『成人式の二次会はデスゲームです』作者、くじら先生にインタビュー!

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「本」の挑戦者たち
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『成人式の二次会はデスゲームです』作者、くじら先生にインタビュー!

イントロダクション

HAPPY! “本”と“ことば”がなにより大好き、いっちーです!

今回取材させていただいたのは“くじら”先生!

ショッキングなスタートや魅力的なキャラクターを描かれた『世界の色をすべて君に』
初めてデスゲームものを書かれたとは思えないクオリティの『成人式の二次会はデスゲームです』
どちらも面白くて、これは話を聞きたいと思って、すぐに取材依頼をしました!

それじゃ~いってみよー!

chapter01 本を読むことについて

どんな幼少期を過ごされていましたか。

小さいころは外で遊んだり、習い事と、忙しく過ごしていました。

どんな習い事をしてきたのでしょう。

茶道、書道、水泳、学研、などなど塾にも行っていました。
中でもあるスポーツは小学二年生から高校三年生までクラブチームや部活で。大学三年生ぐらいまではサークルでも続けていました。

小学生から大学生まで!? そうやってスポーツに打ち込んでいた先生が、小説と出会ったのはいつだったのでしょう。

小説にちゃんと触れ始めたのは中学生からです。
そのとき、私はキャプテンをやっていたんですが、いろいろあってしんどくなってしまったんです。そんなときに小説に出会いました。

実際に小説を書くようになったのも、そのころだったのでしょうか。

そうですね。小学六年生の終わりから中学一年生ぐらいにかけて、自分が嫌だと思う気持ちを文章にはしていました。でも、完結したことがなかったですし、内容もぐちゃぐちゃでした。

それが、中学二年生のときに出会った本がきっかけで、「ちゃんと小説を書きたい」と思って、本格的に目指すようになりました。
佐野徹夜先生の『この世界にiをこめて』という本です。
この作品だけではなく、佐野徹夜先生の本には、だいたい影響を受けていると思います。

『この世界にiをこめて』
著:佐野徹夜(メディアワークス文庫)

あらすじ

生きづらさを抱え、退屈な高校生活を送る僕に、ある日届いた1通のメール。“現実に期待なんかしてるから駄目なんだよ”でも、それは届くはずのないメール。送り主は吉野紫苑。彼女は、屈折した僕の唯一の女友達で、半年前に死んでしまった天才小説家だった。あり得ないはずのメールのやりとりから、僕は失った時間を取り戻していく。やがて、遺された吉野の最後の言葉に辿りついた時、そこには衝撃の結末が待っていた―。

(Amazon.co.jpから引用)

どういった部分が影響を受けていると感じますか。

佐野徹夜先生の人柄に惹かれたのが大きいです。
あらすじやあとがきなどを通して、波のある人生を送られる中でも小説を書き続けてこられたことを知って、その背景にすごく心を動かされました。

作品も、綺麗事ではない人間模様というか、嫌な部分も含めた“人間らしさ”が描かれているところがすごく好きで。
“リンクする”とまでは言えないんですけど、私自身も平穏な学生時代ではなかったので、どこか自分と重なるような感覚があったり、昔からちょっとひねくれていて、あまり綺麗事が好きなタイプではなかったので、少し世の中を斜めから見るような視点や、そういう作風がすごく刺さりました。

お話をうかがっていると、好きな作風と、スターツ出版文庫で出された作品との世界観が少し違うようにも感じられます。

私がスターツ出版文庫さんから出したいと思った理由には、また別の作家さんの存在があるんです。

冬野夜空先生という、スターツ出版で書かれている方で、ずっと大好きで読んでいました。
私がノベマ!に小説を投稿するようになったきっかけも、冬野先生がWeb小説を書かれていたからなんです。

「こんな世界があるんだ」って初めて知って、自分でも投稿してみたいと思うようになったので、佐野徹夜先生と冬野夜空先生のお二人に強く影響を受けていると思います。

幼少期から学生時代までの体験が、今の創作に活きていると感じることはありますか?

とても強く感じますね。なんだったら私は、中学生の頃のつらかった体験がなければ、小説そのものを書いていなかったかもしれないとすら思っているんです。

私は“マイノリティであること”を、自分の中ですごく大きなテーマとして持っています。それを自覚したのが、中学生の頃でした。
中学生の頃は思春期ということもあり、今以上に承認欲求も強かったと思うので、自分のつらい気持ちを「どうしたら伝わるんだろう」「どうしたらわかってもらえるんだろう」と、ずっと模索していましたし、うまくいかなくて人とぶつかったりして、自分もたくさん傷ついてきました。

そんな中で佐野徹夜先生の本に出会って、自分の気持ちを代弁してもらえたように感じたんです。
当時は本当に死にたいくらいつらかったんですけど、本を読んで「明日、もう少しだけ頑張ってみようかな」と思えたんですよね。

このことがきっかけで、マイノリティであることや人間関係に悩んだとしても、読んだあとに「明日、もう少し頑張ってみようかな」と思えるような作品を書きたいと思えました。その気持ちは、今の創作にすごく影響していると思います。

最近読んだオススメの作品を教えてください。

最近読んだ作品でいうと、凪良ゆう先生の『汝、星のごとく』と、微炭酸先生の『勝手に覗いて幻滅すんなよ』がすごく刺さりました。

『汝、星のごとく』
著:凪良ゆう(講談社)

あらすじ
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

(Amazon.co.jpから引用)

『汝、星のごとく』は、読んでいて「ちょっと一旦待って」と本を閉じ、心を落ち着ける時間があるくらい、自分の心情というか、自分の中のブラックな部分にリンクするところがあった作品です。

登場人物たちの“必死に生きている感じ”や“葛藤しながら明日を生きようとしている感じ”が、すごく伝わってくる文章で……! 文章だけでここまで描けるのって本当にすごいなと思って、強く心を動かされました。

『勝手に覗いて幻滅すんなよ』
著:微炭酸(スターツ出版文庫 アンチブルー)

あらすじ

ある美術部の5人のスマホの中身が突然入れ替わった。成績優秀で優等生の胡桃、誰からも好かれている燿、皆に優しい凪、個性的な織音、頼りがいのある龍之介、そんな普通な美術部だったのに……。カメラロールやトーク履歴、スマホに眠る「誰にも見られたくない」本当の自分。スマホの入れ替わりであらわになった全てがさらけ出されたとき、5人の関係性が大きく変わることになる――。知りたくなかった部員の本当の姿と、知られたくなかった本当の自分。それでもあなたは、大切な人のスマホを覗く勇気はありますか?

