテストに落選して、落ち込んで、でも誰かの言葉に救われて。また書く。
その経験が、今の自分の土台になっている気がします。

最近読んだお気に入りの作品を教えてください。

最近だと、土屋うさぎ先生の『謎の香りはパン屋から』です。
私は接客側を中心にパン屋さんを書いているんですけど、土屋先生は製造側を書かれていて。同じ“パン屋さん”でも、こんなに描き方が違うんだって、すごく勉強になりました。

あと、東里胡先生の『さよなら、私の愛した世界』ですね。
冒頭の描写が、本当に綺麗で……印象に残っています。
感情の揺さぶり方もすごくて、「こういうふうに読者の感情を動かすんだ」って、勉強になっています。

『謎の香りはパン屋から』
著・土屋うさぎ カバーイラスト・出水ぽすか(宝島社)

第23回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作」

謎はクロワッサンのように折り重なり、カレーパンのように刺激的!パン屋さんでの〈日常の謎〉を解く“美味しい”ミステリー

大阪府豊中市にあるパン屋〈ノスティモ〉(ギリシャ語で「美味しい」という意味)でアルバイトをしている大学一年生の市倉小春。
そこに持ちこまれる数々の謎を解決する小春の推理と活躍! 焼きたてのパンの香り漂う〈日常の謎〉連作ミステリー!

宝島社作品ページから引用

『さよなら、私の愛した世界』
著・東里胡 装丁イラスト・コタチユウ(アルファポリス)

人生の終わりに待っていた、優しくてほろ苦いエピローグ

十六歳と三か月。それが栗原夏月の生きた時間だ。死の瞬間の記憶もないまま、夏月は思いがけずこの世に留まってしまう。そんな彼女を認識することができるのは、ただひとり、双子の姉の真柴春陽だけ。両親の離婚を機に別々の家で育った二人は、再び寄り添い、夏月が死んだ夜の謎を探ることにした。やがてかすかな足跡を辿るうち、春陽は夏月が隠してきた秘密を知ることになり――。なくした絆を取り戻す、希望と再生の物語。

アルファポリス作品ページから引用

Chapter 2 作品を書くことについて

ペンネームの由来を教えてください。

“衿乃”は本名をもじっています。
“光希”の部分は、パッと見た時に性別が分からないように “どちらにも見える名前”を意識して考えました。

作品を書くときに、大事にしていることはありますか。

編集部が何を求めているのかを、募集要項からできるだけ読み取って、それを作品に落とし込むようにしていますね。
自分の好きなものと、“今求められているもの”の接点を探す、という感じです。

ほかには、読んだ本を分析するようにもしています。noteに感想を書いているんですけど、“なぜ面白かったのか”を考えています。
物語を作るときは、まずストーリーを考えて、そこに合うキャラクターの性格や過去を作っていくことが多いです。キャラを考える時は、主人公を応援してもらえるようなエピソードや背景を考えています。

あとは1ページ毎の5W1Hと“冒頭と最後の引き”はかなり意識しています。毎回ではないですけど、“次が気になる終わり方”はできるだけ入れるようにしています。

執筆時のルーティンを教えてください。

朝に書くことが多いですね。「今日はどう書こうかな」って頭の中で考えながらブラウザゲームをやって、それが決まってきたら8時半とか9時ぐらいから、お昼ぐらいまで書いています。調子が良ければ、午前中だけで1話分まるっと書けることもありますね。
それを翌朝に見直して、また続きを書く、みたいな感じで進めて、もっと書きたいと思ったときは夜も書く日もあります。
もちろん上手く書けない日もあるんですけど、「とりあえず500文字だけでも」と、毎日頑張っています。

執筆する環境に、こだわりはありますか。

基本的には家で書いています。
家では犬の世話をしながら書いたり、たまに録画したアニメやドラマをつけっぱなしにしていることもありますけど、理想の環境は“無音”ですね。
引きこもり体質なのもありますが、カフェみたいに人がいるところだと、どうしても気が散ってしまうので、家が多いです。

デビューまでに、どんな努力や苦労がありましたか。

自分に何が向いているのかが、ずっと分からなかったことですね。
私は初めて公募に出してからデビューまで27年ほどかかりましたが、その間「自分はどのジャンルなら評価されるんだろう」って悩んでばかりでした。

