イントロダクション
HAPPY!
いっちーです!
今回取材したのは、小説やエッセイなど、さまざまな作品を発表している今田ずんばあらずさん!
幼い頃から旅や冒険が大好きで、自分の足で見て、感じてきたものを作品へと変えてきました。
さらに、全国の即売会を巡りながら、作品を“書く”だけでなく、“読者に届ける”ことにも全力で向き合ってきた今田さん。
今回は、創作の原点からこれまでの作品、10年以上続けてきた同人活動まで、たっぷりお話を聞きました!
それじゃ~いってみよー!
Chapter1 本を読まない小説書き!?――ペンネームと旅からひも解く今田ずんばあらずさん
“今田ずんばあらず”という不思議なペンネームは、どのように生まれたのでしょうか。

“今田ずんばあらず”という名前が生まれたのは、大学受験のときです。
塾で漢文の二重否定の構文を習った際に、“未だ嘗て〜ずんばあらず”という表現が出てきて、その“いまだ、ずんばあらず”という響きが面白いなと思ったんですよね。
そのことを受験が終わったあともずっと覚えていて、“今田”は苗字のようにも聞こえるじゃないですか。それで、“これをペンネームにしよう”という、かなり軽いノリでつけました。
最初は特別な愛着があったわけではないのですが、なんだかんだ“今田ずんばあらず”で定着してしまって。変えるに変えられないで今に至ります。
本とは、いつ頃出会ったのでしょうか。
実は、自分は本をあまり読まないんですよ。
え! そうなんですか。全くですか?
全く、ってわけではないです。
小学生のときには『ハリー・ポッター』シリーズを『賢者の石』から『不死鳥の騎士団』くらいまでは読んだと思います。
あとは、自分はジブリが好きだったので、『天空の城ラピュタ』のノベライズも読みました。
『スター・ウォーズ』もノベライズ版でエピソード1から6まで読んだ気がします。
たくさん小説やエッセイを書かれている今田ずんばあらずさんが、実は本をほとんど読んでいないとは……意外です。
あっ、でも漫画は読んでいました。
『ドラえもん』は、少しずつお小遣いを使って買い集め、全巻そろえていました。
高校生の頃は『ガンガンJOKER』を創刊号から読んでいて、毎月、掲載されている作品をすべて読み、その感想をブログに書いていたくらいです。
だから、本を読むことが好きで、“自分も小説を書こう”と思ったわけでは、まったくないんですよね。
今田ずんばあらずさんの作品は旅や冒険がテーマになっているものが多くあります。ご自身も旅をされていると聞きましたが、旅を好きになったきっかけを教えてください。
父親が旅好きで、物心がつく前から毎年家族で全国各地を旅行していたからですね。なので好きというよりは自分の中で自然なことだと思います。
そこからご自身で旅や冒険をするようになったのはいつからですか。

自転車に乗れるようになってからですね。小1か小2の頃です。そこから、自分の力でいろいろな場所へ行くようになりました。
最初に巡ったのは、地元にある大きな団地です。51号棟まである団地を1号棟から一つずつたどっていくということをやりました。
途中で番号が抜けているところがあって、“どうしてだろう”と思って調べてみると、番号の書かれていない自治会館が、その号棟として扱われているらしいと分かったりして。そういう発見が、すごく楽しかったんですよね。
そこから行動範囲がどんどん広がっていき、ママチャリで小田原のしだれ桜を見に行ったり、江の島や三浦半島へ行ったりしました。
その後、大学時代にロードレーサーを手に入れ、テントなどの野宿用の道具も買いそろえて、関東一周にも挑戦しました。
旅のどのようなところに惹かれているのでしょうか。
大きく分けると、四つあると思います。
一つ目は、やっぱり“冒険”ですよね。
自分の知らない場所へ進みながら、“この先には何があるんだろう”と期待する。知らないところへ行って、その先にあるものを自分の目で確かめたいんです
二つ目は、“自分への挑戦”です。
自分の体力でどこまで行けるのか、限界まで進んだ先には何が見えるのかを確かめたいんですよね。負けず嫌いなところもあるせいか、体力が尽きるくらいまで進んでみたくなるんです。
三つ目は、“マッピング”です。
中学生や高校生の頃は、地元の道を隅々まで走っていました。部活から帰ると見せかけて、隣の市や町まで行ってから帰ることもありましたね。
一度通った道から、次は一本ずらして走ってみる。そうすると、知らない風景の先に、知っている風景が現れる。その瞬間、自分の中で道と道がつながっていく感覚があって、それが気持ちよかったんです。
「四つ目は、“その土地を五感で感じること”です。
自分は基本的に、散策中は、音楽やラジオなどをつけないようにしています。風の音や虫の声、車の音、稲穂の香りなど、その場所にあるものを楽しみたいからです。
長野県の木曽路を車で走るときに、窓を全開にすると、ヒノキの香りがふわっと入ってくるんですよ。あれが、すごく気持ちいいんです。その感覚を味わうために、わざわざ木曽路へ寄り道することもあります。目的地へ向かうことだけではなく、その土地の音や香りを身体で感じることも、旅の大きな楽しみです。

