イントロダクション
HAPPY! “本”と“ことば”がなにより大好き、いっちーです!
今回取材したのは“篠也マシン”先生!
SNSで単著デビュー作である『三月は、所によりオフライン』を拝見し、桜がいっぱいの素敵な表紙と、世界がオフラインになるというアイデアに惹かれて、発売日に購入! 読んでみたところ、すごい面白くて、いつものごとく、読後すぐにオファーを出していました!
今回は、先生の読むこと、書くことに加えて、『三月は、所によりオフライン』の文体や設定、魅力的なキャラクターなどから、作品を深くひも解いていきますよ~!
それじゃ~行ってみよう!
プロフィール

篠也マシン(ささやましん)
愛媛県出身、関西育ち。2020年『並行世界のルームメイト』が『5分で読書 扉の向こうは不思議な世界』(カドカワ読書タイム)に収録されデビュー。2026年『三月は、所によりオフライン』が『第4回 きみの物語が、誰かを変える。小説大賞』で大賞・TSUTAYA賞・読者賞をトリプル受賞し、初の単著を刊行。
現役システムエンジニアとして働く傍ら小説を書いており、世にソフトウェアと少し不思議な物語を届けている。
chapter 01 本を読むことについて


どんな幼少期~青春時代を過ごしていましたか?
実は、あまり小説を読むタイプではなかったんです。どちらかというと、漫画の方をすごく読んでいましたし、活字を読むのは苦手な方でした。
幼少期は田舎で育ったというのもあって、外で駆け回ったり、秘密基地を作ったりして遊ぶことが多かったです。
他にはテレビゲームも好きだったんですけど、視力がかなり低かったこともあって、親にゲームを制限されていました。それで仕方なくアナログな遊びをしていましたね。
なので当時は、“自分が小説を書く側になる”なんて、まったく想像していませんでした。
本を読むことが得意ではなかった篠也マシン先生が、作家としてデビューされているのは不思議にも感じます。当時は、どのような漫画を読まれていたのでしょうか。
一番好きだったのは『ドラえもん』です。とくに、大長編映画の『ドラえもん』が本になったものがものすごく好きでした。一コマ見ただけで、どの作品かわかるくらい読んでいましたね。
少し話がそれるんですけど、藤子先生の“SF=すこし・ふしぎ”という感覚が、僕はすごく好きなんです。
そういう空気感が、自分の中にずっと下地としてあって。実際に自分が書く時にも、かなり影響を受けている気がします。

本を“自分から読む”ようになったきっかけを教えてください。
最初の入り口は、“ゲームブック”でした。
「○ページへ進む」「この選択肢なら次は○ページへ」という形で読み進める本です。
視力が原因で親にゲームを制限されて 「何か代わりになるものはないかな」と思っていたときに出会ったんです。
『ドラゴンクエスト』系のゲームブックなどを読んでいたことが、ある意味、活字との最初の出会いでした。
ただ、その頃はまだゲームブックの中だけで完結していて、小説はまだ読んでいませんでした。
そこから、どのように“小説”へ入っていったのでしょうか?
最初に読んだのはライトノベルですね。僕が中学〜高校くらいの頃、ちょうどブームだったこともあって、友人に勧められて上遠野浩平先生の『ブギーポップは笑わない』を読んだんです。これが、“ゲームブックから小説へ移った”最初の作品だったと思います。
ただ、その時点では、まだそこまでハマったわけではありませんでした。「面白いな」とは思ったんですけど、自分からどんどん買うところまでは行かなくて。
そこから大きく変わったのが大学時代です。地方で一人暮らしを始めた頃、古本屋や本屋へ通うようになって、もう一度ライトノベルを読んでみたら、急にハマってしまったんです。
そこからは一気でしたね。下宿先が本だらけになるくらい、ひたすら読みまくっていました。

