イントロダクション
HAPPY!
“本”と“ことば”がなによりだいすき、いっちーです!
今回の本の挑戦者は、第10回スターツ出版文庫大賞で大賞と未来屋書店賞をW受賞した『結末は君のもの~全てが繋がる5つの物語~』でデビューされた湯浅八等星さん。
一見、それぞれ独立した5つの物語。しかし、一つひとつに異なる仕掛けとオチがあり、やがて物語は思いもよらない形でつながっていく、すごい本なんです!
今回は、湯浅八等星さんに、物語との出会いからデビューまでの道のり、本作が生まれたきっかけ、5人の主人公を書き分けるための工夫、作品に込めた思いまで、たっぷりお話をうかがいました!
後半には、作品を読んだからこそ聞けるネタバレありの深掘りもあります。未読の方はご注意ください!
それじゃ~いってみよー!
Chapter01 “好きなものを、好きなように”書き続けて――物語との出会いからデビューまで
物語との出会い
子どものころ、最初に夢中になった物語や作品を教えてください。
特定の一作だけに夢中だったというよりは、いろいろな物語に触れていたと思います。
物心がついたころにはもう日常に絵本などがあったりして、自然と本に触れ合う環境を用意してもらえていました。それがだんだんと、漫画になったり小説になったりと移行していった感じです。初めて買ってもらった漫画は『ドラえもん』でした。
小学生、中学生、高校生と、どのような本や物語に触れてきましたか。
小学生のころは、絵本や漫画はもちろん、児童書なんかも読んでいました。メアリー・ポープ・オズボーンさんの『マジック・ツリーハウス』や、エミリー・ロッダさんの『デルトラ・クエスト』、むらいかよさんの『おばけマンション』、原ゆたかさんの『かいけつゾロリ』など学校図書館なんかで馴染み深いラインナップですね。
ライト文芸とはいつごろ出会われたのでしょう。
ライト文芸は中学生のときに初めて読みました。
ライト文芸というジャンルが確立し始めたころだったと思うので、「ライト文芸を読もう」と意識して選んでいたわけではありませんが、いろいろな本を手に取るなかで自然と読むようになっていったという感覚です。
初めて買ったのは、おそらく浅葉なつさんの『神様の御用人』か、三秋縋さんの『スターティング・オーヴァー』だったと思います。


現在の作風や文章に大きく影響を与えた作品を教えてください。。
一つの作品から強く影響を受けたというより、これまで読んできたものすべてに自然と少しずつ影響を受けていると思います。だから、影響を受けたという言い方だと難しいのですが、もし誰か一人というなら好きな作家として庄司薫さんを挙げておきます。
庄司薫
庄司薫(しょうじ かおる、1937年4月19日~2026年4月5日)は、日本の小説家。
本名は福田章二。1969年に発表した青春小説『赤頭巾ちゃん気をつけて』で芥川賞を受賞し、軽やかな口語体で当時の若者の心情を描いて大きな社会現象となりました。
庄司薫さんからは、どのようなところで影響を受けたのでしょうか。
庄司さんは現代文学の始まりに位置するような方なのですが、現在、世に流通している文芸作品が持っているものの多くを先取りしている方でもあります。それこそ当時は庄司さんに影響を受けた人がこぞって庄司さんの作品をなぞっていたと聞きますし、そうやって現在まで連綿と受け継がれてきた一つの文脈の一番最初にいる人ですよね。
例えば、日本でランダムに作家を一人選んで「あなたが一番影響を受けた作家は?」と訊ねる。そうして今度は名前が出たその作家に同じ質問を……と数珠繋ぎに「影響を受けた作家」を遡っていくと、最終的には必ず「庄司薫」に辿り着くと思います。「あなたの好きな作家の好きな作家が好きな作家」というやつですね。だから、私に限らず世の作家全員「影響を受けた作家」と訊かれたときは、庄司さんと答えておけば間違いないんじゃないかなと。
小説以外に、影響を受けることもありますか。
漫画や映画、アニメ、ドラマ、ゲーム、音楽など、小説以外でも物語と名がつくものはだいたい好きです。
普段はどのような作品やジャンルを観るのでしょう、
ライト文芸に通ずるような青春ものや、オリジナルアニメが好きですね。
ベストワンは『天気の子』を挙げておきます。
最初の一作と、“書く人”になってからの変化
どのようなきっかけで小説を書くようになったのでしょうか。
物語を書き始めたのは、映画『心が叫びたがってるんだ。』を観たことがきっかけです。なんとなく観に行ったのですが、エンドロールが流れる最中「終わってしまうのが寂しい」、「自分もスクリーンの向こう側に行ってみたい」と思い、その中で自分にとって一番身近であった小説という形態を選んで書き始めました。
実際に自分でも物語を書くようになってから、本や映画などの見方に変化はありましたか。
現状は特にないですね。今まで通り楽しませてもらっています。
そうなんですね!
