イントロダクション
いま、世界中の感度が高い人々がベトナムに集まっています。
2025年にベトナムを訪れた外国人は、過去最高の2,116万人。ミシュランガイドのベトナム版が公表され、洗練されたレストランも急増。日本人の海外旅行先としても人気が急上昇し、ホーチミンやハノイの街には、見慣れた日本の飲食チェーンの看板が並ぶようになりました。現地の富裕層の間では「おまかせ(Omakase)」が日本語のまま通じるほど、日本食への熱狂も高まっています。
この文化的な厚みを支えているのは、国民の圧倒的な若さです。平均年齢33歳、Z世代だけで約1,300万人を占めるベトナムは、GDP成長率8%超という数字とともに、消費と経済の両面で急速な進化を遂げているのです。
そのベトナムを、学生時代から20年以上にわたって見続けてきた人物が、ベトナム経済メディア「InfoBank」編集長の三浦賢弥さんです。バックパッカー旅行を機にベトナムに魅了され、政府機関での業務や市場調査会社での約7年間のキャリアを経て起業に至った、まさに自ら新天地を切り拓いてきたチャレンジャーの一人です。
単なる「安い労働力」「新興市場」という既存のフレームを超え、新たな挑戦や可能性に満ちあふれたベトナムの真の姿とは? そして、三浦氏が未来へ一歩を踏み出そうとするすべてのチャレンジャーに伝えたい「完璧な準備よりも、まず一歩を踏み出す大切さ」とは? 私たちの視野を広げ、次の一歩を踏み出すエネルギーをくれる熱いインタビューをお届けします。
プロフィール
ベトナム経済メディアInfoBank編集長 三浦 賢弥(株式会社InfoBase 代表取締役)

大学3年生の夏、バックパック一つでベトナムを南北縦断したことをきっかけに、この国の魅力に取り憑かれる。以来、現地への語学留学や大学院でのベトナム地域研究を経て、日本の政府機関および民間の市場調査会社にて、ベトナム経済の情報発信と日本企業の進出支援に約7年半従事。
2026年1月、ベトナム経済メディアInfoBankを企画・運営する株式会社InfoBaseを創業し、代表取締役に就任。
ベトナム経済メディアInfoBank
https://infobank-vn.com/
平均年齢33歳、経済成長率8%超! 世界が注目する「若さと熱狂」
――ベトナムってどんな国ですか?
一言で言えば、若さとエネルギーに満ちた国です。人口は1億人を超え、世界の有名企業が続々と進出するほど経済発展が著しく、街全体がどこか前のめりな活気に包まれています。
その若さは数字にも表れています。平均年齢はなんと33歳。日本の平均年齢50歳と比べると、その差は一目瞭然です。2025年のGDP成長率は8%超を記録し、所得水準が急速に向上するとともに、中間層のボリュームも着実に拡大しています。
なかでも注目したいのが、Z世代(1997〜2012年生まれ)の存在感です。彼らだけで人口の約19%、約1,300万人を占めています。消費の担い手としても、経済を動かす力としても、この世代がベトナムの今と未来を形づくっていると言っても過言ではありません。
そして、豊かさの広がり方も急速です。国全体の経済水準が上がるなか、超富裕層(純資産3,000万米ドル以上)の数は世界で4番目の増加ペースという統計もあります。成長の恩恵が、社会の各層に着実に届きはじめている国、それがいまのベトナムです。

――ベトナムが注目されているのは本当ですか?
本当です。実は最近、日本人の海外旅行先としてもベトナムが選ばれるようになってきました。「2026年春の海外旅行トレンド」によると、ベトナムは人気海外旅行先ランキングで韓国、台湾、フィリピンに次ぐ4位。2025年の構成比1.8%が2026年には3.3%へと跳ね上がり、2026年3月の1か月だけでも約9.3万人の日本人がベトナムへ旅立っています。

個人だけではありません。日本企業もベトナムへの進出を加速させています。ホーチミンやハノイの街を歩いていると、日本でお馴染みの看板が目に入るようになりました。ここ1〜2年だけでも、サイゼリア、とんかつ和幸、ノバレーゼ、元気寿司、ロイヤルHD(ロイヤルホスト・てんや等)といった人気チェーンが次々と店舗をオープンしています。
食の世界も変わってきました。2023年にはミシュランガイドのベトナム版が初めて公表され、洗練されたレストランが急増しています。なかでも面白いのが、日本食への熱狂ぶりです。現地の富裕層の間では「おまかせ(Omakase)」という言葉がそのまま日本語で通じるほど、高級寿司や割烹スタイルの日本食がブームになっています。