(Amazon.co.jpから引用)

『勝手に覗いて幻滅すんなよ』は、物語そのものはもちろんなんですけど、作家的な目線でもすごく興奮した作品でした。

スターツ出版文庫の“読むだけじゃない読書体験”として出されてる作品なんですけど、最初にQRコードが出てきたときに、「なんて面白い本なんだ」と思いましたし、小説の中での新しい挑戦というか、現代だからこそ成立する仕掛けだなと感じました。裏アカウントや二面性といった要素も含めて、今だからこそ書ける小説だと思います。

QRコードの仕掛けだけでなく、物語自体がものすごく面白いからこそ、その仕掛けがより引き立っている感じがして。読者としてもすごく刺さりましたし、作家としても「これ、私が書きたかったな」って思うような、嫉妬に近い興奮と、両方ありましたね。

本以外にはどんなものが好きですか。

『なつめさんち』っていうYouTuberさんがすごく好きです。

なつめさんち YouTubeチャンネル

夫婦で活動されている絵描きのお二人なんですけど、その発想力が本当にすごくて!

たとえば、シマウマの“シマ”をぎゅっと集めて『しまギュま』っていうキャラクターや、サンドされるのを拒否している『サンド拒否ッチ』っていうキャラクターなど、「どうやって思いつくんだろう」って思うような斜めの発想が多くて。なかなか自分には出てこない発想たちにいつも驚かされています。こんな発想力があったら、自分の小説でももっと突拍子のない設定や、振り切ったキャラクターが描けるのかなって思ってしまうんですよね。

あと、お二人ともずっとクリエイティブを続けているところもすごいなと思っています。実際に自分が創作を続けてみると、それがどれだけ大変かもわかるので、そういう意味でも尊敬しています。

なつめさんちさんの作品
左『しまギュま』右『サンド拒否ッチ』

なつめさんちのお二人からは、どんな影響を受けていると感じますか?

配信や企画の中で、お題に沿って絵を描いたり、漫画を描いたりされているのを拝見していると、その発想力の高さにいつも驚かされるんですけど、同時に「自分ももっと視野を広くしないといけないな」と気づかされることが多いんですよね。

お二人にはそれぞれ得意分野がありますが、そこに留まらず、さらに幅を広げようとしていて。すでに人気もあって確立されているのに、それでも上を目指している。その向上心にすごく影響を受けています。

実際に自分の小説を読み返したときに、「ここ、ちょっといつもの自分すぎるな」と思って変えてみようとすることもあって、そういう意味でも大きな影響を受けていると思います。

ほかに好きで触れているものがあれば教えてください。

音楽を聴いたり、YouTubeやTikTokを見たりするのも好きです。最近はVtuberにすごくハマっていて、ずっと見ています。

私、結構二次元的なものが好きで、そういうもので心を浄化してもらっている感覚があります。
もともとストレスを溜めやすいタイプなので、推しを見たり、音楽を聴いたりして、意識的に癒しの時間を取るようにしています。しなきゃいけないこと以外の時間は、けっこう癒しに使っています。

音楽はどんなものをよく聴かれていますか?

「神はサイコロを振らない」というバンドがすごく好きで、ずっと聴いています。配信サービスの再生ランキングでも、3年くらいずっと1位が「神はサイコロを振らない」ですし、ライブにもよく行っています。

神はサイコロを振らない
(HP)https://kamisai.jp/

くじら先生のお気に入りの曲「シルバーソルト」

chapter02 作品を書くことについて

ペンネームの由来について教えてください。

もともと、くらげやくじらみたいな“儚い”と言われる生き物が好きなんですが、そのなかでもくじらにした理由は二つあります。

一つは、すごく大きくて存在感があるのに、肉食というよりは、ただ海を泳いでいるような穏やかさや寛大さがあるところです。

もう一つは、“52Hzのくじら”の話がすごく印象に残っているからです。私はどこかで「自分の声に気づいてほしい」という気持ちを持っていて。でも、52Hzのくじらは自分の声が周りに届かないと言われている存在で。

確かにそこに存在しているのに、どこか孤独で、少し寂しさを感じさせる。そのイメージがすごく好きで、“くじら”という名前にしました。

最初に書き上げた作品について教えてください。

最初にきちんとプロットを書いて、最後まで完結させた作品は、『世界の色をすべて君に』です。もともとは『なに色? 教えてよ』という題名で、コンテストに出す前にタイトルを変えました。

最初に形になった物語でデビュー⁉ すごいですね。

作品を書くうえで、どんなことを大切にされていますか。

作品を書くときに大切にしているのは、
“読んだ人が心理的あるいは道徳的に何かしらの学びを得られるかどうか”
“マジョリティだけではなく、マイノリティの声にもきちんと配慮できていて、ちゃんとすくい上げられているか”
の二つです。

誰も置き去りにしない、とまでは簡単には言えないかもしれませんが、なるべく多くの人の背中を押せるような作品にしたいという思いは、自分の中でいつも大事にしています。

執筆時のルーティンやこだわりを教えてください。

執筆環境という意味では、私は外で書くタイプですね。作業カフェや無人カフェによく行っています。部屋だとすぐに煮詰まって、ベッドに倒れ込んじゃうんですけど、外だと周りにも作業している人がいるので、「自分もやらなきゃ」という気持ちになれるんですよね。

