『勝手に覗いて幻滅すんなよ』作者、微炭酸先生にインタビュー!

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『勝手に覗いて幻滅すんなよ』作者、微炭酸先生にインタビュー!

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HAPPY! “本”と“ことば”がなにより大好き、いっちーです!

今回取材させていただいたのは、“微炭酸”先生!
スターツ出版文庫 アンチブルーから刊行された『勝手に覗いて幻滅すんなよ』が大人気で、現在重版中の注目作家さんです。

なんと、ぼくいっちーも、『勝手に覗いて幻滅すんなよ』の特集ページに推薦コメントを寄稿させていただきました!
・『勝手に覗いて幻滅すんなよ』特集ページ

スマホが入れ替わるという設定に、QRコードで“覗き見る”という新しい試み。そしてもちろん、物語そのものもめちゃくちゃ面白いんです!

そんな作品を生み出した微炭酸先生にお話をうかがえるなんて、楽しみすぎます……!

それじゃ~いってみよー!

プロフィール

微炭酸(びたんさん)

静岡県出身。「第3回きみの物語が、誰かを変える。小説大賞」で大賞を受賞した『君と見つけた夜明けの行方』でデビュー。炭酸は強ければ強いほど好き。

chapter 01 本を読むことについて

本日は取材をお受けいただき、ありがとうございます。早速いろいろお話をうかがっていきたいのですが、まずは今作はアンチブルー作品ということで、はじめに先生の青春時代についてお聞かせください。

僕の中で“青春時代”というと、地元にいた高校生の頃までですね。その頃に、青春と聞いて思い浮かぶようなことは、だいたい経験したと思います。部活に打ち込んだり、恋愛をしたり、ちょっとやんちゃして学校に呼び出されたりとか。本当にいろんなことをしてきました。

すごく充実した10代だったんですね。お話をうかがっていると、かなりキラキラした青春だったのかな、と思いました。

確かにここまでの話だけだと、そう思われるかもしれないんですが、実際は結構おとなしいタイプでした。子どもの頃はめちゃくちゃ泣き虫で、いじられては泣く、みたいな子でしたし、10代の頃の自分は、どちらかというと“陰”と呼ばれるタイプでしたね。

クラスであまり浮きたくなかったので、普段はおとなしいグループにいつつ、たまに陽キャラのグループの端っこにもいるみたいな、そういうタイプの人間でしたね。

先生のデビュー作『君と見つけた夜明けの行方』の主人公やヒロインにも、近い部分を感じました。

そうですね。『君と見つけた夜明けの行方』の主人公もヒロインも、学生時代の自分を投影している部分があると思います。

『君と見つけた夜明けの行方』
著:微炭酸 イラスト:まかろんK(スターツ出版文庫)

・ノベマ!作品ページ

最初に読んだ作品や、本を“自分から”読むようになったきっかけの作品があれば教えてください。

男子あるあるの回答になってしまうんですが、『デルトラ・クエスト』ですね。

小学校の図書館にあって、表紙の男の子が好きそうな雰囲気もそうですし、人気でなかなか読めなかったこともあって、すごくキラキラして見えたんですよ。
それで手に取って、朝読書の時間に読んでいたんですけど、あの時間って短いじゃないですか。「全然足りない!」と思って、休み時間や家でも読むようになりました。

そこから本に夢中になったので、本を読むきっかけは『デルトラ・クエスト』だったと思いますね。

これまでの読書遍歴を教えてください。

これまで雑多にいろいろな作品を読んできました。
なんだったら小学校の頃から、安部公房さんや村上春樹さんを読んで、「なんだこれ、全然分からないな」「これは小学生には難しいな」と感じながら読んでいましたし、ほかにも宮部みゆきさんと山田悠介さんはよく読んでいました。特にこのお二人からは大きな影響を受けていると思います。青春恋愛ものだと、冬野夜空さん、此見えこさん、丸井とまとさんと幅広く読んでいましたね。

これまでいろいろな本を読まれてきた中で、影響を受けた作家や作品を教えてください。

大きく3冊あります。
1冊目は、小学生の頃に読んだ『モンスターハンター』のノベライズ作品です。

『モンスターハンター クロスソウル』
著:西野五郎 イラスト:布施龍太(ファミ通文庫)

