イントロダクション
HAPPY! “本”と“ことば”がなにより大好き、いっちーです!
今回のゲストは、2026年1月にデビューしたばかりの新人作家、灰紡流先生。
取材させていただいた作品は異世界が舞台ですが、主人公に超人的な力があるわけでも、たくさんの女の子にモテるわけでもありません。
この作品のすごさは、戦争や、それによって変わる情勢、国政まで、とにかくリアルなところ!
それがどれくらい面白かったかというと、読み終わった直後に取材依頼を送ってしまったほどです。
そんな圧倒的に面白い作品を書く、超期待の新人作家にお話をうかがえるなんて、とても楽しみ!
それでは、いってみよー!
プロフィール
灰紡流(はいぼうる)
本作で商業書籍デビュー。カクヨムを中心としたWeb小説投稿サイトで活動している。好きなものは戦略シミュレーションゲーム。
本を読むことについて


本は小さいころから読まれていたのでしょうか。
実は本をあまり読まない子どもだったんですよ。どちらかというと、ゲームをしたり、友達と遊んだりしていることのほうが多かったですね。
強いて言えば、図書室で漫画を読んでいたかなといった感じです。いわゆる“日本の歴史”みたいな漫画をよく読んでいました。
先生の作品には歴史を題材にした作品で描かれる政治や戦争、領地復興といった要素が入っていましたが、やはり小さいころから歴史に興味があったんですね。
そうですね。ただ、最初はそうでもなかったように思います。今の時代はどうなのか分かりませんが、僕が子どもの頃って学校では基本漫画を読むのは禁止されていたんですよ。でも、歴史とか科学とか、名作文学を漫画化したものはグレーだったのか、図書室にも置かれていました。
なので歴史が好きだったからというよりは、漫画があったから読んでいたというのが最初ですね。そこから歴史ものの持つ“物語”としての面白さに惹かれて読むようになりました。中学生に上がってからは横山光輝先生の『三国志』なんかも読んでいましたね。
その頃の体験は今の創作活動とつながっていると思いますか。
やっぱり歴史ものを読むようになったのは大きかったですね。特に『三国志』は、今の創作につながっていると思います。さきほど、いっちーさんがおっしゃっていましたが、今作には歴史モノや戦記モノのエッセンスが大いに含まれていますから。そういったところは間違いなく、読んできた本に影響を受けていると思いますし、実際に参考にもさせてもらっています。

先ほど、歴史の漫画をよく読まれていたとお聞きしましたが、小説を進んで自分から読むようになったきっかけも教えてください。
僕が初めて文章の多い本を読んだのは中学生のときです。
『ソードアート・オンライン』という作品なんですが、その作品と出会ったきっかけは親が読んでいたからでした。
親御さんがラノベを!?
はい。うちの親はいろんなことに興味がある人で。ゲームやアニメやライトノベルといったエンタメにも偏見がなかったんです。僕がゲームをやるようになったのも、親がゲームをしている背中を見て育ったからですからね。
『ソードアート・オンライン』を読んでみたらそれが面白くて! そこからライトノベルを読むようになりました。

ほかにはどんな作品を読まれていたのでしょうか。
実はラノベを読むようになったとは言っても、学生時代にはそんなにたくさん読んでいたわけじゃないんです。アニメ化している作品はアニメで見ることも多かったですからね。
『ソードアート・オンライン』のほかに読んだラノベだと『魔法科高校の劣等生』とかでしょうか。
そうなんですね。かなり読まれているのかなと思っていました。
小説を書いていると言うと、読書家だと思われがちなんですが、意外と僕はそこまでたくさん読んでるわけではないんですよね。
それでこのクオリティが出せるのは、すごいですよね。
ストーリーに関して言えば、本以外のものからも影響を受けていると思いますね。

