驚きと恐怖を生み出す物語術――織守きょうや先生にインタビュー!

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「本」の挑戦者たち

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驚きと恐怖を生み出す物語術――織守きょうや先生にインタビュー!

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HAPPY!

いっちーです!

今回ご紹介するのは、ミステリーやホラーを中心に、恋愛小説まで幅広いジャンルの物語を手がける作家・織守きょうや先生。

読みやすい文章の中に張り巡らされた仕掛けと、物語の先に待つ鮮やかな驚き。それらの物語は、どのように生み出されているのでしょうか。

今回は、海外で日本語の本を追いかけた読書体験や、投稿を重ねてデビューするまでの道のり、ジャンルを越えて描き続ける理由、そして『隣人を疑うなかれ』に込めた仕掛けについて、たっぷりお話をうかがいました!

それじゃ~いってみよー!

Chapter01 海外で、日本語の本を追いかけて――織守きょうや先生の“物語の原点”

まずは本との出会いを教えてください。たしか幼少期は海外にいらっしゃったんですよね。

そうですね。海外にいました。なので、私の記憶の中で一番古い本は、英語版の『はらぺこあおむし』です。
現地で手に入るもので、読み聞かせもしやすかったのかなと思います。同じ時期には、日本から買ってきたと思われる日本語の『ノンタン』も読んでいました。
その後は、子ども向けの名作シリーズや絵本を読んでいました。スーパーでも売っているような、フルカラーで少し漫画のようなイラストが入った『人魚姫』や『シンデレラ』などです。
小学校に入ってからは、偕成社のハードカバーで、少しSF要素のある児童書なども読んでいました。

自分で初めて買った本は覚えていますか。

ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』です。多分、映画を観た影響で欲しくなったんだと思います。
児童書ではない大人向けの本として初めて買ったのは、田中芳樹さんの『創竜伝』です。きっかけはその文庫本版のカバーを描いていた漫画家さんが好きだったからです。今でいうライト文芸に近いジャンルで、キャラクターが立っていて、児童書にはないような風刺のきいた文章も新鮮でした。初めて自分で買い続けたシリーズだったと思います。

これまでの読書遍歴について教えてください。

中学生になったころから、集英社のコバルト文庫はよく読んでいましたね。
とくに若木未生さんの『ハイスクール・オーラバスター』や『グラスハート』シリーズはコバルト文庫版を全部持っていて、その後の版も買っています。女の子向けのライトノベルにはティーンズハートやホワイトハートなどもありましたが、コバルト文庫は恋愛だけではなく、ファンタジーや戦う物語も多かったので好きでした。
今も大好きな京極夏彦さんや有栖川有栖さんの作品に出会ったのは、海外に住んでいた頃でした。
現地の日本語書店で本を買ったり、『活字倶楽部』を読んで、ランキングに入った本や紹介されていた本を取り寄せたりしていましたね。

『活字倶楽部』は、作家へのインタビューや書評、読者からのはがきやイラスト、キャラクターの人気投票などが載っている雑誌。

海外で日本の作品を買うとなると、やはり高かったのではないですか?

高かったです。中には定価の3倍ほどするものもありました。それでも好きで買っちゃいましたね。あまりにも欲しかったので、日本へ一時帰国する父にねだって、誕生日プレゼントに“京極夏彦セット”を買ってきてもらったこともあるくらいです。

その中でも、現在の作風に影響を受けた作品はありますか。

若木未生先生には、すごく影響を受けたと思います。モノローグの書き方や文章のリズムが美しくて、中学生の頃には、その文章をルーズリーフに書き写していました。
また、京極夏彦さんの作品にも影響を受けていると思います。
以前、綾辻行人さんから、「地の文とモノローグが混ざるタイミングに、京極夏彦さんの影響が見られる」と言われたことがあって。自分では意識していませんでしたが、京極さんの文章をかっこいいと思って読んできたので、かっこいい文章を書こうとして、その影響が出たのかなと思います。

