イントロダクション
HAPPY! “本”と“ことば”がなにより大好き、いっちーです!
今回取材させていただいたのは、小原燈先生!
以前、蓮美ちま先生を取材させていただいた際に、「面白かった作品」として小原燈先生の作品のお名前が挙がりました。そこで、実際に読んでみたところ、これがもう、めちゃくちゃ面白い!
蓮美先生が絶賛されていたのも、「そりゃそうだ……!」と即納得でした。
今回は、そんな小原燈先生の作品の面白さの理由を、「本を読むこと」「作品を書くこと」、そしてもちろん先生の作品『双子の姉にすべて奪われた私が、軍神に愛されています』のお話からも、たっぷりひもといていきますよ~!
それじゃ~いってみよー!
プロフィール
小原燈
◇受賞歴◇
第49回キャラクター短編小説コンテスト「ワンナイト・ラブストーリー」優秀賞受賞
第9回スターツ出版文庫大賞・部門大賞受賞
◆書籍◆
『双子の姉にすべて奪われた私が、軍神に愛されています〜新たな波乱と永遠の契り〜』
『双子の姉にすべて奪われた私が、軍神に愛されています』
『ワンナイトラブストーリー 一瞬で永遠の恋だった』短編『初恋の終着点』収録。
chapter 01 本を読むことについて


まずは本を読むことについてお話をうかがいます。本とはいつ、どのように出会われたのでしょうか。
いつ本と出会ったのかははっきりとは覚えていません。というのも私にとっての本は小さいころから身近にあるものでした。
家には絵本があって、親にも読み聞かせをしてもらっていましたし、図書館にもよく連れて行ってもらっていて、司書さんの読み聞かせが楽しかったのを覚えています。小学校に入って図書室に通うようになると、「本ってこんなにたくさんあるんだ」と驚いて、ますます本を読むようになりました。

先生のこれまでの読書遍歴を教えてください。
小学校低学年の頃は、絵本や児童書を読んでいました。
あとは伝記マンガも好きで、かなり読んでいたと思います。
小学校高学年から中学生にかけては、『ハリーポッター』や『守り人』シリーズ、『勾玉三部作』『十二国記』『西の善き魔女』といった本も読むようになって、いわゆる王道の作品をたくさん読んでいました。
中学生のときは、コバルト文庫に出会ったのが衝撃的でしたね。
■ コバルト文庫とは
コバルト文庫は、集英社が刊行している文庫レーベル。主に少女向けのライトノベルを中心に、恋愛・ファンタジー・歴史ものなど幅広い作品を刊行してきた。
どういったところが衝撃的だったのでしょう。
最初は、表紙の綺麗なイラストに惹かれて手に取りました。内容もすごく面白くて、 「こんな世界があるんだ」と思ったのを覚えています。そのときの本が、野梨原花南先生の『ちょーシリーズ』です。
それをきっかけに少女小説にハマってたくさんの作品を読みました。
間違いなく、この頃に読んだ少女小説は今の自分の基礎になっていると思います。
実際に「こういう小説が書きたい」と思って書き始めましたしね。

