第二回で紹介した庭師の森本さん。
彼が所属しているお庭関係の団体に、「職人さんがいたら、ぜひ、紹介してください!(庭師さんはもう書いちゃったので、庭師さん以外の職種がうれしいです←めちゃくちゃ失礼)」とお願いしていました。
そうしたらですね、「超おすすめの職人さんいますよ!」と声をかけてくれた方がいました。
これまでにも、個人的に何度かお会いしたことがある神奈川県藤沢市の庭師、小谷大輔さんです。
ご紹介したいのは、茅葺職人の杉嵜さんです。本当に素晴らしい方なので、ぜひ取材してほしいなと思いまして。それでは、朝霧高原まで行きましょうか。
ということで、朝早くから車で静岡県富士宮市の朝霧高原へ。白糸の滝の北側、キャンプ場で有名なふもとっぱらや本栖湖があるエリアです。

この、道の駅朝霧高原で目当ての杉嵜さんと合流する予定です。杉嵜さんはね、自動車のレースが好きなんですよ。サーキットで走るくらい。
レース? 今日、取材するのは茅葺職人による茅刈りでしたよね?
そこに颯爽と軽トラが登場。
おはようございます。富士かやぶき建築 茅吉の杉嵜靖司です。今日は、よろしくお願いいたします。
職人さんの仕事が見られるなら、どこへでも!
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
杉嵜さん、その節は大変お世話になりました!
以前、小谷さんが現場で四阿(あずまや)を作っていた時に、茅の提供と茅葺きの指導をしたことがあるんですよ。

あれは本当に大変でしたし、すごく助けていただきました。
最初の計画と木工こそ楽しかったのですが、最後の茅葺きは特に大変で。茅の集め方も、葺き方も全然分かっていませんでした。杉嵜さんにいろいろ助けていただきましたが、根性だけで乗り切ったと思います。
なるほど、そのご縁があって今日ご紹介いただいているのですね。
そもそも茅ってどんなもの?
ちょっと茅場の説明をしましょうか。こっちに来てください。
少し歩くと、道の駅 朝霧高原の建物の脇に看板が。

この地域の茅場は、300年以上も野焼きを繰り返して人々が守ってきたもので、いわば人が作り出した自然です。ここに生える山茅を私たちは刈っています。
また、朝霧高原活性化委員会の初期からのメンバーとして、12月に「茅刈り講習会・茅刈り人検定」、「茅刈り体験」、1月と3月に「おもしろ茅葺き体験」などに関わっています。
山茅?
実は私、来る前から小谷さんにスリムウェーダー(渓流釣りなどに用いられる防水のズボンと靴が一体化したような装備)って必要?と聞いていました。出身が関西なので、どうしても琵琶湖の茅を思い浮かべてしまって。
それは川茅、いわゆるヨシですね。ここは山茅でススキのため、靴と作業ズボンで大丈夫です。私たちは安全靴を履いていますが、浦田くんと小谷さんは履いていないので気を付けてくださいね。
私は地下足袋ですが、いつもどおり安全な歩き方を心がけます。
何ですか、その会話は…。茅場って危険なのでしょうか?
私の疑問もそこそこに、車で少し移動して朝霧高原茅場に到着。準備を整えて、いざ、フィールドへ!

柄が長くて刃渡りが短い鎌ですね。しかも懐が開き気味。農業用の鎌はもっと柄に対して直角に近い刃が付いていますが、これは弧を描くような形状です。ひょっとして茅刈り専用の鎌ですか?
いえ、これは小枝打ち用の鎌です。長野県の塩尻で見かけて、これはいけると思って買ってみると、本当に使いやすくて。刃の寝かせの角度は自分で変えています。
私は普通の農業用の鎌を持ってきましたが、これだと効率が悪いのでしょうか?
そうですね。ちょっと引っかかっちゃうかな。茅は逃し気味に刈っていく方が最終的に少ない疲労で効率良く刈れるんですよ。それでは早速、行ってみましょうか。

ここはもう刈り終わっているのでもうちょっと奥に行きましょうか。刈った後の切り株は鋭いので摺り足で歩いてくださいね。鎌で刈ると残った茎が鋭利なんですよ。
これ、車が走ったらパンクするかも…。だから、安全靴が必要なのですね。