個人的に『結末は君のもの~全てが繋がる5つの物語~』の前半は映像的だと感じました。読者が頭のなかに思い浮かべた映像が、読み進めるうちに、実は違っていたと分かるのが面白かったんです。後半になるにつれて、映像だけでは捉えきれなくなっていくところも、この作品の面白さだと思いました。
ありがとうございます。
特に意識していたわけではないのですが、書籍化をするに当たって書影や挿絵のイメージ等をヒアリングしていただいたのが効果的に働いたのかもしれません。
私が「こういうことをやってみたい」といくつか案を出して、その中の一つを編集者さんにより良くまとめていただき、イラストレーターのふすいさんが素敵な形に仕上げてくださったわけですが、そうした工程の中でイラストとしては採用に至らなかった案を、文章に落とし込んで加筆してみたのが良かったのかなと。文字ではなくビジュアルのイメージを膨らませるところから始められたので。Webで書いてるだけでは試みなかったであろう作り方ですし、今後にも繋がる良い経験ができたと思います。
ライト文芸で挿絵があるのは珍しいと思っていましたが、そういう経緯があったんですね!
そうですね。作品の性質とマッチするような、仕掛けのある章扉を作っていただけました。それ自体が映像的な部分の補助になっていますよね。文章だけでなく一冊の本として視覚的に“エンターテイメント”を楽しめる、良い形にしていただけたと思います。それこそ最後の挿絵なんかは、映画のエンドロール直前カットを意識して小説という形式に落とし込めたらというものになっていますから。
これまで、どのようなジャンルや題材の作品を書いてきましたか。
一つのアイデアを軸に、少し不思議な要素を含んだ青春恋愛ものや、ヒューマンドラマを書いてきました。
ジャンルや題材を先に決めるというよりも、思いついたワンアイデアを生かすために、物語を組み立てることが多いと思います。
一人で自由に書いていたので、「自分らしい作風を作ろう」とか「こういったジャンルを書こう」と意識することはなく、自分の好きなもの、書きたいものが「湯浅八等星」になったのかなと思います。勝手に。
“好きなもの”というのは、キャラクターでしょうか。それとも、物語の仕掛けでしょうか。
どちらの場合もありますが、なんにせよとにかくワンアイデアかなと思います。まず一つのアイデアがあって、それが一番面白く膨らむように物語を組み立てる感覚でやっていました。
デビューまでに積み重ねたこと
デビューするために、どんなことを意識されてきましたか。
これも特に何か意識するということはなく、自分の好きなものを好きなように書いていただけかなと思います。自分が好きなものを突き詰めていって、その先に何が在るのかを見に行こうとしていただけですね。
初めから出版前提で制作するようなお声がけをいただけるようになったら、マーケティングの部分を意識するフェーズになるのかなと思います。スタートラインに立ったということで。意識すべきことがたくさん生まれてくるのかなと。これまでやってきたことが、そこに至るまでのコアとなる部分を醸成する期間になっていたらいいですね。
講評や選考結果を受けて、作品の書き方や考え方を変えた部分はありますか。
今作、『結末は君のもの~全てが繋がる5つの物語~』も自発的に書いて応募したものですので、基本的には好きなように書いています。ただ、昨年応募した作品でいただいた講評を読んだところ、テンポのよい作品が時代的に求められているとのことでしたので、一つひとつのアイデアを圧縮して見せられる、連作短編集という形式にしてみたのが出発点でした。ですから、書き方や考え方といった根本が変わっているかはともかく、講評をいただいたおかげで生まれた物語だと思います。
