“聴くフェルメール”に浸る。「The Sound of Art」で弦楽四重奏と絵画が織りなす唯一無二の世界へ

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“聴くフェルメール”に浸る。「The Sound of Art」で弦楽四重奏と絵画が織りなす唯一無二の世界へ

みなさんは、弦楽四重奏(げんがくしじゅうそう)をご存知ですか。

ある特定の楽器編成で行われる演奏形態を意味するのですが、この形態での演奏をなんと絵画と同時に味わえるイベントがあるんです。

「The Sound of Art ー音の絵画ー」は、WAKASA&CO.KYOTO 2階「わかさの舞台」だからこそ生まれた、「本格的な」クラシック音楽と絵画を「気軽に」楽しめる定期イベント。絵画の沈黙と音楽の叫びが交錯する新しいアート体験は、唯一無二です。

8/22(土)は、「op.8 フェルメール ー静寂と窓辺の光が奏でる、永遠の旋律ー」と題して開催。オランダの巨匠、ヨハネス・フェルメールの絵画を中心に、名画と弦楽四重奏による心揺さぶる講演が繰り広げられました。

ちょうど「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」の開始と重なっていたこともあり、ニュースなどでフェルメールの名前を耳にされていた方も多かったのではないでしょうか。

演奏者自身も「オーケストラとは違う醍醐味がある」と語るイベントの模様をたっぷりとお伝えします。興味を持たれた方は、ぜひ次回の講演に足を運んでみてください。

わかさの舞台に弦楽四重奏を迎え、素敵な体験が始まる

阪急「烏丸駅」・地下鉄「四条駅」の20番出口より徒歩3分、という好立地にある「わかさの舞台」。イベントの種類に応じて、音響や照明のセッティング、客席の配置など変幻自在の顔を見せてくれる舞台です。

「The Sound of Art ー音の絵画ー」は、上質な時間を静かに届ける大人向けのイベント。絵画や音楽に詳しくない方も大歓迎です。未就学児の入場はご遠慮いただいているのでご注意を。

今回は各1時間の2部制で、第1部は11:00〜、第2部は14:00〜(開場は開始30分前)でした。料金は一般:3,500円(税込)、小人(満15歳以下):2,000円(税込)。錚々たる出演者の演奏を間近で感じられるコンサートにもかかわらず、価格は控えめなのはうれしいポイントです。

冒頭で触れた弦楽四重奏とは、ヴァイオリン2つとチェロ、そしてヴィオラという弦楽器を使った4人編成で行われる室内楽の形態です。18世紀中頃に、宮殿や貴族のサロンで楽しまれるものとして生まれ、やがてコンサート開場でも演奏されるに至ったそう。カルテットと呼ばれることも。

まずは、司会者より今回の演奏者4名が順に紹介されました。

  • 第1ヴァイオリン 荒井ひかるさん
  • 第2ヴァイオリン 山森温菜さん
  • チェロ  山内睦大さん
  • ヴィオラ 山之内真梨さん

配られたプログラム紹介の紙に視線を落とす入場者のみなさん。これからスクリーンに映し出される絵画や演奏される曲目の説明を読んでいると、静けさの中でジワジワと心が高揚してきますね。

あえての不協和音から、徐々に絵画に溶けこんでいく音色

いよいよ絵画と演奏の融合が始まります。

今回ラインナップされた絵画は、「青」という色に着目した名画たち。19世紀まで極めて貴重な天然顔料を用いて発色していたため、青は神聖で高貴なものの象徴でした。そんな青を使った絵画が、音楽の進行とともに変遷し、縮率を変えて映し出されていきます。

1曲目の演奏は、1785年1月14日に完成したモーツァルトの「弦楽四重奏 第19番 ハ長調 K.465 『不協和音』 第1楽章」です。まるで不協和音のような導入の音色に不思議な感覚に陥りますが、だんだんテンポのいい優雅な印象に。