というのも、実はこの本が僕が小説を書き始めたきっかけの本なんですよ。
当時はゲームが流行っていて、僕も友達とよく遊んでいました。あるときノベライズが出ていると知って、読んでみたところ面白かったんです。それで「これ自分でも書けるかもしれない」と思ったんですよね。

自分でも書けそうと思ったのはすごいですね……。

今思うとすごい生意気なんですが、当時の僕はゲームをやっているから世界観も分かるし、小学生でもイメージしやすいから書けそうだと思ったんだと思います。それで「自分で書いて、自分で読みたい」と思ったのが、創作を始めたきっかけでした。

2冊目は、天沢夏月先生の『前略、初恋の彼女が生き返りました』です。
この作品を読んで、「青春小説ってこんなに面白いんだ」と思って、青春小説を書くようになりました。
デビュー作『君と見つけた夜明けの行方』にもかなり影響を受けている作品でもあります。

『前略、初恋の彼女が生き返りました』
著:天沢夏月(角川メディアワークス文庫)

3冊目は九条蓮先生の『夏の終わり、透明な君と恋をした』です。一度、小説を書くのをやめていた時期があったんですが、この作品を読んで「もう一度書こう」と思えました。

『夏の終わり、透明な君と恋をした』
著:九条蓮(スターツ出版文庫)

ここまで本のお話をうかがってきましたが、本以外で“影響を受けたな”と感じるものはありますか?

ゲームですね。僕、ゲームがめちゃくちゃ好きで、幼少期からずっとやっています。そもそも物語を書くきっかけになったのも『モンスターハンター』ですしね。

たしかに、先生のラノベ作品『引退した嫌われS級冒険者はスローライフに浸りたいのに! 気が付いたら辺境が世界最強の村になっていました』にも少しゲーム的な要素があるなと感じていました。そういったところから影響を受けていたんですね。

『引退した嫌われS級冒険者はスローライフに浸りたいのに! 気が付いたら辺境が世界最強の村になっていました』
著:微炭酸 イラスト:紅木春(アルファポリス)

・アルファポリス 作品ページ 

ちなみに、どのようなゲームをプレイされてきたのでしょうか。

幼稚園の頃にゲームボーイを買ってもらって、そこからずっとやっています。
最近はパソコンで対戦系のゲームをやることが多いですね。『League of Legends』とか『Apex』みたいな、ちょっと殺伐としたゲームをやることが多いです。
ただ僕、三半規管が弱くて、FPSはちょっと酔ってしまうんですよね。

でもやっているんですね(笑)。

やり続けていると慣れるんですよ。ただ、少し間が空くと、またすぐダメになりますね。

chapter 02 作品を書くことについて

ペンネームの由来を教えてください。

最初に小説投稿サイトに出そうと思ったときが、青春小説を書いたタイミングだったんです。なので、「微炭酸って青春っぽいな」という感覚で決めて、そのまま使い続けています。

名前と名字に分けることも考えたんですけど、いい名前を思いつくと、「自分に使うのはもったいないな」と思ってしまって。むしろ作品のキャラクターに使いたくなるんですよね。

実際に『君と見つけた夜明けの行方』のヒロインの名前の音子も、もともと自分で使うことを少し考えていたんですが、「いや、これはキャラクターに使おう」となって。そういうことを繰り返していた結果、そのまま“微炭酸”でいくことになりました。

たしかに、言われてみれば、“微炭酸”という言葉には青春!ってイメージがありますね。

そうおっしゃっていただけることが多いですね。ただ、ここまで言ってあれなんですが、実は強炭酸のほうが好きなんですよね。ウィルキンソンとか大好きです(笑)。

作品を書くときにどんなことを大切にされていますか。

“新しさ”を常に意識しています。その“新しさ”が、アイデアなのか、オチなのか、文体なのかは作品ごとに違うんですけど、とにかく読んだ人に「今まで見たことがないな」と一つでも思ってもらえるものを入れたい、というのは毎回心がけています。

ただ、編集の方から「もう少し分かりやすくしましょう」というお話をいただくこともあるので、そこはバランスを取りながら調整しています。

たしかに、先生の作品は新しさに加えて、分かりやすさもかなり重視されている印象があります。新しさで言えば『君と見つけた夜明けの行方』は、ラストの展開がすごく斬新ですよね。