本以外に、影響を受けたものや好きなものはありますか。

色んなものが好きだし、影響を受けていると思いますね。
たとえば、ゲームとか。作家になるまではほとんどゲームで遊んだことがなかったのですが、デジタルのゲームは、ミステリーゲームのテストプレイとコメントを依頼されたことをきっかけにやるようになりました。
その後、我孫子武丸さんにアナログゲームの会へ誘っていただいたことで、ボードゲームやマーダーミステリーも始めました。
その後グループSNEさんから「マーダーミステリーを作りませんか」と声をかけてもいただきました。
なので、ゲームから直接影響を受けたというより、人に教えてもらい、挑戦したことで世界が広がった感覚です。いろいろなことをやってみると、何が仕事につながったり、新しい世界も開けるのだと思いました。

それから、昔から好きなものの一つが、舞台です。
舞台は、そのときにしかない空気が生まれるところも魅力ですが、私が興味深いと思うのは、メディアによって異なる“リアリティのライン”です。
小説では、登場人物がどのような組織に属し、なぜ出来事が起きたのかなどを、細かく設定して説明する必要があります。漫画も比較的きちんと描かなければなりませんが、ドラマや映画には尺があるため、“説明されてはいないけれど、きちんと設定されているのだろう”と受け入れてもらえる部分があります。
舞台では、2時間ほどの上演時間と舞台上だけで物語を成立させなければならないので、かなり飛躍した設定でも観客に受け入れてもらえます。マーダーミステリーも、最初にルールを示しておけば、現実に起こり得るかどうかをあまり問われません。メディアによって許容されるリアリティの幅が違い、その分、小説より自由にできる部分もあることが面白いです。

先生の最近読んだオススメの本を教えてください。

最近読んだ中では、東京創元社から出ているエリーザ・ホーフェンの『暗黒の瞬間』という弁護士ものの連作短編集が、すごく良かったです。

エリーザ・ホーフェン/著 
浅井 晶子/翻訳(東京創元社)

あらすじ

30年以上のキャリアに幕を引くことを決意した、ベルリンの刑事弁護士エーファ。凄腕で知られる彼女は、多くの忘れがたい事件を手がけてきた。11人が被告人となった裁判で1人だけ無実の者がおり、全員がそれは自分だと主張している。1人を救うため10人を無罪とすべきか。厄介だがよく議論される類の事件だと思われたが……。ひとつの証言、発見、弁護活動でその姿が一変する平凡な裁判、そして異常な裁判――。驚異の新人による、息を呑むような完璧なる連作短編ミステリ!

女性の刑事弁護士が主人公で、彼女が関わった事件が書かれています。文章が良かったですし、一編一編のクオリティが高くて面白かったです。

弁護士ものなんですね。織守きょうや先生は元弁護士という肩書きもお持ちですが、実際の現場に近いものを読むのに抵抗はないのでしょうか。

たしかに、勉強していたときや現役のときは、仕事をしていない時間まで法律ものを見たくないと思っていました。
それに、日本のドラマは、映像として面白くするために現実にはない場面も表現するので、そういったところが気になって思わずツッコんでしまうんですよね。
ただ『暗黒の瞬間』は、海外作品で法律や制度が違うため、あまり気にせず見ることが出来るんです。それに、作者自身も法曹の専門家なので、リアリティがあり、突っ込みどころもありません。日本で同じことをすれば問題になる場面はありますが、作者も理解したうえで書いていると分かるので、“現実を知らないために生まれた嘘”がないんです。純粋にミステリーとしても面白いのでオススメです。

Chapter02 “あわよくば小説家になりたい”――投稿を重ね、デビューするまで

ペンネームの由来を教えてください。

小説を応募した先がライト文芸っぽいレーベルだったので、適度に派手さというか、中二っぽさのある名前がいいなと思って考えたのですが、“織守”は実はアニメのキャラクターからきています。
その当時、『TIGER & BUNNY』というアニメが人気で、私の推しヒーローが“折紙サイクロン”という名前でした。
その“折紙”という響きがかわいいなと思って、拝借することにしたんです。でもそのまま使うわけにはいかないので当て字を考えました。
“神”の字は中二っぽすぎますし、ほかの字は画数が多かったり、字のバランスが良くなかったりしたので、“備前守”などに使われる“守”を当てて、“織守”にしました。
“きょうや”は、著者の性別を意識せず読んでもらいたいと思って、どちらかというと男性よりの、中世的な名前を選びました。ひらがななのは、ちょうどいい漢字が浮かばなかったからですね。

