イントロダクション
HAPPY!
いっちーです!
今回取材したのは、名古屋を拠点に活動するデザイナー兼イラストレーター・繭野きいとさん!
イラストや販促物、商品デザインなど幅広い制作に携わる一方で、個人の創作では、動物や虫などの個性豊かな生き物たちが暮らす世界『繭ノ庭』を描いています。
今回は制作拠点である“巣穴”を訪ね、絵との出会いや制作へのこだわり、そして長年関わってきた伏見地下街の“ふしちかアート”についてお聞きしました!
それじゃ~いってみよー!
作者紹介

繭野きいと(まゆのきいと)【デザイナー/イラストレーター】
滋賀県出身、名古屋在住。
デザイナー兼イラストレーターとしてフリーランスで活動中。
イラストから販促物、商品デザインまで幅広いデザイン制作に携わりながら、創作作品として独自の世界『繭ノ庭』で暮らす生物たちを描いている。
ほっこりかわいい、マスコットキャラクターを描くのが得意。
『繭ノ庭』とは

繭野きいとさんが創り上げている、個性豊かな生き物たちが暮らす創作世界。中学生の頃に考えた世界をベースに、現在も少しずつ世界観を広げています。
“ほっこり生物が棲まう庭”には、かわいいうさぎの“うさみんと”をはじめ、さまざまな住民たちが暮らしています。
ちなみに人間の姿の“繭野きいとさん”は、実は仮の姿。本体は“きいと”と呼ばれる“ぴかむし”という生き物で、『繭ノ庭』ではその世界を創る“庭の神”として存在しています。

Chapter01 絵を描けない自分にはなりたくない――繭野きいとさんが歩んできた絵の道

――絵はいつから描かれていましたか。また、どんな出会いだったのでしょう。
めっちゃ小さい頃から描いていたはずです。自分ではあまり覚えていないんですけど、幼稚園の頃にはすでに絵を描くことが好きだったように思います。“イラストレーター”という言葉を知らなかった頃から、将来の夢は“絵描きさん”と言っていました。
――小さい頃は、どんなものを描いていたか覚えていますか。
多分、小さい頃は『アンパンマン』とかを描いていたんじゃないかなと思います。幼稚園の時には、“りぼんをつけたダンゴムシ”という大作があって、あれは今でもお気に入りですね。

――本格的に絵を描こうと思ったきっかけ、絵の道に進もうと思ったきっかけを教えてください。
「学生の頃、進路を考えていく中で、徐々に“絵で仕事を得る”という方向に向かっていったような気がします。
私は人よりできないことが多いんですけど、自分の持っているスキルの中で、一番人に喜んでもらえる、役に立てる技術が、絵を描くことやデザインすることだったんですね。
中学生の頃には、自分で作ったオリジナルキャラクターが名古屋市立東星中学校の生徒会キャラクター「仲間っち。」として採用されました。2008年に採用されてから、2026年現在も使っていただいています。
ほかにも、グループ学習でみんなが調べたことを大きな紙に分かりやすくまとめたり、そこに挿絵をつけたりするのが得意で、メンバーに喜んでもらった経験もありました。やっぱり、自分が作ったものが人の役に立って喜ばれるのが嬉しかったですね。」

