イントロダクション
HAPPY! “本”と“ことば”がなにより大好き、いっちーです。
今回取材したのはスターツ出版文庫でたくさんの恋愛小説を書かれている小説家“此見えこ”先生。
拝読した作品が面白すぎて、思わずほかの作品も買って読んでしまったんですが、それも面白くて!
毎度のことながら、気づいたら取材をお願いしていました……!
個人的に人生で読んだ本の中でも大好きな部類に入る作品を書いた先生なので、緊張しますが、頑張ります!
それじゃ~いってみよー!
chapter 01 本を読むことについて


先生の作品は学生が主人公のお話が多くありますが、先生ご自身はどんな青春時代を過ごされていたのでしょうか?
もう、本当におとなしい子でしたね。人前に出るのが苦手で、すごく引っ込み思案で、休み時間も隅っこで本を読んでいるような子でした。
ただ、本は昔から大好きで、めちゃくちゃ読んでいましたし、なんだったら小学生のころから自分でも書いていました。
小学校からすでに作家活動を! すごいですね……。

その頃のご自身が、いまの創作活動につながっていると感じる部分はありますか?
やっぱり本が好きだったことは大きいと思います。学生のころからずっと書いていましたし、家にもたくさん本があって、ずっと読んでいました。
親も本が好きで、特に母がよく読む人だったので、「この本おもしろかったよ」と勧められたら、それを読んで、ということを繰り返していました。
そういう環境の中で自然と本が好きになって、たくさん読むうちに自分でも書きたいと思うようになったので、小さいころからの環境が今につながっていると思います。

最初に読んだ作品や、本を“自分から”読むようになったきっかけはありますか?
いちばん最初に読んだ本は覚えていないのですが、はじめて読んだ“児童書ではない小説”は覚えています。
『西の魔女が死んだ』です。

梨木香歩(新潮文庫)
小学校4年生くらいのときに読んだのですが、それまでは挿絵の入った児童書しか読んだことがなくて。挿絵もない、いわゆる小説らしい小説を初めて読んで、すごく衝撃を受けました。
図書室でそのタイトルを見たとき、なんだかもう撃ち抜かれたような感覚があったんです。死って入ってたので「え、めっちゃ怖い」と思ってもいたのに、内容が気になって仕方なかったんですよね。表紙も大人っぽいし、「私にはまだ早いのか」「すごく怖い話だったらどうしよう」、とドキドキしながらも、どうしても読んでみたくなって、背伸びするような気持ちで手に取ったのを覚えています。
どういったところが衝撃だったのでしょう。
まず、文章そのものに衝撃を受けました。文章を読んで「この文章が好きだ」と思ったのが、たぶんあれが初めてでした。
目の前に情景が広がるというか、音や匂いまで感じられるような感覚があって、自分が主人公の中に入って、その世界を見ているような気持ちになったんです。
それまでもお話を作ってはいましたが、この作品を読んで「こういう小説が書きたい」「私も小説が書きたい」と思うようになったので、書くことの原点だと思っています。

幼少期や学生時代に読んだ本で影響を受けた作家やジャンルはありますか?
これも『西の魔女が死んだ』ですね。
はじめて文章を読んでいて心地よいと思った作品ですし、物語の世界に没入する感覚や、主人公の中に入って、いっしょに世界を見ている感覚を味わったのもこの作品が初めてだったので。
それに、この作品を読んで、「こういう文章が書きたい、こういう”小説”が書きたい」とはじめて思いましたし、実際にこのあたりから本格的に小説を書くようになりましたから。
この感動は今でも鮮明に覚えています。

最近読んだおすすめの作品を教えてください。
『さよなら、私の愛した世界』です。東里胡先生の作品で、幽霊になった主人公が双子の姉と一緒に死の真相を探っていくお話なんですけど、めちゃくちゃ切ないのに、すごくあたたかくて、読後感がやさしい作品でした。
単純に謎が明らかになっていく過程もおもしろくて引き込まれますし、それと同時に見えてくる登場人物たちの強さや優しさに、思わず涙が出ました。すごく素敵な“愛”のお話だと思います。
ジャンルとしては、ミステリーの要素があるヒューマンドラマですね。