著:野梨原花南(集英社)
あらすじ
『絶望の森』と呼ばれる深い森の奥、美女と野獣が愛し合い、暮らしていた。美女の名はダイヤモンド。ジェムナスティ国の王女だった。そして獣の正体は、トードリア国王子ジオラルド。陰謀に巻き込まれた彼は、魔法によって姿を変えられてしまったのだった。魔法を解く方法はただ一つ。誰かとの愛の誓いを立てること。2人は愛の口づけを交わすが…。恋と冒険がいっぱいの痛快ファンタジー!
(Amazon.co.jpから引用)
あとは高校生のときに読書のジャンルが広がったことも大きいと思います。高校は女子高に通っていたのですが、そこにはいろんなタイプの子がいて、その子たちにいろんな作品を教えてもらって読んでいたんです。
おかげでそれまであまり触れてこなかった一般文芸、ミステリー、BL、ライトノベルなど、本当にいろいろ読むようになりました。
小さいころから本が身近だったこと、中学生で少女小説にハマったこと、そして高校時代に幅広く読んだこと。どれも今の自分につながっていると思います。
大学生になると、谷崎潤一郎の『春琴抄』や、高村光太郎の『智恵子抄』といった古典や詩も読むようになりました。
この頃は、一番本を読んでいた時期だったと思います。同じ本を再読するのも含めてですが、多分、年間300冊以上は読んでいたんじゃないかなと。
『デルフィニア戦記』などのファンタジーや『銀河英雄伝説』などのSFをまとめて読んだり、少女小説も変わらずずっと好きだったので、昔好きだった作品を読み返したりしていて、暇があれば本を読んでいるような生活でした。
ただ、社会人になってからは仕事が忙しくて、読む時間も書く時間もほとんど取れなくなってしまって。だからこそ、学生時代に読んでいた本が“読書貯金”みたいな形で、今に活きているのかなと思います。
冊数もジャンルも幅広く、本当にたくさんの本を読まれてきたのですね。
そうなんです。好きな本もたくさんあるので、こういう質問になるとどれか一つに絞るのは難しいんですよね。
須賀しのぶ先生の作品も好きですし、恩田陸先生や小野不由美先生も好きです。あと、凪良ゆう先生も好きで、『美しい彼』シリーズも印象に残っています。

著:凪良ゆう イラスト:葛西リカコ(徳間書店)
あらすじ
幼いころから緊張すると言葉がつかえてしまうため、内向的で、高校でも目立たない存在の平良。
そんな平良が憧れるのは、クラスメイトの清居だ。人目を惹く美貌に、誰にも媚びない態度で、
クラスの王様として君臨する清居。「彼にとっては、誰もが平等に無価値なんだ──」
グループのみそっかす的な平良は、清居に忠誠を尽くすのが喜びだったけれど……!?(Amazon.co.jpから引用)

そんな先生にあえてお聞きします。最近読んだおすすめの作品を教えてください。
最近読んだ本の中で特に印象的なのは、村山由佳先生の『PRIZE』と凪良ゆう先生の『汝、星のごとく』です。
読んだ本はどれもそれぞれ面白いですが、その中でもこの二作は本当に時間を忘れて夢中で読みました。
『PRIZE』は生々しさが印象的で、『汝、星のごとく』は青春のきらめきがあって。真逆の作品ではあるんですが、どちらもとてもおすすめです。

著:村山由佳(文藝春秋)

著:凪良ゆう(講談社)
chapter 02 作品を書くことについて

chapter 01では、読書との出会いや、これまでどんな本を読んできたのかについてお話をうかがいました。
小さいころから本がすぐそばにあって、夢中でページをめくってきた時間があり、中学生で少女小説に出会ったことで、その世界は大きく広がっていく。さらに高校、大学と読み続ける中で、ジャンルもどんどん広がっていった――。
小原燈先生の言葉を追っていくと、今の創作の土台が、そうした長い読書の積み重ねの上にあることがよく伝わってきます。
ただ本が好きだった、というだけでは終わらない。その読書体験のひとつひとつが“読書貯金”として今に息づき、物語を書く力へとつながっているのだと感じました。
では、その膨大なインプットは、どのようにして“書くこと”へと変わっていったのでしょうか。
このchapter 02では、作品を書くことについてお話をうかがっていきます。

ペンネーム“小原燈”の由来を教えてください。
実は、私はすでに別名義でTL作家としてデビューしているんです。なので、その名義をそのまま使うか、新しくするか、まずはそこから悩みました。
結局、新しくすることにしたんですが、その際に好きな作家さんや作品から名前をいただくことにしました。そこで最初に浮かんだのが『風と共に去りぬ』の主人公のスカーレット・オハラだったので、そこから“小原”をもらいました。
名前は、読んだ人の気持ちがぽっと少しでも明るくなるような、光が灯るような話を書ける人になりたい、という思いと、“あかり”という響きにしたいなと思ったからです。
“燈”という字にしたのは画数が理由です。総画がよくても仕事運が大凶だとちょっと嫌だなと思って、そこも含めて決めました。