20代のころから公募に挑戦しているんですが、落選のたびにものすごく落ち込んでしまって。次の作品を書けるようになるまで、1〜2年かかる時期もありましたし、「もう無理かもしれない」と思って、創作ノートを捨てたこともあるくらいです。

それをどう乗り越えてきたのでしょう。

乗り越えたというよりは、諦めきれなかったという感じですね。
2017年から、小説教室に通い始めて、そこで、視点や描写、プロット、企画書の書き方まで、本当に基礎から学びました。それまで、自分が“どこでつまずいているのか”すら分かっていなかったので、基礎から学んで、先生に添削していただいて、自分の弱点を具体的に教えてもらえたのはやはり大きかったと思います。

2022年に、アルファポリス第5回ほっこり・じんわり大賞で、初めて予選を通過して、奨励賞をいただいたんです。嬉しくて一時間ほど手の震えが止まらなかったです。
それでもまだ自分に向いているジャンルがわからなかったので、ライト文芸以外に、異世界恋愛やミステリーなど本当にいろんなジャンルを試しました。そのお陰で筆力が上がったと思っています。

長い応募時代を経て、デビューをつかみ、やっと自分の作品が出版されたわけですね……家に本が届いたときのことを教えてください。

出版作業の間、「ほんまに本出るんかな」って、どこか信じられないみたいな気持ちがずっとありました。
改稿や校正、事務的なやり取りと、初めてのことばかりで、不安も大きかったです。原稿が返ってくると、気になって眠りが浅くなって。でも本になるんだからと、頑張りました。
見本誌が届いたら、奪うように受け取って、自分の部屋に急いで持っていきましたね(笑)。一人で味わいたかったんです。

実際に、本を手に持ったとき、どんなお気持ちでしたか。

「おぉ……」ってなりました。
感動はもちろんあったんですが、泣くというより、「ほんまに出たんや」って安心しましたね。
しばらく、ずっと眺めていました。あちこち見て、「意外と分厚いな」とか、「こんな厚さになるんや」とか思いながら。
文字数、ちょっと書きすぎたなとも思いました(笑)。

周りの方々の反応はどうでしたか。

支えて応援してくれていた家族はもちろん喜んでくれました。
それと、小説教室で、先生がお祝いしてくださいました。「おめでとう」って、大きな花束を渡してくださったんです。
私は勝手に、小さい花束を想像していたんですよ。持って帰るのも大変だし、そんな大きいものじゃないだろうなって。
でも、本当に大きな大きな花束を持ってきてくださって。
それを見た瞬間、「うわ、それは泣きますわ……」って。
そのときが、一番感動したかもしれません。
9年間お世話になってきた先生に、おめでとうって言っていただけたことで、「ようやく報われた」って思えました。
創作仲間の方たちも、本を買ってくださるだけで十分なのに、お菓子をくださったり、お祝いしてくださったりして。
そういう周りの方の優しさも、本当に嬉しかったです。

実際に書店で、ご自身の本を見に行かれましたか。

何店舗か回りました。とある書店さんでは、新刊が置かれる棚に3冊並べてくださっていて、「1冊じゃなくて3冊も!?」って。表紙絵とデザインがすごくすてきなので、表紙が見えるように並べてくださって、すごく嬉しかったのを覚えてます。
ちゃんと置いてもらえているのを見ることで、ここでもデビューを実感できましたね。

今後は、どんな作品を書いていきたいですか。

いろいろ書きたいものはありますが、まずはやっぱり、“2冊目を出すこと”ですね。
小説教室でも“2冊目の壁”はよく聞いていたので、「ここからが本番なんだ」っていう感覚がすごくあるんです。
書きたいもので言うと、今作の続編もですし、創作仲間の方から、「またミステリーを読みたい」と言っていただいているので、今後はライト文芸を軸にしつつ、ミステリーや児童書にも挑戦していきたいですね。

“音楽もの”と言われるかと思っていました。

音楽ものは今のところ予定はないです。過去に書いていますし、やっぱり難しいので……。話を思いついたら、また書くかもしれませんが。

どのジャンルの作品も楽しみにしています!

Chapter 3 『わたしと古民家と毎日~古民家ベーカリー&カフェとまり木~』について

『わたしと古民家と毎日~古民家ベーカリー&カフェとまり木~』
著・衿乃光希  装丁イラスト・しゅろく(アルファポリス)

アルファポリス第8回ライト文芸大賞「何気ない暮らしの景色賞」受賞作!