先ほどの質問で、ストーリーは本以外から影響を受けたとおっしゃっていましたが、詳しく教えていただけますか。
ゲームが一番大きいですね。特に戦略シミュレーションゲームが自分の根幹にはあると思います。
中学生の頃に『Hearts of Iron 2』というゲームの実況動画をニコニコ動画で見たのをきっかけに、どっぷりハマりましたね。
ほかにはどんなタイトルをプレイされているのでしょうか。
『信長の野望』とか『シヴィライゼーション』とかですね。戦略系というか戦記系だけでなくて、戦争を題材にしたゲームが好きで、今もよくやっています。この手のゲームはやりはじめたら5時間とか7時間とか、すぐに時間が溶けてしまいます。
ほかには漫画にも影響を受けていると思います。特に『ピッコマ』の作品はよく読んでますね。月に1万円くらい課金して読むこともあるくらいです。
月に1万! すごいですね。どういったタイトル、ジャンルが好きで読まれているのでしょうか。
戦記モノはもちろん『俺だけレベルアップな件』とか、『템빨(テムパル)』とか、異世界転生系の作品も好きですね。オーラや武功といった設定は、今作でも参考にしたので、大いに影響を受けていると思います

先ほど、影響を受けたものの中でもたくさんのタイトルを挙げていただきましたが、そんな先生が最近面白いと感じた作品を教えてください。
『ダンジョンに閉じ込められて25年。救出されたときには立派な不審者になっていた』が面白かったですね。
『ダンジョンに閉じ込められて25年。救出されたときには立派な不審者になっていた』(Amazon.co.jp)
著・乾茸なめこ/イラスト・芝(ホビージャパン)
あらすじ
現代に突如現れたダンジョン。そこに挑んだまま失踪した青年・永野は、人類未踏の深層を25年間も生き延びた。
そうして獰猛なモンスターを喰らい最強の肉体を得た彼が帰還したのは、ダンジョン配信が義務化された未来日本。さっそく災害級のモンスターをも凌駕する彼の蹂躙ぶりが配信され、一躍トップ探索者の仲間入り!
更には、チート級のサバイバル技術で人々を圧倒する料理ショーも披露して、永野は新時代のレジェンドに成り上がる! 爽快感MAXの無双配信で贈る、ダンジョン英雄譚。(Amazon.co.jpから引用)
今作品は“現代ダンジョン世界”というジャンルの作品です。
現代ダンジョン世界とは、いわゆる異世界ではなく、僕らが生きている地球や現代に近い舞台にダンジョンが出現するという設定で、ここ十年で急激に広がってきたジャンルです。
このジャンルが癖になりまして……。実は先ほど挙げた『俺だけレベルアップな件』も現代ダンジョン世界の作品だったりします。ぜひ読んでみてください。

CHAPTER 01では、灰紡流先生がどのような本と出会い、何に影響を受けてこられたのか、“本を読むこと”をテーマにお話をうかがってきました。
歴史漫画やライトノベルはもちろん、ゲームや漫画など、本以外も含めた幅広いインプットが、灰紡流先生の中で“物語”の面白さを育ててきたことが、この章を通して見えてきました。
では、その積み重ねはどのように作品へと形になっていくのでしょうか。次のCHAPTER 02では、“作品を書くこと”について、さらに深くうかがっていきます。

先生のペンネーム“灰紡流”の由来を教えてください。
実はすごいテキトーにつけた名前なんです(笑)。
というのももともとはゲームで使っていた名前で、つけるときもたまたま手元にハイボールがあったので、「じゃあこれでいいや」ってなって、そのまま使ったのがきっかけですし。
ただ、別にハイボールがめちゃくちゃ好きかというとそうでもなくて、どちらかというと梅酒の方が好きです(笑)。
ゲームの名前のときもこの漢字表記だったのでしょうか。
いえ、最初は普通にハイボールって名前でした。作家デビューが決まったとき、このままだとエゴサーチするときお酒に埋もれてしまうなと思って、当て字に変えたんです。
この当て字にしたのは“灰に紡ぐ流れ”みたいな字面だと、ちょっとおしゃれに見えるかなという魂胆もありました。