デビューするまでにどのような苦労がありましたか。
これも好きなことを好きなように書いてきただけなので、特に苦労したという感覚はありません。
そういったものは、むしろこうしてデビューした後、“作品をどうすれば読者の方へ届けられるのか”といった点で、これからしていくものなのかなと思います。それもまた苦労と呼ぶ必要はないかもしれませんが。
ご自身の本が並んでいるところを、実際に書店に見に行きましたか。
日常の中で書店さんを訪れた際に自然と見かけたりして、うれしいなという気持ちになります。
中でも未来屋書店さんでは大きく展開していただいているので、非常にありがたいことです。
Chapter02 5つの物語が、一冊を貫く大きな仕掛けへ――『結末は君のもの~全てが繋がる5つの物語~』について

https://novema.jp/bookstore/n13911 (ノベマ!作品ページ)
この物語が生まれるまで
企画・制作の経緯と、執筆のきっかけを教えてください。
先ほども少し触れたように、第9回スターツ出版文庫大賞で特別賞を受賞した『蝉がうるさかったから』でいただいた講評が出発点です。
テンポのよい作品をということで、もともと長編小説にしようと思っていた複数のアイデアをこの際圧縮して一つにまとめてしまおうと思い、まず短編集という形式にすることが決まりました。テンポの問題も解決しますし、一冊で複数の物語を楽しめるところも時代に即しているかなと。
なぜ、複数のアイデアを、連作短編集として一冊につなげようと思われたのでしょう
単純に私が連作短編集という形式が好きなので、短編集にするなら連作にしないともったいないかなと。一つひとつの話にそれぞれ仕掛けとオチを用意しながら、一冊全体にも大きな仕掛けとオチがある。その方が面白いと思ったので、この形になりました。
あとは、長編小説のコンテストに応募する以上、実質的な長編と呼ぶことができるものにした方がいいのではないかという意図もあったと思います。これは後からお聞きしたことですが、実際に短編集やフリーテーマ部門での大賞受賞例は過去になかったみたいですし。
それぞれの物語は、どのような順番で書いたのでしょうか。
応募時のものは(当時は異なった短編タイトルをつけていましたが)
第1編『サヨナラなんてあるわけないから』、
第3編『この心臓を一途に』、
第4編『溶けて一つになったその先で』の順に書き、
そのあとで第2編『その左手を掴んで』と第5編『サヨナラの歌なんか聴こえない』に取り掛かりました。
第5編は書籍版とかなり内容が異なっていて、映画でいうエンドロール後のおまけのような文量であったのでどちらが先だったかは忘れてしまいましたが。第4編でフィナーレという絶頂を迎えた、その先の物語という構成でした。
そのときは作品タイトルも書籍版では第4編の章題として使用している、『溶けて一つになったその先で』だったので。
一見なんでもない一行が、あとから重要な意味を持っていたと分かるという作品なので、Excelなどで情報を整理しなければ書けないような構成だと感じました。プロットは作らなかったのでしょうか。
プロットと呼べるようなものは作っていません。長い期間頭の中でぼんやり考えてきた内容だったので、頭の中にあるものをくっつけたり切り離したりしながら、そのまま書き出していく感覚でした。校正作業の際に表記統一表を作ったりはしましたが。
ただ、これから仕事として作品を書いていきたいのならば、企画の段階で必要となるものだと思いますし、プロットを作ることに差し支えがあるわけではありません。
作品に込めた挑戦