刈った茅はこうやって小脇に抱えて、抱えきれないくらいになったら紐で結んで束にします。難しいことはないけれども、一朝一夕で鎌は扱えませんね。数をやらないと。
杉嵜さんが刈っている音って、確かにリズムが一定ですね。ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。カサカサ(数歩前に歩く音)。ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。カサカサ(数歩前に歩く音)。この繰り返しです。耳にも心地良くて。ちょっと茅場内を散歩してみます。
行ってらっしゃーい。
いやぁ、気持ちが良いなぁ。
歩いていると、さっきとは違う音が聞こえてきました。
ザッ、ザッ。「うーん」。ザクッ!!!「ふぅ〜」。ガサガサ、ガサガサガサガサ(歩数多めの歩き回る音)。ザクッ!ザクッ!ザクッ!「うーん」ザクッ!!!

いやー、もう腕がパンパンですよ。なかなか茅を良いペースで刈れなくて。さっき杉嵜さんが話されていたように、私は引く動作だけで切っているんでしょうねぇ。
鎌の使い方ひとつでここまで差が出るってすごいですね。別ジャンルとはいえ、小谷さんも日頃から刃物を使う庭師さん。それでも、こんなに苦労するのか…。
そうですねぇ(遠い目)。
記事には、熟練度がまだまだの私の茅刈りは載せないでくださいね。やっぱり庭師は格好良くなければいけませんから。コソ練とか見られるの恥ずかしいですし。
ウン、ワカッタ。マカセトケ。(生返事)

こうやって見ると、曲がった茅以外にも背丈が半分程度のものとか、笹とかも生えているんだなぁ。
と独り言をつぶやいていたら、好青年が登場。
背丈が半分くらいのものは、アブラガヤといって、屋根には使わない種類の茅ですね。かつては絞って油を取るのに使われていた茅です。笹は私たちにとって、ありがたくはない存在ですね。地下茎が深くてどんどん広がっていくので。

初めまして、杉嵜靖司の息子の杉嵜春光(はるき)です。今日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします!
竹や笹に苦労する農家さんや庭師さんは多いですが、茅刈りの方々もご苦労されているんですね。
そうです。だから春になると野焼きをします。野焼きは、茅以外の草木が広がるのを抑える目的があります。
うろ覚えですが、野焼きって灰がアルカリ性だからとか肥料になるからといった印象でした。
そうしている間に、どんどん刈りながら近づいてきた杉嵜さんも合流。

野焼きをすることで、生態系も守る
野焼きですが春光が話したことに加えて、森が広がってくるのを抑制する、笹を抑制するという効果があります。また、前年に残った茅も一掃したい。2年目の茅はパキパキ折れて丈夫ではなく屋根に使えません。野焼きをすることで、すべてを1年目の茅だけにすることも目的です。
全部を焼いてしまって、その後、都合よく茅だけが生えてくるものなのでしょうか?
笹は地下茎が50cmくらいのところを通っているため、野焼きでは根本的な解決になりません。でも、その他のことはほぼ解決します。茅は種子だけではなく、地下茎でも増える植物なので大丈夫なんですよ。
茅も地中深くに地下茎を伸ばしているのでしょうか?
いえ、茅は地表から数センチ程度ですね。でも、とある学者の方の話によると、地表付近は野焼きをしても、そこまで温度が上がらないんです。温度が高いのはその少し上の高さから。茅の地下茎は、野焼きしても生きているんです。