先生が初めて小説を書いたときのことを教えてください。
最初に書いたのは高校生の頃です。
小説家になろうで異世界ファンタジーを2、3か月くらい書いていました。
内容としては、異世界に転生した主人公が魔法の力で無双するっていう、当時流行っていた王道の無双系でしたね。
実は、日間2位くらいまでいったこともあったんですよ。
日間2位! すごいですね。なのにどうして2、3か月でやめてしまわれたのですか。
ちょっとした体調の問題があったんです。それで書かなくなってしまったんですが、それから10年くらい経ってまた書くようになりました。実は……それが今作なんです。
久しぶりに書いた作品で商業デビューとは! すごすぎます。
10年ぶりにまた書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
好きな漫画を、あらかた読み終えてしまったからですね。
僕の地元は田舎なので、休日に出かける場所もあまりないんです。そうなると、家にこもって漫画やアニメを観ることが増えていきます。最初のうちはそれでもいいんですが、読み終わったり、連載が休止したりして、だんだん触れられる作品が少なくなっていってしまって。
しかも、そのときに自分の大好きな作品も終わってしまったんです。
だったら、自分の好きなように、自分が読みたい物語を書けばいいんじゃないか。そう思ったことが、久しぶりに書こうと思ったきっかけでした。

先生が作品を書くときに大切にしていることはなんですか。
大切にしているのは、合理性とリアリズムです。
僕は作品を読むとき、“なぜそうなったのか”が気になるんです。ファンタジーでは、魔法や特殊な力で片づけられてしまう場面もありますが、そういうところに違和感を覚えることがあって。
だからこそ自分の作品では、ある出来事が起きたら次に何が起こるのか、その流れにきちんと納得できるような展開や描写を意識しています。

先生の執筆のルーティンを教えてください。
仕事終わりが多いですね。
というのも、僕は朝起きて2、3時間くらいだとまだ頭がぼーっとしていて筆が乗らないんです。
逆に、仕事が終わった後のほうが頭がはっきりしています。特に夜勤明けとかが一番進みますね。
仕事終わり、それも、夜勤明けに!? 眠くならないんですか。
ある程度時間が経つと逆に目が冴えてくるので、そのタイミングで書いています。
あとは仕事中で暇なときとか休憩時間に話の構成やアイデアを考えているのもあって、夜勤明けだと、それをそのまま形にできるというのもあって、一番進みますね。
考える時間を夜勤中に取っているから、夜勤明けに書く時間を取ったほうが筆が進むというわけですね!
それでも執筆がうまく進まないときは、どうされていますか。
うまく進まないときは、戦略ゲームをやりますね。やっているうちに書きたい意欲が高まりますし、アイデアも思いついたりしますから。もちろん、純粋に楽しんでリフレッシュすることもありますが。

10年ぶりに書いた作品がデビュー作になったとのことですが、実際にデビュー至るまでにはどのような過程があったのでしょうか。
実は、今作の前身となった作品は一度コンテストで落ちた作品なんです。
WEBで投稿していたのですが、あまり評価がよくありませんでした。ブックマークや星がなかなかつかなくて、それで改稿することにしたんです。キャラクターも設定も大きく見直して、結果的には8割くらい変えたと思います。
この改稿が、デビューにつながる大きな転機になりました。
転機となった、といいますと……。
改稿してからも、最初の2週間くらいは鳴かず飛ばずだったんです。でも途中からランキングが伸び始めて、カクヨムの総合週間ランキングで5位くらいまで上がりました。そこで編集さんに見つけていただいて、書籍化につながったんです。
ただ、これは努力といった特別なものではないかもしれません。これまで本や漫画、アニメ、ゲームから得てきたインプットの積み重ねがあったからこそ、最終的にデビューにつながりましたし、それは好きでやってきたことで努力したというわけではないので。

重ねていった好きが、ようやく本という形になったとき、どんな気持ちでしたか。
正直言うと、嬉しさが6割くらいで、残り4割くらいは疲れたなっていう感じでした(笑)。
疲れた、というのはやはり改稿が大変だったと。
はい。WEB版だと8万字くらいだった作品を、書籍化にあたって14万字くらいまで増やしたので。しかも、もともとの8万字の部分もすべて見直して修正したのもあって、作業量がかなり多くて大変でした。
すべて終わったときには、解放感がすごくて。とにかくひたすらゲームして過ごしましたね。
実際に書店に行って、本があるのは見られたのでしょうか。
はい、行きました。自分の本が並んでいるのを見たときはとびっくりしましたし、まさか自分が作者側になることがあるんだ、と思うと感慨深いものがありましたね。
とある書店ではランキング入りもされていましたね。
はい。ありがたいことに、その店舗の週間オリコンランキングで5位くらいになりました。発売週だったのと、WEB版を読んでくれていた方が買ってくれたからだとは思いますが、本当にありがたかったです。
今作は、物語はもちろんですが、鮮やかな水色が印象的な表紙も素敵です。
そうですね。やっぱり表紙は最初に目に入るものなので、イラストの力は大きいです。素晴らしいイラストを描いてくださった京一先生には本当に感謝しています。