当時「冒頭の箇所は誤りではないか」と訂正を試みる者も現れたとか。しかし、これは単なる奇抜な思いつきではなく、楽章全体の光と対比する闇としてモーツァルトが用意したものでした。

一方で、スクリーンに映し出された絵画は、サッソフェラートの「祈る聖母」。聖母マリアの穏やかで敬虔な表情と、深い青のマントが目を惹きます。

演奏が進む中、絵画は2枚目に変化。フェルメールの「レースを編む女」がスクリーンに浮かび上がります。

「女性がレース編みに没頭する姿」という日常風景を緻密に表現したこの作品。注目は、なんと実寸が縦24.5cm × 横21cmというフェルメール作品の中で最も小さな絵画であること。

音楽との融合もさることながら、スクリーンに実寸より大きく映し出すことで、作品の新たな魅せ方を提示しているようです。

小休止を挟んで2曲目の演奏は、ドヴォルザークの「弦楽四重奏 第10番 変ホ長調 op.51 第2楽章」。スラヴ舞曲集で一躍名を知られたドヴォルザークが、ヴァイオリニストであるジャン・ベッカーの依頼を受け、1878年末から翌79年にかけて完成させた作品。

うーん、なんて切ない入りでしょう。第2楽章はドゥムカ(悲歌、哀歌)と呼ばれるウクライナに起源を持つ民謡に当たり、深い憂いと突然の快活さが交互に現れます。ドゥムカに生涯惹かれたドヴォルザークが、故郷の土の匂いを室内楽に落とし込んだ見事な実例です。

弦楽四重奏の後ろでは、フェルメールの「デルフトの眺望」が落ち着いた青とともに流れます。フェルメールが遺した2点の風景画の1つであるこの作品は、生涯を過ごしたデルフトの街並みを描いたもの。雲と晴れ間を交互に配して奥行きを表現した傑作です。

しばらくして、絵画はヤン・ファン・ホイエンの「釣り人のいる川の風景」に変化。空の青よりは、モノクローム的色彩が印象的な風景画の本作。

海抜の低いオランダの風景らしく、川面の穏やかな雰囲気が見事に音楽とマッチしています。絵画と音楽の融合に、次第に入場者のみなさんもどっぷり浸っていました。

フェルメールの絵画とカルテットの調べが心を揺さぶる

3曲目に演奏されたのは、ハイドンの「弦楽四重奏 第76番 ニ短調 op.76-2,『五度』 第2楽章」。ここで弦楽四重奏の父と呼ばれるハイドンの、1796年から97年にかけて作られた曲が登場しました。

第1楽章の張り詰めたニ短調から一転して、第2楽章は「アンダンテ、いやむしろアレグレット」という指示のもと落ち着いた伴奏へ。64歳となった老巨匠のハイドンの余裕と機知が生み出した楽章を、4つの弦楽器で現代の演奏者が奏でます。

スクリーンには光沢のあるドレスの青。新古典主義の傑作油彩画、アングルの「ブロイ公妃の肖像」です。後にフランス首相となるアルベール・ド・ブロイの妻ポリーヌの28歳のときの肖像画。35歳の若さで亡くなるポリーヌの美しさと内気さ、立体的に見える青のドレスが心に迫ります。

続いて映し出されたゲインズバラの「青衣の少年」に、みなさん静かに集中。先ほどの「ブロイ公妃の肖像」とは異なる鮮烈な青の魅力が、画面の中央から押し寄せてきます。

18世紀イギリスの画家であるゲインズバラが、当時は希少だった青の顔料を前面に押し出して描いた少年の肖像画。少年の衣装と背景の色使い、高貴な衣装とまだ幼い少年の表情、それらの対比が美しい作品です。

最後に演奏されたのは、メンデルスゾーン「弦楽四重奏 第2番 イ短調 op.13」です。まずは、第3楽章からスタート。

1827年、メンデルスゾーンがなんと18歳のときに書き上げた作品。第3楽章はインテルメッツォ(間奏曲)と名付けられ、第1ヴィオリンが民謡を思わせる素朴な旋律から奏で始めます。中間では軽やかな部分が続き、冒頭の歌へ戻っていくという構成です。