先生が初めて書いた作品と、そのきっかけについて教えてください。
最初で言うと、小学校3年生くらいのときにノートに自分でお話を書いていたのが始まりだと思いますが、その内容はあまり覚えていないんです。
ただ、ちゃんと“書く”ことを意識した時期は覚えています。中学生の頃で、きっかけはコバルト文庫に出会って、その世界観に惹かれたからです。自分もこんな作品を書く小説家になりたいと思いました。
当時はファンタジー作品が多い時期で、私もそういう作品を読んでいたこともあって、自然と自分が書くものもファンタジーを選んでいましたね。
実際に中学3年生のときに、コバルト文庫の短編賞にも応募したんですが、残念ながら受賞はできず、そこから書いては応募する生活を大学4年生まで続けました。
少女小説系の賞を中心に応募していて、何次選考かまでは残ることもあったんですけど、受賞には届かず……という感じで、その後就職して社会人になりました。
中学3年生から大学4年生まで!? 7年も長く書き続けてこられたモチベーションは、どこにあったのでしょう。
モチベーションというよりは“絶対になってやる”という意地があったような気がします。
十代の頃って、“何者かになりたい”という気持ちがあるじゃないですか。それがたまたま私の場合は、本を読んで“小説家になりたい”だったという感じです。
ただ、ずっと順調だったわけではなくて、2次、3次までは行っても、その先に残れないことが多くて。初めて書いてすぐ受賞する人もいますけど、ほとんどはそうじゃなくて、地道に続けていくしかないんだと思います。
社会人になってからは、ノルマも厳しくて帰ってきてもへとへと。土日も資格の勉強があったりして、本を読む時間も書く時間もほとんど取れませんでした。
本が好きな人はそれでも読む方もたくさんいるのかもしれませんが、当時の私には難しかったですね。

作品を書くときにどんなことを大切にされていますか。
気持ちの面で言うと、私は「読んでくれる人がいるのって奇跡だな」と思っています。
世の中には本以外のエンタメという意味でも、本という意味でもたくさんの選択肢があります。その中から手に取ってもらえたり、興味を持ってもらえたりするのって、すごくありがたいことだなって。その感謝は忘れちゃいけないなと思っています。書くときに毎回そこまで意識しているわけではないんですけど、ふとしたときに「大切だな」と思いますね。
書くという意味では、投稿していた頃は、ただただ自分の書きたいものを全部ぶつけるような感じで書いていましたが、商業で書くようになってから、プロットの大事さに気づきました。
商業デビューしてからもプロット自体は作っていましたが、最初の頃は“ここで両思いになる”みたいな大まかな流れだけで、その“どうやって両思いになるのか”までは詰めていませんでした。
そのせいで自分が書いているときに苦労したので、数年前からより細かく作るようにしています。そのおかげかプロットをしっかり作るようになってからは、途中で悩んだり、筆が止まる回数は減った気がします。

執筆時のルーティンや、こだわりはありますか。
ルーティンというほどではないですが、書いているときはコーヒーをよく飲んでいます。でもこれはこうするとやる気が出るとか集中できるというわけではなくて、単にコーヒーが好きだからかなと思います。
コーヒーを飲んでスイッチを切り替えるというわけではないんですね。
そうですね。集中力という意味でいうと、学生の頃のほうが圧倒的にあったなと思います。高校や大学の頃は、一度書き始めると止まらなくて、気づいたら朝になっている、みたいなこともありました。
あの“ゾーンに入る感じ”は、今はなかなか難しくなってきたなと思います。
締め切りがあると、ここまでやらなきゃとは思うんですけど、それでも「今日はもう寝よう」ってなってしまうこともあって。十代の頃のように無理がきかなくなってきたなとは感じますね。
書いている時間帯で言うと、夜が多いです。
作品の組み立て方にも決まったやり方があるのでしょうか。
私は理論立てて書いているタイプではなくて、感覚的にやっているところが大きいです。書きたいものと、そのときに求められているものを組み合わせて書いている、という感覚に近いかもしれません。
次の作品について相談する時に、「どんな話がいいですか」と編集さんに聞いて、方向性をすり合わせながら決めていくこともあります。
たとえば『双子の姉にすべて奪われた私が、軍神に愛されています』の2巻の場合、編集さんと打ち合わせをしていたときに「じゃあ裏テーマは復活のフリーザみたいな感じでいきましょう」という話になったこともあって、そういうふうに、編集さんとのやりとりの中で「なるほど」と思いながら形になっていくこともあります。
あと、ルーティンからは外れてしまうかもしれないんですが、書いた文字数をカレンダーに記録するようにしています。1日ごとの文字数ではなくて、トータルの文字数を記録していて、どんどん増えていくのが見えると、「ちゃんと進んでいるな」という実感があってうれしくて。
もちろん推敲で削ることもありますが、それでも一度積み上がったものとして見えるのがモチベーションになっています。