今後、どんな作品を書いていきたいですか?
ピッコマで連載してみたいですね。そのために、ピッコマでやっている小説のコンテストに応募したいと思っています。
それこそ、僕がピッコマノベルスでよく読んでいた異世界ファンタジー的な作品も書いてみたいですし、現代ダンジョン世界みたいな現代ファンタジー的な作品もやってみたいです。
どの作品も、読めることを楽しみにしています!
『伯爵家の五男ですが、婿入りして公爵になりました。 前世知識で領地を復興して嫁や家臣と幸せになります』について

CHAPTER 02では、“作品を書くこと”についておうかがいしました。
10年ぶりに小説を書こうと思ったきっかけから、創作において大切にしている合理性とリアリズム、そして改稿を重ねてデビューへと至るまでの過程まで。そこには、先生が本や漫画、アニメ、ゲームなど、さまざまな“好き”を積み重ねながら、自分の物語を形にしてきた歩みがありました。
では、そうした灰紡流先生の創作観は、実際に今作『伯爵家の五男ですが、婿入りして公爵になりました。 前世知識で領地を復興して嫁や家臣と幸せになります』の中で、どのように息づいているのでしょうか。
次のCHAPTER 03では、作品そのものの魅力について、さらに詳しくうかがっていきます。

先ほどは今作が世に出るまでのお話をお伺いしましたが、そもそもこの作品の物語はどういった経緯で作り上げていかれたのでしょう。
僕はもともと戦国時代が好きなんです。小説では『織田家の長男に生まれました』や『あふみの海』を読んでいましたし、ゲームの『信長の野望』もそうです。
ただ、実際に自分で戦国時代そのものを書こうと思うと、かなりの知識量が必要になりますし、そこまで史実に即して書き切る自信はありませんでした。
一方で、魔法のようなファンタジー要素も入れたいと思っていたので、戦国時代をベースにしつつ、異世界ファンタジーの形にすることにしたんです。そうすることで、戦国時代系が好きな方にも、異世界ファンタジーが好きな方にも楽しんでもらえる作品にできるのではないかと考えました。

執筆中はどんなことを意識されていましたか。
そうですね。一つは作品を書くことでも言ったリアリズムと合理性ですね。“魔法でどーんと解決!”とか、“主人公の超人パワー!”ではなく、“普通の人間が様々な壁とぶつかり、それを少しずつ変えていく”というふうになるようにしていきました。
あとは男女も楽しめるような作品にできたらなっていうのもありましたね。
幅広い読者が楽しめる作品を意識されていたのですね。
はい。例えば、男性同士の友情的な部分をかなり意識して入れました。エーリッヒとの掛け合いだったり、クルトの過去の関係だったりがそうですね。
BLよりももう少しライトなジャンルに、ブロマンスというものがあるんですが、簡単に言えば“男同士の友情ってエモいよね”という感覚です。そういった要素も、この作品には取り入れています。
なるほど。今作にはブロマンス以外にも、さまざまな魅力がありますよね。デートシーンは、まるでラブコメのような楽しさがありました。
デートシーンは、入れたいと思って入れました。ただ、例えばデートの最中に町の人から声をかけられるようにしたり、お金にものを言わせた豪華なものにはしないようにしています。それも、リアリティを出すためですね。
いくら領主とはいえ、敗戦国ですから、資金が潤沢にあるわけではありません。そんな中で派手なデートをしていたら、町の人もよく思わないでしょうし、領主としての立場にも関わってきます。だからこそ、デートとしてのときめきは残しつつ、あえて庶民的なものにしています。
ほかにも、今作に登場する男性キャラクターたちが、それぞれ異なる魅力を持っているのも印象的でした。
にこにこしながら戦いに向かう人物もいれば、「老人だから労われ」と言いながらしっかり強い人物もいたり、普段は真面目なのに、たまにお茶目で思わず「かわいいな」と感じるような一面を持つキャラクターもいました。
そうですね。そういう「かわいい」と思える要素も、ブロマンスも、デートシーンも含めて、いろいろな要素を入れることで、より多くの人に楽しんでもらえる作品になるよう工夫しました。