あとは、静かすぎる場所だと、自分の打つキーボードの音が周りの迷惑になっていないか気になってしまって、書けないんです。だから、ある程度の雑音があるカフェは集中できます。
ただ、人の会話がはっきり聞こえてしまうと、そっちに意識がいってしまうので……。雑音はほしいけど、聞こえすぎないくらいの環境が、私にはちょうどいいですね。

カフェということは、日中に執筆することが多いのでしょうか。

そうですね。ただ、締め切りが近かったり、なかなか進んでいないときは、夜中の11時から2時くらいに、ばーっと一気に書くこともありますよ。

ほかにルーティンといえば、無糖のカフェラテを必ず近くに置いていますし、煮詰まったときは音楽を聴くことも多いです。歌詞ありでもなしでもいいんですけど、自分の書きたい作風となんとなく合う曲を流すようにしています。

自分の作品の主題歌を決めるような感覚ですか?

そうですね。それもしますし、アニメやドラマになったら、誰が役を演じてくれるんだろうって考えたりもします。

ちなみにどんな方々をイメージされているのでしょう。

おこがましいのは重々承知の上ですが……!
『世界の色をすべて君に』では主人公の梨久の声優は内山昂輝さん、実写版でヒロインをやってもらう方は広瀬すずさんか、森七菜などを考えていました。

デビューまでにどのような努力をされてきましたか。

私は文章を専門の学校やスクールでちゃんと学んでいたというわけではなくて、独学で書いていたので、いろんな人に読んでもらって意見をもらうようにしていました。
Xのハッシュタグで「リポストしてくれたら読みます」という方の投稿をリポストして、とにかく多くの方に読んでいただき、感想をもらうということを続けていたんです。

最初は「恥ずかしい」とか「あまり読んでほしくない」という気持ちもあったんですけど、それを一度全部取っ払って、とにかく「読んでください」「お願いします」と伝えて、自分も相手の作品を読んで感想を伝える、ということを続けてきたのは、今思えば努力の一つだったのかなと思います。

実際、どんな感想があったのでしょう。

「文章作法がぐちゃぐちゃで読めない」とか、「行間が詰まりすぎていて読む気にならない」とか、「ありきたりで面白くない」といった厳しい意見をいただきました。

でも、それがなかったら“文章作法”という言葉すら知らなかったと思いますし、ウェブ小説は行間を空けたほうが読みやすい、ということにも気づけなかったと思います。

それに、「文章作法ってなんだろう」と調べたり、「この人はどう書いているんだろう」と他の方の作品を読むきっかけにもなったので、すごく勉強になりましたね。

さまざまな意見をもらう中で、「これは違うな」と感じるものもあったと思うのですが、そういった感想もいったん受け止めるようにしていたのでしょうか。

そうですね。自分としては「こう感じ取ってほしい」と思って意図的に書いた部分でも、「ここは面白くない」「王道の展開のほうがよかったのに」と言われることもありました。

そのときに、「自分はこういう意味で書いたんだ!」とも思うんですけど、「それが伝わっていないなら意味ないよな」とも同時に思っていたので。「じゃあ、どうしたら伝わったんだろう」と考えるようになりました。

もちろん、全部をそのまま受け入れるわけではなくて、「これは自分のやり方だ」と残すこともありますし、受け止めるだけのこともあるんですけど、「伝わっていない」という点については、きちんと向き合うようにしていました。

厳しい感想から活路を見出し、自分に合う合わない意見を吟味する……なかなかできることではないです。

ありがとうございます。当時は自分にあまり自信がなかったというのが大きいと思います。自信がないからこそとにかく“勉強、勉強”“吸収、吸収”という感じでしたね。

あとは私が部活をやっていたことも影響していると思います。
中学生の当時、先生や先輩からあまり技術的なアドバイスをもらえなかったんです。なので自分で上手い人のプレーを見て、それを自分に落とし込む、ということを自然とやるようになっていました。
“教えてもらえないなら、自分で見て吸収するしかない”という考え方は、そこで身についていたのかなと思います。

完成した本を初めて手に取ったときは、どんなお気持ちでしたか。

私が最初に完成した本を持ったのは家に送られてきた見本誌でした。自分の本を手にするのはそれが初めてだったので、いつも本屋さんに並んでいる本がこんなふうに梱包されて自分の部屋に届く、ということにまず困惑のほうが大きくて。

そこから、いろんな方に「すごいね」と言っていただくうちに、「あ、私、書籍化したんだ」って、じわじわ実感が湧いてくる感じでしたね。

実際に書店にも行かれましたか。

もちろん行きました! 
『世界の色をすべて君に』のときは、やっぱり一冊目ということもあって「今まで読んでいたスターツの作家さんの本の隣に自分の本が並んでいる! ああ、すごい……」って感じました。
次の本屋さんに行って「ここにもある!」、また次の本屋さんに行って「ここにもある!」みたいな感じで、すごくうれしかったです。

実際にお客様が買われている場面を見たことはありますか。

誰かが手に取っているところを見たことはないんですけど、ちょっと減ってるのを見たことがあります。
「きっとここには8冊置いてあったんだろうけど、今は6冊だな」みたいなときに、誰か買ってくれたのかなって思って、うれしくなりましたね。

今後どんな作品を書いていきたいですか。

そうですね、やっぱりヒューマンドラマは極めたいなと思っています。

ヒューマンドラマは、どういったものを書いていきたいのでしょうか。
いわゆる救いのないような人間の側面まで踏み込むのか、それとも読者が救われるような物語として描いていくのでしょうか。

一度がっつり、湊かなえさんのような、救いのない話も書いてみたいなと思っています。
ただ、スターツで書かせていただいている以上は、そのカラーもきちんと残したい気持ちもあって。
なので、がっつり救われない話も書いてみたいですし、ドロドロしているけど、最後は少しだけ光が見えるというか、完全に曇りきらないような小説も書いていきたいなと思っています。

どんな作品も楽しみにしています!