東里胡(アルファポリス)
chapter 02 作品を書くことについて


ペンネームの由来を教えてください。
もともとは“えこ”という名前だけで活動していました。小説投稿サイトで活動していたころは、ずっとその名前だったのですが、“えこ”の由来は正直まったく覚えていなくて。なぜその名前にしたのか自分でも謎なんですけど、たぶんなんとなく響きがかわいいと思ってつけたんだと思います。
ありがとうございます。“此見”のほうはどうですか。
書籍化デビューが決まったときに、編集さんから名字をつけてほしいと言われて加えたんですが、実は“此見”は小説投稿サイトで活動していたころからずっと読んでくださっていた読者さんがつけてくださった名字なんです。
最初はずっと“えこ”だったので、“このみさん”と呼ばれることに少し違和感もあったのですが、今は響きも字面もとても気に入っていて、すごく愛着があります。

最初に書いた作品について教えてください。
いちばん最初に書いたお話となると、小学1年生くらいまでさかのぼってしまうのですが、ノートに“月に行く話”を書いていた、というのをなんとなく覚えています。ただ、それくらいの記憶しかなくて。
なので今回は、いちばん最初に書いた一次創作の長編についてお話しさせていただきます。
『私を選べばよかったのに』です。

此見えこ(スターツ出版文庫 アンチブルー)
昨年11月に刊行された作品なのですが、もともとは『あの日のぼくら』というタイトルで、高校生のころに書いていた作品なんです。
創作自体はもっと前からしていたのですが、それまでは短編や二次創作が中心でした。
長編の一次創作ではこれがはじめて書いた作品ですし、初めてネットに投稿した作品でもあります。
ヤンデレの描写が本当にすごくて、解像度というか、愛の深さみたいなものがすごく丁寧に書かれていたので、「先生、ここ絶対書きたかったんだろうな」と思いながら読んでいました。
そうなんですよ。そのころ、とにかくヤンデレにハマっていて、自分の理想のヤンデレを自分で書きたいと思ったのがきっかけでした。本当に、自分の書きたいものを詰め込んで、書きたいように好き放題書いた作品だったので、まさかこれが本になるとは夢にも思っていなかったです。
読んでいて、もしかしたら駿との恋愛もあるんじゃないかと期待してしまいました。
最初は“駿ルート”も書きたいと思っていたんです。結局書けなかったのですが、構想だけはあります。
いつか読めるのを心待ちにしています!

デビューまでに苦労したことや、努力されたことについて教えてください。
実は苦労したとは思っていないんですよね。昔からお話を書くことが好きでしたし、デビュー前の趣味で好きなように書いていたころも本当にただ楽しいだけで、特に努力をしていたという感覚はないんです。
デビューも書きたいものを、書きたいように書き続けていたら、運よくデビューできた、という感じでした。
好きこそものの上手なれを体現したみたいなデビューですね! ちなみに投稿を始めようと思った理由はなんだったのでしょうか。
投稿をする前からも作品は書いていたんですけど、ほとんど人には見せていませんでした。そんななか『あの日のぼくら』を投稿したのは「読んでほしい」って思ったからですね。
私の考えた最強のヤンデレを見てほしい! と。
そうですね。多分当時の私は「このヤンデレを見てほしい!」って思えるくらい、自分でもうまく書けたと思ったから投稿したんだと思います。

完成した本を手に取った瞬間の気持ちはどうでしたか。
なんか、あんまり現実味がなくて……。本当に「これが本屋さんに並ぶんだ」って、ずっとふわふわした感じでした。
デビュー作が出るときも、「自分の書いたお話を誰かがお金を出して買ってくれるなんてことがあるのかな」って半信半疑で、正直、「売れるわけない」くらいに思っていました。
なので、今もまだ、こんなにたくさんの方が読んでくださっているっていう実感は、どこか不思議なままなんです。
2020年に出た書籍が今でも新刊書店に並んでいるのってすごいですよね。
そうなんです。本当に買ってくださる皆さん、応援してくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
実際に書店には行かれましたか。
行きました。プライベートでも本当にあるのか観に行きましたし、仕事でもサイン色紙を持ってご挨拶に回らせていただいたこともあります。
ただ、実際に誰かが買ってくださっている場面を見たことはまだなくて……。なので、“売れている”っていう実感はやっぱりまだあまりなくて、不思議な感じのままですね。