デビューまでの道のりで、どんなことを大変に感じましたか。
一番つらかったのは、やっぱり落選ですね。投稿して落ちると、作品の評価だと頭では分かっていても、自分自身を否定されたような気持ちになってしまって。学生の頃は特に、その感覚が強かったと思います。
今は大人になって、落ちても「残念だったな」と受け止められるようになりましたし、「次また頑張ろう」と自分の気持ちの整理もできるようになりました。

デビューまでたくさんの作品を応募されてきた小原燈先生。実際に完成した本を手に取ったときはどんな気持ちでしたか。
やっぱりうれしかったです。最初にTL作家でデビューしたときは、何店舗も書店に自分の本を見に行きました。
棚に普通に自分の本が並んでいるのを見たときは、「本屋さんに自分の本がある!」とすごく感動しました。
実際にお客様が商品を買われているところは見られましたか。
短編を収録していただいたアンソロジー(『ワンナイトラブストーリー』)をお客様が手に取っているところを見かけたことはありますが、買われているところを見たことはまだありません。
ただ、書店に行ったとき、同じ日に発売された此見えこ先生の『完璧な彼女が死にました』を、高校生くらいの男の子が買っているのを見ました。同じ日に出た作品が手に取られているのを見て、自分の本ではなかったのに、なんだかすごくうれしくなったのを覚えています。
『双子の姉にすべて奪われた私が、軍神に愛されています』はサインを書かせていただいたり、色紙を書いて書店様にご挨拶にうかがったりと、TL作品のときはあまりできなかった体験ができたのも、すごくありがたかったですし、うれしかったですね。

今後どんな作品を書いていきたいですか。
別名義でのTL作品はもちろん、キャラ文芸もまた書いていきたいです。
今度は和風ファンタジーだけでなく、中華風ファンタジーや、ご飯ものにも挑戦してみたいですし、いつか『十二国記』や『風と共に去りぬ』のように、自分で運命を切り開いていく主人公の物語も書いてみたいです。
でも、どんな作品を書くにしても、「読んで楽しかった」と思ってもらえる作品になればいいなと思います。
chapter 03 『双子の姉にすべて奪われた私が、軍神に愛されています』について

chapter 02では、小原燈先生に“作品を書くこと”についてうかがいました。
中学生の頃から書き続け、落選や、社会人になって思うように書けなかった時期を経験しながらも、それでも創作を手放さずに歩んできた道のりには、小説を書くことへの強い思いがにじんでいました。
印象的だったのは、“読んでくれる人がいるのは奇跡”という言葉です。
書きたいものを大切にしながら、読者に“読んで楽しかった”と思ってもらえる作品を届けたい。そのまっすぐで誠実な思いこそが、小原燈先生の創作を支えているのだと感じました。
chapter 03では、そんな小原燈先生が生み出す“作品”そのものに迫っていきます。
積み重ねてきた読書と創作の時間は、どのように物語へと結実しているのでしょうか。
作品の魅力やこだわり、そこに込めた思いについて、さらにくわしくうかがっていきますよ~!
書籍情報

著:小原燈 表紙イラスト:ちょめ仔(スターツ出版文庫)