ありがとうございます。あとは書くことではないですが、自分の作品が映画化することも夢です。
アニメでも実写映画でも、どんな形でもいいんですが、書籍化という夢を叶えることができた今、次の夢として、映画館で映像化した自分の作品を観られたら最高だなって思っています。

その際はぜひ、先ほど挙げられた声優さんや俳優さんが起用されていることを願います。

chapter03 作品について

『世界の色をすべて君に』

『世界の色をすべて君に』
著:くじら(スターツ出版)

あらすじ

学校にも、親にも、自分にさえもうんざりしていた高校生の梨久。彼が出会ったのは、眼が見えない少女・祈莉。「君さ、どうせ暇でしょ。ずっとそばにいて私の世界に色をつけて」いつも明るく前向きな祈莉に言われるがまま。梨久は見えている世界を言葉で伝え、同時に点字を教わった。そんな日々の中で、気づけば梨久は、祈莉に惹かれていた。しかし、彼女の眼の病は命をも脅かすもので…。「今、僕にできることは――」たった1年、でも永遠に忘れない1年。二人の絆、そしてラスト一行『⠄⠹⠛⠅⠃⠜⠀⠃⠝⠵⠐⠟⠾』に涙する。究極の純愛ストーリー!

この作品はどのようにして生まれたのでしょうか。

最初のアイディアとしてあったのは、“目に見える傷と目に見えない傷を対峙させたい”、ということでした。
自分の心の中にある傷が、もし目に見えるものだったらどうなるんだろう、というところから始まったんです。

目に見える傷を抱えた二人だからこその葛藤や世界観を描いてみたのは、自分自身が心に傷を抱えていると感じていたところがあったからで、そうしたものを可視化してみたい、という思いが、“障がい”というキーワードにつながっていったのかなと思います。

“片方の腕が欠けている”という設定を書くのは、勇気も必要だったのではないでしょうか。

そうですね。なのでたくさん勉強しました。
自分では体験したことのないことですし、周りにもそういう方はいなかったので、主に本や、実際にそういった方の動画を拝見して参考にさせていただきました。勉強していくうちに、なるべく失礼のないように、きれいごとになりすぎないようにということは、より強く意識するようになりましたね。

それでも書いているときは、これでいいのかなとかなり悩むこともありました。やっぱり現実ってきれいごとではないじゃないですか。腕がないけれど幸せでした、で終わる話ではないと思っていて。

そういう意味で、リアルさを追求した作品にしたことが、結果としてよかったのかなと、自分では思っています。

確かに、痛みの描写がとてもリアルで、読んでいて自分のことのように感じる瞬間がありました。
でも、そう感じたときに、いや、自分には腕があるし、一番大きなところでは重なれない、と思い直す瞬間もあって。そのあいだをずっと行き来するような感覚になる作品だったんです。

だからこそ、“これはけしからん”みたいな受け取られ方にはならないんだろうなと思いましたし、そのぎりぎりのところを成立させているのがすごかったです。

インタビューの中でヒューマンドラマを書きたいとおっしゃっていた先生ですが、恋愛作品という違うジャンルを書かれるのには大変だったこともあったのではないでしょうか。

そうですね。たしかに私はこれまで、恋愛をあまり書いてきませんでした。男女の話ではあっても、恋愛感情には発展しないような関係を書くことが多かったので。

二人がいろいろなことを話したり、ぶつかったりしていく中で、信頼や「この人と一緒にいたい」という気持ちが芽生えるというものはよく書いていましたが、そこに恋心の色まで乗せるのが、私にとっては結構難しかったです。

というのも、自分自身が恋愛に対して、そもそもあまり興味があるタイプではないんですよね。

恋愛に興味のない先生が、どうやって恋愛ものを書いたのかも気になります。

私自身は恋愛にあまり興味がないんですが、周りにはそういうことに関心のある子が多いんですよね。

私が心理学を学んでいることもあってか、「彼氏がさあ……」みたいな恋愛の悩みや愚痴を聞く機会が多くて、「聞いて聞いて」といろいろ話してもらうことがよくあるんです。そうやって、いろんな人に相談してもらえる環境にいたというのは、恋愛に興味がない自分が恋愛ものを書けた大きな理由の一つかもしれないですね。

くじら先生のカウンセリングコーナー、みたいな感じですね。

そうですね。プチお悩みカウンセリングコーナー、みたいな(笑)。心理学の勉強にもなりますし、ありがたかったです。

今作の執筆ではどんなところが挑戦でしたか。

やはり“自分の知らない世界を書くこと”ですね。

障がいを抱えている方のことを書く中で、点字はまったく知らない世界でしたし、自分は本当にありがたいことですが、目が見えて腕もあるぶん“見えない”“ない”ことで、どんなことが不自由になるのか、最初はなかなか想像がつかなかったんです。

なので実際に目をつぶって家の中を歩いてみたり、なるべく左手を使わないように生活してみたりして、自分で体験してみたことを小説に落とし込んだり、調べたりもしながら、なるべく現実とのずれがないように、小説の中だけの話にならないように、リアルさはかなり意識しました。

実際にそれらを文章で伝えるのも難しくて、どうすれば伝わるんだろうと考えながら、表現の中で工夫していった部分も含めて、かなり挑戦だったと思います。

今作で先生の好きなキャラやシーンを教えてください。

今作のキャラの中では、私は清水が一番好きですね。

自分も今作で一番好きなキャラです! 主人公とヒロインからすると、二人の恋路を邪魔する役ではあるんですけど、でも彼女が抱えていることが他人事とは思えなくて……妙に惹かれるし、嫌いになりきれないんですよね。

ありがとうございます。いっちーさんの言う通り、清水は主人公とヒロインの恋路を邪魔する役なので、ちょっと嫌なやつではあるんですよね。

でも、「自分にもこういう部分があるかもしれない」とか「身の回りにもこういう子っているよな」と思う方はいるんじゃないかなと思っていて。そういう、どこにでもいそうな女の子にする、ということは結構意識しました。