今作で挑戦したこと、難しかったこと、書くうえで意識したことを教えてください。
短編集ですからそれぞれ5人の主人公がいるということで、考え方はもちろん、言葉遣いやモノローグの文体、漢字の開き方だったりの違いを意識して書いていました。他にも「多分誰も気づかないだろうな」という細かい伏線だったりも散りばめたりしています。
物語を楽しむ上で全てに気づく必要はないし、なんなら私ももう覚えていないような細かい部分ですね。そういったものがたくさんあるからこそ、ふと気づいた部分で楽しんでもらえればと思いますし、あとがきだったりでも少し話していますが、私が全く意図していないところに、読者の方が勝手に意味を見出してもらっても構いません。自由に楽しんでいただけたらうれしいです。
語り手ごとの違いが作品の仕掛けにも関わるからこそ、細かなぶれも見逃せなかったのですね。
読んでいく中で読者の方に渡せるヒントにもなると思いますしね。必ずしも気づく必要があるというわけではなく、微妙な違和感が積み重なっていけば最後に回収されるときによりカタルシスが得られるだろうし、気づけたならばそれはそれで面白いかもしれないし、後から読み返して確認してみるのも楽しくなるんじゃないかなと。
物語の中で見てほしいポイント
今作で注目のポイントやお気に入りのポイントを教えてください。
ストーリー等に注目するのは当たり前というか、自然なことだと思うので冒頭でもお話しした書影と章扉でしょうか。物語への没入感を非常に深めてくれていますし、作品内容とも密接した仕掛けが施されていて、一冊丸々“エンターテイメント”として楽しめるような形になっていると思います。
特に、最後の挿絵2枚とそれにまつわる演出は、本という形式で発売していただいたからこそできること、章扉を用意していただいたからこそできることとしてやりたいと言わせていただいた案を、編集さんやイラストレーターさん、デザイナーさんに素敵な形でまとめていただけたので気に入っています。私一人では絶対に実現できなかったことなので。
お気に入りのキャラクター、章などはありますか。
基本的にすべてお気に入りなのですが、キャラクターなら第3編『この心臓を一途に』のヒロイン柑露寺一途は名前がいい感じだと思います。章は短編一つひとつに仕掛けとオチがあり、さらに全体を通した仕掛けとオチがあるということで、総括して一冊の物語全体がお気に入りということで。
私も第3編好きです! いや~すっかり騙されました……!
それなら、うまく仕掛けが機能したと言えるかもしれませんね。
やはり、個別の章から一つを選ぶというよりも、独立して成立しているバラバラの物語が一つにまとまっていく構成そのものが、いちばんのポイントかと思います。
どのキャラクターも深く作り込まれていると感じました。ご自身を投影したり、性格を細かく決めたりしてから書かれたのでしょうか。
これまでの作品も含めて自分自身を投影して作ることはないですね。それぞれの考えや好みがあるかと思いますが、私の作り方ではないかなと。
また、最初から細かく決めているというよりは、大枠の設定がある上であとは書いていく中でだんだん定まっていくものかなと思います。私の中でも書いていく中で“こういう子だったんだ”と気づいたりとか。
まず仕掛けがあって、次に物語が生まれ、あとは登場人物たちが勝手に生きてくれているのかなと。感謝です。
キャラクターが最後なんですね。本当にこの世界を生きているように感じられるリアリティがあったので、てっきりキャラクターを作り込んでから描かれたのかと思っていました。
そう感じていただけたならうれしいです。