作家になりたいと思ったのはいつ頃ですか。

実は“どうしても小説家になりたい”という強い思いはそこまでなかったんです。
小学生の頃には学校の壁新聞に文章を書き、中学生ではノートに小説も書いていました。大学生のときには作品の投稿もしていましたし、就職してからも投稿していました。
その頃には、仕事をしながら“あわよくば小説家にもなりたい”と思っていましたが、作家になった自分を具体的に想像していたわけではなくて、本当にぼんやりと“なれたらいいな”と思っていた感じです。

デビューまでにどんな努力をされましたか。

自分が何に向いているかを知るためにいろいろなジャンルを書いてみました。
ミステリー、ライトノベル、ハイファンタジー、少女小説など、ジャンルを決めて作品を書く練習をしていたんです。
とあるライトノベルの新人賞に応募したとき“面白く読みましたが、文章がライトノベルのものではなく、一般文芸向きだと思います”という講評でいただいて、それで、自分の文章は一般文芸向きなのだと知りました。
それが、結果として自分のデビューにつながったので、分からないからとりあえずわかるまで書いたことが私のデビューにつながった努力かなと思います。

初めて自分の作品が本になったときのことを覚えていますか。

見本を手にしたときの気持ちはもう覚えてないんですが、受賞したときのことはよく覚えています。
母と焼き鳥屋のカウンター席にいたときのことでした。スマホの留守番電話に気づいて再生してみると、編集部ですというメッセージが入っていて、店の外で折り返し連絡したんです。それで、「受賞です」と伝えられました。
その後は母に受賞したことを伝え、祝杯を挙げましたね。

実際に、書店には見に行かれましたか。

はい。見に行きました。
今でも、初めて降りる駅に書店があると、こっそり覗いて、自分の本を置いてくださっているか確認してしまいます。
なければそっと立ち去り、置いてあったら、こっそり手を合わせて“ありがとうございます”と思ってから帰ります。
毎日たくさんの本が出る中、限られた棚にわざわざ選んで置いてくださっていると思うと、本当にありがたいです。

Chapter03 ミステリーも、ホラーも、恋愛も――ジャンルを越えて残る“織守きょうや先生らしさ”

織守きょうや先生といえばミステリとホラーのイメージがありますが、それらを書くようになったきっかけを教えてください。

実は最初は私、自分のことをミステリー作家だとは思っていなかったんですよ。
『記憶屋』にもミステリーの要素自体はありますが、実は自分ではミステリーだと思って書いていないんです。
多分、私自身がミステリーを好きで、読者を驚かせたり、物語をひねったりすることが“面白い話の基本”だと考えていたから、結果としてミステリーのような作品になっていたんだと思います。
ホラーは、『記憶屋』が角川ホラー文庫から刊行されたことがきっかけです。ただ、『記憶屋』は怖さより切なさが先に来るようなお話だったので“きちんと怖いホラーも書ける”と示したくて、刊行後にさまざまなホラー小説や映像作品を見て勉強しました。

ホラーとミステリは近いところにあるジャンルのような印象があります。二つのジャンルの境界について、どのように考えていらっしゃいますか。

いろいろな定義があるので一概にこれだとは言い切れませんが、私は“謎と解決の物語”がミステリーだと思っています。
一方、ホラーは“恐怖と怪異の物語”と考えています。ただ、怪異が登場しないホラーもあるので、広くいえば“恐怖を書く物語”ですね。
この二つが合わさったものでいうと、たとえばホラーで、“なぜこんなことが起きるのか”“どうすれば助かるのか”という謎が生まれることがあります。
ただ、ホラーでは、その謎を解決しなくても構わないんですよね。
ここで、呪いの原因を推理や調査によって突き止め、解決まで書けば、ホラーでありながらミステリーにもなる。そこが境界だと思っています。