過労から味覚を失った、社会人二年目の鈴原依織。出社したくないな——身も心もくたくたの彼女は、会社の最寄り駅を乗り過ごし、長閑な田舎の駅に行き着いてしまう。そこでふと立ち寄ったのは、『古民家ベーカリー&カフェ とまり木』。久々の美味しい食事に心を動かされ、いつしか涙を流していた依織は、スタッフ募集の貼り紙を見つけ、転職を決意する。そして、周囲の人々に支えられて、古民家での穏やかな毎日が始まる——これは、パンの香りに誘われて動き出す、癒やしと成長の物語。

アルファポリス作品ページから引用

この作品のアイデアは、どこから生まれたのでしょうか。

結構、自然と決まっていった部分が大きいですね。
もともと、“パン屋さんを舞台にした、癒やしと再生の物語”を書きたいと思っていましたし、主人公の設定も、“傷を抱えた人が、誰かと出会って少しずつ立ち直っていく”という流れも、最初からなんとなく頭の中にあったんです。

ただ、舞台を都会にするか、田舎にするかで、迷っていて。
そんなときに、コンテストの募集要項で“何気ない暮らしの景色賞”というテーマ別賞を見つけたんです。
説明文に【都会の喧騒から離れ、一日一日を穏やかに、丁寧に過ごす姿。何気ない日常での小さな発見や、心理の機微を描いた作品。】とあって、「あっ、これは田舎だ」と決まり、“古民家のパン屋さん”という設定も、アルファポリスさんが古民家系の作品を結構出されていたので、私も古民家ものが好きなので、「絶対これだ」という感じで、自然に決まっていきましたね。

執筆中に、特に苦労したことや工夫したことはありますか。

冒頭ですね。物語を時系列順に書くか、違うものにするかですごく迷いました。
最初からつらい出来事を時系列で書いてしまうと、どうしても重くなってしまうし……でも書かない選択肢はなかったので、どこに入れようか……といった感じで、何度も書き直した部分です。
一章の終わりに、面接でつらかった過去を語る、という形を思いついたことで今の構成になりました。そこが決まってから、二章以降はわりとスルスル書けました。

工夫した点で言うと、コンテストのスケジュールですね。
たくさんの方の目に触れるには、ホットランキングに掲載されるのが一番だと思い、掲載されるにはどうすればいいか、更新スケジュールを考えました。

この作品で挑戦だったことを教えてください。

“どれだけ食べたいと思ってもらえるか”ですね。
パン屋さんの物語なので、お店に入ったときのパンの匂いや見た目、噛んだ時の食感、バターの香りみたいなものを、ちゃんと伝えたかったですし、“パンそのものが美味しい”ということを、読者さんに感じてもらえるように意識していました。自分でもたくさんのお店に食べに行って、その時の感情や、食べたときの記憶を思い出しながら書いていきましたね。

あと、今回は自分の好きなものと、今の流行、コンテストのテーマや要素を、どう物語に編み込んでいくかも挑戦でした。

読者に“ここを読んでほしい”というポイントはありますか。

パンの香りに誘われて動き出して、美味しい食事に心を動かされて、周囲の人たちに支えられながら、古民家での穏やかな毎日が始まっていく。
そういう“癒やしと成長の流れ”を読んでもらえたら嬉しいです。

あと、依織以外にも、それぞれの登場人物に関係性があって、その関係がどう変わっていくのかも読んでもらいたいところです。特に、疎遠だった父との再会は、私の過去にも少し触れるエピソードで、入れたかった要素なので、依織の成長を楽しんでもらえたらうれしいです。

読者の方からの反応で、印象に残っているものはありますか。

実は私は、主人公によって文体を意識して変えているんですが、創作仲間がそこに気づいてくれたことです。
ミステリーを書いた時は、週刊誌の記者の女性が主人公だったので、少し硬めの文章にしましたし、難しい言葉も使うようにしていました。

一方で、今回の主人公は24歳の若い女性なので、できるだけ読みやすく、難しい漢字もあまり使わないように“とにかくみんなが読みやすいように”というのは、かなり意識していました。そういうところを読み取ってくださる方がいたのは驚きでしたし、うれしかったです。

この作品を通して、作家活動にどんな変化がありましたか。

一番は、自信になったことですね。
感想もたくさんいただけましたし、サイトの作品のお気に入り登録がライト文芸で100人に到達できたというのは、自分の中ですごく大きな自信になりました。
あとは、「ちゃんと共感してもらえるものが書けたんだ」って思えたことですね。自分の書くジャンルが分かったことも含めて、「これでいいんだ」と思えるようになりました。