在校当時に提出したイラスト
――学生時代に多くの人に自分の絵で喜んでもらえたことが、絵の道に進むきっかけだったんですね。
そうですね。ただ、そこからストレートに絵の道に進んだわけではありませんでした。
高校2年生の時に美大への進学を考えて、河合塾の美術系の講座に通ったんですけど、当時の自分には、見たものをそのまま描く力はあっても、独創的な発想で描くことに自信がありませんでした。
美大に行っても食べていけない、仕事にならないという話も聞いていましたし、イラストレーターは大人になってからでも目指せる。それなら、まずは手に職をということで、国家資格で食いっぱぐれがないと親に勧められた看護師になりました。」
――そこから絵の仕事を始めたのにはどんな経緯があったのでしょう。
絵を描けない自分になりたくなかったんです。
自分から“絵を描くスキル”をなくしてしまったら、本当に何もできない自分になってしまうような気がして。でも、趣味として描き続けるのは自分にはできない。だったら、これを仕事にするしかないと思いました。なので、看護師をしながらも友達のツテでイラストのお仕事をさせていただいたり、イラストが描けるだけではダメだと思って貯めたお金でデザインの勉強をしたりしました。最初はデザインのお仕事がメインでしたが、徐々にイラストのお仕事もいただけるようになっていきました。
――画風に影響を受けているものや、描くことに影響を受けているものはありますか。
画風そのものが何に影響を受けたかは分からないんですけど、創作作品で動物のキャラクターを描くことが多いのは、『とっとこハム太郎』や『ポケモン』の影響が強いと思います。
仕事では、“どんな画風にするか”もデザインの一つだと考えていて、案件の目的やターゲットに合わせて描き分けています。
一方、自分の創作では、自分が何を好きなのかを探りながらいろいろな描き方を試しています。最近は、和風や北欧のようなテイスト、シンプルで平面的な表現が好きだなと感じています。

――描いていて好き、気づいたら描いてしまうモチーフ、部位、アイテムはありますか。
キャラクターには“まるほっぺ”を描くことが多いです。ほっこりと優しい印象になるので好きですね。大きな耳も好きなので、結果としてうさぎっぽいキャラクターが多くなる気がします。
あとは自然が好きなので草花を描くことも多いですし、虫も好きなので、作品の設定や目的に合えば虫の要素も取り入れています。
ただ、“気づいたら描いている”というよりは、作品に合うかどうかを考えて、意識的に選んでいますね。

――作品制作においての“こだわり”を教えてください。
“自分が納得できるクオリティ”を目指して制作することだと思います。
少しでも気になる部分があれば、時間の許す限り修正して、モヤモヤを解消した状態で提出するようにしています。
100点を目指しても、実際に出来上がるのは80点くらいだと思っているんです。最初から80点を目指してしまうと、結果として60点になってしまうかもしれない。だからこそ、まずは100点を目指すようにしています。
――制作するときのルーティーンを教えてください。いつ、どこで、どのように描かれているのでしょうか。
作品展やイベントへの参加、案件の受注などで、納期と責任が発生して“描かなくてはならなくなったとき”に描いています。
普段は自分の“巣穴”で、パソコンとペンタブを使ったデジタル制作が中心です。CLIP STUDIO PAINTや、必要に応じてAdobe Illustrator、Photoshopも使っています。
一方、間近でじっくり見てもらう展示作品では、アナログの方が見応えがあるので、アクリルガッシュで描くこともあります。
――これまでの作品制作で挑戦だったことを教えてください。
一番の挑戦は、作品展のために、慣れ親しんだデジタル制作ではなくアナログ制作に取り組んだことです。めっちゃしんどかったですね。
2年間看護師として働いて貯めたお金で、2019年から2020年にヒューマンアカデミー名古屋校でデザインを学びました。そのとき、デザインを教わっていた先生から、表現の幅を広げるためにもアナログで描いた方がいいと勧められました。画材の準備や制作場所なども先生に助けてもらいながら、B2サイズの作品を9枚描きました。
デジタルで使っていた表現を絵の具でどう再現すればいいのか分からず、描き直したいと泣きながら描いていました。自分では納得のいく作品にはならなかったんですけど、アナログでの表現方法を学ぶことができて、その後の作品展にもつながったので、とても良い経験になりました。