笹については、年に数回、刈り取って駆除しようという試みをしています。あの丘の一区画ですね。そこで成功したら、もっとエリアを広げていきます。
こう聞くと笹が大敵のように聞こえるかもしれませんが、実は最も警戒しているのは木です。放っておくとすぐに森になっちゃう。実際にあそこの緑が瑞々しいエリアの森は、元茅場です。数十年前から野焼きをしていないゾーンで、今では森になっちゃいました。そして、この一帯は国立公園のため木を伐採できません。森になったら茅場に戻せないのです。
植物のことは分かりましたが、虫や動物にとってはどうなのでしょうか?
すごいんですよ、生態系って。野焼きした後でも蝶が羽化して羽ばたいている。具体的なメカニズムは学者の方に任せますが、現場にいる者としては、300年も繰り返してきたことなので生き物たちも知っているのかなとすら感じます。野焼きしなかった年の方が動植物の在り方は明確におかしいですね。
あ!そういえば、なんで、手で刈り取っているんですか?
今の時代、刈払機とかでバーッと刈ってしまえば良いのではないでしょうか?切り口が汚くなるから?それとも、精神性みたいな理由でしょうか?
いえ、全然違いますよ(笑)。単純に手で刈った方が早いんです。
え!?
もちろん、どうすれば効率的に茅を刈れるかは、常に試行錯誤しています。うちは公共事業が少なく、民間の屋根が多いので、みなさんが思われているよりも利益率などを真剣に考えているんですよ。その一環で、一度、刈払機をテストしたことがあります。でも…
ご一緒しましたが、あれ、めちゃくちゃ大変でしたね!
風の有無や向き次第でバラバラの方向に倒れるんですよ。しかも、アブラガヤも笹も混じっているから、選別をしなきゃいけない。全然ラクでないです。
そうなんですよ。私たちは素材から自分たちで揃える茅葺職人です。材料屋さんと屋根屋さんという専業体制ではありません。自らが刈った茅を葺く時に使用します。となると、この段階でアブラガヤや笹を弾いておきたいし、まっすぐな茅だけにしたい。向きがバラバラ、目的でないものも混じっているというものを集めて選別する手間はなかなかのものでした。結局、手で刈るのが一番効率的だったのです。
あ、もうこんな時間ですね。そろそろお昼にしましょうか。

みんな!軽トラのあたりまで刈った茅を運んで〜
ドサ、ドサドサ(茅が置かれる音)
今日は取材が入っているのでスローペースですが(普段の私はこんなもんじゃないぜ!)、やっぱり成果が見えるとうれしいですね!
今日は取材が入っている日なので、これくらいにしましょうか。

よく見ると、それぞれ太さや縛る場所が異なりますね。
そうですね。モチベーションを保つために、うちの職人は春光も含めて出来高制にしています。でも、私は出費する方だから、出来高に関係がありません。つまり、私だけ太くなりやすいです。縛る場所も経験で変わってきますね。
出来高制だと、「細くていいや」とならないのでしょうか?
そこがおもしろいところです。まず、この束で茅葺きするのは自分たち。束が細いと何度も屋根まで茅を運ばねばならず、巡り巡って自分に返ってきます。あと、職人って負けず嫌いですから、他の人からケチがつく仕事は基本的にしません。
お昼ご飯用の即席ベンチができましたよ〜。

え?茅に座っても大丈夫なんですか?
それくらいで折れるなら屋根に使えませんよ。倉庫の茅の上で昼寝とかすることもあります。遠慮なくどうぞ。
それでは、遠慮なく(そろりそろり)。
お!確かにすごく丈夫ですね!
ところで、この茅って、どれくらいの量を刈るものなのでしょう?
冬から早春にかけて刈り取りますが、目標は一人1,500束。職人が4人いるので、茅吉としては6,000束が目標です。お手伝いしてくれる農家の方たちの合計が1,000から2,000束なので、7,000から8,000束がワンシーズンで刈る量になります。
茅葺職人は世界規模で足りていない
それを、残りの期間に茅葺きで使うということですね。一体、何棟くらい年間に茅葺きしておられるのでしょうか?
それは物件の広さと状況で大きく変わります。例えば、今はほとんどない新築ならば2,000束以上使うことが確実です。大掛かりな葺き替えなら1,500束程度、部分的な補修なら数百束ということもあります。

毎年、ご依頼の内容が違うと茅の在庫の量の調整が大変なのでは?
この年は大規模ばかりで10,000束必要になった、あの年は小規模ばかりで3,000束必要になったみたいなことにはならないのでしょうか?
いえ、逆です。うちの場合は、ご依頼が先にあって、その工事に必要な分の茅を刈るという考え方。つまり、先に6,000から8,000束を使用する仕事を確定させています。さっき、民間が多いと言ったのも、公共事業は入札で読めないから手を出せないからですね。
うちは職人が4人、事務方も入れると5人で動いていますが、茅はいくら刈ってもお金になりません。食っていくためには葺かなくては。
茅葺きって途切れることなく仕事があるものなのでしょうか?それほど物件が多くないと思うのですが。
屋根における茅葺きのシェアという考え方では、かなり少ないです。でも、その少ない物件数を満たすだけの茅葺職人が全国的に足りていません。いや、世界中ですね。世界中で茅葺職人が足りないそうです。
世界!?
日本では主にススキやヨシで葺きますが、強い植物を使って屋根を葺く文化は世界中どこにでもあるんですよ。赤道付近の国だとバナナの葉で屋根を葺いていますね。
あ!

