イントロダクション
幻想的なのに、なぜか見覚えがある。
静かな街並みと、顔の見えない白い人物。
その傍らには、不思議な生き物たちが当たり前のように溶けこんでいます。
こんなふうに蒼川わかさんの描く世界は、現実の風景と幻想的な存在が同居しているのが魅力。
自分の記憶の中にある場所のようにも、いつか見た夢の中の景色のようにも感じられ、見たことがないはずなのに、なぜか懐かしい気持ちになるんです。
蒼川わかさんは、どのようにしてこの世界を描くようになったのでしょうか。
今回のインタビューでは、その原点から作品の描き方、個展、そして絵と向き合い続ける思いまで、お話をうかがっていきます。
作者プロフィール

蒼川わか(Aokawa Waka)
つぎはぎのような記憶の断片をもとに、街並みや喫茶などの心象風景を制作。
日々変わりゆく静寂な景色を、水彩やアクリルのアナログ画材で描く。
東京や大阪にて個展を開催するほか、文具や広告イラストなどを手掛ける。
<WORK>
「画材と文具の小さな商店街 2026」イベントイラスト / 文房堂
「海中喫茶」 雑貨イラスト / RYU-RYU
「空時間・空景色」 雑貨イラスト / RYU-RYU
「季刊エス85号 呉竹”顔彩耽美”メイキング 」パイ インターナショナル など
<Solo Exhibition>
2026 「語らい継ぐ水の色」喫茶 水鯨(大阪)
2026 「ひなたのまぼろし」文房堂 Gallery Cafe (東京)
2025 「ゆらめく水景」TEAVRIL (神奈川)、unimocc art cafe gallery (大阪)
2025 「日々と街灯り」村田商會 (東京)
2025 「imaginary」SUNNY DAYS Pudding Cafe (東京) など
Chapter01 白い人物と、不思議な生き物たち――日常と空想が溶け合う、蒼川わかさんの“作品世界”
幻想的なのに、どこか懐かしい――そんな蒼川わかさんの作品は、どのように生まれたのでしょうか。
まずは、白い人物や不思議な生き物たちが暮らす、“作品世界”の秘密からひも解いていきます。
――蒼川わかさんの作品には、現実の風景の中に非現実的なものが溶けこんでいて、夢を見ているような雰囲気がとても素敵です。この画風になったのはいつからなのでしょう。
実は、最初は漫画テイストで女の子の人物画を中心に描いていました
――なぜ人物画から風景を主体とした作品へ?
日頃から、人物よりも背景を優先的に眺めていることが多く、次第に“風景画を描くほうが楽しいのでは”と考えるようになったんです。それから風景メインの作品をもっと描きたいと思い、好きな風景や喫茶店が主体の作品を描くように変化していきました。
――さらにそこから幻想的な世界観を織り交ぜるように変化したのはなぜでしょうか。
見た風景をそのまま絵にするのではなく、どうすれば経験や感じたことを活かせるか考えたんです。
そのときに、ファンタジーの世界も好きだったことを思い出して、それを織り交ぜながら作品を描くようになりました。
風景から受けた印象を作品として描くため、青系の色味を使用したり、不思議な生き物を描き加えるなどの工夫をしています。
――幻想的な世界観をより強くしているのが、かわいい謎の生物たちの存在です。作品の中にこの子たちを描かれるのにはなにか意図があるのでしょうか。
“かくれんぼ”のように、作品のいたるところに生き物を登場させたくなる癖があるんです。
作品の雰囲気によっては描かないこともありますが、おばけちゃん、イカなどの海洋生物、鳥といった、小さなキャラクターをよく描いています。ほかにも、“植物くん”と名前をつけた、園芸を擬人化したような、人ではないけれど親しみのある存在も描いています。
例えるならば、一緒に散歩をしたり、旅を共にする、“イマジナリーフレンド”のような存在ですね。
作品に描き加えることで、ただきれいで幻想的では終わらない、いい意味での“ノイズ”になってくれていると思っています。