清水は、言葉尻や表情だけを見るとすごく冷たく見えるんですけど、ツンデレというよりは、自分の弱みを見せないように常に壁を張っている感じというか、その奥に孤独感みたいなものを抱えている子なんです。
なので、ただ場を荒らすめちゃくちゃな子、というよりは、彼女がどうしてその行動に至ってしまうのか、どうしてそんなことを言ってしまうのかまで考えながら読んでいただけると、清水がただ嫌な奴とはまた少し違って見えてくるのかなと思います。ぜひ着目して読んでみてください。

清水がいなかったら、主人公とヒロインの二人の世界になってしまいますよね。清水というキャラクターがいることで、読者もその世界に入り込みやすくなると思いますし、多くの読者にとっては感情移入の起点になっているというか。読者と主人公たちをつなぐ中継地点のような役割を果たしています。それでいて、清水自体の感情もリアルなのがまたいいんですよね……。

この作品を通して、作家活動にどんな変化がありましたか。

“私は小説家なんだ”と意識するようになって、自分の中で気持ちがカチッと引き締まったのが大きかったですね。
自分の書いたものを世に出させていただいたことで、ネガティブな感情のままではいけないな、というのをすごく感じるようになったんです。

「いや、私なんて全然……」と思うこともあるし、そう言いたくなることもあるんですけど、「私なんて」とか「私が小説家なんてそんな」と言ってしまうと、ほかの小説家の方に対しても失礼になってしまう気がして。

それに、書籍化を目指して頑張られている方がたくさんいる世界の中で、なれた自分がそういうことを言うのは違うな、という気持ちもあります。
プライドというのとは少し違うかもしれないんですけど、自分を奮い立たせる意味でも、そう意識するようになりました。

ネタバレあり部分

ネタバレ注意!(クリックしてお読みください)

ラストの展開が衝撃的でした。ヒロインが亡くなることを選んだのはどういった意図があったのでしょう。

ヒロインが亡くなることは最初から決めていました。というのも、主人公の梨久がお母さんの死から、まだちゃんと立ち上がれていないところがあったからです。

死というものにしっかり触れたからこそ見える世界がある、ということは作中にも書いたんですけど、今の世の中って“死”という言葉がすごくありふれていて、みんな簡単に使うじゃないですか。でも、本当に大切な人が死んでしまったときって、たしかに世界そのものは変わらないのかもしれないけれど、その近くにいた人は絶対に変わらざるを得ないと思うんです。

その、変わらざるを得ない状況の中で、大切な人を亡くして、本当に苦しいけれど、それでもその経験を経て成長していく姿を描きたかったので、この結末にしました。
亡くならないことによるハッピーエンドではなくて、亡くなってしまったけれど、それでもみんなが前を向いて歩き出していく。そこにある光に焦点を当てたかったんです。

母だけでなくヒロインも亡くなってしまう。でもそれによって主人公はちゃんと死というものに向き合えるようになって、ようやく前を向ける。悲しいけれど、光を感じる読後感はそんな思いから生まれていたんですね。

作中で使われている点字のほとんどは答えが書かれているのに、最後の点字だけはあえて書かれていなかったのが印象的でした。表紙の帯も同じで、すぐには答えが示されていませんよね。これは、読者に実際に調べてもらうことで、より身近に感じてほしいという意図もあったのでしょうか。

実は答えはちゃんと書いてあるんですよ。ただ、あえて分かりにくいところに書いてあります。
最初は調べていただきたいという思いがあったので、あえて書いていなかったんですが、編集の方とお話しする中で、「絶対に調べない方もいるよね」という話になったんです。

たとえば、“続きはCMのあと”とか“ここから先は有料です”みたいな形になると、そこで冷めてしまう方もきっといらっしゃるのではないかということになって、答えを載せることにしました。
ただ、やっぱり少し自分で触れてみたり、調べてみたりしてほしい気持ちもあったので、分かりにくいところにしたんです。

これは気づきませんでした!

『成人式の二次会はデスゲームです』

『成人式の二次会はデスゲームです。』
著:くじら(スターツ出版文庫 アンチブルー)

あらすじ

「ルールは簡単。“正直”に高校時代の思い出を話すだけ。嘘をついた人、私の死に関わったと発覚した人から、死んでいただきます」成人式の夜。あの頃と変わらない教室で、自殺したはずの同級生・金森を名乗る女性がそう告げた。旧3-Cの同窓生25人は、悪趣味な冗談だと笑い飛ばすが…。一人の無惨な死から、状況は一変。“正直”な思い出が語られていく。皆の裏の顔、隠されていた悪意――そしてあの自殺の真相について。ずっと目を逸らしてきた、“本当の思い出”が暴かれていく。自殺した彼女の死の真相を巡るデスゲーム。

(Amazon.co.jpから引用)

この作品はどのようにして生まれたのでしょうか。

ノベマ!で毎月やっているコンテストがきっかけですね。テーマがデスゲームだった回があって、そのときに書き始めていた作品だったんですが、結局締め切りには間に合わず、途中まで書いたまま置いていたんです。

その後、編集者の方とお話しする中で「少し見せてもらえませんか」と言われたので見せてみたところ「これいいですね! ちゃんと書いて出しましょう!」となって、書くことになりました 。

今作の執筆ではどんなところが挑戦でしたか。

デスゲームものを書くこと自体が挑戦でしたね。
デスゲーム自体は映像ではよく見ていたんですけど、小説のデスゲームはほとんど読んだことがなかったので、最初はなかなか手がつけられませんでした。なので、とりあえずスターツのアンチブルーから出ている菜島千里さんの『センタクシテクダサイ』、木爾チレンさんの『二人一組になってください』、あと最近映画にもなっていた呉勝浩さんの『爆弾』など、デスゲームそのものではない作品でも、近い空気感のものならとりあえず読んで勉強しました。

もうひとつ大きかった挑戦は、これまで自分が書いてきたものとは畑がまったく違ったことです。そもそも人が殺される作品をあまり書いてこなかったですし、ゲーム性のある物語もこれまでほとんどありませんでした。設定や見せ方がこれまでとは全部ガラッと違うので、初めてのことが多くて、それら全部が挑戦でしたね。

『センタクシテクダサイ』
著:菜島千里(スターツ出版文庫 アンチブルー)
『二人一組になってください』
著:木爾チレン(双葉社)
『爆弾』
著:呉 勝浩(講談社文庫)

今作で先生の好きなキャラやシーンを教えてください。

先生のエピソードが一番好きですね。そこを書いているときは本当に筆が乗っていました!