『君と見つけた夜明けの行方』はコンテスト用に書いたものだったので、“とにかく目立たなきゃ”という意識が強かったんです。
当時のスターツ出版文庫の作品にはあまりない要素を入れたいと思って、最後の最後まで情報を出さずに引っ張る構成にしました。
ちょっとひねくれた書き方になってしまいましたが、でも、それが結果的に引っかかってくれたのかなと思います。

執筆時のルーティンやこだわりを教えてください。

コーヒーは絶対に欠かせないですね。締め切り前とかは、カフェイン中毒が心配なくらい飲んでいます。
あと最近は、公園で執筆することが多いです。ベンチに座ってキーボードのついたiPadを開いて、膝の上で書いています。

公園で書かれているんですね。カフェや書斎、自室といった場所では書かれないのでしょうか。

昔はそういったところでも書いていたんですけど、ここ最近、閉じられた空間が苦手になってきたんですよね。なので、今はいろいろ試しながら、自分に合う書き方を探している途中なんです。
それで公園を選んだのは、アイデアを考えるときに空を見上げることが多いからと、あとは、偶然人の会話が聞こえたり、ちょっとした人間ドラマが見えたりするのも面白いなと思っています。

たしかに、外ならではの刺激がありますよね。時間帯としては、いつごろ書いているのでしょう。

夜が多いですね。もともと夜型なので、夜に執筆して、そのあと朝から昼にかけて別の仕事をして、夕方に寝る、という生活リズムです。ときには夜の公園で書くこともあります。

夜の公園ですか。なかなか怖いですね……。

怖いですね(笑)。酔っ払って喧嘩している人とかもいますし。やばいなと思ったら少し距離を取って、会話だけ聞いたりしています(笑)。

デビューまでにどんな努力をされましたか。

一番大きかったのは、“趣味から商業を意識するように変えたこと”だと思います。

もともとは完全に趣味で書いていて、デビューしたいという気持ちもあまりなくて、書いたものを小説投稿サイトに上げるだけ、という感じでした。
とはいえ、何度かコンテストには応募してみてはいたんです。それでいいところまで行くことがあっても「ある程度書けているってことかな」くらいの感覚でした。

そこから、デビューを目指すようになったのにはどんなきっかけがあったのでしょう。

2023年くらいにコンテストで落ちたことがきっかけです。『8月、雪の降る世界で君を見つけた』という作品で、よくある純愛の余命ものとして書いたものなんですけど、「これはいけるかもしれない」と思っていたのに、結果が出なかったんです。

それまでは、コンテストに落ちてもそこまで悔しいと思ったことがなかったんですが、その作品は本当に悔しくて。「デビューしてやる」と本気で思えた作品でした。

・『8月、雪の降る世界で君を見つけた』ノベマ!作品ページ

いざ本気でプロを目指そうと思ったはいいものの、それまでがかなり自由に書いていた分、“何が足りないのか”が自分でも分かりませんでした。

なので、まずは応募するコンテストやレーベルごとの傾向や流行りを研究して、自分の作品に意識的に取り入れるようにしました。
加えて、“その中で新しさを出すにはどうしたらいいのか”を考え続けたことが、今思えばデビューのためにした努力なのかなと思います。

完成した本を初めて手に取ったとき、どんなお気持ちでしたか。

部屋で小躍りしていましたね。「わーい!」っていう感じで(笑)。
ただ、そのときの感覚を言葉にすると、“自分の本が届いた”というよりは、“大好きな本がいっぱい届いた”みたいな感覚に近かったんです。まだ“自分の作品だ”という実感があまりなかったんですよね。

いつごろ自分の作品だと実感できたのでしょう。

本屋に行って実際に並んでいるのを見たときですね。
「あ、自分の本なんだ」と実感して、そこで初めてちゃんと感動しました。

書店にも見に行かれたんですね。

行きました。普段行く書店はもちろんですし、都内の大きい書店にも「置いてあるかな」と思って見に行きました。
まだ地元の書店にはいけていないんですが、機会があればぜひご挨拶に行けたらいいなと思っています。