先ほどの質問では意識されたこと、工夫されたことをうかがいましたが、次は今作でした挑戦について教えてください。
この作品では “良かれと思ってやったことって、失敗はするかもしれないけど、最終的にはいい方向につながっていく”ということを描くことに挑戦しました。
主人公は領地の復興のために、様々なアイデアを出し、実行していきますが、結構失敗もしています。
例えば、徴兵制から志願制に変えたことが一つです。主人公としては領地の人のために良かれと思ってしたことでしたが、それで兵が足りなくなってしまう事態に陥りました。
でもそのおかげで領地の人からの信頼を得ていますし、他にもいろんな面でいい方向につながっていきました。
ただ失敗しただけで終わらない、それでいてしっかりとリアリティのあるように作りこんだのは今作で挑戦したことだと思います。
そこは、僕もすごく好きなシーンの一つです。志願制にしたことで、来る人は来るけど、身寄りのない子たちが多くなってしまうところも含めて、すごくリアリティがありました。
“村から志願する人を出さないと何かしら罰を受けるんじゃないかと勘違いして差し出した”といった事情もあったんだろうなとか、描かれていない裏側まで想像させられました。
ありがとうございます。この志願制の部分は、自分でもリアリティがあるなと思いながら書いたので、お気に入りです。
やっぱり農民兵って基本的に付き合わされる側なので、好き好んで戦争に出ようっていう人は少なくて。ヴェルナーみたいな戦闘狂タイプは、圧倒的に少数派なんですよね。そういうところもリアルに書けたなと思っています。
もし自分がこの作品を書いていたら、ついヴェルナーみたいなキャラをもう一人くらい出してしまいそうです。戦闘シーンを盛り上げるために、強いキャラを足したくなるというか。困ったときにどうにかしてくれるキャラを置いておくと、物語を進めるのに苦労しなさそうだなと。
たしかに、そうしたほうが物語的には進みますね。ですが、リアリティには欠けてしまいます。あくまで農民主体で進んでいくことで「これ戦争に負けるんじゃないか?」という状況が生まれますし、それをどう攻略するかという面白さにもつながっていきます。
なるほど。確かに簡単に攻略できてしまうと、今作の面白さであるリアルさが失われてしまいますね……。

先ほど、志願制のシーンがお好きだとおっしゃっていましたが、ほかにも印象に残っているシーンや、お気に入りのエピソードはありますか。
僕が一番好きなエピソードは、序盤でレイラとメイドが再会するシーンですね。
レイラは敗戦国の王女なので、自由に振る舞える立場ではありませんでした。なので、仲の良かったメイドとも離れ離れになってしまうんです。でも、アインが領主になったことで、彼女を呼び戻すことができたんですよね。
それを遠くから見ていて、なぜ二人のもとに行かないのかと聞かれて、「恩着せがましく見えるだろう」と答えるところも含めて、好きなシーンです。
レイラの心が解きほぐされていくきっかけにもなった、素敵なシーンですよね。本来なら、自分の手柄だと伝えたくなりそうな場面なのに、あえてそうしない。その姿に主人公のやさしさがにじみ出ていて、僕も好きなシーンです。
ありがとうございます。実はこのシーンを書くまでは、アインの性格はまだ固まりきっていなかったので、「アインだったらどうするかな」と考えながら、とりあえず書いてみたんです。そしたら“優しい主人公”という人物像がしっくりきました。そこでアインのキャラが決まったというのもあって、このシーンは印象に残っています。

今作を出版されて、作家活動や日々の生活にどんな変化がありましたか。
作家活動で言うと、一番大きかったのは人脈が広がったことですね。ほかの作家さんや編集さん、イラストレーターさんなど、日常生活ではなかなか出会えない方々と関わり、お話しできるようになりました。
それで他者の意見を聞く機会が増えたことも大きかったです。切磋琢磨したり、励まし合ったりできる存在ができたことで、執筆がしんどいときにもとても助けられています。