最後だからといって別にキャラクターを思い通りに配置して操り人形のように動かしているわけではなく、現実で人と人が接すれば、自然と関係や距離感が生まれるように、キャラクターも書き進めるなかで自然に形づくられていくのではないかなと。だから最後と言うよりは、曖昧なまま初めからずっとあるものなのかもしれません。そこに明確な順番があるわけではなく。
ちょっと変な言い方になるかもしれないですが、人間って最高なので。ただ人間を書いていけば自然と最高になっていくと思います。
読者が見つけた『結末は君のもの』
これまでに届いた感想の中で、特に印象に残っているものを教えてください。
どれも大変ありがたいものということで、個別の方のご感想を挙げるのは控えますが、「第1編が一番好き」「第2編が一番好き」というように、お気に入りの編が読者の方によってばらけていることはうれしいなと思います。
それぞれのお気に入りを見つけていただけるというのは、一つひとつを独立した物語にしたかいがあってよかったです。
どんな感想があったらうれしいですか。
どんなものでも全てうれしいです。読んだ人が自由に解釈していく物語なので。
Chapter03 読み返すたび、結末の見え方が変わる――『結末は君のもの』を深掘り(ネタバレあり)
※この章の内容はネタバレを含みます。作品を読み終わった上での閲覧をオススメします。
タイトルや帯で“5つの物語が全て繋がる”と明かすことに、抵抗はありませんでしたか。
まず結論から言っておくと、抵抗と呼ぶようなものはありませんでした。
ただ私自身、読者という立場にあるときはどんなものでもできるだけ前情報を入れずに読むタイプなので、たしかに何も知らずに読んだほうが驚きを味わえるとは思います。
それでも、それは“すでに読むと決めている作品”の場合で、こういったデビュー作を同じような形で手に取っていただくのは難しいのかなと。
“それを解消するためにどうするか”というマーケティングについては、多くの作品を届けてきた経験のある編集さんや営業さんたちへお任せする部分だと考えています。こなしてきたサンプルの数がものを言うと思っているので。
そもそも商業出版は、出版社さんに費用やリスクを肩代わりしていただいて世に出すものなので、届けるためにできることはすべてやったほうがいいですよね。その上で、その道のプロフェッショナルに助言をいただけるわけですし。
結果、今回のケースでもバランスの取れた良い形になったのかなと思います。いろいろな考え方があると思いますが、私は読者の方に届かない方が嫌ですし最も避けたいことなので。
個人的には“全てが繋がる”と知らずに読めば、さらに大きな衝撃を受けられたのではないかと思う気持ちもあります。ただ、つながると分かっていても、一度読んだだけではすべてを捉えきれませんでした。何かを見落とした気がして読み返し、読むたびに結末の見え方が変わっていく。それが本作の面白さだと感じました。
一口に“全てが繋がる”とだけ言われても、本作の結末を想像するのは難しいと思いますしね。しつこいようですがそれぞれの物語にも独立した仕掛けがあり、全体の結末もその言葉だけで過不足なく全てを表し切っているわけではありません。ある程度の前情報が入った状態でも十二分に楽しめるよう作ったつもりですし、むしろその方が楽しめる可能性だってあるのかなと。
第1編を読んだ時点で叙述トリックのある作品だと気づけば、読者はその後も仕掛けを警戒しながら読みますよね。そうした読み方も想定していたのでしょうか。
はい。前提として“叙述トリック連作短編集”を裏テーマとして置いているわけですが、叙述トリックというのはその性質上その謳い文句で押し出して宣伝するものではないですよね。それこそ一つ前のご質問でお聞きいただいたように、基本的にはタイトルで押し出すものではないと思います。それを五つ用意するということで、連続しても新鮮な気持ちで楽しんでもらえるように、むしろ連続することでより面白さが増すような形にしなければと考えていました。