Chapter2 絵では描けない物語を、文章で――兄の漫画から始まった創作の原点と変化
創作を始めたきっかけを教えてください。

創作と呼んでいいのか分からないのですが、幼稚園か小学校に入った頃から、何かを作ることはしていたと思います。
きっかけは、兄が自由帳に描いていた漫画です。『ポケットモンスター』の漫画で、ピカチュウやプリン、ラッキーたちがしゃべったり、活躍したりする内容でした。それを読むのがすごく楽しくて、“兄ちゃん、すごいな。自分も同じことをやりたい”となりました。
小学1年生の頃に、まず絵を描き始めて、2年生のときに漫画を描くようになりました。最初は兄と同じように、ピカチュウたちがしゃべっている漫画を描いていましたね。
でも、次第に既存のキャラクターだけではつまらなくなってきて、オリジナルのキャラクターも作り始めました。そうやって、自分だけの物語をひたすら描いていたことが、創作の原点だと思います。
漫画から小説へ移ったのは、どのような理由からだったのでしょうか。
兄が小学6年生のとき、“自分には才能がないから”と漫画を描くのをやめたんです。兄の漫画が大好きだったので、ショックでした。
同じ頃、自分も絵では頭の中の物語を表現できないと気づきました。当時、翼の生えた女の子が登場する、地球崩壊後のSF物語を形にしたいと考えていて。でも漫画にするほどの力が自分にはない。どうしたらいいか考えた末に“文字にすればいいんだ”って気づいたんです。
そこからノートを何冊も使って小説を書きました。なので、小説が好きだったから書いたのではなく、頭の中にある物語を残すために、文章を選んだという感じです。
これまで、作品の内容や作風はどのように変化してきましたか。
最初は、頭の中の空想をそのまま形にした、ファンタジーやSFを書いていました。高校生になると、自分自身や旅先での体験を踏まえて、現代を舞台にした作品を書くようになりましたね。
大学で小説を専門的に学んでからは、それまで書いてきた作品をすべて駄目だと思い、空想を排した現実的な作品へ移りました。その結果、自分や周囲の人々を題材にした私小説を書くようになりました。
ただ、自分の話だけに閉じることにも違和感があって。実際に起きた事件と自分の物語を組み合わせた作品が好評だったことから、現実とフィクションを重ねるようになりました。その作り方は、2016年に書いた『イリエの情景』にもつながっています。
先ほど、本をほとんど読まないとおっしゃっていましたが、どこから物語の着想を得ているのでしょう。
自分が見てきた風景や実際に起きた事件の中で、“これは何なんだろう”と引っかかったものが、物語の材料になります。そこに、主人公二人の関係性の変化を書きたい、さまざまな風景との出会いを経て自らとの対話を深めるシーンを書きたい、といった自分がやりたい表現と組み合わせるんです。
また、世間で当たり前とされている見方に対して、“実は違うのではないか”と発想を転換することもあります。
実際に歩いてみると、第一印象とまったく違った感想を抱くことがあるんです。だから自分が見たものや経験したこと、そこから生まれた疑問や違和感をもとに物語を書くようになりました。
作品を書くとき、ジャンルや表現方法はどのように選んでいるのでしょうか。
自分の中では、作品をジャンル分けしていません。やりたいことを書き、完成後に人から“こういうジャンルだね”と言われることが多いです。そのため、新人賞へ応募するときは、どのレーベルが合うのか迷いますね。
本を読むときも、純粋に楽しむためというより、書くための参考にすることがあります。例えば、久しぶりに三人称で書くときに、読者が飽きずに読み進められる書き方はどんなものなのか、最近の作品ではどのように三人称を扱っているのかを確かめるために読むんです。
自分にとって読書は、執筆するために使える手札を増やすためのものでもあります。読むために読むというより、書くために読むことが多いですね。