今作の舞台は異世界ですが、いわゆるハーレムでも、主人公最強でもなく、“異世界復興”というストーリーだったのが意外でした。この方針を選ばれた理由は何だったのでしょうか。
“リアリティを出すため”ですね。主人公を一人で何でもできるほど強くしすぎると、主人公以外のキャラクターが必要なくなってしまいますし、復興もすぐに進んでしまって物語になりません。だからこそ、従来の異世界ものより主人公を弱くしました。
あと、いろいろなキャラクターを登場させたかったというのもあります。なので、主人公に足りないものをほかの人物たちに持たせる形にしていきました。その結果、一人では何もできない主人公にはなりましたが、裏を返せば、自分に何が足りないのかを分かっていることこそが、この主人公の良さでもあります。そうやってあえて最強にしなかったことで、ほかのキャラクターとの関係性を描くことができましたね。
それと……さきほどいっちーさんは、ハーレムではないとおっしゃっていましたが、実は僕は、この作品はハーレムものでもあると思っているんです。
え、そうなんですか!
はい。というのも、アインはヴェルナーだったり、おじいちゃんだったり、兄上だったり、エーリッヒだったりと、いろいろな人物から愛されていますよね。ヒロインは一人ですが、ある意味ではハーレムなんじゃないかなと思っています。
たしかに、言われてみれば、女の子に限らず、いろんな人から愛されている主人公です。
そうですね。それもやっぱり、“一人では何もできないけど優しい主人公”という設定だからこそ描けたことだと思っています。

今作はキャラの前世(日本)をあまり出さないところが特徴的でした。そのようにされた意図を教えてください。
“作品のテンポ感をよくするため”ですね。
前世のエピソードを作中に入れると、テンポ感が削がれてしまうと思ったんです。
実はカットしたのは前世だけでなく、今世もなんですよ。
え! そうなんですか。
本来、異世界転生ものは主人公が赤ちゃんの頃から始まる作品も多いと思うんですが、今作はアインが16歳の段階から物語が始まっています。こうしたのは、本筋とは関係のない部分を長く描きすぎると、読者を疲れさせてしまうと思ったからです。
できるだけ必要のない情報や、テンポが遅くなりそうな展開は削って、その代わりにキャラとのかけあいや人々の暮らしを入れて、その世界のリアルを描くほうに力を入れました。
たしかに、仲間が増えていく過程も、かなり省略されていますよね。
そこもあえてですね。ただ、仲間になった理由や関係性については、短くではありますが、過去エピソードとして補完する形で入れています。今後、続刊が出た場合には、そこでも描かれていくと思います。
物語上ではカットされてはいますが、前世や幼少期の設定自体は先生の頭の中にあるのでしょうか。
そうですね。幼少期から前世まで、大まかな流れは頭の中にあります。書き始めたときも、最初から最後まで、主人公が死ぬところまでは全部構想がある状態でした。今のところ、全部書いたら10巻くらいまではいくんじゃないかなというイメージです。文字数でいうと、100万字は超えると思います。
100万字! それはすごい壮大な物語ですね。
はい。ぜひ、最後まで読んでいただけたら嬉しいです!

戦や戦後の描写がとてもリアルで印象に残りました。こうした要素は、どのように知識を得て、作品に組み込んでいかれたのでしょうか。
ありがとうございます。戦がリアルに感じられるのは、戦国時代のあるあるや常識をベースにしているからだと思いますね。それでいて、異世界ファンタジーとして成立させつつ、合理性やリアリティが出るようにも組み立てていきました。
具体的に、「ここは戦国時代が色濃く出ている」と感じる部分はありますか。
逃亡した兵を切るところですね。あれは戦国時代ならではの命の軽さというか、そういった部分が強く出ているところだと思います。
逆に、異世界ファンタジーらしさが出ている部分はどこでしょうか。
魔法とオーラの部分ですね。ただ、魔法も完全にファンタジーとして扱うというよりは、戦国時代の要素に置き換えて考えています。たとえば、魔法を砲台や投石機のようなものとして捉えると、戦国時代の戦い方に近くなるんですよ。
一方で、ギルバートのような極端に強いキャラクターは、戦国時代にはあまりいない存在なので、そこは異世界ファンタジーらしい部分だと思います。ただ、強いキャラクターがいても、数や作戦が重要だという部分は崩さないようにすることで、アクション寄りになりすぎないよう意識していました。
たしかに、今作では魔法の使い方に、かなり合理性が意識されていますよね。
はい、そこは意識しました。たとえば、普通のファンタジーだと飛行魔法で空を飛んだり、同時に複数の魔法を使ったりすると思うんですが、今作ではそういうことはほとんどやっていません。
飛行しながら魔法を使うって、魔力量的にコスパが悪いじゃないですか。それなら飛ばずに魔法を2回撃ったほうが火力が出ます。なので、飛びながら魔法は使わないんじゃないかと考えました。
そういう使用回数や効率、メリットやデメリットも含めて、魔法を“兵器”として扱うことで、異世界ファンタジーなんですけど、リアルになるよう工夫しました。
たしかに言われてみると、飛行魔法は出てきていません。その分、馬の描写がかなり印象的でした。
それもあえてなんですよ。
馬を出したほうが戦国時代らしいじゃないですか(笑)。