先生の作品は怪異だけでなく、人の悪意や怖さも上手く表現されています。なにか意識されていることはあるのでしょうか。

ヒトコワなど、人間の悪意を書く場面では、その描写が長くなりすぎないように意識しています。
怪異を扱うホラーであれば、怖い場所に迷い込み、そこから逃げるまでを長く書くことで、恐怖が伝わる。
その一方で、人の怖さ、たとえば虐待や暴力の場面は、ねちねちとした悪意を長く描いてしまうと、私の読者が読みたいものではなくなってしまうんですよ。
読者が知りたいのは、“そういう人がいて、こういうことが起きた。その先はどうなるのか”という部分だと思うので、早めに場面を転換し、重くしすぎないようにしていますね。

ミステリーやホラーを書く一方で、先生は百合の作品や恋愛ものも書かれていますが、書くときの感覚に違いはありますか。

けっこう違いますね。
ミステリーやホラーは出来事やストーリーが大事なので、“怖い”“どうしよう”といった感情は書いても、一つひとつ細かく掘り下げはしません。
逆に、恋愛ものは感情の流れが大事なので、登場人物が何を考え、どう反応したのかを、もっと熱く、ウェットに書きます。大筋に関係のない会話でも、読者がキャラクターを好きになったり、登場人物同士の関係が深まったりするなら必要なんです。
何に注目して書くかが違うので、作品の雰囲気や語り手の年齢性別に合わせて自然と文体も変わってきますね。

織守きょうや先生の作品(一部)

トリックや動機、犯行の流れ、物語、キャラクターなど、どこから思いつくことが多いのでしょうか。

作品によってばらばらですが、メイントリックや展開から考えることが多いですね。
『隣人を疑うなかれ』では、最後の“もう一展開”を最初に思いつき、そこから逆算しました。
『花束は毒』は、メインとなる真相の逆転から思いついて、そこへ至る物語を組み立てていきました。
一方、『ライアーハウスの殺人』は、珍しく設定から考えた作品です。お金に物を言わせて連続殺人に適した館を建てるという設定を先に思いつき、その後で事件や大きなオチを考えました。
『学園の魔王様と村人Aの事件簿』もいつもとは違う作り方で、ミステリーでは珍しく、キャラクターの関係性から生まれた作品です。男子高校生の2人を先に作り、その関係性に合う事件を考えました。
なのでトリックや展開から考えることが多いですが、作品によっては違うこともあるというのが答えです。

執筆で大切にされていることはありますか。

私の読者には、キャラクター同士の関係性に注目して読んでくださる方が多いので、キャラクターをきちんと書くようにしています。
あとは、“どの読者層に向けて書くのか”“何を求められているのか”も考えています。
たとえば、“10代から20代に向けた、恋愛要素のあるミステリー”という依頼であれば、その読者に合うものを考えます。アンソロジーでも、ほかの執筆陣を見て、“このメンバーなら皆さんが変化球で来るだろうから、私は王道を書いた方がいい”と判断することもあります。
ジャンルによって文体や力を入れる部分は変えますが、どの作品を読んでも“やっぱり織守きょうやの作品が好きだ”と思ってもらえるように、自分らしさも大事にしています。それは、キャラクターの書き方に表れるのかもしれません。

ホラー作品を書く一方で、先生自体はホラーはお好きなのでしょうか。

今は以前より大丈夫になりましたが、子どものころは怖い漫画のページをホッチキスで留めて、開かないようにしていたくらい怖がりでした。ホラー作家の牧野修さんも同じことをしていたそうなので、もしかしたら怖いものがある人の方が、怖いものを書けるのかもしれませんね。
小説を書くようになってからは、“ここで伏線を張っている”“ここは緊張と緩和だ”と分析しながら観ることで、恐怖をごまかせるようになりました。ただそれでも、いまだに怖いなとも思っています。
特にホラーゲームは、映画や小説と違って“ここを通ったら何かが起きる”と分かっているのに、自分で進まなければならないじゃないですか。それが怖くて、せっかく買ったのに途中でやめちゃったんですが、続きは気になったので、実況動画で最後まで見ちゃいました。