――この子たちは、いつどうやって生まれたのでしょう。
思い返してみると、小学生の頃にはすでに存在していましたね。
昔から、頭の中で空想の物語を作ることがあって、そこにいた子たちを描いているような感じです。
自分でも、どうしてこうしたキャラクターを描くようになったのかは分かりませんが、いろいろな絵本を読んでいたことが、きっと影響しているんだと思います。
――もう一つ幻想的な世界観を強めているのが、白くぼんやりと描かれている人物だと思います。以前は人物画を描かれていた蒼川さんが、このように人物を描かれているのはなぜなのでしょうか。
人物をはっきりと描くと、シチュエーションが限定されるためです。
例えば、“制服姿”と“道路”を描いた場合、“学校への通学”だと受け取られやすく、物語や意味合いがある程度決まってしまいますよね。
想像の余地を残したい、夢の世界のような作品を描きたいと思うようになり、あえて顔や表情を描かず、ぼんやりとした不可思議な白い人物を描いています。
“どんな表情をしているんだろう”と、作品を見ながら自由に想像してもらえたらうれしいです。
――今の世界観や絵を描くうえで、影響を受けた作家はいますか。
水彩画家では、瑞々しい花を描かれている“永山裕子”さん。
絵本画家では、優しい水彩の滲みが特徴的な“いわさきちひろ”さん、自由でのびのびとした画風の“荒井良二”さんです。
以前、文房堂にて2人展をしたことのある“momoc”さんからも影響を受けています。絵本のような、カラフルでかわいらしい作風で、すごく好きな作家さんなんです。
◎momocさんは大阪の個展にて、同時期にギャラリーの1階にて個展を開催されます。
あとは作家ではありませんが、喫茶店から影響を受けていますね。
――喫茶店に影響を?
はい。私は喫茶店がとても好きで、時間を見つけてはよく行っているんです。間違いなく影響を受けているものだと思います。好きが高じて、喫茶の本を作ったり、様々な喫茶店にて個展を開くようになりました。

https://waka.booth.pm/items/8499169
――喫茶店を好きになったのにはなにかきっかけがあるのでしょうか。
難波里奈さんの『純喫茶へ、1000軒』を読んだことがきっかけですね。
もともと喫茶店は好きでしたが、この本を読んでから、各地に素敵な純喫茶が存在することを知りました。それから、いろいろな喫茶へ足を運ぶようになりました。
純喫茶は外観や内装だけではなく、飲み物や食べ物のメニューなど、お店ごとに異なる個性を持っているところと、木を基調とした優しい雰囲気が魅力的でよく行っています。
そこでしばらくぼんやりと過ごしたこともあって、そういった時間が、作品に大きな影響を与えていると思います。

※現在絶版中
――自分が描いた作品をどのように受け取ってほしいと考えていますか。
いろいろな解釈をしてもらいたいですね。
“こういった場所が実際にあるのかな”と想像したり、自分の幼少期を思い出したり……本当にどんなふうに受け取ってもらってもうれしいです。
作品ごとにコンセプトはありますが、必ずしもそれに沿って見てもらわなくても良いと思っています。自由に受け止めてください。
Chapter02 写真も、デジタルも、水彩も――作品からひも解く、蒼川わかさんの“描き方”
作品のお話をうかがう中で、蒼川わかさんの描く世界観の秘密が少しずつ見えてきました。
続いては、制作の側面――“描き方”から、その秘密にさらに迫っていきます。