戦争以外にも、街に暮らす人々と話すシーンや、教会の設定などにもリアリティがあります。こちらはどのように練り上げていかれたのでしょうか。
教会は、戦国時代の寺のようなものとして考えていただければわかりやすいです。
作品としては西洋風ファンタジーにアレンジしていますが、教会も寺も、民衆の愚痴を聞いたりしながら、宗教でまとめていくという点では似ているんです。
実際、戦国時代にも一揆を抑えるために、寺にある程度便宜を図ることもあったようですしね。
たしかに、教会にお願いをするシーンも、少しグレーな感じがあってリアルでしたよね。
ああいう場面って描き方によっては嫌な印象にもなりそうなんですが、アインがやることで不思議と嫌な感じがしないのも、キャラがしっかり描けているからだと思います。
メッセージ

CHAPTER 03では、作品の魅力でもある“リアリズム”がどのように生まれているのか、その背景にある発想や構成についてうかがいました。
戦国時代をベースにしながら、魔法やキャラクターの強さにまでしっかりと筋を通すことで、異世界ファンタジーでありながら、どこか現実味のある世界が形づくられているのが印象的でした。また、村の人々の生活や戦争の描写にも戦国時代が組み込まれていて、物語全体に自然な説得力が生まれているように感じます。
そんな作品を生み出した灰紡流先生は、これから創作に挑戦する人にどんな言葉を届けるのでしょうか。
CHAPTER04では、“本の挑戦者”へ向けたメッセージなどをうかがっていきます。

ここまでお話をうかがわせていただき、ありがとうございました。
改めて、先生にとって“本”とはどんな存在でしょうか。
僕にとっての本は、“異世界の入り口”“いろんな世界に入れる扉”ですね。
家にいながら異世界ファンタジーの世界に行けたり、戦国時代に行けたり、いろんなことを楽しめるので、 “体験型のエンタメ”とも言えるかもしれません。

最後に、これからの“本の挑戦者たち”にメッセージをお願いします!
良かれと思ってやったことでも、失敗することは普通にあります。挑戦しても、必ず成功するとは限りません。
でも、努力したという経験や、挑戦したという事実はちゃんと残ります。それはきっと人生に深みを与えてくれると、僕は信じています。
なので、ぜひいろんなことに挑戦してみてください。そして、もしそれが失敗に終わったとしても、後悔せず、また挑戦していってほしいです。
僕が書いた今作にも、同じメッセージを込めました。ぜひ読んで、何かしら感じてくれたらうれしいです。
書籍情報・SNSリンクなど

書籍情報

『伯爵家の五男ですが、婿入りして公爵になりました。 前世知識で領地を復興して嫁や家臣と幸せになります』
著・灰紡流/イラスト・京一
あらすじ
可愛い嫁と家臣から信頼されまくり!?
可愛い嫁の笑顔のため、荒れ果てた領地を改革&防衛!
伯爵家の五男に転生したアインは、婿入りして公爵になることに。
だけど結婚相手のレイラは口も利いてくれず、領地は戦争でボロボロ!?
それでもアインは前世の知識と巧みな人心掌握で、農業や経済を立て直して領地を復興していく!
それを見た家臣の忠誠度は急上昇、レイラとも心を通わせていき――!?
そんなアインに王家との政争と他の貴族による侵略という危機が迫る。
大切なレイラと領地を守るため、アインは家臣を率いて立ち向かう!
定価: 1,540円 (本体1,400円+税)
発売日:2026年01月05日
判型:B6判
ページ数:308
ISBN:9784040762203
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