これまでいただいた感想の中で、特に印象に残っているものはありますか。

たくさんあるので、絞るのはむずかしいのですが……。
まずは『響野怪談』を出したとき、主人公である中学生の男の子を「なんていい子なんだ。すごく好きだ」と言ってくださる当時大学生の男性から、ファンレターをいただいたことですね。
キャラクターに夢中になったという手紙をいただいたのも、男性が男性キャラクターをそこまで好きになってくださったのも初めてで、印象に残っています。

もう一つ印象に残っているのは、女子中高生くらいの方が、親御さんと一緒にサイン会へ来てくださったことです。
後日、別のイベントで親御さんから、娘さんが震災のショックで活字を読めなくなっていたけれど、私の本をきっかけにまた読めるようになってきた、とうかがいました。自分の知らないところで、そんなふうに本を読んでくださっている方がいるのだと実感したんです。
自分の本が、どこかの誰かの生活に関わっているのだと思うと、嬉しく、誇らしい一方で、“きちんとしなければいけない”と身が引き締まりましたね。

また、もちろん書店員さんから直接「好きです」と言っていただくのも嬉しいです。
無限にある本の中から選んで紹介してくださっているので、本当にありがたいですね。そうした言葉をいただくと、次の作品もきちんと書こうという気持ちになります。

今後書いてみたい作品や、現在決まっている次回作について教えてください。

現在、『小説幻冬』で警察もののサスペンスを連載しています。
2026年には、もう一冊、ミステリーでもホラーでもない、食べ物が登場する恋愛短編集がポプラ社から11月頃に刊行される予定です。

Chapter04 “隣人”は、隣の部屋の人だけではない――『隣人を疑うなかれ』について

『隣人を疑うなかれ』織守きょうや/著(幻冬舎)

あらすじ

連続殺人、かもしれない。
羊の群れに狼が潜んでいるなら、
気づいた誰かがどうにかしなければ、狩りは終わらない――。

自宅マンションに殺人犯が住んでいる? 
隣人の失踪をきっかけに不穏な疑念を抱いた主婦の今立晶は、事件ライターの弟とともにマンションの住人たちを調べることに。
死体はない、証拠もない、だけど不安が拭えない。
ある夜、帰宅途中の晶のあとを尾けてきた黒パーカの男は誰なのか?
平凡な日常に生じた一点の黒い染みが、じわじわと広がって心をかき乱す、傑作ミステリー長編。

ご近所さんのこと、どれだけ知っていますか?

今作の企画や制作の経緯を教えてください。

以前、幻冬舎さんから吸血鬼ものを刊行していたこともあって、「次はまた別の路線で書きませんか」と声をかけていただいたんです。
それで何を書こうか考えていたときに、『隣人を疑うなかれ』の最後の大きな展開につながるアイデアを思いついて、それを担当者さんに「このアイデア、御社ぽくないですか?」とお話ししてみたところ、「うちっぽいですね」と言っていただいて。それで決まりました。
そのときはまだ他の作品の刊行予定もあったので、それらが終わってから今作を書き始めたんですが、最後のアイデア自体は結構前から決まっていましたね。

そこから実際に着手する中で、どのように制作を進めていかれたのでしょう。

“隣の家の人が少し変かもしれない”という状況は、自分にも起こり得る、想像しやすい恐怖だと思ったので、そこから詰めていきました。最初は一軒家で考えたんですが、マンションの方が合うのではないか、といった感じで担当編集さんと相談しながら決めていきました。
実は初期の構想では、若い妻と刑事の夫がいて、隣の家には少し変わった男性が住んでいる、という話だったんです。つまり、彩とその夫の話だったんですね。それを、長編にするためにもう少しひねりを加え、殺人事件を入れて、別の主人公を立てて組み立てていった感じです。彩と夫は、同じマンションの隣人という立ち位置になりました。

今作ではどんなことが挑戦でしたか。

一番大変だったのは、最初のプロットを作ることです。
最後に書きたい場面は決まっていましたが、そこへ至る前の事件で、誰を犯人にすれば意外性が生まれるのかが、なかなか決まりませんでした。
また最後の展開に合わせつつ、それまでにも驚くポイントをいくつも配置するのもなかなか大変でしたね。