作品を書くときに大切にしていることを教えてください。
“自分が好きだと思えるお話を書くこと”です。
もちろん、趣味で書いていたころは本当に自分の好きなように書いていたのですが、デビューして商業で書くようになってからは、一から十まで自分の書きたいとおりに書けるわけではなくなりました。
出版社から「こういうお話でお願いします」と指定されることもありますし、プロット段階でも「ここはうちのカラーに合わせて変えてください」と言われることもあります。
なので、100%自分の好きなように書くことはできないのですが、それでもどこかに自分らしさを入れて、自分が好きだと思えるお話にしようとは毎回思っているんです。
本を出すと、どうしてもいろいろなご感想をいただきますし、ときには否定的なお声が届くこともあります。そのときに “何と言われようと、私はこのお話が大好き”と言えるような作品を書きたいです。

執筆時のルーティンやこだわりを教えてください。
書く場所という意味では私は周りに人がいると書けないので、絶対にひとりでこもれる場所で書くようにしています。
作業中は絶対にルイボスティーを飲んでいますね。
絶対にルイボスティーというのが、こだわりを感じます。
こだわりというよりはちょうどいいからそれにしているという感じです。
書きながら飲むんですけど、甘い飲み物だとすぐ飲みきってしまうんですよ。ですが、ルイボスティーは甘すぎず苦すぎず、ちょうどいいので、集中しやすいんです。

今後どんな作品を書いていきたいですか。
今いちばん書きたいのは、“恋愛がメインではないヒューマンドラマ”です。
私自身、読むのも家族愛とか友情がメインのお話のほうが圧倒的に多くて。そういう、恋愛が中心ではない作品を書いてみたいなと思っています。
ほっこりするヒューマンドラマが好きなので、まずはそういうものを考えてみたいですね。
アンチブルーとは真逆の作品になりそうですね。
そうですね。もちろんそういった暗い話も好きです。湊かなえさんのようなイヤミスも好きなので、そういう暗い作品も書いてみたいですね。
人間のリアルな部分を書くという意味では、先生の作品もすごいですよね。
本当ですか……! ありがとうございます。そういう人間の嫌な部分を書くのも好きなので、うれしいです。
chapter 03 特定の作品について

『きみが明日、この世界から消える前に』『きみが明日、この世界から消えた後に』について

此見えこ(スターツ出版文庫)

此見えこ(スターツ出版文庫)

今作、『きみが明日、この世界から消える前に』と『きみが明日、この世界から消えた後に』は、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか。
ストーカーヒロインを書きたいと思い立ったところから始まりました。
当時、投稿サイトで読まれる作品って、冒頭にインパクトがあって、序盤からどんどん展開していくものが多いな、というのをなんとなくつかんでいて。やっぱりたくさんの人に読んでほしいという気持ちもあったので、いきなりストーカーヒロインが接触してくる冒頭っていいかも、と思って書きはじめたんです。
そういう意味ではけっこう、投稿サイトでウケる話を意識して書いた作品でしたね。
その後、エブリスタで開催されていたスターツ出版文庫大賞で受賞して、書籍化していただくことになりました。

執筆中に特に苦労したこと、工夫したことはありますか。
この作品は、投稿サイトで連載していたころにかなり読んでいただけて、読者さんも多く、感想欄もすごくにぎわっていたんです。今まででいちばん感想をいただけた作品だったと思います。
ただ、人が増えるといろんな感想を持たれる方も増えてきて……特に七海に対して“ざまぁ展開”を求める声がすごく多かったんです。
七海が“痛い目を見る展開を期待される”みたいなことですね。
そうです。「いつそういう展開が来るのか楽しみにしています」みたいな感想が多くて。アンチというわけではなく、純粋に「こうなってほしい」と、別の展開を期待する読者さんが増えてしまったんですよね。
それまでは感想をいただくのが本当にうれしくて、絶対に返信していたんですけど、この作品のときはちょっとしんどく感じるものもあって、返信ができなくなった時期がありました。