今後どんな作品を書いていきたいですか。

まず、デスゲームものはもう一度書いてみたいと思っています。実は、「次に何を書こうかな」と考えたときに、真っ先に浮かぶジャンルなんですよね。

幼少期からいろんなジャンルを読んできた中で、特に好んでいたのがデスゲームもので、『リアル鬼ごっこ』や『バトル・ロワイアル』、『王様ゲーム』などを読んで育ってきたのもあって、いつか自分もという気持ちがあるんです。

原点に近いジャンルなんですね。

そうなんです。ただ、やり尽くされているジャンルでもあるので、新しさを出そうとするとすごく難しいんですよね。
実際に考えてはみるんですが、「これって結局『バトル・ロワイアル』と同じだよな」と思って断念してしまうことがほとんどです。好きだからこそ、どうしても影響を受けてしまうんだと思います。

ちなみに、どんなタイプのデスゲームがお好きなんでしょう。

物理派ですね。武器を与えられて戦うようなタイプが好きです。それこそ『バトル・ロワイアル』や山田悠介さんの『DUST』とかもそうなんですけど。

なるほど。ゲームではFPSがお好きとおっしゃっていました。あれも言ってしまえば物理派のデスゲームですよね。

そうですね。ああいう“やり合ってください”みたいな設定も、『ソードアート・オンライン』みたいな、仮想世界に入って行うタイプもめちゃくちゃ好きです。
好きだからこそ、難しいですが。いつかは自分なりの形で書いてみたいです。

ほかにも、今後書いてみたいテーマはありますか。

余命ものですね。これまでも何作か書いてきましたが、まだ商業で出せていないので、もっとたくさんの人に届けるためにもいつか出したいなと思っています。

chapter 03 『勝手に覗いて幻滅すんなよ』について

『勝手に覗いて幻滅すんなよ』
著:微炭酸 イラスト:uyumint 企画・編集協力:けんご@小説紹介

・ノベマ!作品ページ 

・ノベマ! 作品特集ページ

この作品が生まれた経緯を教えてください。

今作の企画の始まりがかなり特殊でして……。
スターツ出版文庫の10周年記念作品として「ぜひ書いてほしい」とお話をいただいたのがきっかけでした。
それも、言われたのが、デビューして10日後くらいで。「なんで自分に?」 という気持ちが強かったですし、正直 「デビューしたての自分にこんな話が来るんだ」 って、かなり戸惑いました。

どのように制作されていったのでしょうか。

かなり特殊でしたね。作品を作るとき、通常だったら担当編集の方と1対1で作ると思うんですが、この作品は編集の方だけでなく、営業の方も含めて、10人くらいで会議をして、ディスカッションしながら作っていきました。

本当に大きなプロジェクトだったんですね! 
今作は制作に、あの、けんごさんが関わっています。どのような出会いだったのでしょうか。

挨拶が済んだらすぐに、「どんな面白い話にしましょうか!」と前のめりになって聞いてくれたんです。それで今作のアイデアをお話したところ「それいいじゃないですか! それでいきましょう」と言ってくださって、そこからとんとん拍子で話が進んでいきました。

ちなみにけんごさんは、どのように関わられていたのでしょう。

大きかったのは、“SNSでバズる作品を逆算して作る”という考え方を提示していただいたことですね。
プロット段階でも、「ここはこうした方がいい」とかなり具体的に提案をいただいて、重要な部分も含めて採用させていただきました。
タイトルや表紙にも関わっていただいていて、本当にありがたいです。

本当にすごい作品でした。実際、この作品がヒットしたことで、読者の“読む体験”のあり方が広がった気がしています。

この作品で挑戦されたことを教えてください。

一番大きな挑戦は、“今までにないスターツ出版文庫の作品を作る”ということでした。

スターツ出版文庫の10周年記念作品ではありますが、「これまでとは違う、とにかく新しいものを作りたい」と言われたので、そこはとにかく悩みました。
レーベルの周年記念作品なので、まったくスターツらしくないのも違うし、かといってオファーにも応えないといけない。そのバランスが本当に難しくて、かなり手探りで進めていきましたね。