Chapter3 見てきたものを、書き残す――震災・同人活動・旅・歴史から生まれた作品たち
作品①『イリエの情景〜被災地さんぽめぐり〜』



『イリエの情景〜被災地さんぽめぐり〜』今田ずんばあらず/著 kagati/イラスト
わたしにとって“そこ”は、フィクションだった。
「依利江、夏休みさ、東北の被災地、旅しない?」
――こんなの初めてだった。同級生の三ツ葉からお誘いを受けるなんて! それも、東北の被災地! ? わたし、詳しくないし、なんで今更?
大学2年の依利江は、友達からの誘いに戸惑いの念を抱く。三ツ葉とは色々なところへ遊びにいくが、どれも依利江から持ち出す話ばかりだったのだ。
ミステリアスで、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出す三ツ葉。だからこそ、この旅の誘いはチャンスだと思えた。 依利江は、頷く。
「行こう、旅、被災地!」
『イリエの情景』は、どのような体験から生まれたのでしょうか。

大学時代に自転車で関東一周をした際、東日本大震災の被災地を初めて目にしたことがきっかけです。
震災から1年が経っても、津波で流されたブロックが公園に残されている光景を見て、“まだこのままなんだ”と衝撃を受けました。
翌年、被害の大きかった地域を訪れ、旅のエッセイを書こうとしたのですが、現地では震災がまったく終わっていないと知り、何も書けませんでした。その後、宮城県の気仙沼市にも長く滞在しましたが、やはり言葉にできなかったんです。
そもそも同じ場所でも、訪れるたびに風景が変わるんです。道路の場所とか、仮設商店街の場所とか。できることなら一瞬一瞬の感触を全部描きたかったんです。でもエッセイでは、さまざまな土地の変化や時間の積み重ねを描きながら、旅の肌感覚まで表現するのは難しく、 苦労していました。でも小説(フィクション)なら、たった1回の旅のなかにそれらの感触をまとめて詰め込むことができるんだと気づいて、小説にすることにしました。
今作が、被災地そのものはもちろん、そこを訪れた二人の関係を中心に描いたのはなぜですか。
この物語は青春小説です。主人公は、震災に関心のある大学生と、その友達ともっと仲良くなりたくて旅についていく大学生の二人です。
被災地に縁もゆかりもない僕は、どんなに寄り添おうとしても、被災地からすれば部外者なんです。だから、被災した方々の気持ちを代わりに語ることはできない。それに、そうした作品は当時から巷に溢れていて、僕が書いてもきっと埋もれてしまう。そこでこの物語では、あくまで部外者からの視点で現地を訪れ、二人が何を感じ、関係がどう変化していくのかを書こうと思いました。
実際に訪問地で、とげのある言葉を向けられたこともあります。聞かなかったことにして被災地を書くこともできましたが、自分には理解しきれない感情も含めて、部外者としてきちんと書く必要があると感じたんです。
また、二人の旅と関係性を軸にすることで、読者にも、一緒に現地を歩くような感覚で読んでもらえるのではないかと思いました。
『イリエの情景』を発表したあとは、どのように活動していったのでしょうか。
震災の記憶は、伝え続けなければ、いつか忘れられて同じ被害が繰り返されてしまいます。
だから、『イリエの情景』も“1000年語り継げる作品”にしたいと思いました。
もちろん自分が1000年も生きることはできないので、語り継いでもらう必要があります。そのためにはまず読んでもらわなければいけません。今のところ僕は商業作家ではなく、大きな宣伝力もないので、全国各地の同人イベントへ自分の足で出向き、作品を届けることにしました。
文学フリマやコミティアだけでなく、地方の小さなイベントにも参加して広めていった結果、このシリーズを含め、1年間で500部頒布することができました。
作品②『無名の一次創作文芸個人サークルが1年間で500部頒布する方法。#むいちもん