この作品で挑戦されたことを教えてください。
性格が悪い主人公を書いたことです。
それまでにも嫌なキャラクターや、主人公でもひねくれていたり、病んでいたりはこれまでも書いてきたのですが、この作品のような性格が悪い主人公は初めてでした。
読者の方からは“モラハラ系主人公”と言われることが多かったですね。
感想を見ていても、主人公への評価は本当に真っ二つでした。「受け付けられない」「めっちゃ嫌い」という声の一方で、「嫌いになれない」とか「共感できる」と言ってくださる方もいて。そういう、読む人によってかなり印象が分かれるような、嫌な性格の主人公にしたのは挑戦だったのかなと思います。

読者に「ここを読んでほしい!」というポイントや、好きなキャラクター、印象に残っているエピソードを教えてください。
私が好きなキャラクターは季帆です。
それまで、書きながら泣くことってほとんどなかったのですが、『きみが明日、この世界から消える前に』の第五章、崖の上で季帆と土屋が話すシーンは、書いていてちょっとだけウルッときました。特に、過去の話をするあたりの季帆の台詞を書いているときですね。
あの場面、すごくいいですよね。少し言いすぎてしまう感じも含めてすごくリアルで、だからこそグッときました。
ありがとうございます。実は、もともとはもっと過激な台詞が多かったんです。これでもかなり削られていて。
「さすがにこれはスターツでは無理なので削ってください」と言われた台詞も結構ありましたね。

この作品を通して、作家活動にどんな変化がありましたか。
いちばん大きいのは、やっぱりデビューしたことですね。投稿サイトで書いていたころから、この作品で飛躍的に読者が増えて、感想も今までとは比べものにならないくらいたくさんいただけるようになったので、少し自信が持てるようになりました。
「自分の面白いを信じて書いていいのかも」と思えるようになったのが、この作品だったと思います。
あと、言い忘れていたんですが実はこの作品、投稿時は七海サイドも含めて、もともとひとつの作品だったんです。
え、そうなんですか!
そうなんです。もともとはひとつの作品でした。ただ、書籍化にあたって七海sideはいったんなしになったんです。
ですが、ありがたいことにデビュー作をたくさんの方に手に取っていただけて、何度か重版もしていただけたことで、「七海のスピンオフを書きませんか」というお話をいただけたんです。
一作目の書籍化作業中から、編集さんが「七海もキャラが濃いから、七海が主人公でも一作書けそうですよね」とちらっとおっしゃってくださっていたのですが、まさか本当に実現するとは思いませんでした。
もともと一冊だったとはいえ、書籍としてスピンオフを書くのは初めてだったので、出すときは「蛇足にならないかな」とか、「これ、ないほうがよかったって言われないかな」という不安もありました。
その不安を感じさせない、すごい作品でした……。
二冊読んだら、七海のざまぁ展開を期待していた人たちも納得すると思います。現に自分がそうでした……。いろんな視点から見てみないとわからないことがあるなと思いましたし、一面だけ見て判断してしまうところが自分にもあると気づかされたと言いますか……。
いつか一冊として出る日が来るのを待っています。
そうなったらうれしいですね! ちなみにこのシリーズは三作目も出ることが決まりました。次の主人公は七海の彼氏になった卓です。
楽しみにしています!

序盤は、主人公がずっと好きだった子に彼氏ができてしまうというショッキングな展開から始まり、さらに突然現れた女の子に「なら私と付き合いませんか」と言われます。この衝撃的な始まり方にしようと思ったのは、どのタイミングだったのでしょうか。
それまでずっと陰から見つめ続けていたストーカーヒロインが、ある日突然主人公に接触してくるという展開のためには、何か強いきっかけが必要だなと思ったんです。
それで「どういうときに、この子がとっさに動くんだろう」と考えて、「主人公を救うためかな」と思いついたんです。
最初は別の展開もいろいろ考えたのですが、次の流れにつなげることまで考えると、この形がいちばんしっくりきました。
投稿サイトで読まれる作品って、冒頭にインパクトがあって、序盤からどんどん展開していくものが多いな、という感覚もあったので、かなり思いきって、この始まり方にしました。
たしかに、「奪いますよ」だと少し弱いというか、その子らしさが薄れる気がします。焦りや衝動の中で「じゃあ寝取りますか」と言うほうが、その場の感情がよく出ていますよね。
そうなんです。私も、あの言葉だからこそこの子らしいと思っていて。
実際、「寝取るって単語、大丈夫ですか」という指摘もあったんですけど、そこは編集さんが「この作品に関しては、いいと思います」と押し通してくださって。そのおかげで、あの言葉のまま残すことができました。