下宿先が本だらけに! 小説が好きではなかった幼少期から考えると、かなり大きな変化ですね。ほかにはどんな作品を読まれていたのでしょう。
乙一先生の作品はかなり読みましたね。
ホラー寄り作品もあれば切ない恋愛寄りの作品もあって、「ここまで振り切っていいんだ」と衝撃的でした。あの独特の空気感にすごく憧れて、当時出ていた作品を、ほとんど全部読んでしまったくらい好きです。
そこから一般文芸へ進んでいく中で、大きかったのが……村上春樹先生でした。
ライトノベルから村上春樹先生へ!? かなり挑戦だったのではないでしょうか。
実は村上春樹先生を読む前に、『灰羽連盟』というアニメを観たんです。
その『灰羽連盟』が、村上春樹先生の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に影響を受けている、という話を見かけて、それで読み始めました。
正直に言うと、全部を完全に理解できていたわけではありません。
でも、“わからないのに面白い”んです。
文章から伝わってくる熱量や空気感が圧倒的で、その不思議な感覚にものすごくハマりました。
そこから村上春樹先生の作品を一気に読んでいきました。
先ほど、初めてライトノベルに触れたときは、そこまでハマらなかったとおっしゃっていましたが、大学生になって一気にハマったのは、どうしてだったのでしょうか。
たぶんなんですけど、“読めるようになった”んだと思います。
僕、本職がシステムエンジニアで、かなりガチガチの理系なんですよ。文系科目が本当に苦手で、大学受験のときも、“できれば国語を使わずに受験したい”くらいの人間でした。
だから当時は、小説を読んでも、人の気持ちが全然わからなかったんです。「なんでこんな行動をするんだろう」みたいな感覚の方が強くて。
でも、大学受験で国語の勉強をする中で、なんだかんだ文章を読む機会が増えて。そこで改めて本を読むと、昔とは違う発見があったんですよね。
キャラクターの心情だったり、その奥にある感情だったり、「こういう面白さがあるんだ」って気づけるようになったんです。
そこから、いろいろ読むようになってどんどん読むジャンルが広がっていって気づいたら、本を読むことそのものにハマっていましたね。

先ほどのお話を聞いていると、“少し不思議”な感覚や、日常の中にあるSF性は、『ドラえもん』からかなり影響を受けているのかなと感じました。他にも影響を受けたものはありますか?
漫画で言えば、やっぱり『ドラえもん』なんですけど、アニメまで広げると、ロボットものもかなり好きなんです。
特に『ガンダム』にはめちゃくちゃハマっていました。
この後のペンネームの話にも少しつながるんですけど、僕はロボットものが好きなんですよね。
僕らの世代は『新世紀エヴァンゲリオン』が流行った世代でもあって。兵庫のかなり田舎に住んでいたのでテレビ東京系は映らなかったんですが、それでもクラスでビデオが回るくらい話題になっていました。
そこからさらにロボットものにハマっていきました。
だから自分の中では、『ドラえもん』や“SF”、ロボットものが、一番根っこにある好きなジャンルなんだと思います。
『三月は、所によりオフライン』は、人間ドラマや感情の描写が繊細だったので、“人間を書くこと”が得意な方なんだろうな、というイメージを勝手に持っていたんです。
なので、“ロボットものが大好きなガチ理系”と知って驚きです……!
chapter 02 作品を書くことについて


ペンネームの由来を教えてください。
兵庫で住んでいた場所が“篠山市”で、その地名と本名を組み合わせたアナグラムから、“ささやましん”という読みを決めました。
漢字は地名と本名から取って、最後の“ましん”は、ロボットが好きだったこともあって“マシン”とカタカナにしています。