〈好き〉が、たくさん詰まってる。
本格的に同人活動を始めて1年。ありがたいことに手売り頒布数500部を達成した。
その頃、あるリプライをいただいた。 「その活動を本にしたら、たぶん読む人いますよ」
なるほど……こんな自分でも、人の役に立てるものを作れるのか。
そんなこんなで、つくりました。
同人活動をする皆さんへのエールです!
『無名の一次創作文芸個人サークルが1年間で500部頒布する方法。#むいちもん』は、どのように生まれたのでしょうか。
『イリエの情景』を含めた僕の作品が1年間で約500部頒布したことをSNSへ投稿したところ、フォロワーの方から“その方法を本にすればいい”と言われたことがきっかけです。
イベントでは、参加するだけでなく、来場者に立ち止まってもらうために、表紙やブースの設営、卓上の彩りなどを工夫してきました。理想は、作品を読まなくても、ブースを見ればどのような作品なのかが伝わる設営です。
自分が知られることよりも、作品が読まれることの方が大切です。そのためには、作者が作品と読者をつなぐ“作品の奴隷”にならなければいけないと思っていました。
『#むいちもん』は、そうした活動の結果をまとめた報告書です。ただ、この方法を長く続けると潰れてしまうので、今は“反面教師として読んでください”と伝えています。
作品③『さんぽめぐり』シリーズ


『さんぽめぐりVol.1 Vol.2』今田ずんばあらず/著
旅エッセイ『さんぽめぐり』はどういったきっかけで生まれたのでしょう。
『イリエの情景』や『#むいちもん』を作ったあと、創作に使えるエネルギーが枯れて、何年も小説を書けない時期がありました。
今はたくさんの方たちの支援もあってどうにか書けるようになり、じっくり腰を据えて新しい長篇小説を書いているのですが、完成するまで何も発表しないのもつまらないじゃないですか。そこで、短くて気軽に読める旅エッセイとして『さんぽめぐり』を始めました。
今作はどのように制作していったのでしょう。
全国の同人イベント会場へは、主に自家用車で向かっているのですが、道中で、“ここを歩いてみたら面白そうだな”と思いながら、通り過ぎてしまう場所がたくさんあります。そうした土地に立ち寄り、実際に歩いて見た風景や、考えたことを書いています。
作品を発表し続けるだけでなく、文章を書く感覚や、表紙、レイアウト、組版などの技術を忘れないための練習にもなっています。
作品④『即身仏』