さっきも話したように、茅葺き業界は世界中で職人不足です。日本では2019年時点で、60歳未満の茅葺職人は全国に100人もいなかったそうです。ですから、手に職という意味では良い職業だと思いませんか?
春光はテニスの特待で高校に行きましたが、いわゆる夢破れて茅吉を継ぐ気になりました。そんな彼を見ていると、同じように夢を追いかけている人に来てもらうのが良いのでは?と考え始めています。スポーツでも芸術でも、富士河口湖町から練習や試合・本番に行けるなら、仮に夢破れても手に職が残るじゃないですか。
お、今回も求人の香りが(笑)
あと、春光の将来を考えても、似たような年齢の職人が必要だと考えます。切磋琢磨する仲間がいないと伸びないですし。私が一歩下がったら春光の時代になりますが、そこで一緒に物を考え、時には意見できる人の存在が必要になります。
番頭さん的な?
そうです。だから、夢を持つ若者で手に職を付けたい人には、ぜひ、私たちと茅葺きの仕事をしませんか?と声を掛けたいです。
今回も求人、入りましたーーー!
勤務地は富士河口湖町です。空気がきれい、富士山が見える。そして東京方面に出ていくのも現実的な距離!
では、ご飯も終わったし、倉庫、行ってみますか?
はい、ぜひ見たいです!

父の時には赤池さん(茅吉の初期からの職人さん)がおられたのが大きいですね。
茅吉を始めた頃は、仕事が通年で受注できなくて苦労したなぁ。鳴沢氷穴の横の国道139号線って夏にいつも渋滞するのですが、そこをリヤカーでアイスを売って歩こうなんて赤池は言っていましたよ。
リヤカーの屋根が茅葺きだったら面白いですね。茅葺きアイス。
みんな、想像して爆笑。
良い時も悪い時も一緒に歩める相棒がいるとね、一人と比べてうんと将来が良くなります。私に赤池がいたような環境を春光にも作ってあげたいんですよ。
では、倉庫へ行きましょうか。

今から向かうのは、茅吉の倉庫です。西湖いやしの里根場を作る時に富士河口湖町が用意してくれたものです。あの頃、私には何もない状況でしたから。
え? 杉嵜さんって何代目なんですか?
私は初代ですよ。しかも、40歳の頃から茅葺職人です。最初は大手ボイラーメーカーにいて、その後に大工。そして、茅葺職人になりました。
えーーー!!!
詳しいことは倉庫に着いてからにしましょう。では、向かいますよ。

ブーン。車は快晴の中、富士宮市から富士河口湖町へ。2号車の車中は小谷さんと私、浦田くんの2名。
どうですか?茅刈りは。すごいでしょ!
いやぁ、茅場を維持する先人からの知恵がすごい。
やっぱり、自然のものを暮らしに役立てる昔からの知恵ってすごいんですよ。
庭師さんたちもすごいと思いますよ。
いやいやいや、自分なんてまだまだですから。でもですね、この前見た…(中略:到着まで、ずっと庭談義。長すぎるし茅と関係がないので割愛。地雷だった)
てな具合で、こういう熱い話を記事に入れてほしいですね、自分としては。うんうん。
ウン、ワカッタ。マカセトケ。(生返事)
倉庫に着くと、すでに杉嵜さん親子は茅を倉庫に格納し始めていました。

うわー、壮観ですね。これが6,000束を超す茅の束。この倉庫の存在は、お仕事にものすごく大切なのではないですか?
先ほど、杉嵜さんは初代と話されていましたが、どのようにして茅葺職人になられたのでしょう?
新卒で勤めたのはボイラーメーカーです。モノづくりが好きだったから設計をやりたいと言っていたのですが、そうではない部署になりそうだったので、主張を重ねてなんとか現場職に落ち着きました。いざやってみると現場の仕事が楽しくて。でも、会社員って年齢を重ねるほど、だんだん管理職になっていくものです。
一方、私はずっとモノづくりや現場職をしたかった。そこで、富士河口湖町の大工の親方に弟子入りして、大工になりました。36歳の時のことです。
そして、茅葺職人になられたのが、40歳。一体、どのようなことが?
大工として、やっと親方から子供部屋を任せてもらえるくらいの腕になった3年目に、富士河口湖町が『西湖いやしの里根場』を作るから、「きみ、茅葺職人になってくれ」と町から直接依頼されたことが、今の仕事をしている最大の理由ですね。