ネタバレ注意!(クリックしてお読みください)

今作の前半には味覚障害やブラック会社への就職など、しんどい要素が多くでてきます。ここを、あえて書いた理由はあるのでしょうか。

依織を、“ただ弱いだけの子”にはしたくなかったからですね。
“この子が弱いから、こうなった”ではなくて、“それだけつらい経験だったから、心が傷ついてしまった”ということを、ちゃんと読者さんに感じてもらいたかったので、あえて少しきつめに書いています。
でも、そのぶん、最後には「こんなに元気になったんだね」「良かったね」と思ってもらえる物語になったんじゃないかなと思っています。

あとは、依織を応援してもらえるキャラクターにしたかった、というのもあります。応援してもらうためには、共感できる要素が必要だと思ったので、依織にはつらい経験をしてもらいました。

依織の成長には、店長や沙耶さんの存在も、かなり大きいですよね。

そうですね。
依織はまだ24歳なので、“癒やされる”だけじゃなく、“ちゃんと成長すること”も必要だと思って、店長と沙耶さんには、“優しいけれど、ちゃんと諭してくれる人”という役割を持たせました。
ダメなところは、“それはダメだよ”と言ってくれる。でも、頭ごなしに怒るんじゃなくて、寄り添いながら導いてくれる。
そういう大人を書きたかったんです。

作品全体に、ふわりと包み込むような優しさのある文体が流れていると感じました。この文体は、意識して作っていったものなのでしょうか。

文章のリズムは、かなり意識しましたね。
読み直すときにWordの音声読み上げ機能を使って、“耳で聞いたときに自然かどうか”もチェックしています。
優しい文体に関しては、今作が“優しい人たちと出会って、傷ついた心が少しずつ癒やされていく物語”なので、その空気感が無意識に文体にも現れたのかなと思います。

登場人物たちがみんなとても優しく、誰かを強く踏みにじるような人物がほとんど出てこないのが印象的でした。こうしたキャラクターたちは、どのような思いで書かれたのでしょうか。

現実って、つらいことが多いじゃないですか。だから、「せめて本の中だけでも、優しい世界を感じてほしい」という思いがありました。
テーマ自体も、“優しい人たちと出会って、傷ついた心が少しずつ癒やされていく物語”だったので、“人の優しさ”は最初から物語の核にしたいと思っていましたね。

唯一、物語後半に嫌な叔父さんが出てくるところはあるんですが、そのシーンに嫌な感じはありつつ、読後感としては癒やしなのが不思議です。

全員をただ優しくするだけだと、物語として少しきれいすぎるなとも思ったので、無責任な退職に対して、ちょっと厳しい反応をする叔父さんのエピソードを入れました。
依織にちゃんと、「自分の行動を振り返ってほしい」という気持ちもありましたし。
すぐに叔母さんによって救済されて、転職自体は間違っていなかったとわかる。
その変化を通して、“依織もちゃんと成長しているんだよ”ということも書きたかったんですよね。

パン屋さんでの仕事の描写がとても具体的で、実際の空気や手触りが伝わってきました。こうしたディテールは、取材やご経験、あるいはイメージの積み重ねの中で作られていったのでしょうか。

接客で疲弊していく感覚や、人と関わるときの空気感みたいなものは、自分自身が接客業をいくつかやってきた経験から来ていると思います。

ただ、パン屋さんの“作る側”の描写については、ほとんどYouTubeですね(笑)。
作業台の音とか、パンを並べる手つきとか、オーブンから出した瞬間の感じとか。ああいう空気感は、全部動画から吸収していった感じです。
正直、“YouTubeがなかったら書けなかった”っていうぐらい、助けられました。
本当にありがたいです。

作中に登場する料理やパンがどれも本当においしそうで、読んでいるだけで香りや温度まで伝わってくるようでした。食べものをここまで魅力的に書くうえで、意識されていたことはあるのでしょうか。

やっぱり、“自分が本当に好きなものを書く”っていうのは大きいと思います。
私はパンもご飯も大好きなので、「これ絶対美味しいやろ」って、自分自身がワクワクしながら書いていました(笑)。