著:小原燈 表紙イラスト:ちょめ仔(スターツ出版文庫)
ノベマ!作品ページ

今作はどのような経緯で生まれたのでしょう。
この作品につながる最初のきっかけは、スターツ出版さんの短編コンテストでした。
『ワンナイト・ラブストーリー』というテーマでノベマで募集されていて、「1万字なら書けるかも」と思って応募したところ、優秀賞をいただいたんです。それが人生で初めての受賞でした。
その受賞をきっかけに、「こういうコンテストがあるんだ」と知って、その年のスターツ出版文庫大賞にも応募することにしました。そこから、この本になる作品を書き始めたんです。
人生初の受賞が、今作につながっていたんですね。
はい。今作は第9回スターツ出版文庫大賞の受賞作なのですが、この回は、青春恋愛、“虐げられヒロインのシンデレラファンタジー”、“型破りヒロインの活躍ファンタジー”、“アンチ青春”エンタメなど、いくつかの部門に分かれていたんです。他の部門の受賞者には川奈あさ先生や朱宮あめ先生もいらっしゃいましたね。
編集部の座談会で「こういう作品を求めています」という内容が公開されていたので、それをかなり読み込んで、自分に書けそうなジャンルを考えました。その中で、和風ファンタジーの流れも来ていると感じて、“虐げられ”の要素がある作品を書こうと決めたのが、この作品の出発点です。

今作は、これまで書かれてきたTL作品とはまた違った挑戦になったかと思います。実際に書いてみて、どんなことを感じましたか。
大きなくくりでは同じ恋愛小説なので、恋愛描写を書くという面ではそこまで大きな違いはありませんでした。
ただ、和風ファンタジーは、読むのも書くのもほとんど初めてだったので、最初は何を書けばいいのか全く分かりませんでしたね。
初めての和風ファンタジーに、どう向き合っていったのでしょう。
まずは応募要項や座談会の記事を頼りにしながらプロットを作って、手探りで書き上げていきました。学生時代に公募へ出していた頃も、西洋ファンタジー系やヒストリカル寄りの作品を書くことが多かったので、そういう意味でも和風の世界観を書くのは新鮮でした。

今作を書き上げるまでに、特に大変だったことは何でしたか。
一番大きかったのは、締め切りとの兼ね合いです。TLの商業作品の締め切りと同時期だったので、投稿作と並行して書くのが難しくて。時間的な部分もそうですし、頭の切り替えも大変でした。
それに加えて、和風ファンタジーも“虐げられ”の要素も初めてだったので、何が正解なのか分からないまま、最後まで手探りで書いていた感覚がありました。
ただ、この作品は久しぶりに「純粋に書くのが楽しい」と思えた作品でもあって。TL小説ももちろん楽しんで書いていますが、お仕事として書く部分もあるので、締め切りや“約束事”を踏まえる必要があります。今回は一投稿者として、自分の好きなものをそのままぶつけて書けた感覚がありました。
久しぶりに“ゾーンに入る”というか、流れに乗るままに書けた作品だったと思います。

今作を書く中で、どんなことが挑戦だったと感じましたか。
和風ファンタジーというジャンル、“虐げられ”という要素なども含めて、今作は本当にたくさんのことが挑戦でした。
どんな世界観にするか、ヒロインとヒーローの設定や関係性、敵役はどうするか……など考えることがたくさんありましたが、それも楽しかったです。
その一方で、長編賞に挑戦すること自体が久しぶりでしたし、書きながら「これ本当に面白いの?」と何度も思いました。
落選続きの投稿生活だったので、「受賞したい!」と思う一方で、「また落ちたら……」という気持ちももちろんあって。
それでも、思うように書けない時期はありましたが、書くこと自体を手放すことだけはありませんでした。それが結果的に今につながっているのだと思います。