今作で、読者に注目して読んでほしいポイントはどこですか。

今作は物語の途中で視点が何度か変わります。
それもメインキャラクターだけでなく、マンションを掃除している高齢の男性など、“関係者”の場面が挟まれます。
“この場面にはどんな意味があるのだろう”“この人物は何を考えて、この行動をしているのだろう”と少し考えながら読んでいただくと、真相が分かったときに“そういうことだったのか”と合点がいくかもしれません。
どのキャラクターも怪しく思ってもらうように書いているので、ぜひそれぞれのキャラクターにも着目してみてください。

織守きょうや先生は“キャラを大事にしている”と取材の中でおっしゃっていましたが、今作のキャラクターはどのように制作していったのでしょうか。

『隣人を疑うなかれ』では、主人公に能動的に動いてもらう必要があったので、晶を元ヤンキーにしました。
彩も主要人物として登場することが決まっていたので、被害者として狙われそうな美人にし、晶とは対照的な人物になるようにも意識して制作しています。ただし、本当におとなしいだけの人物では晶と噛み合わないので、おとなしいふりをしている“猫かぶり”という設定にしました。
晶と一緒に動くなら、弟はサポート役になる性格がよい。夫は優しい人物だろう。そうやって、一人の設定が決まると、関係性に合わせてほかの人物も連鎖的に決まって、配置していきました。

これから今作を読む方へメッセージをお願いします。

何も考えずに読んでも楽しめるように書いています。
 “犯人はこの人かもしれない”と疑いながら読んでいただくのも楽しいと思いますし、読み進める途中で疑う相手が変わっても構いません。“誰が犯人だろう”と考えながら、ぜひ楽しんで読んでください。

Chapter05 読者を引き込む工夫と仕掛け――織守きょうや先生の作品世界を深掘り!

先生の作品を何作品か拝読する中で、今作は特に非常に読みやすい作品だと感じたのですが、その読みやすさはどのように意識されていますか。

読みやすさは意識していますね。文章がすっと頭に入り、場面が浮かぶように書きたいと思っているんです。
私は一文が長くなりがちなので、長い文が続かないように、文章のリズムにも気をつけています。あとは、物語に必要のない場面はなるべく書きません。たとえば、現実であれば警察が関わる場面でも、事件の解決に関係しないなら、警察が介入できない状況を作り、読者が中心となる謎に集中できるようにします。
ただ、法律や、推理パートのロジックついては、“ここまで説明しないとフェアではないかもしれない”“こういう可能性もあるのでは、と指摘されるかもしれない”と考えて、書きすぎてしまうこともあります。リアリティとリーダビリティがぶつかると、リアリティを優先してしまうところがあって。そこを担当編集者さんが“ここはなくても伝わります”と調整してくださることで、読みやすくなっている部分もあります。

作中には印象的な食べ物が数多く登場しますが、何か理由やこだわりがあるのでしょうか。

実は食べ物を登場させようと意識しているわけではないんです。
今作の話ではないですが、百合小説集の『明日もいっしょに帰りたい』を書いたとき、全4話で誰かが何かを食べ、誰かが誰かのために料理を作っていることに、最後の話を書くまで気づかなったくらいなんです。
たぶん私の中に、“おいしいものを一緒に食べる”“好きな相手においしいものを食べさせたい”という行為が愛情表現だという感覚があるのだと思います。最後に書いた一編だけは、それを意識して書きましたが、最初の3編は意識せず、食べ物を作って食べる話になっていました。
あとは食べ方や食べ物の扱いによって、キャラクター性を表すこともできるという効果もありますね。食べ物を粗末にする人は良い人に見えにくい、といった感じです。

拝読した先生の作品には、舞台が大きく移り変わらなくても、読者を飽きさせず、最後まで引っ張る力があると感じました。こうした物語の作り方は意識されてのものなのでしょうか。

ジャンルの特徴もあると思いますが、私は館ものなどのクローズドサークルが好きなんです。世界を大きく飛び回る話より、限られた空間で起きる物語に惹かれます。
ホラーは、逃げられない状況の方が怖くなりますよね。学校で怖いことが起きても、学生なら翌日も行かなければならない。家で起きたなら、自分の家だから帰るしかない。そうした逃げ場のない状況に置かれることで、“何とかしなければならない”という切迫感が生まれます。
ミステリーでも、外部の要素を遮断することで、謎に集中しやすくなります。警察などに助けを求めればいいと思われない状況を作り、主人公たちが自分で動かなければならないようにすることもあります。