書き始めたきっかけを教えてください。
書き始めたきっかけは、ゲームのシナリオでした。
大学では情報工学科に進んだのですが、そこで仲間とゲームを作ることになったんです。
私は、お絵描き掲示板などに絵を投稿していたこともあって、最初は絵を担当していました。ただ、シナリオのボリュームがかなり大きくて、「少し手伝おうか」ということになって。
もちろん、最初からシナリオなんて書けなかったので、練習も兼ねて「まずは短編小説を書いてみよう」という流れになりました。
シナリオ担当のグループでお題を出し合って、1〜2週間くらいで短編を書くようになったのが、小説を書き始めたきっかけですね。
ちなみに、その頃書かれていたのは、やっぱりロボットものだったのでしょうか。
いや、それが意外とロボットものではなかったんです(笑)。
ファンタジーや少しSFっぽいもの、恋愛ものなど、本当にジャンルはバラバラでした。
ただ、当時はまだそこまで小説を読んでいなかったので、「短編小説って『世にも奇妙な物語』みたいなものだろう」と勝手に思っていたんですよね(笑)。
人間ドラマというより、“設定”や“オチ”が強いもの。少しブラックだったり、不思議だったりするものを書いていた記憶があります。
そういう意味では、やっぱり『ドラえもん』や藤子・F・不二雄先生の影響がかなりあったんだと思います。

作品を書くうえで、大事にしていることはありますか?
僕、かなり“ハッピーエンド”にこだわりがあるんです。
ただ、全部が綺麗に解決するというより、“辛いことはあったけれど、それでも前を向いて終わる”ような結末が好きなんですよね。
短編を書いていた頃から、“たとえ誰かが死んでしまっても、どこかハッピーエンドとして終わらせる”みたいなことに、なぜかずっとこだわっていました。
一方で、ブラックな終わり方もすごく好きなんです。藤子・F・不二雄先生のSF短編のような、少し不穏で後味の残る作品ですね。
なので、“ハッピーエンドに寄せる時は徹底的に寄せる”“ブラックに振る時は一気に振り切る”という感覚があります。
自分の中では、“ラストをどう着地させるか”が一番大事にしている部分なのかもしれません。
ちなみに、「ハッピーエンドにしたい」と思うようになった理由やきっかけはあるのでしょうか?
ブラックな結末への影響源は、藤子・F・不二雄先生のお話からなんとなく見えてきたのですが。
改めて考えると、根っこにあるのはやっぱり『ドラえもん』の大長編だと思いますね。切ない終わり方をする作品が多いじゃないですか。ゲストキャラクターは基本的にその作品限りの存在で、一緒に冒険して、世界を救ったりして、強い絆が生まれるけれど、最後には別れがある。
でも、切ないだけじゃなくて、読み終わったあとには“前を向ける感じ”が残るんです。
たぶん、僕が好きなハッピーエンドって、あの感覚なんですよね。
辛いことや別れがある。でも、それでも最後には少し前向きになれる。そういう終わり方に惹かれているんだと思います。

執筆時のルーティンや、こだわりなどはありますか?
実は、これといってルーティンがないんです。
自分でも“創作中毒”なんじゃないかと思うくらい、常に何かしら考えているタイプなんですよね。
だから、“この時間になったら”とか“この場所で書く”といったことはがとくになくて、電車の中だったり、ご飯を食べている時だったり、一人になった瞬間だったり。暇があれば、ずっとネタを考えていますし、書くものもスマホでもパソコンでも構いません。
ある意味“常に考えていること”が、ルーティンと言えるかもしれませんね(笑)。

デビューまでにはどんな努力をされましたか。
僕は昔から小説を書いてきたタイプではなかったので、文章力よりも、“オチ”や“世界観”を考えることに力を入れました。
短編を書くときはオチを大事にしていましたし、パッと見たときに“面白そう”と思ってもらえるように、世界観にもこだわっていました。
ノートにいろいろなアイデアを書き出して、組み合わせたり、面白そうなものから投稿したりしていました。文章力を気にしすぎるよりも、アイデア一本でぶつけていく感覚でしたね。