序盤の怒涛の展開によって、主人公の持つ汚い独占欲のようなものから意識がそらされているのがすごいと感じました。これは意識されていたのでしょうか。
主人公の印象を途中でガラッと変えられたらおもしろそうだな、というのは意識していました。
あと、最初から主人公があからさまにクズだと、投稿サイトではそこで「この主人公は無理だな」と思われて、読まれなくなってしまう気がしたんです。なので、最初はクズさを隠して、ちょっとかわいそうな感じで同情してもらいながら、読み進めてもらえる形にしたいなと思っていました。
嫌な部分であると同時に、ヒロインを救った理由でもあるんですよね。だからこそ、「こいつモラハラだよな」という一面だけでは切りきれない作りになっていて。そこがすごく好きでした。
ありがとうございます。そこに気づいてくださってありがとうございます。まさにそう思ってほしいなと思って書いたので、うれしいです!

序盤では「付き合いましょうか」と言ってきた季帆が、途中では「仕返しです」と言ったり、「別に好きなわけではない」と言ったりと、行動の真意が読めないところが、この作品の魅力の一つだと思います。どのようにキャラクターを作られていったのでしょうか。
季帆は、もともと土屋を救いたいという気持ちだけで動いているキャラクターなんです。なので私の中では、最初から最後まで行動原理は一貫していて、そのときそのときで嘘もついていません。
最初は失恋して落ち込んでいる土屋を見て、「代わりに私と付き合いましょう」と言ってみたけれど、土屋が七海を諦めていないとわかれば、その恋を叶える方向に動こうとした、というだけで。季帆としては、ただ“土屋に元気になってほしい”という気持ちで行動しているんです。
ただ、もちろん真意を知らない読者からは、不思議な行動をする子に見えたみたいで。嘘をつかない、まっすぐな子を突き詰めた結果、たまたまミステリーっぽく見えたのかなと思います。
一度、季帆が「好きじゃない」と言い切ったことでより謎が増したような気がします。読んでいる側としては、「いや好きって言えよ」と思いつつも、本当に好きじゃない可能性もあるし、主人公側に何かあるのかもしれないと、どんどん深読みしてしまって。結果的に、読み込もうとするほど騙される構造になっているのがすごく面白かったです。
そうですね。本当に、深読みしてくださる読者の方にはありがたいなと思いました。私自身はそこまでミステリーとして書いたつもりはなかったので、深読みして下さる読者の方のおかげです。

今作は4人の語り手が登場します。語り手が多くなると一人ひとりが薄くなってしまいがちですが、先生の作品はむしろそれぞれのキャラクターが立体的に見えてくるのが魅力だと感じました。意識されていることはありますか。
どのキャラクターにも良い面と悪い面を持たせる、ということは大事にしています。
人間って、根っからの良い人、悪い人、とはっきり分けられるものではないと思うので。あまり“悪役”という存在も作りたくなくて、それぞれがそれぞれの事情で一生懸命やっているだけなんですよね。ただ、その結果が噛み合わなくて、こじれてしまう、という関係性が好きなんです。
たしかに先生の作品は、嫌なことをするキャラクターが出てきても、完全に嫌いになりきれないというか、どこか納得してしまうリアルさがありますよね。
そう言っていただけるとうれしいです。
それぞれが一冊書けそうなくらい濃いキャラクターなのに、それをこのボリュームに収めていて、それでいて雑な印象もなく、むしろ感情の純度がすごく高いのが印象的でした。短い中でそれを出すうえで、削るときに意識されていることなどはありますか。
これ、本当に特別に意識していることがなくて……。感覚で書いている部分が大きいんです。
この純度を……感覚で!? すごいですね……。
そう言うとなんか天才みたいな感じになっちゃいますが、全然そんなことはなくて!
私自身、すごく考えてプロットを練って書くタイプではなくて、ある程度決めたら書き始めてしまうところがあるんです。
そのなかで自然と決まっていったことが多くて、技術ではあると思うんですけど、どういった技術なのかわからないと言いますか……自分の中では“馴染んでいる”という感覚に近いというか、自然にすっと出てくる感じですね。
多分ですが、小さいころから本を読んだり書いたりしてきたことが大きいのかなと思います。
『完璧な彼女が死にました』について