――どのようなルーティンで作品を制作されているのでしょう。
基本的には、夜に自宅の机で制作することが多いです。
アナログとデジタルの両方を使うため、机の上にはパソコンやペンタブの他、パレットや色鉛筆など、たくさんのものがあります。一枚の絵でさまざまな画材を使うため、机の上は散らかりがちです。
――アナログとデジタルの両方を使っているんですね。
基本的にラフまではの作業はデジタル、仕上げの着彩はアナログです。
実在する場所をモチーフにするときは、自分で撮影した写真をもとにデジタルで構図を作ります。ラフが完成したら、紙に出力して線画を水彩紙にトレース。その後、水彩などのアナログ画材で仕上げていくという流れです。
大まかな色合いを決めた後、水彩紙に水彩や下地材を塗り、乾いた後に線画を描きはじめます。
――喫茶店に影響を受けて、喫茶店の本を作ったとおっしゃっていましたが、喫茶店や外で描くといったことはないのでしょうか。
ほとんどないですね。
喫茶店はその場の雰囲気を楽しんでいるところもあるので、基本的には食べたり飲んだりぼーっとしたりして過ごしています。少し喫茶店の模写をすることはありますが。
“次はどんなテーマの展示をしようか”、“何を描こうか”など、考えたことをメモすることも多いです。
野外でスケッチをすることはほぼ無く、写真を撮影することがほとんどです。撮った写真を参考に、家で描いています。
――制作のルーティンでは、いろいろな画材を使うとおっしゃっていました。作品を描くうえで、画材についてこだわっていることはありますか。
基本は透明水彩をベースにしていますが、アクリル絵具や色鉛筆、塩など、思いつきで様々なものを組み合わせています。
メディウムやラメ入りの絵具などを使用し、表面を少しざらざらさせたり、画面にキラキラとした描写を加えることもあります。水彩だけでは出せない質感や、画材を組み合わせることで生まれる表情を大切にしています。
例えば、この作品は実際の風景を写実的に描くのではなく、少し曖昧な“うろ覚え”のような形で表現したいと思いました。そのため、少し白くもやがかった部分を描くなどの工夫をしました。
――こちらの作品では、線をあえて残したような部分や、手描きの跡を生かした表現が見られます。なぜ、このような描き方を取り入れたのでしょうか。
小学生の子どもがモチーフの作品のため、色鉛筆で描いたラクガキのような表現を加えたいと思ったんです。
そのため、鉛筆の線をあえて残したり、色鉛筆でいろいろと描き加えたりしています。そういった表現も、作品を描くうえでのこだわりの一つですね。
――これまでさまざまな作品を描かれてきた蒼川さんがこれは挑戦だったなと感じるものはありますか。
少しずつ新しい表現を取り入れたいと思っているため、常に挑戦している部分はありますね。
その中で一つ挙げるとしたら、『風景の解像度』という作品が印象に残っています。
A1サイズの大作のため、最初はどのように描くか悩みました。
最終的には、正面から見た高架下の風景と、高い建物から見下ろした都会の風景、渦巻きのような抽象的な表現を組み合わせました。
――今作のところどころに見られる、ドットのような表現には、どのような意図があるのでしょうか。
自分で見たはずの風景を思い出そうとしても、一部を思い出せないことってありますよね。そのあやふやで、もどかしい感覚を表現しようと思い、ドットが崩れているような表現を取り入れました。
ドットの描写は、スーパーファミコンのゲームやテトリスなどから影響を受けています。
いつか描いてみたいと思っていた、ドットによる表現に挑戦できましたし、いろいろな表現を一枚の中で集約しているという意味においても、ほかの作品と比べてチャレンジングな一枚だと思います。
Chapter03 喫茶店も、作品と出会う場所に――日常の中に溶けこむ“個展”
ここまでのお話を通して、幻想と現実が混ざり合う世界観の解像度が、少し上がってきました。
お話をうかがったあとに改めて作品を見ると、これまで気づかなかったものが、ふっと浮かび上がってきます。そんな見え方の変化もまた、どこか幻想的です。
この章では、そうして生まれた作品を“個展”という場でどのように見せ、届けているのか、その工夫や思いを探っていきます。

https://waka.booth.pm/items/4147255
――個展を始めようと思ったきっかけを教えてください。
個展よりも先に、コミティアなどのイベントやグループ展に参加していました。
少しづつ作品が増え、展示に慣れてきたことで、“好きな場所を借りて、空間を作りながら展示してみたい”と思うようになりました。
――個展には、どのような魅力を感じていますか。
グループ展よりも作品をたくさん飾ることができますし、どこにどの作品を飾るかを自分で決められるところが魅力です。
ギャラリーのほか、喫茶店などで個展を開催することもできます。以前は、古民家のような雰囲気の場所を借りて、個展をしたこともあります。すべて自分で、自由に決められるところが楽しいです。
――個展では、展示する作品や空間全体の構成など、どのように決めているのでしょうか。
作風やテーマがその時々で異なるので、コンセプトに沿った展示作品を選んでいます。
以前の個展では、青い作品をまとめて涼しげな空間を作ったり、“朝”と“夜”の作品を分けて展示し、時間の流れを楽しんでもらえるように工夫しました。
――個展の会場として、喫茶店を選ぶようになったきっかけを教えてください。
きっかけは、東京・西荻窪にある喫茶店『村田商會』さんのクラウドファンディングでした。そのリターンの中に、個展を開催できるプランがあったので応募したんです。
そこで展示を何度かするようになり、次第に喫茶店での個展にハマっていきました。



――喫茶店で展示することには、どのような魅力がありますか。
喫茶店は空間そのものが個性的なため、ギャラリーとは違った作品の見え方が生まれるところが面白いです。
――ギャラリーとは違った見え方、というのは?
ギャラリーでは、白い空間で作品を壁に展示することが多いです。
一方で、喫茶店ではテーブルや窓辺など、喫茶店の空間に溶け込むような場所に作品を飾れることがあります。好きなものを食べたり、誰かと話したりしながら、ゆったりと作品を鑑賞することで、ギャラリーとは異なる作品の見え方が生まれます。