完成した本を、初めて手に取った瞬間、どう思われましたか。
最初に思ったのは、“重い”でした。
編集さんとのやり取りは基本的にWEB上で、PDFやWordのデータを見ながら進んでいくんです。
僕はエンジニアなので、普段は“何ギガ”“何テラ”というデータを扱うことも多いんですけど、小説のデータ自体は何キロバイトかしかない。
でも、それが本になって届いた瞬間に、ちゃんと重さがあったんです。
物理的な重さという意味でもありますし、「本当に形になったんだ」という実感という意味でも、“重い”という感覚が、一番印象に残っています。

短編を多く書かれていた篠也マシン先生が、長編を書くようになったきっかけは何だったのでしょうか。
“Tap Novel”というサービスに出会ったことですね。
キャラクターや音楽、演出を組み合わせて、ノベルゲームのような作品を作れるサービスで、「ビジュアルや演出込みなら、自分でも長編を書けるかもしれない」と思いました。
そのときに、初めて本格的なロボットものを書いたんです。
そこで、キャラクターの感情の積み重ねや関係性の変化、時間をかけて描ける壮大さといった、長編だからこそできることの面白さを知りました。
そこに惹かれて、「これからは長編を書いていこう」と決めて、その流れの中で書いたのが、『三月は、所によりオフライン』なんです。

様々なジャンルを横断してこられた篠也マシン先生ですが、今後はどのような作品を書いていきたいですか?
“一つのジャンルだけを書く作家”にはなりたくないですね。この人はこのジャンルだよね、というよりは、“え、この作品もこの人が書いたの?”と思われるくらい、いろいろなジャンルを書いていきたいです。
それこそ乙一先生や小野不由美先生のように、“ジャンルを横断していける作家”への憧れが、自分の中にはかなりあります。
もちろん、いつかロボットものの小説を書きたいですし、僕はもともと漫画やアニメがすごく好きだったので、“アニメや映像作品の原作になるような小説”も書きたいです。
あとは、小説以外にも挿絵や脚本といった別ジャンルにも興味がありますし、いつか本当の映像作品にもかかわってみたいと思っています。
どんなジャンル、どんな媒体で出るのか、楽しみにしています!
chapter 03 『三月は、所によりオフライン』について


著:篠也マシン
あらすじ
言いたいことは、いつもスマホの中にある。
内気な高校生・翔太は、SNSの裏垢だけが本音を言える場所。卒業間近、想いを寄せる幼馴染・陽菜と大喧嘩した直後、街のネットが不通に。
「ごめん」なんて、直接言えない。――胸に秘めた「好き」も。
もどかしい想いを抱えた翔太が出会うのは、友や家族の『本当に言いたかったこと』。これは、裏垢バレから始まる、卒業までの十日間を描いた、青くて痛くて切ない物語。