まず、第1編はまっさらな状態で「叙述トリックだったな」という印象を受けるかと思います。その上で第2編では叙述トリックに当たる部分を、第2編を読んだだけではわからないように伏せて進めることにしました。その代わりに終盤で第1編との繋がりを明かし、「そこが驚く部分なんだ」と一旦受け止めてもらえればなと。
その後の第3編では最も王道的であろう人物誤認の叙述トリックを配置し、そうして迎えた第4編では「ここにも何かあるはずだ」と読者の方も意識すると思うので、疑ってかかることを逆手に取るようなブラフやミスリードを入れたり、仕掛け自体も特殊な形にして、作品全体の大きな仕掛けと一緒に回収する形にしました。第5編は後ほどまたお話しするかと思いますが、そうやって細かく考え組み立ててきたことを利用してカウンターとするようなわかりやすいトリックになってますね。あっさり見抜いてもらったり、違和感を持ってもらうことを前提にという形です。
そんな風に、連続させる意味を持った構成にしようと考えていました。
前半はテンポのよい青春小説として進みながら、後半になるにつれてメッセージやテーマが強く立ち上がり、純文学のような読み味へ変化していったのが印象的でした。この変化は、構成の段階から意識されていたのでしょうか。
特にそういう意識はないですかね。
先ほども少し触れたように、応募時点では第1編から第4編までが物語の中心でした。第4編でボルテージが最高潮に達し、そこでエンドロールが流れるように物語が終わる。第5編はそのエンドロール後に流れる、Cパートという構成です。
そうした叙述トリック連作短編集でスターツ出版文庫大賞を受賞させていただき、書籍化に際してどこかを加筆しようとなったタイミングで、この第5編を第1編から第4編までに描いてきた物語へのある種の“カウンター”にしようと考えました。その結果、後半になるにつれてメッセージやテーマが強く立ち上がる形になったのだと思います。
第5編では、出来事や仕掛けだけでなく、主人公の心情の深く暗いところまで描かれています。これも“カウンター”としての役割と関係しているのでしょうか。
第5編の主人公は少しひねくれていて、物事をシニカルに見る人物です。シニカルではあるがシニシストではないというのが肝かなと思うのですが、その主人公に第1編から第4編までの物語や、仕掛け、そこで描いてきたテーマをある種一度批判的に見つめてもらいました。
と、言いますと?
例えば、「自分の大切な人が何か悪いことをしたという疑いをかけられている」として、その人に「私は信じてるからね」と無垢の信頼を向けることは美徳の一つではあると思いますが、その実なんの根拠もない適当な信頼でもありますよね。何一つ確かめることをせずに、「そうであってほしいと思ってる」だけなわけですから。
だったら一回ちゃんと自分も疑いの目を向けて、調べ尽くして、その上で「やっぱり君は悪くなかったね。明確な根拠を持って私は信じるよ」と言えた方がいいなと私は思います。「疑う」という苦しいプロセスを一回通したからこそ、より強度をもった本当の信頼がそこに生まれていると。
それと同じ形で、シニカルな主人公にこれまでの物語を批判的に見つめてもらい、その上で出た結論にこの『結末は君のもの~全てが繋がる5つの物語~』の最後を担ってもらったということです。
第5章にはそんな役割があったんですね!
これまでの章を否定するようなニュアンスを最後に持ってくる決断、すごいです……!