読者に“ここを読んでほしい!”というポイントを教えてください。
一つは、ヒロインの凜花の成長です。最初は自分のことを「無価値だ」と思っている凜花ですが、ヒーローの時雨と出会って、だんだん自分のことを受け入れられるようになっていく。その過程が1巻で描かれていて、2巻ではさらにそこから一歩踏み出していく様子を描きました。
凜花の成長だけでなく、二人が出会うことでお互いを肯定できるようになっていく関係性も、この作品の大きな魅力なんですね。
そうだといいなと思います。凜花だけじゃなく、ヒーローの時雨も変化しています。1巻の時雨は一見すると完璧に見えますが、実は孤独や疎外感を抱えていました。
でも凜花と出会うことで、ようやくお互いに自分の存在を肯定できるようになる。そういう関係性を読んでいただければうれしいです。
ちなみに、僕は個人的に三浦が大好きです。登場した瞬間に空気が華やかになる感じがあって。
事務的なことを言った後に「金貸してくれ」と言った登場シーンは、前後とのギャップに思わず笑ってしまいました。
ありがとうございます! ああいう、明るいサブキャラを書くのは好きかもしれないです。切ない話が続くと、読んでいても書いていても苦しくなってしまうので、ああいうキャラクターが出てくると一気に筆が乗るというか、書きやすくなりますね。
三浦以外も、みどりや吏紅は特に書きやすかったです。もしかしたら私は脇キャラのほうが、のびのびと書けるのかもしれません。
ちなみに、蓮美ちま先生はみどりが好きだとおっしゃっていました。
そうなんですね!
表紙の素敵なイラストを描いてくださったちょめ仔先生も、Xでみどりが推しとおっしゃっているのを拝見しました。自分の書いた作品のキャラを好きと言ってもらえるのはうれしいです。
ネタバレあり部分

ネタバレ注意!(クリックしてお読みください)

作中の時代設定は、どのあたりをイメージされていたのでしょうか。
明治から大正あたりを、かなりざっくりイメージしていました。私自身、和風ファンタジーはそれまであまり読んできていなくて、明治・大正あたりの空気感を土台にしているものが多いのかなと思っていたんです。なので、この作品もふんわりと“明治後期くらい”のイメージで書いていました。汽車があって、自動車も走っていて、電気もある、という時代感ですね。
時雨が自分で運転するのが意外でした。身分の高い人は運転手がいるイメージがあったので。
たしかに、そうですよね。屋敷にみどり以外の使用人がいないという設定もあって、そこは自分で運転している形にしたんですけど、本当はもう少し歴史をしっかり勉強して書けていたら、そういったところももっと細かく詰められたのかなとは思います。

今作の面白いポイントの一つが主人公の心理描写がとてもリアルなことだと思います。どのように作り上げていかれたのでしょうか。
キャラクターの設定として、年齢や見た目、育ちなどはある程度決めますが、心理描写に関しては最初から細かく決めているわけではなくて、“書きながら一緒に作っていく”という感覚に近いかもしれません。
今作はいっちーさんのように心理描写について評価していただくことが多くて、自分では特別に意識したわけではありませんが、うれしいです。
膝をついて「大丈夫」と声をかけるシーンが印象的でした。本来なら高貴な立場の人がやらないような行動なのに、それをしてくれたことで、“こんな自分に”という感情が揺さぶられていく。そこから凜花の心が少しずつほどけていったように思うんです。過去の出会いから2巻の最後にお姉ちゃんを叩くところまで、ずっとリアルで、すごかったです!
ありがとうございます。褒めてもらえてうれしいのですが、そこが自分の作風のいいところでもあり難しいところでもあるのかなと思っています。というのも、心理描写や地の文がどうしても長くなってしまうんですよね。
本当はもう少し削ったり、俯瞰的な描写を増やしたほうがテンポはよくなると思うんですけど、どうしても書いてしまうというか。そこは今後の課題でもあると思います。
ただ、この作品に関してはあまり削られずにそのまま活かしていただけたので、結果的にこの形になったのかなと思います。

今作は、歴史的な言い回しと、現代的な読みやすさのバランスがとても絶妙です。和風の言葉を入れすぎると読みにくくなってしまうと思うのですが、この作品はそれが全然なくて。普段は読みやすい言葉で進みつつ、ここぞという場面でふっと言葉の質感が変わります。
たとえば再会のシーンで“虚ろに”といった表現が出てきたときに、一気に空気が変わるというか、フレーバーが乗る感覚があって、すごくいいなと思ったんです。この塩梅はどのように作られているのでしょうか。
そんなふうに言っていただけるのは本当にうれしいです。自分ではあまり意識してやっている感覚はなくて、どちらかというと自然に出てきているものだと思います。
たぶん、これまで読んできた本の影響が大きいのかなと。いわゆる“読書貯金”というか、いろんな作品に触れてきた中で身についた言葉の感覚が、無意識に出てきているのかもしれません。
なので、自分が特別に工夫しているというよりは、これまで読んできた作家さんたちの力を借りて書いているような感覚に近いですね。