『隣人を疑うなかれ』では、“終わったと思ったらさらに続きがある”という構成が印象的でした。この展開にはどのような意図があったのでしょうか。

この展開から思いついたから、というのがまずありはするんですが、読者へのサービス精神でもあります。
一度終わって安心したと思ったら、もう一段階ある。“二度おいしい”ようなこの展開なら読者に喜んでもらえるのではないかと思ったんです。
ただ、“織守きょうやなら、もう一展開あるだろう”と思われる可能性もあるので、その前の真相だけでも、ここで終わってよいと思えるほどの意外性と満足感を作る必要がありました。最初の犯人が分かりやすすぎれば、読者に続きがあると気づかれてしまいます。そのため、一段階目でも十分に驚いてもらえる真相を考えました。

Chapter06 物語のない人生は、灰色――これから本に関わる人へのメッセージ

織守きょうや先生にとって、本とはどのような存在ですか。

私は“物語がなければ、何のために生きているのか分からない”という感覚があるんです。
本に限った話ではなく、ドラマも観ず、漫画も読まず、舞台も観ないとなると、“何を楽しみに生きたらいいんだろう”とすら思うんです。
もちろん、恋愛や食事など、ほかにも楽しみがあることは分かっていますし、物語を楽しまない方を馬鹿にしているわけではありません。ただ、私にとっては、それほど物語が人生の大きな楽しみなんです。
本や物語は、人生を彩るものです。なければ困りますし、物語のない人生は灰色のように感じます。

これから本を書く人、本に関わる挑戦をしたい人へメッセージをお願いします。

これから本を読む人は、自分が“面白そう”と思ったものを、何でも読んでみればいいと思います。
小説でも、漫画でも、絵本でも構いませんし、ジャンルや周囲の目も関係ありません。男性が少女漫画を読んでも、大人が絵本を読んでもいい。“この話はどうなるのだろう”と気になったものを、自由に読んでほしいです。

本を書く人は、まず最後まで書いてください。そこからです。
そして、自分が面白いと思うもの、自分が読みたいものを書くといいと思います。自分が本当に読みたいものなら、少なくとも自分という一人の読者を想定して書くことができますし、好きではないものを書き続けても、楽しくありませんから。
デビュー前、私は普段読まないジャンルにも挑戦したとお話しましたが、その中にも自分が好きな要素を入れ、“このジャンルでも、こういう話なら自分は好きだ”と思える作品を書いていました。
編集や制作など、本に関わることへ挑戦したい人も、皆さん頑張って、一緒に本を盛り上げていけたらと思います。ジャンルに関係なく、本に関わる挑戦をする人を応援しています。

インフォメーション

〇書籍

『隣人を疑うなかれ』織守きょうや/著(幻冬舎)

あらすじ

連続殺人、かもしれない。
羊の群れに狼が潜んでいるなら、
気づいた誰かがどうにかしなければ、狩りは終わらない――。

自宅マンションに殺人犯が住んでいる? 
隣人の失踪をきっかけに不穏な疑念を抱いた主婦の今立晶は、事件ライターの弟とともにマンションの住人たちを調べることに。
死体はない、証拠もない、だけど不安が拭えない。
ある夜、帰宅途中の晶のあとを尾けてきた黒パーカの男は誰なのか?
平凡な日常に生じた一点の黒い染みが、じわじわと広がって心をかき乱す、傑作ミステリー長編。

ご近所さんのこと、どれだけ知っていますか?

https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344041660/(幻冬舎作品ページ)

〇SNS

X:https://x.com/origamikyoya

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名古屋大須商店街にある『謎解き生活』のACT10には織守きょうや先生のコーナーが!

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名古屋栄にある恋愛本専門店『初恋♡生活』でも織守きょうや先生の関連作品を多数販売中!

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ぜひ実際に
足を運んでみてください!

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屋号:prism Art & Design
氏名:小林茜
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連載

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