その一方で、絵画はフェルメールの作品が3点続きます。1作目は、「手紙を読む青衣の女」。手紙に視線を落とす女性の上着は、陰影や凹凸を濃淡でかき分ける青の表現が素敵ですね。

クライマックスの第4楽章へ。導入部から震えるような音色が響き渡ります。ここから、たたみかけるように、弦楽四重奏の音色も最上級の盛り上がりを見せました。

特に、第1ヴァイオリンを務める荒井さんの抑揚たっぷりの演奏は大迫力。筆者と同じようにクラシック音楽に詳しくない方でも、十二分に感動を共有できるはずです。

楽曲はフィナーレに向かい、ついにフェルメールの最高傑作と名高い「真珠の耳飾りの少女」が現れました。誰しもが一度はどこかで目にしたことがある名画。

当時のヨーロッパでは一般的な装飾品ではなかったターバンは、ラピスラズリという宝石から作った高価な絵の具を用いて青が塗られています。耳では激しく上下する音色に酔いながら、縮率を変えて何度も映し出される少女の眼差しに目は釘付けでした。

全体を通して、絵画にマッチした軽快な曲調やシリアスな曲調など多彩なクラシック音楽に、お客様の耳も喜ぶ1時間。最後は拍手に包まれ、プログラムは静かに幕を閉じました。

チェロ山内さん「オーケストラとは違う醍醐味を」

プログラム終了後、素敵な演奏を披露してくださったチェロの山内さんにお話をうかがいました。

——本日のわかさの舞台での「The Sound of Art ー音の絵画ー」はいかがでしたか。

山内:非常に充実したプログラムになりました。わかさの舞台は、ホールのように音が反響する環境とは一味違って、お客様へダイレクトにまろやかな音をお届けできるのが魅力です。単なるBGMではなく、画面に残る絵画に流れていく演奏という対照的なアートを合わせた体験のご提供は他にはないと思います。

——本イベントで行われる弦楽四重奏にはどんな魅力を感じていらっしゃいますか。

山内:私は初期から参加させていただいているんですが、演奏者の組み合わせによって各回違う刺激をもらって音楽を作れています。弦楽四重奏は、オーケストラのように大きな船ではありませんが、まるで小回りのきくボートのよう。入念に練り上げた上で、それぞれの個性を活かした演奏をお届けできる醍醐味があります。

——最後に、今後に向けて一言お願いします。

山内:今回は「青」をテーマにした名画それぞれに合った曲を選んだところ、演奏者自身にも好評でした。特に、最後の「真珠の耳飾りの少女」に対する選曲は悩みました。印象的な少女の眼差しを「どこか見透かされている」ように解釈して、エネルギー溢れる曲にしたのですが、お客様にも楽しんでもらえたようで何よりでした。

今日私の知人が1人来てくれたのですが、その方が音楽は詳しくないけれどフェルメールの絵画が好きな方を連れてきてくれました。ご入場のきっかけは、音楽からでも絵画からでもどんなことでも大歓迎です。

弦楽四重奏と絵画を同時に味わっていただける場はまずありません。「わかさの舞台」でしかできない新しいアート体験に、ぜひ気軽にお越しください。




取材・執筆・撮影:ノクオ

次回公演のご案内

次回の「The Sound of Art」は、10月11日(日)に開催。
第1部は11:00、第2部は14:00よりそれぞれスタートします。

タイトルは「The Sound of Art 音の絵画 op.9 水面の残響 〜波・川・雨が織りなす名画とクラシック〜」。

北斎のダイナミックな『神奈川沖浪裏』をはじめ、フェルメールらが描いた17世紀オランダの穏やかな港町や川の佇まい、ダイナミックな滝の情景、セーヌ川に架かる橋の賑わい、そしてしっとりとした雨と橋の情緒までを巡ります。

詳細はこちらまで。

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