大工さんから茅葺職人さんに?
最初、西湖いやしの里根場で茅葺き建築を再建すると聞いた時は胸が躍りましたよ。大工として。でも、蓋を開けてみたら、私が茅葺職人?という話で(笑)
大工に未練はなかったのでしょうか?
未練の有無というよりも、やり始めたら戻る道がなかったという感じですね。葺けば葺くほど、既存のお客さんもこれからのお客さんも増えていくわけで。
もう、それは運命ですね。

一見、無茶な話ですが、今振り返ると私にとってすごくラッキーな人生の分岐点になりました。親方を用意してくれる。向こう数年の現場もある。この倉庫も町からの支給。その後のさまざまな出会いやできごとを考えても。僕はラッキーボーイなんですよ。ちょっと西湖いやしの里根場も見てみましょう。歩いて1分ですから。
茅葺の仕事のおもしろいところって何でしょうか?
このような事業規模でのモノづくりとしては、最大級に大きいですよね。大工さんみたいに寸法に追いかけられないので、自由がある職種だと思います。
庭師もそうだと思います。
自由があるという裏側には、最終的に収めなければいけないという責務も?
そういうことです。勘違いしがちですが、自由の裏には「お客さんが分からないことだからこそ、恥ずかしくないものを作らなければいけない」という側面がありますね。

茅葺屋根は、夏も冬も快適
茅葺屋根の建物って旅行先でカフェとか観光案内所で入ったことはありますが、実際に住んだらどんな感じなんだろう?
夏と冬、どう思われますか?
夏は涼しい気がします。屋根が分厚いし、影も多くなりそうだし。
夏はうんと涼しいです。雨が降ると水滴は流れ落ちますが、湿気は吸い込まれて保持されます。太陽が出てくるとその水分が蒸発し、放射冷却で熱を奪います。
そして、夏は夕立が降りやすいので水分の補給もされやすい。ですから、いつもすごく涼しいです。
すごい!循環していますね。冬は手作りの感じから温かい気がします。
温かいと言ってくれるとうれしいですが、気温的には暖かくはないですね。寒いです。ただ、これは床や壁の影響がとても大きいので、仮に現代の機密性の高い床や壁の住宅に茅葺きの屋根を乗せると暖かいはずです。料理など室内で発生した煙は屋根全体から出ていくのですが、外気の寒さは入ってきづらいです。不思議ですよね。
そういえば、茅葺屋根に地域性ってあるのでしょうか?
とてもありますよ。この西湖いやしの里根場の茅葺屋根には、この地域の形状が如実に出ています。ヒントは「兜造り」という様式名ですね。どこか分かりますか?
うーん。(しばらく観察)ひょっとして横の形状ですか?なんだか面具が付いた兜に見えてきました。
正解!

あれ?なんとなくそれぞれの建物で兜造りの雰囲気が微妙に形が違うような。あれは個人差でしょうか?
個人差、出ていますね(笑)。
あそこ(写真)は先ほど話した赤池が仕上げたものですね。直線的でしょう?私ならもっと丸みを出します。これは私が親方からそう習ったからで、以前はうるさく「丸く仕上げてくれ」と言ったものです。でも、最近はそこまで言いません。
あれ?言わなくなっちゃったんですか?
そうですね。以前は教えられたことを守ることに専念していました。でも、今は細かいことはさておき、茅葺きという文化そのものを守ることが大切だと考えています。それならば、多少の個性があっても良いなと。10年もすれば茅が薄くなって元の形を維持していませんし。赤池はスバル系、私はマツダ系ですかね(笑)。
趣味があるからこそ、人生にメリハリが生まれる
そういえば!レースって何ですか?
若い頃から車が大好きで。結婚したり職人になったりという中でしばらく封印していたのですが、最近、再開しちゃいました。GRヤリスが出た時にモリゾー(豊田章男さんのハンドルネーム)にワクワクさせられちゃって。ポチッと(笑)。この時点ではレースとか考えていなかったのですが、GRヤリスで現場に行ったらお施主さんがレースをやっている人だったのです。そこで意気投合して「出るぞ!」と(笑)。