1巻と2巻でキャラクターの印象が変わっているのがとても印象的でした。
凜花はもちろん、三浦や時雨も良い意味で1巻と2巻でキャラクターが変わっていました。
たとえば時雨は、1巻では「完全無欠のイケメン」という印象だったのに、2巻では凜花のことで焦って頭をぶつけたりして、「可愛いな」と思える瞬間が出てきます。こういった部分は最初から構想していたのでしょうか。それとも2巻が出るにあたって意図的に出していったのでしょうか。
1巻では、時雨は本当は弱いところもあるけれど、表向きは“完璧なヒーロー”を意識して書きました。その後、2巻が出ることが決まり、凜花と結ばれて関係性が変わったことで、人間らしさが出てきた時雨を描きたいなと思いました。嫌われたくなくて慌てたりとか、そういう恋愛的な弱さみたいな部分を見せられるのも、ふたりの関係が深まったからこそなのかなと。
1巻では“つがい”のような距離感だった二人が、2巻ではちゃんと“好き”を伝え合う関係になっていて、そこも含めてキャラクターがほどけていく感じがありました。
そうですね。そういうふうに変化していく流れになっていればいいなと思って書いていました。
ちなみにいっちーさんも好きだとおっしゃってくださった三浦は、吏紅と役割が重なる部分があったので、2巻では少し抑え目なキャラになっています。明るさは残しつつ、仕事ができる一面も見せるようにしていった感じですね。

本作であえて描かれていない部分についてもお聞きしたいです。たとえば凜花の名前に関してなんですが、父親にあれだけ愛されていなかったにもかかわらず、きちんと名前が付けられていて、しかも覚えられている。その点がとても印象に残っていて、どのように設定されていたのか気になりました。
僕の中では、生まれる前に名前を付けていたのではないか、という解釈もあって。能力があるかどうかが分かる前の段階で期待を込めて名前を付けていたから、覚えてはいるけれど、後から切り捨てたのではないか、みたいな……そのあたりは意識されていたのかなと思いまして。
はい、まさに今おっしゃっていただいたイメージに近いです。お腹の中にいる段階では貴力の有無は分からないので、双子であることを前提に、期待も込めて名前を付けているんですよね。
ただ、その後、片方が貴力を持っていなかったことで、“名前はあるけれど認めていない存在”という扱いになってしまった、という感じです。
さきほど1巻と2巻でキャラに変化を持たせたとお話しましたが、凜花の父もそうですね。大事にしていた杏花に裏切られたことで弱っていき、そこで初めて“もう一人の子”である凜花に意識が向くように変化しています。

今作で杏花の背景があまり明確に描かれていないのは、あえてなのでしょうか。
この作品は凜花と時雨の物語なので、杏花側を描きすぎないことで、役割としての“悪”に寄せているのかなとも感じたのですが、読んでいると杏花が単純な悪役には見えなくて。
たとえば家庭環境の中での立場や、息抜きできなかったこと、あるいは妹に対する感情などを考えると、ただ環境によってど歪んでしまっただけなのかなとも思えるんです。
書いている中で、妹に対する劣等感はあったんじゃないかなとは考えていました。相手がいい子であればあるほど、自分が卑屈に感じてしまうというか。
いじめればいじめるほど相手が耐えてしまうことで、余計に自分のほうが歪んで見えてしまう、みたいな感覚もあったのかなと思っていて。そういうイメージで書いていました。
誰かのせいにすることで自分を保っているような人物像も印象的でした。杏花だけでなく、時雨の父親もそうだと思っていて。奥さんの死を時雨の能力のせいにしているところなど、すごくリアルでした。
父親に関しては、奥さんのことを愛しすぎてしまって、いなくなったことで壊れてしまったというか……誰かのせいにしないと生きていけない状態だったのかなと思って書いています。
大事にしていた息子が“血を必要とする存在”だったことも重なって、受け止めきれなかったんだと思います。