――絵を始めること、続けることの難しさと、それをどう乗り越えてこられたかを教えてください。
正直、乗り越えられているかというと、そうではない気がします。絵を始めるには一歩を踏み出す勇気ややる気、道具が必要で、続けるには、やめない、諦めない忍耐力が必要だと思います。それらを持ち合わせること自体が難しいんですよね。
私は、人間の世話が必要な蚕のように、一人では何もできない存在です。忍耐力もない方で、しょっちゅう“全部やめて消えたい”と言っています。
それでも続けられているのは、周りの方々からの期待や応援、支えがあるからです。“続けなければならない”という責任を力にして、作品という糸を紡いでいます。友人やヒューマンアカデミー、作品展を通じて得た人とのつながりが、続ける力になっています。
――活動を続ける中で、支えになっている言葉や出来事はありますか。
一つ目は、中学時代からの友達に言われた「頑張ってれば、誰かが見ててくれる」という言葉です。本当にその通りだと思っていて、何かやっていれば誰かが見てくれる、なんとかなるんじゃないかなと思えます。
二つ目は「ファン」と言ってくれる方々からの、作品を楽しみにしてくれている声です。
伏見地下街の展示を見てくださっている方が、イベントに出店したときにブースまで来て、「通勤のときに元気をもらっています」と言ってくださったり、私の創作作品の登場キャラクターとして参加してくれている友人たちがその世界観を楽しんでくれていたり、Xでいつも称賛をくれる方がいたりします。世間的に見れば少ない数かもしれませんが、私にとってはたくさんの期待や応援をいただいていると感じています。みんなに感謝です。
自分の創作作品は、自分が見ている世界を人に説明するための絵、という感覚が強いんですけど、そんな“説明のための絵”が、誰かの日々の活力になっていると知って、自分の作品にもそういう力があるんだと驚きました。
三つ目は、一緒に仕事をしているサメ革モノ専門店アトリエシャークのサメ兄さんから言われた「絶対裏切ったり、見捨てたりしないからね」という言葉です。自分より優れた人はいくらでもいるので、いつか必要とされなくなるかもしれないという不安があったんですけど、その言葉で安心して全力を注げると思えました。私も、コバンザメのようにどこまでもついていきます。

サメ革モノ専門店 アトリエシャーク
気仙沼産ヨシキリザメ皮革を使った製品の企画から販売までを行っている会社です。
繭野きいとさんはアトリエシャークのクリエイティブパートナーとして、商品開発やデザイン制作などに携わっています。クリエーターズマーケットなどのイベントに出店したりもしています。繭野きいとさんが描かれた“サメのガブちゃん”も公式キャラクターとしてここでPRのお手伝いをしています。
サメ革モノ専門店アトリエシャーク ▶︎ https://lit.link/ateliershark
――今後挑戦してみたい表現やモチーフはありますか。
デジタルとアナログを行き来してきた経験を生かして、それぞれでしかできない表現に挑戦していきたいです。
デジタルでは、動きをつけた表現などをSNSでやってみたいですね。アナログでは、立体感やキラキラとした表現、質感など、実物だからこそ楽しめる作品を作っていきたいと思っています。
Chapter02 通りすがりに「あ、かわいい」を――伏見地下街のギャラリー“ふしちかアート”での展示

(右)繭野きいとさん
――そもそも、この“ふしちかアート”はどのように始まったのでしょうか。
7、8年ほど前に、たまたま伏見地下街を通ったとき、改装前でところどころ広告枠が空いていたんです。“もったいないので使ったらどうですか”と提案したところ、当時の理事長さんから、“やりたい人がいるなら”という話をいただいて始まりました。
――繭野きいとさんがここで展示をしようと思ったきっかけを教えてください。
ヒューマンアカデミー名古屋校でデザインを勉強していたときに、伏見地下街でアート展示をしているうめちゃ〜んさんと出会ったことがきっかけです。そのときにお誘いをいただいて、2021年に初めて伏見地下街で個展をさせていただきました。
――こちらで現在展示している今回の作品について教えてください。
私の世界『繭ノ庭』に参加してくれている友達たちと、その仲間たちを描いた作品です。
一番大きなうさぎが“うさみんと”で、その仲良しの研究者“める“と、その子たちと仲の良い子たちを描いています。
二人は配信活動もしているので、背景はパソコンの画面やデジタル感をイメージした四角形で構成しています。“める”はコンピューターに関する知識が豊富な研究者なのでデジタル感のある装飾を、“うさみんと”はおしりからミントが生えていて、“かわいい“が売りの子なので、草やかわいい花の装飾を加えています。