どのように乗り越えていったのでしょう。

まずは“スターツらしさ”とはなにか、を考えて、レーベルコンセプトの“この1冊が私を変える”を軸にすることにしました。
そのうえで、“青春でありながら、今までにないもの”をどう作るかを考えたんですが、これはかなり試行錯誤しました。アイデア自体はあったんですが、それをどうやって“この1冊が私を変える”という軸に落とし込むか。そして、アンチブルーの要素である“きれいごとじゃない青春”をどう成立させるか。

そこが一番の挑戦であり、苦労したところだと思います。

読者に「ここを読んでほしい!」というポイントを教えてください。

やっぱり“スマホが入れ替わる”という設定ですね。
現代ならではの恐怖だと思うので、ぜひ自分に置き換えて読んでいただきたいです。そのための仕掛けもいくつか用意しているので、そこも楽しんでいただけたらと。

先生の好きなキャラやエピソードを教えてください。

今作で僕が好きなキャラクターは……5人全員です。

5人全員!? たしかに、今作ではどのキャラも好きになるというか、嫌いになれないように作られていますね。

そうですね。“悪者を作らない”というのは意識して書いていた部分でもあります。ありがたいことに、「このキャラが好き」「ここに共感できた」という感想をたくさんいただいているので、読者の方それぞれで“推し”を見つけてもらえたら嬉しいです。

あと、SNSで話題になったルビの部分もあるので、「どこのことだろう」と考えながら読んでもらえると面白いと思います。

この作品を通して、作家活動にどんな変化がありましたか。

活動が広がったことが大きな変化だと思います。
本当にありがたいことに、たくさんの方に読んでいただけて、重版もかけていただきました。
こうしてインタビューの機会をいただけたり、新しいご縁が広がったりしましたし、この作品をきっかけに、新しいことにも挑戦できるようになりました。

ただ、その分“次も期待に応えなければいけない”という意識も強くなっています。
今は、その期待を裏切らないように、頑張りたいですね。

さきほど、新しい挑戦とおっしゃられていましたが、もしかして次回作が決まっていたり……。

まだ詳しくは言えないんですが、いろいろ準備しているので、楽しみにしていただけたら嬉しいです!

ネタバレ注意!(クリックしてお読みください)

読者がQRコードを開くという行為そのものを、物語体験に組み込んだ理由を教えてください。

これはもともと、出版社の方からの提案がきっかけでした。
10周年企画の中で、「読むだけではない読書体験を作りたい」という方針があって。
その流れの中で、「この作品ならQRコードを使った仕掛けができるのでは」というお話をいただきました。
それを受けて、「ぜひやりましょう」という形で取り入れることになりました。

作品のネタバレ防止のため、加工しておりますが、実際に本の中にQRコードがあり、読み取ることで登場人物のスマホを覗き見ることができるようになっています。

覗き見る側であるはずの読者が、途中で逆に自分が“見られている”と感じられる読書体験も、今作の面白さの一つだと感じました。この構造はどの段階で意識されたのでしょうか。

そうですね。読んでいる最中に、“自分のスマホを確認したくなる”ような感覚にはしたいと思っていました。
最初からその体験は狙っていて、QRコードを使うという仕掛けも、そこに繋がるものだと考えて取り入れています。

実際にそういう感想をいただくことも多くて、“うまくいった”という手応えはありますね。

楽しもうと思って読み始めたのに、途中から“なんだか怒られているような気がする”という不思議な感覚がありました。でも、読後感としてはちゃんと“面白かった!”で終わるんですよね。そのバランスが絶妙だと感じたのですが、エンターテインメントとしての面白さと、読者のまなざしを揺さぶる仕掛けのバランスは、どのように調整されたのでしょうか。

まずは、とにかく物語そのものを面白くすることに全力を注ぎました。
そのうえで、付加価値として仕掛けをどう活かすかを考えていった形です。

最初から両方を同時にやろうとするのではなくて、まずは物語をしっかり作る。その後に、“どうすればこの仕掛けをより面白く使えるか”という視点で、文章を調整していきました。

胡桃の母についてなのですが、この作品はほかの登場人物がかなり細かく書かれていて、読んでいるうちにそれぞれのことをすごく好きになるんですけど、お母さんだけはどうしても好きになれなかったんです。
なんでだろうと考えたときに、母親だけは“あまり書かれていない”からなんじゃないかと思って。逆に、あえてそうしているのかなと感じました。