グルメ描写はかなり意識していて、最初のハンバーガーのシーンも、はじめはYouTubeで食べている映像を見ながら想像で書いたんです。でも、あとから実際に食べに行ったら、“ベーコンの香りがふっと鼻に来る”感覚があって。「これや」と思って、その描写を追加しました。
昔の自分だったら、そこまで書けなかったと思うんです。
ご飯ものを書くときって、自分もお腹が空いてこないとダメなんですよ(笑)。書いていると食べたくなって、自分も太るんですけど、それぐらいじゃないと“美味しそう”は書けないと思っています。

あと、知り合いにパン屋さんで働いている人がいて、「パン屋さんって実際どうなん?」っていうのを、一度取材みたいに聞いたこともありました。そういう意味では、YouTubeと知人のおかげですね。

パンって、味だけじゃなくて、“焼きたての匂い”とか、“バターの香り”とか、“ふわっとした空気感”込みで幸せになる食べものだと思うんです。
だから、“ただ美味しい”じゃなくて、“食べた瞬間にちょっと心がほどける感じ”まで書けたらいいなって思っていました。
私は、調理シーンを書くのは得意なんです。でも、食レポにはずっと苦手意識がありました。今回初めてしっかり“食べた感想”を書いたんですけど、それがすごく好評で。
やっぱり、“自分が好きなものを書くときの熱量”って大きいんだなと思いました。

Chapter 4 メッセージ

衿乃光希さんにとって、“本”とはどのような存在ですか。

本は、考え方や視野を広げてくれるものだと思っています。
リアルでは会えない人の考え方にも、本を通して触れられるじゃないですか。自分では読まない本でも、読んだ方の話を聞くことで、回り回って勉強させてもらうこともあります。

例えば、同じ賞で大賞をご受賞なさったミラ先生の『さくら長屋の回覧ノート』は、先生がお読みになった参考文献がリストアップされていて、どれも私が読んでいない書籍ばかりでした。ミラ先生が読んで、作品に活かしてくださったからこそ、その書籍の考え方を私も知ることができました。

『さくら長屋の回覧ノート』
著・ミラ 装丁イラスト・佳奈 (アルファポリス)

口下手で不器用、婚活にも連敗中の百花。32歳となり、おひとり様で生きていこうと決意した彼女は、老後の資金を貯めるため、築50年のさくら長屋に引っ越すことにした。入居条件は、住人たちとの回覧ノートを続けること。家賃の安さに惹かれて長屋暮らしをはじめた百花は、個性豊かな住人たちに振り回されてばかり。けれど回覧ノートが運ぶ、ちょっとお節介であたたかい彼らとの交流は、百花の世界を少しずつ広げていき――

アルファポリス作品ページから引用

もちろん、メッセージ性が強いものだけが本ではなくて、ただ面白い、ただ楽しい、という娯楽としての本も、自分の癒やしになります。
読書の楽しみ方は人それぞれなので、それぞれ自由に楽しんでほしいですね。

これからの“本の挑戦者”へ、メッセージをお願いします。

創作は、すごくしんどいです。
特に公募は、頑張って書いても誰にも読んでもらえないことも多いですし、「うわ、またダメやった……」って落ち込むこともあります。
でも、その気持ちを他者への攻撃ではなく、「次、頑張ろう」というモチベーションに変えてほしいです。
一日100文字でも500文字でもいいので、とにかく一作を書き終えるところまで、途中でやめずに続けてほしいですね。
公募だけじゃなくて、Webのコンテストでもいいです。何か目標を作って書き続けていってください。
私自身、小説教室に通い始めてからでも9年、最初の挑戦から数えると27年かかっています。
だから、本気で悩んでいる人にも、“時間がかかっても、夢を叶えられる可能性はある”って知ってほしいですね。

あと、書くだけじゃなくて、インプットも大事です。
映画を観たり、人と話したり、美味しいものを食べたり。「これ、いつか小説に使えるかもしれない」って思いながら五感を使って経験すると、それが描写力につながっていくと思うんです。
書きたい気持ちがあるうちは、あなたのペースで、創作を続けてくださいね。

インフォメーション

書籍情報

『わたしと古民家と毎日~古民家ベーカリー&カフェとまり木~』
著・衿乃光希  装丁イラスト・しゅろく(アルファポリス)

アルファポリス第8回ライト文芸大賞「何気ない暮らしの景色賞」受賞作!