此見えこ(スターツ出版文庫 アンチブルー)

企画や制作の経緯を教えてください。
最初の構想は、好きな子が死んでしまって、そこから主人公が立ち直っていく、というすごくシンプルなお話でした。
もともとはアンチブルーではなく、普通にスターツのキラキラ青春ものとして書きたいと思ってプロットを作って提出したんです。そしたら、ちょうどその頃に編集部の中でアンチブルーの企画が進んでいたらしくて、編集さんから「これはキラキラ青春より、アンチブルーで描いたほうが合うんじゃないか」と言っていただいて。
そこから、最初はキラキラ青春ものとして考えていたものを、アンチブルーの方向に変えていった感じです。

この作品で挑戦されたことはありますか。
「これ、本当に書いていいのかな」と迷ってしまうようなことも、思いきって書けたことだと思います。
特に「死んでよかった」という言葉にはかなり迷いました。紗子が死を選ぶ理由についても、最初の構想では今とは違っていたんです。ですが、編集さんから「書くからには、とことん尖らせましょう」と言っていただいて、あえて“顔”一本に絞った、今の形になりました。
ルッキズムが問題になっている今の時代に、こういうことを書くのはやっぱり怖さもありました。でも、書くうえでは、どうしたら嫌な感じだけで終わらず、ちゃんと作品として伝わるか、ということはかなり考えていましたし、工夫した部分でもあります。
結果として、「こういうことも書いていいんだな」と思える作品になりましたね。

これまで違う作風を書かれてみていかがでしたか。
これまでの作品では、とにかく“何があっても生きていてほしい”“生きることだけは投げ出さないでほしい”というメッセージを込めて書いてきました。
今回はそれとは真逆の“あなたが何を選択しても否定しない”ということを書いたんです。
でも、本当の本当にしんどいときって、前向きなメッセージが受け付けられないこともあると思うんですよね。だから今回は、そういう人に寄り添えるような作品になればいいなと思って書きました。

読者に「ここを読んでほしい!」というポイントや、好きなキャラクター、印象に残っているエピソードを教えてください。
好きなキャラクターは紗子ですね。実は私としてはかなり共感できるキャラクターなんですよ。
私も高校生のころ、見た目にかなり固執していましたし、「この子に嫌われたら生きていけないな」と思うような親友もいたので、自分の顔に絶対の自信がある子がそういう病気になって死を選ぶ、という展開も、私の中ではすごくしっくりきていました。
中学、高校の時代って、何か一つに固執していないと、その時代を過ごせないようなところがある気がしていて。なので、私は紗子のことをかなり理解できるんですけど、読者の方の反応を見ていると、共感できないという声のほうが多くて、そこは少し悲しくもありました。土屋と同じように、紗子に対する反応も真っ二つでしたね。
読んでほしいのは、第四章の紗子視点の部分です。もともとは日記形式で書いていたのですが、校了直前に今の形に書き直したんです。時間もない中で、勢いに任せて一日でぐわーっと書いたんですけど、そのときは本当に筆が乗っていて、ここ数年でいちばん書けている感覚がありました。紗子の気持ちがすごくわかる、と思いながら書けた部分だったので、個人的にはかなり自信があったんです。
この章の必死さや焦り、しんどさがすごく強度を持って伝わってくるのは、そういう経緯があったからなんですね……!