叙述トリックという形式や、それを利用して描いてきた物語が合わない読者の方もいると思うんです。そういった方が抱く感想もいくつかは想像することができます。それを無理に受け入れさせる、飲み込ませる必要はないと思いますし、もちろんそんなつもりも全くないのですが、ある種そういった方々と同じような目線を持った主人公を通すことで、第4編までで描き出した結論がダイヤモンドのように磨かれてより強度を持つことになるのではないかなと。
最高潮を迎えたあとの物語として適した形になったかなと思いますし、それは連作短編集という形式だからこそできたことなのでよかったです。
ただシニカルなだけではなく、その内に熱いものを潜めている子だからこそ無闇に傷つけるのではなく、真摯に磨き上げてくれましたし、そうやって物語を捉え直してもらったことでよりよい形になったと考えています。
第5章というカウンターを置くことで、“ご都合主義ではないか”という批判を作品のなかで一度受け止める。そのうえで、愛や誠実さ、物語の価値を改めて肯定したからこそ、第1編から第4編までのテーマにも強度が生まれたのですね。
そうですね。批判的な目線を持たないでただ盲目的に肯定するのではなく、一度その視線を受け止めたうえで、「それでもやっぱり……!」と通り抜けていく。その構造によって、作品全体のテーマが強まったのだと思います。
今作それぞれの物語には、喜びや怒り、悲しみ、楽しさといった異なる感情があるのも特徴だと思いました。一方で、それらすべてが“寂しさ”に包まれているようにも感じたんです。作品全体の感情の温度について、意識したことはありますか。
これもまた何か特別に意識したわけではありません。
先ほども言ったように人間って最高なので。
喜怒哀楽や寂しさという感情はもともと人間が有しているものですし、登場人物たちが『結末は君のもの~全てが繋がる5つの物語~』のなかで生きた結果として、そうしたものが自然に生まれたのかなと。生きてくれてありがとうって感じです。
Chapter04 これから読む人、書く人へ――湯浅八等星さんからのメッセージ
これから読む人、書き続ける人へ
これから『結末は君のもの~全てが繋がる5つの物語~』を読む方には、どのようにこの物語を受け取ってほしいですか。
これは方々で言っていると思うのですが、決まった受け取り方は一切ありません。読者の方それぞれに、好きなように読んでいただけたらうれしいなと。実際のところ今日私がここで話したことも、「なんか作者が勝手なこと言ってたな」と全て無視して引っくり返していただいたって構わないということです。
これもまた何度も言及していますが、『結末は君のもの~全てが繋がる5つの物語~』は編集さんやライターさんなど編集部の方々、校閲の方、イラストレーターのふすいさん、デザイナーさん等様々な方にご尽力いただいて“本”という形になり、営業を担当してくださった方、取次の方々、印刷所の方々、配送に関わる方々、書店員さん、そしてこうしてインタビューの機会を設けてくださるメディアの方々等たくさんの方のお力をお借りして世に流通し、そうして読者であるあなたが手に取ってくださりました。ですから、あとは文字通り“結末は君のもの”ということで、この作品の最後のピースになっていただけますと幸いです。
受け取り方に制限なんて一切ありませんし、どんなものでもSNS等でご感想をポストしていただけたりしたらとてもうれしいです。
これから小説を書き、本を世に出したいと考えている人へ、メッセージをお願いします。
一読者として、これからも面白い物語を読みたいと思っているので、よろしくお願いします。世の中に面白い作品が毎日のように増え、溢れていくことが楽しみです。
最後に、改めて湯浅八等星さんにとって本とはどんな存在ですか。
“特別な場所”です。
インフォメーション
書籍

https://novema.jp/bookstore/n13911 (ノベマ!作品ページ)
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未来屋書店 取材(YouTube)https://www.youtube.com/watch?v=5e9o3rbAHNo
名古屋にあるWAKASA&CO.BOOKSは皆さんの本への挑戦を応援しています!
一冊目の本との出会いも、久しぶりのチャレンジにもぜひ当店をご利用ください。
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ライター紹介

いっちー
平成10年、四国の田舎で生まれ育ち、京都芸術大学文芸表現学科で文章や創作について学ぶ。
月に10冊、年間で100冊以上読み、取材相手には長文の感想を送りつけるなど、本についてアツいヤツ。
わかさ生活のオウンドメディアDEKIRU! で
『「本」の挑戦者たち』
『UNDERUMBLE!』(音楽記事)
『言の葉を紡ぎし者たち』
『若きアートの炎』
『パピー/盲導犬の物語』の連載を担当している。
いつか自分の本を出すことが夢。
記事サムネイル作成
屋号:prism Art & Design
氏名:小林茜
ポートフォリオ:https://fori.io/prism