江戸時代前期、信州・新野にて。
行順という男が苦行の末、 朽ちぬ肉体〈即身仏〉を手に入れた。
その姿は今なお保たれているが、触れることは誰もできない。
唯一、惣兵衛の子孫を除いて。
行順と惣兵衛の、時を超えた〈覚悟〉の物語。
信州新野に暮らす彦左衛門は、ある晩火事で妻子を亡くしてしまう。
自らを「咎人」と貶し絶望する彦左衛門に、友の惣兵衛は語る。
「生きることこそ贖いだ」 その言葉に、彦左衛門は自らの過去に隠された「咎」を告白する。
――今田ずんばあらずの表題作「即身仏」のほか、 盲目の剣士、小兵衛が澁澤村のならず者どもを討つ、 さすらい殺陣時代小説、中峰暁の「瞎」を収録。
今作の制作の経緯を教えてください。
自分は、それまで歴史小説をほとんど読んだことがなかったんです。
一冊だけ読んだことはありましたが、それも大学の課題だったので、歴史小説にはまったく興味がありませんでした。
そんな中、大学の後輩から突然、「今度、一緒に歴史小説を書きませんか」と誘われたんです。最初は断ろうと思っていたのですが、「今田さんなら、面白い小説が書けると思いますよ」と言われてしまって。
歴史小説を読んだことも、書いたこともない。だからこそ、既存の形式に縛られず、新しいものを作れるかもしれないと思い、挑戦することにしました。
なぜ即身仏を題材に選ばれたのでしょう。
以前いっちーさんがインタビューをされていたへにゃらぽっちぽーさんから、「長野県の盆地に住む人たちは、みんな心に盆地を持っている」と聞いたのがきっかけです。
それは、“私は私、あなたはあなた”という、他人と一定の距離を保つ感覚のことらしいんですよね。自分は人の目を気にする方なので、自分にはない感覚だと思い、興味を持ちました。
さらに長野県南部には即身仏が……厳しい修行を重ねて、生きながらにして自らの肉体をミイラのように保ったまま仏となった僧侶が鎮座しているんですが、その方を約300年間、ある家系が守り続けていると知りました。
“仏になる”と決めて厳しい修行をやり遂げた本人と、“託されたから続ける”という姿勢で役割を受け継いできた人たち。そのどちらにも、“心に盆地を持つ”ことの極致を感じたんです。
実際に現地を取材してみていかがでしたか。
現地へ行くと、“自分に任された役割を全うする”という姿勢を持つ人たちに出会いました。
資料館で詳しい資料を尋ねた際には、受付の方が自宅まで戻り、即身仏について書かれた資料を持ってきてくれたんです。また、お堂で出会った方も、僕がなにも言ってないのにまず自分が何者で、なぜそこにいるのかを説明してくれました。
そうした姿から、“私は私、あなたはあなた”という距離感や価値観が、約300年前から現在まで続いているように感じたんです。
そのため、歴史上の出来事を再現するだけでなく、今もその土地に受け継がれている“魂”を描きたいと思いました。

Chapter4 作者は作品と読者をつなぎ続ける奴隷――1冊の悔しさから始まった同人活動
同人誌即売会に参加するようになったきっかけを教えてください。

大学に入ってから文芸サークルで即売会に参加しましたが、サークルの本にはテーマや文字数、一人あたりの作品数などに決まりがあったんです。自分は長編小説や旅のエッセイなど、好きなものを自由に発表したかったので、“だったら自分でやろう”と思ったのが、きっかけですね。
初めて売り手側として即売会に参加したときのことを教えてください。
大学生の頃、ある作品の二次創作小説を作り、確か春コミだったと思うんですけど、大手サークルへ委託して、自分も売り子として参加しました。
内容は全力で書き、知名度のある方に表紙も描いてもらったのですが、来場者は本を少しめくると、“あ、小説か”という反応で去っていく方ばかりで……結局、売れたのは1冊だけでした。
そのとき、「1冊売れてよかったね」と委託先のサークルの人に言われて、すごく悔しかったんです。この経験から、漫画やイラストが中心の場所で、小説をどうすれば見つけてもらい、手に取ってもらえるのかを考えるようになりました。
個人で初めて即売会へ参加したときは、どのように作品を見せたのでしょうか。
個人で初めて参加したのは、おそらくニコニコ超会議の中で開催された超文学フリマだったと思います。
そのときは、二次創作小説と『自転車で関東一周してみた。』というエッセイを持っていき、関東一周をしたときの服装で、自転車用のヘルメットをかぶってブースに立ちました。
すると、自転車好きの方が立ち止まり、話をしたことから作品にも興味を持ってくれたんです。
作品をただ卓に置くだけではなく、作品の内容に合った見せ方をすることで、もともと小説を探していなかった人にも届くのだと実感しました。