この作品を通して、作家活動にどんな変化がありましたか。
今までのキラキラ青春ものでは書けなかったようなことを書けて、「こういうものも書いていいんだな」と思えるようになりました。
中高生向けの青春小説は、こういうものを書かなければいけない、という思い込みが自分の中にかなり強くあったのですが、この作品を書いたことで、そういうガチガチの感覚が少し取り払われた気がします。
意外と、もっと自由に、いろいろなものを書いていいんだなと思えたんです。

『完璧な彼女が死にました』はこれまで描かれてきた恋愛小説から一歩踏み出した、ある種の性癖のような部分に踏み込んでいますが、書く上で大変だったことはありますか? また、なぜそのスタイルを選ばれたのでしょうか?
アンチブルーは登場人物に秘密を持たせたい、という方針があると聞いていたので、どうせなら強烈な秘密を持たせたいと思って、全員に特殊な癖を持たせることにしました。
大変だったのは、その生々しさとのバランスです。いちばん多い読者層は中高生の女の子かなと思っていたので、生々しすぎて引かれないようにしつつ、でもちゃんと伝わるように書きたくて。その加減はかなり意識しましたね。

今作では、自分がいちばん信じていたもの、ある意味ではすがっていたものを失ったときに、死を選んだ紗子と、共通の痛みを抱えながら生きていく侑と小春という、二つの道が描かれています。
こちらはあえての対比として描かれたのでしょうか。
これ、全然意識してなかったんです。いっちーさんの取材用の質問リストでこの質問を読んで、「あ、本当だ、対になってる」って思いました。
え! そうなんですか。狭い浴槽でひとり死を選んだ紗子と、広い海を前にして二人で生きていく侑と小春、というところはきれいな対になので、絶対に意識されているかと思っていました……。
これも、言われて初めて気づきました。読んでくださる方でそこまで見てくださっている感想は初めてで、すごくありがたかったです。
『私を選べばよかったのに』について

此見えこ(スターツ出版文庫 アンチブルー)

『私を選べばよかったのに』は“選ぶ体験”ということが帯でも打ち出されていますが、すべてのルートを読んだうえで最後の話を読むと、しっかりつながりを感じる構成になっていますよね。これは意識されていたのでしょうか。
はい、これは意識していました。もともとこの作品は選択式ではなく、白柳ルート、みなルート、粟生野ルートの順番で読んでもらう、ふつうの長編小説として書いていたんです。
なので最後の粟生野ルートは、他のふたつのルートを踏まえたうえでの“正解ルート”として書いていました。二回間違えた末に、ようやく正解にたどり着く、という構成のつもりだったので、つながりはかなり意識していました。
“選ぶ体験”と打ち出されつつ、実は全部読んだほうがよりおもしろい、というのがすごくいいなと思いました。
そうなんですよね。個人的には、最初から順番に読んでもらいたい作品でした。いきなり粟生野ルートから読むと、あまりよくわからないんじゃないかな、という心配もあったんです。
実際に、粟生野ルートから読んだという方もけっこう多くて。わ、大丈夫かな、と思っていたんですけど、それでも楽しめましたと言っていただけたので、よかったです。

今作の主人公は、ほかの作品と比べるとあまり前に出てこない印象があります。これはあえてなのでしょうか。ほかの3人の女の子を立たせるためなのか、あるいは読者が自分を投影しやすいように意識されたのでしょうか。
これは、単純に力量不足です。はじめて書いたお話だったので、主人公のキャラクターをうまく立たせられなかったんです。
作中ではかなりモテる主人公なので、できるだけ汚い部分は排除して、とにかくきれいで優しいキャラクターにしようと意識して書いていたのですが、その結果、ちょっと薄味になってしまった感じがあります。
でも、そのときの反省は次の作品にもつながっていて。次作以降は、主人公に何かしらひねくれた部分やコンプレックスを持たせるようになりました。きれいすぎる主人公って、私には難易度が高いんだなって、この作品でわかった気がします。
それがデビュー作『きみが明日、この世界から消える前に』の土屋につながるわけですね……!