――展示空間全体として、どのような体験にしたいと考えていましたか。
「伏見地下街は通路なので、みなさん歩きながら横目で見ていく場所なんです。だから、作品をできるだけ大きく印刷して展示することで、パッと見たときに“あ、かわいい”と思って、そのまま通り過ぎても楽しめるようにしています。」
ただの広告ではなく、“エンターテインメント”ですね。ここを通る人たちの日常の楽しみになればと思っています。お店で飲食などを楽しむように、こちら側ではアートを楽しんでもらう。そんな場所にしています。
――実際に展示をしてみて、印象に残っている反応はありますか。
「いつも楽しんでいます」と言ってくださる方もいることですね。
展示をきっかけに作者のSNSを見て、そこからほかの作品にも興味を持ってもらえることもあるんです。そうやって、いろいろなところにつながっていくのがいいですね。
みなさんもぜひ、見に来てみてください。
ふしちかアート
名古屋市営地下鉄・伏見駅の東改札口から直結する「伏見地下街」で行われているアート展示企画。地下街の壁面にある広告枠を活用し、複数の作家の作品を展示しています。
通勤や買い物で地下街を通る人が、日常の中で気軽にアートを楽しめる場所となっています。
場所:
愛知県名古屋市中区錦2丁目13番24号先 伏見地下街
地下鉄東山線「伏見駅」東改札口から直結。
ふしちかアート参加アーティスト一覧 ▶︎ https://lit.link/fushichikaart
X(作品入れ替えのお知らせなど) ▶︎https://x.com/fushichika_art
Chapter03 いつか『繭ノ庭』を人間界に――繭野きいとさんが描く未来とメッセージ

――将来の夢を教えてください。
いつか大きな会場を借りて、『繭ノ庭』の世界を人間界に再現するような、テーマパークみたいな展示をしてみたいです。見ている人も参加できる世界にできたらいいなと思っています。
そのために、もっと『繭ノ庭』を作り込んだり、SNSを整えたり、お金を貯めたりして、今は土台づくりに力を入れたいです。
そしていつか、“繭野きいと”という名前そのものが一つのブランドとして価値を持って、私が関わることが取引先さんのプラスになるような存在を目指しています。
――繭野きいとさんにとって絵とはどんな存在ですか。
私にとって、絵や制作物は“自分を守る繭”です。
自分はちっぽけな芋虫なんですけど、たくさんの糸=作品を吐いて、大きくて強い繭を作ることができれば、人間様に気づいてもらえるし、踏み潰されることもありません。
だから、自分を守るうえでなくてはならない存在ですね。
――これから絵の道を目指す人や、絵を描いている人にメッセージをお願いします。
絵を描くことを、息をするようにずっと楽しめる人もいると思うんですけど、そうじゃない人も多いと思います。私はめちゃくちゃしんどい派です。
一人ではどうしたらいいか分からないときは、周りに頼るのも一つの方法だと思います。作品展に参加して人と話したり、スクールで先生や仲間と直接話したりすることで、方向性が見えたり、新しい道が見つかったりすることもあります。
ただ、周りからもらえるのはあくまで“きっかけ”です。それを自分の力にしていくためには、自分自身で行動することも必要です。
“絵の道”は、自分の画風で人気を集めて仕事にすることだけではありません。最初に思い描いていた道とは違っても、何かしら別の道はあるはずです。
私もまだ悩みばかりで、どの方向が正解なのか分かりません。それでも周りの方々のおかげで生きています。とりあえず“消えないように”を目指して、一緒に頑張っていきましょう。

インフォメーション
〇各種リンク
イベント予定・各種SNS ▶︎ https://lit.link/mayunokiito
『繭ノ庭』について ▶︎ https://mayunoniwa.square.site/