作品を手に取ってもらうために、どのような工夫をしてきましたか。
自分の同人活動は、文学フリマではなく、漫画やイラストが中心のコミケやコミティアから始まりました。小説に興味のない人が多い場所で、どうすれば立ち止まり、手に取ってもらえるのかをずっと考えてきたんです。
そのため、ただ本を並べるのではなく、表紙やブースの設営、衣装、小道具などを使って、作品の内容や世界観が一目で伝わるように工夫してきました。
よく、会場の中で立ち止まる人がほとんどいないジャンル、あるいは島のことを“通り道”と表現することがあります。つまりイラストや漫画がメインの即売会における小説島がそうなんですが、自分はその“通り道”という言い方が好きではありません。今は作品に気づいていなくても、読めば夢中になってくれる人がいるかもしれない。それなのに、お互いに気づかないまま通り過ぎてしまうのは、不幸せだと思うんです。
だからこそ、作者は作品と読者をつながなければならない。“作品の奴隷”であることが、作者の役割だと考えています。
同人イベントで、印象に残っている出会いを教えてください。
今の創作活動や人間関係につながる出会いがあったことですね。へにゃらぽっちぽーさんと初めて話したのも、東京で開かれた小規模な同人イベントの打ち上げでした。
たまたま同じテーブルに座った初対面の参加者たちの間で、「このメンバーでアンソロジーを作ったら面白くない?」という話が持ち上がり、横浜を舞台にした『ジーク・ヨコハマ』を作ることになったのがきっかけで仲良くなりました。
そのときの参加者の何人かとは、今でも交流が続いています。
同人イベントは、本を売ったり買ったりするだけではなく、偶然の出会いから新しい作品や関係が生まれる場所でもあると思います。

活動を続ける中で、変わったことと、変わらないことを教えてください。
変わったのは、活動のペースや続け方です。
以前は、『#むいちもん』に書いたような方法で、作品を届けるために全力で動いていました。でも、それを続けていたら自分が潰れてしまうと分かったんです。
なので今は、活動が停滞しているように見えるかもしれませんが、無理なく長く続けるための方法を考える準備期間だと思っています。
一方で、イベントの規模に優劣をつけない姿勢は変わっていません。大きなイベントにも、地方の小さなイベントにも、その場所にしか来ない人がいます。
初めて自分のブースを訪れた方にとっては、過去に出した本もすべて新刊です。旅や震災、歴史ものなど、さまざまな作品の中から自分に合う一冊を見つけ、ほかの作品にも興味を持ってもらえたらうれしいですね。
これからも、規模や場所に関係なく、さまざまなイベントへ参加していきたいです。

Chapter5 勝手に書いて、勝手に本を作る――表現者・今田ずんばあらずさんからのメッセージ
今田ずんばあらずさんにとって、本や文章とはどのような存在ですか。

自分にとって、本や文章は、何かを表現するための媒体です。
絵をうまく描けたなら、小説ではなく漫画を描いていたと思います。でも、僕の表現したいものは絵では難しくて、けれども文章でならできた。だから、文章を使っているという感覚なんです。
例えば、幼い頃からダンスや歌に夢中になっていたら、今もそれを使って表現していたかもしれません。自分はたまたま文章を書くことができて、それを周囲にも受け入れてもらえたから、書き続けているんですよね。
そのため、“小説家”という肩書きには、あまりしっくりきていません。“創作者”とも少し違う気がします。小説だけではなく、エッセイや随筆、オーディオドラマの脚本も書きますし、表現できるのであれば形にはこだわりません。
自分を表すなら、“表現者”という言葉が一番近いと思います。本や文章は目的ではなく、自分の中にあるものを外へ出すための手段なんです。
これから本を作ったり、同人誌即売会へ参加したりしたい人へ、メッセージをお願いします。
自分でやりたいと思ったなら、好きにやればいいと思います。誰かに影響を受けて始めることも、まったく悪いことではありません。
ただ、“好きにやる”というのは、周囲から褒められたり、注目されたりすることだけを目的にするという意味ではないと思うんです。
勝手にものを書いて、勝手に本を作って、勝手にそれを売る。そういう人たちが集まっているのが、同人誌即売会だと思います。だからこそ、活動するためのエネルギーや動機は、もっと自分の内側にあるはずなんですよね。
自分がなぜ作りたいのか、その気持ちには嘘をつかない方がいいと思います。そこに正直になった結果、本を作りたいと思ったのであれば、そのまま作ればいいんじゃないでしょうか。