どちらの作品も、読み終えたあとにどこか光を感じるような終わり方になっているのが印象的です。こちらも意識されていたのでしょうか。
『完璧な彼女が死にました』は始まりがどん底なので、そこから少しずつ光を見つけていくお話にしたいと思って書いていました。
『私を選べばよかったのに』も、同様で、最初のふたつのルートがバッドエンドなので、最後のルートではきちんと救いを持たせたいと思っていました。
あとは私自身、ハッピーエンドが好きというのもあります。長いお話を読み終えたあとに、何の希望も残らない、というのはしんどいなと思うので。
先生の作品全体に共通している質問について

キャラクター同士が必ず対話することや、隠し事をしてもどこかで暴かれたり、自ら語る展開が多い点に、先生ならではのこだわりを感じました。これは意識されていることなのでしょうか。
たしかにそうかもしれません。言われて気づきました。
人との関わりを通して成長していく主人公を書くことが多いので、必然的に対話が増えているのかなと思います。スターツでは主人公が成長する物語が求められることが多いので、どうすれば成長させられるかと考えたときに、人との関わりが大事だなと感じて。
あと、秘密が暴かれるという展開も、主人公が殻を破るきっかけとしてよく使っている気がします。
成長するうえで衝突は避けられない、ということですね。対話がその一つの方法になっているのが印象的でした。

先生は恋愛ものを描かれることが多いと思います。いつの時代の、どんな人にも届くように意識されていることはありますか。また、ご自身の学生時代と今の子たちとで、違うところ、逆に同じだなと感じるところはどんな部分ですか。
いつの時代も、人を好きになる気持ちそのものはそんなに変わらないと思っているので、そこについてはあまり特別に意識していることはないかもしれません。
ただ、昔と今とで違うなと感じるのは、やっぱりSNSの存在ですね。今の子たちは、もう当たり前のようにSNSが身近にあって、自分より圧倒的に上の存在みたいな人たちを日常的に見ているので、自分の立ち位置をすごく早い段階で悟ってしまうというか、“自分はあっち側の子とは違う”って、わきまえているような感じがあるなと思います。
昔のほうが、もっと根拠のない自信を持っていられた気がするんですよね。だから今の10代を書くときは、自分は一軍側にはなれないと思っている子だったり、そういう劣等感を抱えている子を書くことが多いかもしれません。そこは、今の感覚に合わせて書いている部分だと思います。
自分の経験と照らし合わせたときに、今の子たちを書くのが難しいと感じることもあると思うのですが、そういうときはどうされていますか。
調べたりもしますし、わからないところは想像で書いています。SNSを見たり、ネットニュースを読んだりして、「今の子ってこういうことで悩むんだな」というのは一応探すようにしています。
chapter 04 メッセージ


此見えこさんにとって「本」とは。
ずっとそばにあったもので、これからもそばにあってほしいものです。
落ち込んだときに寄り添ってくれたり、思いがけない考え方を教えてくれたりするものなので、これからもずっとそばにあって、一緒に生きていきたいなと思います。

最後に、これからの“本の挑戦者”へメッセージをお願いします。
月並みな言葉にはなってしまうのですが、とにかく書き続けてほしいなと思います。
これは自分自身にもずっと言い聞かせていることなんですけど、書き続けたものは最後には報われると信じているので。自分の面白いを信じて、書き続けてほしいです。
chapter 05インフォメーション

書籍情報




『きみが明日、この世界から消える前に』
ISBN 978-4-8137-0959-6
『きみが明日、この世界から消えた後に ~Nanami’s Story~』
ISBN 978-4-8137-1410-1
『完璧な彼女が死にました』
ISBN 978-4-8137-1737-9
『私を選べばよかったのに』
ISBN 978-4-8137-1837-6
初恋♡生活でも販売中!

新刊情報
『きみが明日、この世界から消える前に3(仮)【スターツ出版文庫】』
2026年5月28日発売予定!
此見えこ先生のSNS
X:@ekokonomi
此見えこのプロフカード:https://profcard.info/u/cFHGdHF4B1doNYepm1I24t7tlqC2
此見えこ先生の作品ページ
ノベマ:https://novema.jp/member/n1122756/book
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