1巻の最初の50ページに、キャラクターの情報、世界観、物語の方向性まで全部入っていて、それでいて自然にキャラクターを好きになるように設計されているのが本当にすごいなと感じました。
“最初の50ページでどれだけ読者を引き込めるかが作家の力量”だと聞いたことがあるのですが、今作はそれがまさに体現されている作品だと思います。こちらははかなり意識されたのでしょうか。
ありがとうございます。応募作だったこともあって、最初の段階で「どんな作品なのかを伝えないといけない」と思っていたので、できるだけ早い段階で世界観や登場人物を出すことは意識しました。
ただ、自分の癖としてどうしても文章が長くなりがちなので、そのまま書くとかなり冗長になってしまうんです。今作も、時雨が登場するまでが長いなと思っていて……そこは少し反省点でもあります。
前半でしっかり“虐げられている状況”が描かれているからこそ、その後の展開に説得力が出ていると感じました。
それに、時雨本人は出てこないものの、過去のエピソードが先に提示される構成もすごく印象的でした。
実は投稿時の段階では、あの過去のシーンはなかったんです。最初は納屋に閉じ込められているところから始まって、その後、時雨と初めて出会う流れでした。
書籍化にあたって改稿する際に、編集さんに「恋愛要素がもう少しほしい」と言われて。そこで、幼い頃に出会っていた設定を追加して、再会の流れに変えたんです。
そうだったんですね! あの構成が本当に見事で、一度「別人かもしれない」と読者に思わせてから、実は本人だったと明かされる。その上で、なぜそう見えたのかという理由までしっかり回収されていて。
しかもそれが、時雨の自己認識や自信のなさともつながっていて、かなり多層的に仕掛けられているなと感じました。
chapter 04 メッセージ

chapter 03では、小原燈先生の作品そのものに迫り、物語の構成やキャラクターの描き方、あえて描かれていない部分まで、深くうかがいました。
冒頭の構成や心理描写、言葉選びのバランスなど、一つひとつが緻密に組み上げられているように見えながらも、その多くが“書きながら生まれていく感覚”の中で形づくられているというお話が印象的でした。
また、キャラクターの変化や関係性の描き方、さらには杏花や父親といった“悪役側”の人物に至るまで、単純な善悪ではなく、人の感情の積み重ねとして描かれていることも、この作品の大きな魅力だと感じます。
作品の中にある一つひとつの要素が、読者の感情を揺さぶる形で丁寧に積み重ねられている。その背景には、小原燈先生がこれまで積み重ねてきた“読書”と“創作”の時間が、確かに息づいていました。
chapter 04では、そんな小原燈先生に、これから“本の挑戦者”たちへのメッセージや本への思いをうかがっていきます。

改めて、小原燈先生にとって「本」とはどんな存在でしょうか。
生活に彩りや潤いを与えてくれるもので、いろんな感情を教えてくれるものですね。
現実で生きていると、涙が出るほど感動したり、自分でも戸惑うほど強い感情に突き動かされることはそれほど多くないと思いますが、小説の中ではそれを体験できます。
未体験の出来事を経験させてくれるという意味でも、自分にとっては“栄養”みたいな存在なのかなと思います。

最後に、本の挑戦者へのメッセージをお願いします。
自分の“好き”を大事にしていけたらいいんじゃないかなと思います。
私自身、途中で諦めてきたこともたくさんあります。でも、途中でなかなか書けない時期もありましたが、「書くこと」を完全にやめることはありませんでした。それが今につながっているんだと思います。
そのときどきの年齢、環境で自分にとって優先するものが変わってくるのは自然のことです。
そんな中でも、「書く」以外でも、なんでもいいので自分の「好き」を大切にするといいのかな、と思います。
chapter 05 インフォメーション

書籍情報


著:小原燈 表紙イラスト:ちょめ仔(スターツ出版文庫)
ノベマ!作品ページ
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