この作品のテーマにも大きく関わってくる部分ですよね。ぼくも、先生のエピソードは胸が痛んで、泣いてしまったくらいリアルで、大好きです。

ありがとうございます。
やっぱり先生というポジションって難しいじゃないですか。現実でも、見た目であだ名をつけられて悪口を言われたり、パワハラやセクハラの問題もあったりして、難しい職業だなと私は思うんですが、一方で私の身近には教師を目指す人も多いのでそこのギャップに不思議に思うこともあって。

デスゲーム作品だと、たとえば『3年A組』のように先生が主催者になることが多いと思うんですけど、先生って基本的には教える立場だったり、物語の主軸になる存在として描かれることが多いと思うんです。

だからこそ、生徒が主軸になって、先生が巻き込まれる側になる構図ってあまりないなと思ったので、そういった形で書いてみました。

この作品を通して、どんな変化がありましたか。

この作品は、固定概念にとらわれずにいろんなことに挑戦していく必要があるんだな、ということを、自分の中で本当に体現した作品だったなと思っています。
私の中でも振り幅が増えたというか、この作品を書いて出版したことで、デスゲームというジャンルも、もっと工夫できる領域なんだと思えるようになりました。

もちろん、今になって「あそこはこうしておけばよかったな」とか、「ああしていたらもっと面白かったかな」と思う反省点もあります。
でも、そういう反省も含めて、この作品によって見えるものはすごく増えました。

それまでは『世界の色をすべて君に』のように、自分自身の心の闇に焦点を当てることが多かったんですけど、この作品は親や先生、周りの人たちなど、第三者によって構成されている部分も大きいんですよね。デスゲームって、そういうものでもあると思うので。
だからこそ、一人ひとりがどんな人生背景を持っているのか、どういうことを考えているのか、というところには、以前よりもずっと着目するようになりました。

作品づくりという意味でも、私生活という意味でも、視野が広がった作品だったのかなと思います。

ネタバレあり

ネタバレ注意!(クリックしてお読みください)

今作は加害者側のマイノリティや、マジョリティの中にあるマイノリティも描かれていると感じます。特にいじめっ子にも背景があると示されていたのが印象的で。先生の中で、加害者・被害者・傍観者の立ち位置はどのように考えられているのか気になりました。

それこそ心理学の話とも通じるんですけど、たとえば女遊びが激しくて、いろんな人と関係を持っているのに誰のことも好きじゃない、いわゆる“クズ男”みたいに見える人がいたとして、その人は普通、後ろ指をさされる存在だと思うんです。

でも、蓋を開けてみたら、幼少期に父親がいなくて、お母さんもネグレクト気味で、誰からも愛されてこなかった。だから愛の形が分からなくて、誰かと関係を持つことでしかそれを確かめられない人だったとしたら、その人自身をまずどうにかしないと、その先の改善って難しいと思うんですよ。

あとがきにも少し書いたんですけど、誹謗中傷やいじめって、被害を受けた側だけをどうにかしようとしても難しくて。やっぱり、する側の問題でもあると思っていて。
言葉を選ばずに言えば、誰かを平気で傷つけるという行為自体、普通の状態ではないと思うんです。だからこそ、その人がなぜそうなってしまったのかに目を向けて、まず救っていく必要があるんじゃないかと、これはあくまで私の持論なんですけど、そう思っています。

もちろん、“被害者だったから仕方ない”とは絶対にしないですし、加害の事実はきちんと向き合うべきものだと思っています。
ただ、その中にある被害的な側面をしっかり見つけて、そこをどうにかしていくという視点も、今の世の中には必要なんじゃないかな、というメッセージはこの作品にも込めました。

たとえば黒田大我は、圧倒的な加害者として描いているんですけど、同時に被害的な立場でもある存在として設定しています。ただ、だからといって彼の行為を肯定するつもりは一切なくて。
その“加害者でありながら被害者でもある”という構図は、この作品の中でしっかり描きたかったところでもあります。

今作は、文章そのものの面白さも大きな魅力だと感じました。出来事が簡略化されて書かれているからこそ、逆に恐ろしさが際立っていて、そのときに心が死んでいる感じも伝わってくるというか。軽く書かれているわけではないのに、分かりやすく伝わる工夫がされているのも印象的でした。

一気に展開が流れ込んでくるシーンも含めて、かなり文章にこだわられていると感じたのですが、どのようなことを意識されていたのでしょうか。

自分がウェブ小説出身というのもあるかもしれないんですけど、リズム感や、“間合い”みたいなものはすごく大事にしています。今作でも改行を多くしたり、間を空けたりすることは意識しました。

あと、先生のところは特にそうなんですけど、淡々としているのに少しサイコパス感がある文章っていうのは、自分でも得意な部分かなと思っています。
文章って声色が伝わらないぶん、そういう間やリズムでどうにか表現しないといけないところが多いと思うので、そこは結構工夫した部分ですね。

感想でも書いていただいたんですけど、先生のパートは言葉が揃っていて単調に見えるのに対して、SNSの部分はあえて崩して雑多な感じにしています。
文章なんですけど、動きがあるように感じてもらえるような書き方は、意識した部分でした。