『三月は、所によりオフライン』は、どのような経緯で生まれた作品だったのでしょうか?
「せっかく長編小説に挑戦するならコンテストに向けて書こう」と決めたとき“きみの物語が、誰かを変える。小説大賞”という青春小説系のコンテストを見つけました。
ちょうどその頃が卒業シーズンだったのもあって、偶然YouTubeでRADWIMPSさんの「正解」を聴いたんです。そこでまず、卒業の物語にしよう!と決めました。
きっかけは音楽だったんですね! そこから“オフライン”というアイデアは、どうやって生まれたのでしょうか。
まず“今の10代の感覚”が分からなかったので、自分が高校を卒業したときのことを考えたんです。
僕らの世代は、ちょうど携帯電話を持ち始めた時代でした。顔を合わせていたら言えないことでも、メールなら言える。その感覚がすごく楽しくて、自分にとってオンラインは“本音を言える場所”だったんです。
でも今は、SNSで不用意な発言をすると炎上することもありますし、グループLINEなどで常につながっている。むしろ、“オンラインなのに本音が言えない”時代になっているんじゃないか、という感覚がありました。
だから、「今の子たちは、どこで本音を言うんだろう」と考えたんです。
それが、序盤で主人公が使っている“裏アカ”だったわけですね。
そうなんです。そこから逆に、“強制的に本音を言わざるを得ない状況”って何だろう、と考えました。
そこで、「もし今の時代にオフラインになったらどうなるんだろう」という発想が出てきたんです。
そこから、「こういうキャラクターがいたら面白いかな」「この子はこういうことを抱えているんじゃないか」と、どんどん広がっていきました。
自分なりの“今の10代”への想像を積み重ねていく中で、少しずつ『三月は、所によりオフライン』の形ができていきました。
ただ、オフラインでありつつも、完全にネットが絶たれた世界ではなく、テレビも普通に映っていました。この“オフラインレベル”にしたのにはどういった理由があるのでしょう。
そこは、エンジニアとしての性分が大きいですね。ネットが完全に遮断された世界というのは、現実的にはかなり考えづらいんです。
だから作中では、すべてのネットワークが止まるのではなく、一部の地域やサービスに障害が起きている、というレベルにしています。テレビもネットとは違う回線なので、普通に映るようにしました。
“なぜオフラインになったのか”や“その現象をどう解決するのか”にフォーカスするよりも、“もしオンラインが使えなくなったら、人は本音をどう伝えるのか”を読者に見てもらいたかったので、その前提が不自然になりすぎないよう、できるだけリアルにしたかったんです。
読んでいて、「どうしてオフラインになったんだろう」と気になる部分ではあったんですが、そこを説明しすぎないからこそ、人間関係に意識が向いたんだと感じました。

執筆中はどんなことが大変でしたか。
一番苦労したのは、“文字数”です。
これが初めての長編で、それまで長くても2万文字くらいしか書いたことがなかったので、“そもそも必要な文字数まで届くのか”というのが最初の大きな壁でした。
僕はずっと“短くする”方向で書いてきたんです。システムエンジニアをやっている影響もあると思うんですが、プログラムって、“短く、シンプルで、効率が良いもの”が正義なんですよね。
だから文章も、放っておくとどんどん削ってしまうんです。
そこを、“どうやって面白さを保ったまま長編として成立させるか”という部分は、かなり苦労しました。

この作品を書く中で、どんなことが挑戦でしたか。
二つあります。一つはやっぱり“長編を書き切ること”。
エンジニアの仕事では、まず完成させて、間違っていたところを反省して、次に活かすというループを回していくんですよね。
それは小説でも同じだと思ったので、たとえ締め切りに間に合わなかったとしても、文字数が足りなかったとしても、とにかく一度書き切ろうということは意識していました。
もう一つは、キャラクターたちの感情をどれだけ自然に書けるか、という部分です。
僕はずっと短編で、アイディア一本で勝負してきたところがあったので、“作者が言わせている”ように見えないよう、ひたすらキャラクターたちの気持ちを考えながら書いていました。

読者の方に、“ここを読んでほしい!”というポイントはありますか。
読んでほしいのは“ラスト一行”ですね。
主人公が最後にある言葉を口にするんですが、その中で、“強い”ではなく、“弱くない”という表現をあえて使っています。
このニュアンスが、この作品全体の感覚につながっている気がするんです。
そこを受け取ってもらえたら、すごく嬉しいですね。

この作品を通して、作家活動にどのような変化がありましたか?
アンソロジーに短編でデビューしたとき、読んでくださる方が増えたんですが、今回は単著で、しかもありがたいことに大賞をいただけたことで、もっと多くの人に読んでいただけるようになったんです。
そこで感じたのは、「もっと読んでほしい」という気持ちでした。やっぱり読んでもらえると、もっと書きたくなるんですよね。
あと、自分の中で“長編を書き切れた”ということも大きかったです。それが自信にもなって、今後はもっといろいろな作品を書いていきたいと思うようになりました。
先ほどお話ししたロボットものもそうですし、ジャンルを限定せず、いろいろ挑戦していきたいですね。
いつの日か、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』ぐらい長い作品が生まれる日が来るかもしれないんですね!
その場合は、めちゃくちゃ駆け足な作品になりそうですね(笑)。