過労から味覚を失った、社会人二年目の鈴原依織。出社したくないな——身も心もくたくたの彼女は、会社の最寄り駅を乗り過ごし、長閑な田舎の駅に行き着いてしまう。そこでふと立ち寄ったのは、『古民家ベーカリー&カフェ とまり木』。久々の美味しい食事に心を動かされ、いつしか涙を流していた依織は、スタッフ募集の貼り紙を見つけ、転職を決意する。そして、周囲の人々に支えられて、古民家での穏やかな毎日が始まる——これは、パンの香りに誘われて動き出す、癒やしと成長の物語。


アルファポリス作品ページから引用

SNS

X:@erinomitsuki

note:https://note.com/erino_mitsuki

シェア

X X(Twitter) Facebook Facebook

連載

クロストーク Vol.1 つるこ。先生と兎束作哉先生にガチなクリエイティブ話を聞いてみた! 『僕がいない世界で君が光を見つけるまで』作者、川奈あさ先生にインタビュー! 『わたしと古民家と毎日 ~古民家ベーカリー&カフェとまり木~』作者、衿乃光希さんにインタビュー! 歴史小説は勉強じゃない! 歴史小説家、白蔵盈太さんにインタビュー! 『三月は、所によりオフライン』作者、篠也マシンさんにインタビュー! “地域の書店マップ”担当、名古屋市鶴舞中央図書館 河合さんにインタビュー 『勝手に覗いて幻滅すんなよ』作者、微炭酸先生にインタビュー! 『成人式の二次会はデスゲームです』作者、くじら先生にインタビュー! 『双子の姉にすべて奪われた私が、軍神に愛されています』作者、小原燈先生にインタビュー! 『青春テロリズム』作者、朱宮あめ先生にインタビュー! 『きみが明日、この世界から消える前に』作者、此見えこ先生にインタビュー! 『フライトドクターの独占欲が熱情一夜で溢れ出し――逃げ出しママを燃え上がる愛で絡めとる』作者、蓮美ちま先生にインタビュー!(後編) 『フライトドクターの独占欲が熱情一夜で溢れ出し――逃げ出しママを燃え上がる愛で絡めとる』作者、蓮美ちま先生にインタビュー!(前編) 『伯爵家の五男ですが、婿入りして公爵になりました。 前世知識で領地を復興して嫁や家臣と幸せになります』作者、灰紡流さんにインタビュー! 放送作家、山田ボールペンさんにインタビュー 『君がくれた魔法は解けない』作者、伊瀬ハヤテ先生にロングインタビュー! 『最高な恋リアの作り方 #誰にでもヒミツはある』作者 音はつき先生にインタビュー! 『ヒロインが最後に死ぬラブコメ』作者 神岡鳥乃先生にインタビュー! 青春は綺麗なだけじゃない……スターツ出版 アンチブルー担当者さんにインタビュー! 『ヤンデレだらけの乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、美形執着騎士に迫られています』作者、兎束作哉さんにインタビュー! 動物を研究しながら、動物の絵と物語を書く!? キツネ月さんにインタビュー! 左京区を本の街へ! 左京区役所勤務 松本さんにインタビュー! タイトルが『ぽ』や『へ』や『ぽぽぽぽぽ』!? へにゃらぽっちぽーさんにインタビュー! 自由に描く絵本!? 作家のしもむらにいなさんにインタビュー! 『マッチングアプリで出会ったクセつよ男子図鑑』収録『泣き落とし男子』作者、葉方萌生さんにインタビュー! 『傷だらけ聖女より報復をこめて』原作者 編乃肌先生にインタビュー! 絵本作家を呼んでのイベント!? その主催の学生さんにインタビュー!  漫画に小説の二刀流!? コミティアや文学フリマにも参戦! まさに本の挑戦者な有理まことさんにインタビュー! 話さない読書会!? シェア型書店で自作本を売り、イベントも開くはやしあやかさんにインタビュー! シェア型書店で自作本を売る!? 夏迫杏さんにインタビュー! 『本を売る、という冒険のつづき』――手渡すその瞬間まで。本って、ほんとうにURERU!(後編) 『本でつながる、物語が輝く集会所』――まっさらな紙の、その先へ。ZINEは、きっとDEKIRU!(中編) 『本をつくる、という冒険のはじまり』 ――のんびりゆったり長居OK。そんな場所にSURU!その2(前編)  『本をつくる、という冒険のはじまり』 ――のんびりゆったり長居OK。そんな場所にSURU!その1(前編)
         記事一覧へ

「本」の挑戦者たち