たとえば、それまできれいに揃っているのに、あるところで一気に崩れるページがあるじゃないですか。それはリズムという意味でもそうですが、視覚的にも“崩れた”と感じる瞬間があって、思わずハッとしました。

その前にも、二行分しっかり使って切るようなところがあったりして、ああいう見せ方もすごく好きで。
視覚的にも楽しませてくれる小説ってやりすぎると技巧に寄りすぎて読みにくくなってしまうと思うんですが、今作は、ちゃんとキャラクターに寄り添ったうえで、その表現が使われていると感じて、すごくよかったなと思いました。

“金森の正体”これはすっかり騙されました!
金森の姉なので、“金森ではある”という意味では、最初から嘘はついていないんですよね。そこにかなり感動しました。
読者をある意味“騙す”構造になっているのに、嘘はついていないのがすごく印象的で。この構造は、最初から考えられていたのでしょうか。

金森の正体は、初期段階からすでに考えていました。
“金森ではある”っていうのは面白いなと思っていましたし、嘘はつかせたくなかったんですよね。
実際に金森ではあるし、関係者であることも間違っていない、という形にしたくて、ああいう構造にしました。

ちなみに、正体は先生なんじゃないかと思わせるために、金森が仮面をつけて登場する場面で、少し教師的に感じられる文章を入れたりもしています。

最初、絶対に金森の正体は先生だと思って読んでいたので、先生が別に登場してきたときはかなり驚きました。

今作では語り手が誰なのか、途中まではっきりと分からないで進んでいくのも面白いポイントだと思います。こちらにはどういった意図があったのでしょうか。

最初の、本当に冒頭の“俺がもっとこうしていれば、こんなことにはならなかったんじゃないか”みたいな部分も、汐恩なのか、金森さゆなのか、さななのか、すぐには分からないようにしたかったんです。
そこからグラデーションみたいな感じで、だんだん「あれは汐恩だったんじゃないか」と思ってもらえるような書き方にしたくて。

だから、あえて直接は言及していないんですけど、周りの反応などを通して、読者に「これは汐恩視点の物語なんだな」と思っていただけるようには意識していました。

ラストの展開がすごく印象的でした。正直に言うと、デスゲームが終わったときは「え? これで終わり?」と感じたんです。でも最後まで読むと、それもあえてだったんだと気づいて、衝撃でした。

そうですね。終わらせ方はすごく迷いました。全員を殺すのか、金森の姉がみんなの前で自殺するのか、実は誰も死んでいなかったという設定にするのか、本当にいろいろ考えたんです。

ただ、いじめって、どこまでいっても“きれいごと”で片付けられてしまう部分があると思っていて。“いじめは絶対よくない”“いじめ撲滅”と言われているのに、現実にはなくなっていない。それって、言葉だけで終わってしまっている部分があるんじゃないかと思ったんです。

それを作品の中で体現しようとしたときに、あえて少し生ぬるいというか、きれいごとに見える終わり方にすることを選びました。みんながそれぞれきれいごとの中に落ち着いていって、最後は十年後にまた集まっている、という形ですね。
一見するときれいに終わっているように見えるんですけど、その十年の間にも、どこかでいじめは起きているし、同じようなことは繰り返されているはずで。
そういう、いじめに対する考えの浅さみたいなものを風刺したいという思いがありました。

作品全体としても、世の中に対する少し皮肉のある視点を入れたくて。最後はそういう意味も込めて書いています。

エピローグで“あれから、ここで語った夢とは違うことをしている人もいる”とわざわざ書かれているのを見て、これはあえてこういう終わり方にしているんだなと思ったんです。

夢を語っていても、その通りに叶っていない人たちがいる。空気に流されて、その場では夢を口にした人もきっといたんだろうな、と感じて。うわーリアルだな! と思いましたし、そこを読むまで、デスゲームの終わらせ方に納得できなかった自分自身がいることにも気づきました。

自分も加害者になりうる側面を持っているんだと痛感した瞬間、作品の一部になったような、彼彼女らの共犯になったような感覚になって、うわーっとなったんです。
その読書感覚も含めて、今作はとても面白かったです!

ありがとうございます! あとがきにもたくさんの思いを書いたので、よければそれも含めて楽しんでもらえるとうれしいです。

chapter04 メッセージ

くじらさんにとって本とはどんな存在でしょうか。

本は“自分の人生を投影しているもの”だなと思います。

これはちょっと書く側の目線になってしまうんですけど、自分が経験していないことを書くのって、本当に難しいんですよね。二つの作品を書いていてもすごく感じたんですけど、経験していないことを書くのは難しい。

でも逆に言えば、自分が経験してきたことはいくらでも書けるんです。そう考えると、今までの人生で暗いこともたくさんあったんですけど、それも本にできると思えたときに、「ああ、これがなかったら書けなかったんだな」と思えて。
だから、今までの人生って全然無駄じゃなかったんだなと思えるんです。

名刺の裏にも書いてあるんですけど、私が考えた座右の銘みたいなものがあって。たとえば、私はずっと習い事や部活をやっていましたが、それらで花が開いたわけではありません。でも、やっていたからこその人間関係や視野の広さ、忍耐力みたいなものは、絶対に小説に投影されていると思うんです。

そうやって、小説を書いているからこそ、そのときの経験が生きるというか。本というものがあったから、私の人生は無駄じゃなかったんだって証明できる。その証明の形が、私にとっては小説なんだと思います。

最後にこの記事を読んでいる“本の挑戦者たち”へメッセージをお願いします。

本を書く方へ。書籍化したいと思ったら、かなり難しい道ではあると思います。
でも、さっきのお話とも少し重なるんですけど、本を書いている限り、自分の人生に無駄なことって一つもないと思うんです。失敗も成功も、全部本にできるので。

たとえば、書籍化を目指してコンテストに応募し続けて、それでも落ちてしまったという経験も、小説にできるんです。たとえば小説家になりたい女の子の話を書くとしたら、自分が苦労してきた道のりをそのまま本にできますよね。
だから、“私なんて”って思わずに、自分の人生は全部捨てたものじゃないと思って、全部本にぶつけてほしいなと思っています。