ネタバレ注意!(クリックしてお読みください)

作品全体に、桜のようなやわらかさや透明感のある文体が流れていると感じました。この文体は、最初から意識して作られていたのでしょうか? それとも、書いていく中で自然と立ち上がってきたものだったのでしょうか?
自分は、難しいことをやろうとすると、逆に取り繕っている感じになってしまう気がしていたので、なるべくシンプルに、わかりやすく書こう、とかなり意識しました。
なので、“この文体を書こう”というより、“自分にはこれしか書けない”に近い感覚なんです。
そこに今回、“10代向け作品”という方向性や、“10代の主人公”という要素が重なって、うまく化学反応を起こした結果、この作品の空気感になったのかな、と自分では思っています。

物語の中で、一度主人公がフラれる展開が、とても印象的でした。
読者としては、「このまま恋愛が成就するのでは」と期待していた部分もあったので、あえてその流れを崩した意図が気になりました。
実は、この作品って、自分の中では“恋愛小説”ではないんです。
どちらかと言うと、“少年の成長譚”なんですよね。
ただ、この物語って10日間くらいの話なので、人間が劇的に変わるわけではないんですよ。
だから、“強くなる”というより、“自分の弱さを理解したうえで、それでも少し強がれるようになる”くらいの変化を書きたかったんです。
確かに、あの展開があることで、主人公の輪郭が一気にはっきりした感じがありました。
特に、後半で橘にちゃんと言い返せるようになっていたり、一緒に誰かと出かけられるようになっていたり。
“すぐに強くなった”わけではなくて、一度ちゃんと自分の弱さと向き合ったうえで、少し変わっている感じがありました。

作品全体に透明感やきらめきがあるからこそ、そこにうまく乗れない人物の視点が、どこか“間違っているもの”のように感じられる瞬間もありました。このあたりのバランスは、どのように考えて描かれていたのでしょうか?
それは、たぶん“誰の視点で見ている物語なのか”が大きいんだと思っています。
今回の主人公って、実は“キラキラした青春”に対して、強い憧れを持っている人物なんですよね。
だから、物語全体も、少しそういうふうに見えている部分があると思うんです。
自分自身の価値観としては、“キラキラした青春こそが正しい”とは、全然思っていません。
むしろ、ドロドロした青春もあるし、逆に、特に何もなかった青春だってある。それも全部含めて、“青春”なんだと思っています。
今後は、アンチブルー作品のような、もう少し痛みや泥っぽさのある青春だったり、そういうものを書いていけたら、すごく面白そうだなと感じていますね。