ただ同時に、あそこまでに留めているからこそ想像できる部分もあって、もしさらに母親の事情まで覗き込んでしまったら、作品の面白さそのものが少し変わってしまう気もしたんです。そのバランスがすごく絶妙だと感じました。

胡桃の母の背景が最後まで明かされなかったのは、やはり意図的だったのでしょうか。

そうですね。意図的に隠しています。
母親の過去や、ああいう性格に至った背景は当然あるんですが、そこはあえて描写しないようにしました。
作中の言葉で言えば、“本当に隠したいことは見せない”ということですね。

人間も同じで、触れてほしくない部分は隠すものだと思うので、それを物語だからといってすべて提示してしまうと、逆に面白くなくなるのではないかと考えました。
“きれいごとではない青春”として終わらせるためにも、あえて踏み込みすぎないようにしています。

もうひとつは、読者に考える余地を残したかったというのもあります。
実は設定自体はあるんですが、そこはあえて明かさずに、胡桃のその後も含めて、読者の中で物語が広がっていく形にしたいと思いました。

本作の中で、母親だけでなく、父親もどこか異様な存在として書かれていると感じました。
特に“何も語らない”“関与しない”という在り方が印象的で、その沈黙自体に意味があるのではないかと思いました。どのように考えて書かれていたのでしょうか。

そうですね。父親についても、母親と同じく、あえて作中では背景は明かさない形にしています。
そうしたのは、何も語らないこと、関与しないこと自体が、その家庭の歪さや構造を表す一つの要素になっていると考えたからです。

今作は“説明しないことで立ち上がってくる”と言いますか、“逆に浮き彫りになっていく”ような作品だと感じました。さきほど、「あえてそうされた」とおっしゃっていましたが、どういった意図があったのでしょう。

これは意図してやったというよりは、書いていく中で自然と生まれた部分が大きいですね。

実は父親や母親だけでなく、どのキャラも事前に環境や背景、心情はかなり細かく設定していて。だいたい1キャラクターにつき1万文字くらいかけて作り込んでいるんです。
そのおかげか、書いている途中で勝手に動き出していく感覚があって。
一人が勝手に動き出すと、それに引っ張られるように他のキャラも自走し始めたんです。

その結果として、キャラクター同士の関係の中で、連鎖や執着のようなものが自然と生まれていった、という感覚ですね。

胡桃や織音の話を読んでいて、言動に“愛着障害”を持っている子の特有さをリアルに感じました。
こうした心理描写は、どこまで意識的に設計されていたのでしょうか。

実は僕自身はそういったひどい環境で育ったわけでは全然ありません。むしろ、かなり恵まれて育ってきた方だと思っています。
なので、胡桃や織音の感情を“実感として分かる”わけではないんです。

それでもリアルに感じてもらえるのは、やはりキャラクターの背景をかなり細かく作り込んだことが大きいと思います。そのおかげでキャラが自走しましたし、こういう状況下ならこの子ならこう考えてこう動くだろうなというのが見える瞬間があって、そういったことの積み重ねがリアルに感じてもらえた理由だと思います。

読んでいて、本当に体験してきたか、あるいは取材されているのかと思うほどリアルでした……。

例えば、胡桃が玄関土間に立たされているシーン。スカートなので足が冷えている描写、家の中にただよう暖かい食べ物の匂い、心配はするし声はかけてくれるけど、根本的な解決はしてくれない兄。どれをとっても読んでいて体が震えるほどでした。
取材も実体験もなしにどうしたらあんな風にリアルな描写が書けるのかが不思議です。

さきほど、実体験はないと言いましたが、実はあのシーンは自分の実体験が基になっているんです。
といっても、ああいったひどい体験ではなくてむしろその逆で楽しい思い出なんですが。

子どもの頃、塾の前に肉屋さんでコロッケを買って食べたときの楽しかった気持ちが基になっているんです。
そこから、“胡桃がその状況にいたらどうなるか”を考えていってあの形になったんです。
ポジティブな体験を、逆に負の方向へ転換していくというか。その結果として、あのシーンが生まれています。