さっきも言いました通り、僕、ラッキーボーイですから(笑)。あと、動かないとおもしろい未来はやってこないというのは確かなことですね。だから、昔から動くとなったら早い。
レースに出ると、車の名前を15文字以内で自由に付けられるのですが、次のレースは「富士山の茅で茅葺をしている茅吉」というエントリー名にしました。
ひょっとして、場内でそのように呼んでもらえるのですか?
そうです。だからって「茅葺きを頼もう」なんて人がいるとは思いませんが、さっき話した春光と一緒に茅葺きをやってくれる人と出会えたらなって。
ええ話や(泣)。ところで、レースってめちゃくちゃお金かかりそうです。(ひょっとして儲かってる?)
今、儲かっていると思ったでしょ!そうではないです。
職人なら分かってくれる人は多いことですが、自分であれこれアイデアを出して工夫して完成させていくからおもしろいんです。ヤフオクでパーツを探して、バラして動かせない状態でまた翌週、みたいな。

でも、お仕事でけっこうお疲れなのでは? それでも好きだからやれちゃうのですか?
60歳を超すと体力的に下り坂と思っていましたが、まさか階段、いや崖から落ちるようにガタがくるとは思ってもいませんでした。でも、昔から現場にいたので分かるのですが、疲れているからと酒を飲んでテレビを見てを繰り返していると、本当にそれだけになっちゃう。そういう人をたくさん見てきました。だから、趣味って人生に必要ではないでしょうか?
まぁ、多くの職人は料理でも模型でも、何をやってもやり過ぎてしまうんですけどね。奥さんが大変(爆笑)。
小谷さんや春光さんって趣味はあるんですか?
自分は、ドライブです。
やっぱり庭師たるもの自然から学ぶことが多いですし、やってみてすごく楽しかったので山歩きが趣味ですね。でも、始めた途端に近年のクマ騒ぎですよ…。
それは確かに怖い…。

仕事の時に大切にされていることはありますか?
「ま、いっか」をなくすことですね。可能な限り自分が確認をする。人に任せているところでも。一番大切じゃないかな。それによって自分の経験値が上がるし、人にも教えられるし。
私もできるだけと思っていますが、すべてに徹底することはなかなか難しいです。さすがです。
そういう職人さんが気を張っているところをみなさんにお伝えしている一方で、あんまり重たくは伝えたくないという気持ちがあります。
そうですよね。あまり持ち上げられても良いことは少ないです。そもそも、暮らしに密着していた物ですし。
茅葺業界だけで言うと、持ち上げる対象が文化財一辺倒になりかねない。太い柱に大きい屋根の屋敷だけでなく、一般のご家庭で茅葺きのところもまだまだあるわけですから。大袈裟になり過ぎると、残るものも残らない。
浦田くんがライトに伝えてくれることを期待しています。
(プレッシャー)が、がんばります!
今回は茅刈りでどのように素材が生まれてくるかを見ていただきました。次はぜひ、この西湖いやしの里根場の葺き替えや補修の様子を取材に来てくださいね。
必ず!
今日はありがとうございました。
<予告>
今年の夏から秋にかけて西湖いやしの里根場で屋根の葺き替えを取材予定です。

今回取材した企業DATA
会社名:富士かやぶき建築 茅吉
代表者:杉嵜 靖司
所在地:〒401-0302 山梨県南都留郡富士河口湖町小立3552-11
お問い合わせ:公式サイトのフォームをご利用ください
公式サイト:http://kayakichi.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/kayabuki.kayakichi
取材協力DATA
小谷大輔(ニワヤ小谷)
公式サイト:https://niwayakotani.com/

ライター紹介

浦田浩志(EDGEs/YouTube・Instagram・note)
得意:インタビュー記事、コンテンツ企画。
兵庫県神戸市出身、神奈川県逗子市在住。大学を卒業して入社した広告代理店で、求人広告の制作を担当。いきなりボスから「女性の求人を書くときは、君は女性になりなさい」という謎の教育を受ける。社長取材などを多数担当したことで、心臓に毛。近年は、初の永世七冠を達成した棋士の方や「宮さんがぜーんぶ破っちゃったの」と語ってくれた方、「問うな、踊れ、そして生きろ」という名言の方など、著名人も取材。一方で、大学時代からバックパッカーとして50か国以上を訪問。子連れでSUPを持ち込みインドへ行くなど神出鬼没。つながりがある造園関係者は100名以上、取材した鍛冶屋は50件以上を数える。