個人的に、今作で特に好きなキャラクターが上地です。
主人公の良くない部分を「良くない」と指摘しつつも、陽菜のように断罪するのではなく、「それも君だよね」と受け止めているような空気があって。
彼女はどのように作られていったキャラクターなのでしょうか?
四人の中では、上地は最後に作ったキャラクターでした。
最初のコンセプトの段階で、「四角関係を書きたい」という気持ちがまず、あったんです。
それも“全員が違う方向に矢印を向けている四角関係”を書いてみたかったんですよね。
主人公とヒロイン、そして橘というライバル的な存在が先にいて、“四角関係にするなら、最後の一人はどういうキャラだろう”と考えたときに、“一番大人びている少女”という方向になったんです。
みんなが言えないことを、はっきり言える。でも、一番肝心なことだけは言えない。
そこを弱さとして持っているキャラクターにした結果、上地が生まれました。
読んでいて「上地は主人公のことが好きなのでは?」とも感じたのですが、作中では明言されていません。この感覚は勘違いなのか、あえてそうされているのかも気になりました。
その読みは正解です。
ただ、あまり露骨にしすぎると、上地というキャラクターらしくなくなってしまう気がしたので、作中では明言していないんです。
彼女って、主人公に対してははっきり物を言えるんですけど、“自分自身の本音”だけは最後まで言えないんですよ。この物語の中で、一番“本音を言えなかった人”でもあります。
上地って、ある意味”通信衛星”みたいな存在なんですよね。誰かの想いを届ける後押しをして、前へ進ませる。でも、自分自身はずっと宇宙で身動きできない。
だからこそ、彼女は少し後悔を抱えたまま、新しい場所へ進んでいく。
そこに、少し切なさを残したかったんです。
上地を好きになってしまう読者、かなり多い気がします。
実は、僕自身もかなり好きなんです(笑)。
本来なら、もっと主人公やヒロインにフォーカスを当てるべきだったのかもしれないな、と反省している部分もあります。
上地って言動が“カッコイイ”んですよね。
特に、陽菜が橘に振られて帰ろうとしたとき、主人公が追いかけるか迷っている場面で、「迷うな」って背中を押すところ、良いですよね。
あそこ、僕も一番好きなシーンなんです。
普段はかなり理詰めで構成を考えるタイプなんですけど、あの場面だけは、キャラクターの感情に入り込んで、自然に言葉が出てきた感覚があって、かなり印象に残っています。
あの場面って、主人公が“すぐ行ける人間”じゃないからこそ良いんですよね。
「良い人でいたい」「でも面倒なことから逃げたい」みたいな感情が混ざっている状態で、上地が押してくれる。だからこそ、最後のラストにもつながっていく感じがして。
まさに、そこを書きたかったんです。主人公って、決してヒーローではないんですよね。
迷うし、弱いし、ちょっと格好つけたい。でも、その弱さを抱えたまま、それでも動こうとする。
上地は、その背中を押す役割だったんだと思います。

橘というキャラクターを出すことは、かなり勇気が必要だったのではないかと感じました。
主人公が抱えていた思い込みや、“そう信じることで心の平穏を保っていた部分”を、橘の存在が現実として突きつけてくるので。読んでいて、自分もうっとなるキャラクターですし、多くの人が、どこかで見ないようにしてきた痛みでもあるのではないかと思います。
この橘というキャラクターは、どのように作られていったのでしょうか。
実はこの作品では、全員に“一つずつ後悔”を持たせているんですが、橘には、“陽キャ側の後悔”を持たせました。
どれだけ明るく見える人でも、“あのときあんなことを言わなければよかった”とか、“傷つけてしまったな”とか、絶対に反省や後悔はあると思うんです。ただ、それを表に出さないだけなんじゃないか、と。
橘も、一見すると明るくてお調子者のように見えるキャラクターですが、彼の中にもずっと後悔がある。
だからこそ、オフラインになったことで、その後悔と向き合い、謝りに行くことができたんです。
その行動をきっかけに、止まっていた関係性や感情が動き出していく。そんな“物語を動かす鍵”のような役割を橘にはしてもらいました。

今作は、傷をえぐるような描写と、桜のようにやわらかい文体が共存していて、“傷つきもするし、癒されもする”という、不思議な読後感がありました。そのうえで、最後には“もしかしたら二人はいつか付き合うのかもしれない”という希望も残っていて。卒業式のあとみたいな寂しさと、新生活へのワクワク感が同時にあるラストだったと感じています。このような終わり方にされた意図をお聞きしたいです。
“不幸なこともあったのに、ハッピーエンドになっている”という感覚は、かなり意識しました。
“寂しさ”と“希望”が両方ある終わり方にしたかったので、それを突き詰めていった結果、自然とあのラストになったんだと思います。
あとは僕自身が子どもの頃、親の転勤がすごく多くて、今までいた場所から離れる寂しさ”と、“新しい場所へ行くワクワク感”を、何度も経験してきたので、今回のラストにも自然と出てきたんだと思います。
もし体験したことがない方には、「こんな感覚があるんだ」と伝わったら嬉しいですし、逆に経験したことがある方には、「ああ、これこれ」って思ってもらえたら嬉しい。
そういう気持ちも込めて、あの終わり方にしました。
chapter 04 メッセージ