――喫茶店で展示することで、普段ギャラリーに足を運ばないお客様にも作品を見てもらえるのも大きいですね。
そうですね。ファンの方以外にも、作品を知っていただけることは大きな魅力です。
年齢層が幅広く、常連さんから海外の方まで、本当にさまざまな方にご覧いただいております。
“喫茶店へ来たついでに作品を鑑賞してもらえる”ということが、私の作品が日常に入りこんでいるように感じられて面白いです。そこも、喫茶店で展示をやってみて良かったと思った点の一つです。
――個展を続けるうえで支えになっている感想はありますか。
たくさんあります。
見に来れてよかったネットでは見ていたけど、原画を見られてよかったまた見たいですなど言っていただけたときは、“展示してよかった”、“続けてきてよかった”と思いました。
こうした感想をいただける場所は、個展がほとんどなんです。
だからこそ、見に来てくださった方からいただく言葉は、どれも活動を続ける支えになっています。
あとは感想ではないんですが、印象に残っている出来事がありました。
小学生くらいの男の子が、私の絵をじーっと見つめていたんです。
しばらくの間、じっと作品を眺めてもらえたことがうれしくて。
声はかけられませんでしたが、“何を思ってくれていたのかな”と今でも印象に残っています。
また、神奈川県秦野市を描いた作品を展示したときに、秦野に住んでいる方から秦野のことが、より好きになりましたと言っていただけたことが、とても印象に残っていますね。
その方にとって日常的だった風景を、私の作品を通して“ここっていいところなんだな”と再認識してもらえたことが、すごくうれしかったです。

https://waka.booth.pm/items/7032546
他にも、喫茶店で展示した際にいろいろな喫茶店を知ることができてうれしいというご感想をいただくことが多々あります。作品を通して、喫茶店とお客さんをつなぐ架け橋のようなことができたときには、喫茶店で個展を開催する意義を実感して、やりがいを感じました。
Chapter04 描き続ける人、これから描き始める人へ――絵と向き合うあなたへの“メッセージ”
作品世界の成り立ちから、描き方、個展という届け方まで――ここまでのお話を通して、作品の魅力の秘密だけでなく、蒼川わかさんが作品と向き合い、活動を続けてきた道のりが見えてきました。
最後の章では、その歩みの先にある思いと、記事を読んでくださった“これからの挑戦者”へのメッセージをお届けします。
――蒼川わかさんにとって、絵とはどのような存在ですか。
“相棒”ですね。
これまで、絵のことばかりを考えて生きてきましたし、作品を描くことが一番楽しいんです。絵を描けなくなってしまったら、生きる意味を失い、無気力になってしまう気がします。それくらい欠かせない存在なので、絵は私の“相棒”のような存在だと思っています。
――これから絵に関する挑戦をしたいと考えている人へ、メッセージをお願いします。
絵に関する活動には、展示や個展、喫茶店とのコラボ、書籍、広告のお仕事など、さまざまな形があります。これまで参加した展示やイベントの中には、失敗をしたり、思うような結果を出せないこともありました。それでも、活動を続けてきたからこその出会いもたくさんありましたし、無駄なことはないと思っています。
続ける中で、挫けてしまうこともあるかと思いますが、そんなときは、好きなことをしながら一度休んでみてください。そこから、いろいろな発見や活力が溜まってきたら、また描き始めれば大丈夫です。一緒に頑張りましょう。
インフォメーション
〇SNS
Instagram:https://www.instagram.com/aokawa_waka/
HP:https://www.aokawa-waka.com
POTOFU:https://potofu.me/aokawawaka
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〇販売
イラスト本 販売:https://alice-books.com/item/list/all?circle_id=674
イラスト集、グッズ、ミニ原画:https://waka.booth.pm/
〇個展の予定


夢で見た出来事が現実のように感じる。
そんな不思議さを抱えながら、あやふやな
記憶の迷路の中で生きている。
大阪や東京の街を描いた心象風景などを展示します。
水彩やアクリルで描いた原画のほか、
画集やメイキング集、グッズ販売もございます。
個展『さめない夢』
2026.9.18 (金)~29 (火)
11:00~18:00
(初日・金曜~19:00,火曜・最終日~17:00)
※23日(水)、24日(木) お休み
ART HOUSE
〒550-0014 大阪府大阪市西区北堀江1-12-16 2F
〇2026年の予定
・9/26,27(土日) 「ARTdecoration -夢の彩庭-」アートドローイングイベント
サクラアートサロン(大阪・中崎町) / 参加作家 : umi、芦屋マキ、蒼川わか
・10/22(金)~11/3(火祝) 東京個展 / にじ画廊(東京・吉祥寺)
〇新作メイキング集
『TEGAKI making book』蒼川わか/著
TEGAKI making book
B5 / 20p / フルカラー
2025~2026年制作の10作品によるメイキング。
制作過程のほか、使用画材や作品テーマを掲載しています。
個展、COMITIA、BOOTH通販などで販売中。