ただ細かい描写や肌感覚はやはり書きながら自然と出てきたものですね。
“この環境で育ったら、こう感じるはずだ”という逆算から生まれました。

ラストの展開がとても印象的でした。
終盤にかけて、登場人物たちが一致団結していく流れがあると思うのですが、その“キラキラした青春らしさ”に、どこか少し胡散臭さというか、“本当にそれでいいのか”という違和感も感じていて。
そのまま綺麗に終わるのかと思ったところで、もう一段踏み込んでくるあの展開に、“やられた”と感じました。

あえてそうしたミスリードやブラフの構造は、どの段階で意識されていたのでしょうか。

そうですね。アンチブルーのテーマである“きれいごとじゃない青春”は、強く意識していました。

僕の中では、“きれいごとじゃない青春”というのは、単純にきれいに終わらせてはいけないものだと思っていて。
ただ同時に、スターツ出版文庫の“この1冊が私を変える”というテーマもあるので、ただ残酷なだけでも成立しないんですよね。
なので、一度きれいに着地したように見せて、そこからもう一歩踏み込む、という形にしました。その落差で、読者に強く印象を残せたらと思っていました。

実は、最初はもう少しマイルドな展開も考えていたんですが、ここまで踏み込む形になったのは、けんごさんに背中を押していただいた部分も大きいです。
結果として、あの落差が大きくなって、印象に残るラストになったのかなと思います。

“みんな”という言葉の使い方がとても印象的でした。
一見するとポジティブで、安心させる言葉のはずなのに、どこかうさんくささというか、“本当にそれでいいのか”と感じさせる部分があって。
むしろ、その“嫌な感じ”があったからこそ、後の展開がより効いていたように感じました。あのニュアンスは意図的に作られていたのでしょうか。

そうですね。みんなという言葉のもつ“うさんくささ”はかなり意識しました。
もしアンチブルーの作品でなければ、もっと泥臭く、素直に青春として終わらせていたと思うんですが。
今回はアンチブルーであることと、最後の仕掛けも含めて、一度“収束したように見せる”必要があったんですよね。
そのために、“みんな”という言葉で一度まとめるような形を取りつつ、完全には言い切らない、少し含みを残す表現にしています。

chapter 04 メッセージ

改めて、微炭酸さんにとって「本」とはどんな存在でしょうか。

僕の中では、“あったら嬉しいし、なくても困らないもの”ですね。
こう言うと聞こえが悪いかもしれないんですけど、そういう存在ってすごく大事だと思っていて。

本って、なくても生きてはいけるものだとは思うんです。でも、そばにあることで、人生が何倍にも豊かになるものでもある。
人の温かさに触れられる、本当に素晴らしいコンテンツだと思っています。
だからこそ、自分も誰かにとってそういう存在になれるような作品を書き続けていきたいですね。

最後に、これから“本の挑戦者”になる方々へ、メッセージをお願いします。

僕は、創作に終わりはないと思っています。
ただ、“始まり”はすごくたくさんあるんですよね。初めて作品を考えた時だったり、書き上げた時だったり、感想をもらった時だったり。なので、“最初の一歩”って重く考えすぎなくていいと思っていて。もっと気楽に書き始めていいんじゃないかなと思います。

そこからは、自分の“好き”をどんどん形にしていってほしいです。
とにかく続けることが大事なので、諦めずに、めげずに……まあ、諦めてもいいんですけどね。
創作って、書きたい時に書いて、それを誰かに届けようとする、その繰り返しだと思うので。

僕たちにできる最大のあがきは、“書き続けること”だと思っています。
なので、ぜひ書き続けてください。

chapter 05 インフォメーション

書籍情報

『君と見つけた夜明けの行方』
著:微炭酸 イラスト:まかろんK (スターツ出版文庫)
 

・ノベマ!作品ページ 

『引退した嫌われS級冒険者はスローライフに浸りたいのに! 気が付いたら辺境が世界最強の村になっていました』
著:微炭酸 イラスト:紅木春 (アルファポリス)

・アルファポリス 作品ページ 

『勝手に覗いて幻滅すんなよ』
著:微炭酸 イラスト:uyumint 企画・編集協力:けんご@小説紹介

・ノベマ!作品ページ 

・ノベマ! 作品特集ページ

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連載

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