篠也マシンさんにとって、“本”とはどのような存在ですか?
エンジニアっぽい言い方をすると、“シミュレーション”ですね。
人生は一回きりで、世界も一つしかない。でも、本を読むと、そこには別の世界や宇宙がある。
外側から眺めることもできるし、中に入り込んで、別の人生や感情を疑似体験することもできる。
それってある種のシミュレーションみたいだなって思うんです。
作家側の視点で言うと、“誰かの熱量の塊”だとも思っています。
一文字ずつ打ち込んで、何万文字も積み重ねてできあがるものだからこそ、そこには書いた人の熱がある。
そして、その熱に触れることで、自分の中にもまた新しい熱が生まれる。
僕にとって本は、そういう“創作の燃料”みたいな存在なんです。

最後に、“これからの本の挑戦者たち”へメッセージをお願いします。
僕、やっぱり一番大事なのって、“熱量”だと思っているんです。
昔描いていたイラストや文章を見返すと、「下手だな」と思うことはいっぱいあります。パースが崩れていたり、誤字脱字だらけだったり(笑)。
でも、そこには「何かを伝えたい」という熱だけは残っているんですよね。
僕は、読む側って、その熱を感じ取っているんだと思っています。
実際、お絵描き掲示板に投稿していた頃も、“ものすごく熱量を込めた時”と、“なんとなく描いた時”では、反応が全然違ったんです。
だから、熱量って絶対に誰かへ伝わるものなんだと思っています。
それは何万人じゃなくてもいい。一人でもいいし、極端に言えば、自分自身でもいい。
“これを書きたい”
“これを伝えたい”
その気持ちを持って挑戦し続けることが、大事なんじゃないかなと思います。
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書籍情報

著:篠也マシン
あらすじ
言いたいことは、いつもスマホの中にある。
内気な高校生・翔太は、SNSの裏垢だけが本音を言える場所。卒業間近、想いを寄せる幼馴染・陽菜と大喧嘩した直後、街のネットが不通に。
「ごめん」なんて、直接言えない。――胸に秘めた「好き」も。
もどかしい想いを抱えた翔太が出会うのは、友や家族の『本当に言いたかったこと』。これは、裏垢バレから始まる、卒業までの十日間を描いた、青くて痛くて切ない物語。

著:篠也マシン
あらすじ
家の建て替えのため、仮住まいに引っ越した高校生のシュン。隣の部屋のふすまを開けると、そこは些細なきっかけで分岐した並行世界の住人・トウコの部屋だった。
見えない壁にさえぎられ、決して行くことはできないふすまの向こう側。シュンとトウコの奇妙な交流が始まった。
口は悪いが、本音で語り合えるトウコに惹かれていくシュン。しかし、家の建て替えが終われば、仮住まいを出ていかなければいけない。それは、決して触れ合うことのできないトウコとの別れを意味していた。タイムリミットが迫る中、シュンがこの恋を成就するために選んだ道とは――?
分岐した世界を越え、二人の想いが重なり合う。すこしふしぎな青春SFラブストーリー。

著:篠也マシン
あらすじ
東京に住む高校生のユウトは『自分のために生きる』のが信条の少年。現代では失われた魔法の力を使い、自分勝手に生きてきた。
ある日、『誰かのために生きる』のが信条の少女イツカと出会い、千年の封印から目覚めた魔王へ戦いを挑むことになる。
圧倒的な魔力を持つ魔王に対し、ユウトにたくされたのは、千年前の勇者の装備から造られし兵器。それこそが、対魔王決戦用強化外骨格――『ロール・プレイング・ギア』である。
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