インフォメーション
〇SNS
note:https://note.com/johgasaki
〇販売サイト
〇書籍

北の果て、東の果て、平野の果て……。
最果てには魔力がある。
本州最北端、マグロの一本釣りの聖地、大間に立ち寄り、
最東端の魹ヶ埼では断崖と白亜の塔と悠久の時を過ごす。
ところかわって関東平野南西の端、湘南平と大磯海岸。
あるき慣れたその砂浜で、思い出と歴史、風景に想いをめぐらせる。
全国を旅する小説家の、旅情と懐旧の入り混じるエッセイを三本収録。
(表紙は制作中のものなので変更の可能性があります)
通販でお求めの方はこちら
〇イベント
以下のイベントのほか、全国各地の同人・ZINE系イベントに出没予定!
◆第3回人文系リトルプレス市 in ジュンク池袋
8月29日(土)、30日(日)両日とも12時~18時開催
会場:ジュンク堂書店池袋本店9Fイベントスペース
詳細:https://x.com/junkudo_ike/status/2073934962194022502?s=20
◆文学フリマ大阪14
9月13日(日)12時〜17時開催
会場:インテックス大阪2号館
ブース:お-08
◆第6回静岡文学マルシェ(2日目)
9月27日(日) 11時〜17時開催
会場:コミュニティホール七間町MIRAIEリアン(1F) 多目的ホール、ギャラリー
◆文学フリマ東京43
11月8日(日) 12時~17時開催
会場:東京ビッグサイト南1-4ホール
この記事の取材場所として『WAKASA&CO. KYOTO』2階『WAKASA&CO LOUNGE京都四条店』にご協力いただきました!

WAKASA&CO. KYOTO 1Fにある WAKASA Cafe に入って……

奥にある階段を上っていくと……

取材でも使用させていただいた、『WAKASA&CO. LOUNGE京都四条店』が!
「ブルーベリーアイ」で知られるわかさ生活によるブルーベリー専門店『WAKASA&CO. LOUNGE』。
ここでは昼はブルーベリーアフタヌーンティー、夜はバーラウンジとして楽しめる、大人のくつろぎ空間です。
そのほかWAKASA&CO. KYOTOには舞台、薬店、神社、代表のこれまでが知れる角谷建耀知文庫なども!
詳しくはWAKASA&CO. KYOTOのホームページをご覧ください!
店舗名:WAKASA&CO.KYOTO
住所:京都府京都市下京区長刀鉾町22
アクセス:阪急「烏丸駅」・地下鉄「四条駅」20番出口より徒歩3分
営業時間:8:00~20:00(階によって営業時間が違います。詳しくはHPをご覧ください)
(※訪問時期:2026年7月)
名古屋にあるWAKASA&CO.BOOKSは皆さんの本への挑戦を応援しています!
一冊目の本との出会いも、久しぶりのチャレンジにもぜひ当店をご利用ください。
各種店舗の情報はHPにて
(画像クリックでHPに飛べます)
ライター紹介

いっちー
平成10年、四国の田舎で生まれ育ち、京都芸術大学文芸表現学科で文章や創作について学ぶ。
月に10冊、年間で100冊以上読み、取材相手には長文の感想を送りつけるなど、本についてアツいヤツ。
わかさ生活のオウンドメディアDEKIRU! で
『「本」の挑戦者たち』
『UNDERUMBLE!』(音楽記事)
『言の葉を紡ぎし者たち』
『若きアートの炎』
『パピー/盲導犬の物語』の連載を担当している。
いつか自分の本を出すことが夢。
・記事サムネイル作成
屋号:prism Art & Design
氏名:小林茜
ポートフォリオ:https://fori.io/prism