自分の中で隠したい経験とか、誰にも知られたくないことも、ちょっと勇気を振り絞って本にしてしまえば、自分の中で整理ができたり、私みたいに、それがきっかけで小説家になれた、ということもあるかもしれません。

もし自分の中に、誰にも言えないけど苦しんでいる思いとか、何か形にしたいのにどうしてもできないものがあるなら、それを全部文章にして、本にぶつけてみてほしいです。
もちろん、それには相当の覚悟がいることだと思います。でも、その覚悟を一度持って、本に向き合ってもらえたらなと思います。

インフォメーション

書籍情報

『世界の色をすべて君に』
著:くじら(スターツ出版)

あらすじ

学校にも、親にも、自分にさえもうんざりしていた高校生の梨久。彼が出会ったのは、眼が見えない少女・祈莉。「君さ、どうせ暇でしょ。ずっとそばにいて私の世界に色をつけて」いつも明るく前向きな祈莉に言われるがまま。梨久は見えている世界を言葉で伝え、同時に点字を教わった。そんな日々の中で、気づけば梨久は、祈莉に惹かれていた。しかし、彼女の眼の病は命をも脅かすもので…。「今、僕にできることは――」たった1年、でも永遠に忘れない1年。二人の絆、そしてラスト一行『⠄⠹⠛⠅⠃⠜⠀⠃⠝⠵⠐⠟⠾』に涙する。究極の純愛ストーリー!

(Amazon.co.jpから引用)

Amazon.co.jp 作品ページ

『成人式の二次会はデスゲームです。』
著:くじら(スターツ出版文庫 アンチブルー)

あらすじ

「ルールは簡単。“正直”に高校時代の思い出を話すだけ。嘘をついた人、私の死に関わったと発覚した人から、死んでいただきます」成人式の夜。あの頃と変わらない教室で、自殺したはずの同級生・金森を名乗る女性がそう告げた。旧3-Cの同窓生25人は、悪趣味な冗談だと笑い飛ばすが…。一人の無惨な死から、状況は一変。“正直”な思い出が語られていく。皆の裏の顔、隠されていた悪意――そしてあの自殺の真相について。ずっと目を逸らしてきた、“本当の思い出”が暴かれていく。自殺した彼女の死の真相を巡るデスゲーム。

(Amazon.co.jpから引用)

Amazon.co.jp 作品ページ

くじら先生 SNS

X:@kuji_ra_novel

・記事サムネイル作成
屋号:prism Art & Design
氏名:小林茜
ポートフォリオ:https://fori.io/prism

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連載

『成人式の二次会はデスゲームです』作者、くじら先生にインタビュー! 『双子の姉にすべて奪われた私が、軍神に愛されています』作者、小原燈先生にインタビュー! 『青春テロリズム』作者、朱宮あめ先生にインタビュー! 『きみが明日、この世界から消える前に』作者、此見えこ先生にインタビュー! 『フライトドクターの独占欲が熱情一夜で溢れ出し――逃げ出しママを燃え上がる愛で絡めとる』作者、蓮美ちま先生にインタビュー!(後編) 『フライトドクターの独占欲が熱情一夜で溢れ出し――逃げ出しママを燃え上がる愛で絡めとる』作者、蓮美ちま先生にインタビュー!(前編) 『伯爵家の五男ですが、婿入りして公爵になりました。 前世知識で領地を復興して嫁や家臣と幸せになります』作者、灰紡流さんにインタビュー! 放送作家、山田ボールペンさんにインタビュー 『君がくれた魔法は解けない』作者、伊瀬ハヤテ先生にロングインタビュー! 『最高な恋リアの作り方 #誰にでもヒミツはある』作者 音はつき先生にインタビュー! 『ヒロインが最後に死ぬラブコメ』作者 神岡鳥乃先生にインタビュー! 青春は綺麗なだけじゃない……スターツ出版 アンチブルー担当者さんにインタビュー! 『ヤンデレだらけの乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、美形執着騎士に迫られています』作者、兎束作哉さんにインタビュー! 動物を研究しながら、動物の絵と物語を書く!? キツネ月さんにインタビュー! 左京区を本の街へ! 左京区役所勤務 松本さんにインタビュー! タイトルが『ぽ』や『へ』や『ぽぽぽぽぽ』!? へにゃらぽっちぽーさんにインタビュー! 自由に描く絵本!? 作家のしもむらにいなさんにインタビュー! 『マッチングアプリで出会ったクセつよ男子図鑑』収録『泣き落とし男子』作者、葉方萌生さんにインタビュー! 『傷だらけ聖女より報復をこめて』原作者 編乃肌先生にインタビュー! 絵本作家を呼んでのイベント!? その主催の学生さんにインタビュー!  漫画に小説の二刀流!? コミティアや文学フリマにも参戦! まさに本の挑戦者な有理まことさんにインタビュー! 話さない読書会!? シェア型書店で自作本を売り、イベントも開くはやしあやかさんにインタビュー! シェア型書店で自作本を売る!? 夏迫杏さんにインタビュー! 『本を売る、という冒険のつづき』――手渡すその瞬間まで。本って、ほんとうにURERU!(後編) 番外編:シェア型書店『一乗寺BOOKAPARTMENT』の棚主になってみた!(後編:お店で実際に棚づくり!) 番外編:シェア型書店『一乗寺BOOKAPARTMENT』の棚主になってみた!(前編:お店に行くまでにやったこと) 『本でつながる、物語が輝く集会所』――まっさらな紙の、その先へ。ZINEは、きっとDEKIRU!(中編) 『本をつくる、という冒険のはじまり』 ――のんびりゆったり長居OK。そんな場所にSURU!その2(前編)  『本をつくる、という冒険のはじまり』 ――のんびりゆったり長居OK。そんな場所にSURU!その1(前編)
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