人生を一変させたバックパッカーの旅
——そもそも、なぜ三浦さんはベトナムに関わり続けているのですか?
直接のきっかけは、大学3年生の夏休みに初めてベトナムを南北縦断したバックパッカーの旅でした。
私は山形県の出身で、どちらかといえば田舎育ちです。中学2年生のとき、家族旅行で初めてハワイに行ったのですが、その体験が忘れられなくて。「いつか自分の足で海外に飛び出してみたい」という気持ちがずっと心の中にありました。
初めてベトナムの地を踏んだのは、カンボジアからバスで国境を越えたときのことです。降り立った場所がホーチミン市のバックパッカー街、ブイビエン通り。溢れかえる人々と、轟音を立てて走り抜けるバイクの波に、思わず立ち尽くしてしまいました。その光景が強烈に刻まれて、気づけばベトナム語の語学研修に3週間通い、大学院ではベトナムの地域研究を専攻し、ホーチミン市への1年間の交換留学まで経験していました。
ベトナムの人たちと時間を共にして感じるのは、その底抜けの明るさです。遠い将来を憂うより、「未来はきっとよくなる」と信じて今を生きている人が多いと個人的には感じています。経済規模では日本の方がはるかに大きいけれど、このポジティブさは、閉塞感を感じがちな今の日本が学べることのひとつではないかと、今も思っています。

——現地の人々と関わる中で、印象に残っているエピソードはありますか?
忘れられない場面があります。初めてベトナムを訪れたとき、ホーチミン市の道端のカフェでぼんやりと寛いでいると、すぐそばでバイクに腰かけたおじいさんが、ポメロという大きなグレープフルーツをおいしそうに食べていました。見慣れない果物が珍しくて、つい目で追ってしまったのですが、おじいさんはそれに気づいたらしく、無言でポメロをもぎ取って「食べるか?」と、かなりたっぷりな量を差し出してくれたんです。
言葉もろくに通じない見知らぬ外国人に、何の躊躇もなく。その自然な優しさに、じんわりと胸が温かくなりました。 偏見かもしれませんが、東京の街を歩いていると、人々はどこか互いに一定の距離を保っているように感じます。
でもベトナムでは、知らない人同士でも壁がなくて、ごく自然に声をかけ合う空気がある。あのおじいさんのひと切れのポメロが、その距離の近さをそのまま体現していたような気がして、今でも鮮明に覚えています。

ベトナム漬けの仕事がしたい――直感に従ったメディア創業
——社会人になられた後はどのようなキャリアを歩まれたのですか?
大学院を修了後は、日本の政府機関でベトナムの模倣品対策を担当する部署に配属されました。日本ブランドのアパレルやスポーツ用品の偽物が海外で出回るのを、政府としてどう取り締まるか——そういったミッションに取り組む部署です。良い上司にも恵まれ、ベトナム関連の事業を担当させてもらいました。
ただ、学生時代と比べるとベトナムに関わる機会がどうしても減ってしまい、気持ちが沈む日もありました。そんなある日、ハノイへ出張する機会があったのです。現地に降り立った瞬間、大量のバイクが巻き上げる排気ガスと、市場の生鮮食品の匂いが混じり合った、あのベトナム独特の空気が鼻をついた。その瞬間、学生時代にベトナムに没頭していた日々がまるで走馬灯のように蘇ってきました。
「やっぱり、ベトナム漬けの仕事がしたい」——そう強く思ったとき、タイミングよくベトナム人の知人から、ベトナム進出支援・調査会社を立ち上げるので一緒にやらないかという誘いを受けました。迷わず転職を決めました。
そこから約7年間、日本企業のベトナム進出を支える市場調査に携わり続けました。発電所、コンビニ、不動産、森林、パン——業種も規模も問わず、とにかく何でも調査しました。そのなかで積み上げてきた知見が、今のInfoBankの土台になっています。

——ベトナム経済メディアInfobankを立ち上げたのは、どういう思いからですか?
7年ほど市場調査の会社にいて、ベトナム経済動向やビジネスの知識がかなり蓄積されたのですが、その知見を自分の頭の中にしまっておくのはもったいないと考えて、誰でもアクセスできるwebメディアという形で発信できる場所を作りたく、InfoBankという経済メディアを立ち上げました。
先ほども述べた通り、色々な業種、全国の日本企業がベトナム市場でのビジネス展開に関心を持っています。
日本でベトナム現地のリアルな情報はどうしても不足しがちなので、そういう課題を解決したいという思いがあります。日本国内の経済が中長期的に横ばい・衰退する中で、ベトナムは日本企業にとって有望な市場となっているのが現代です。

「新興市場」の枠を超えて
——ベトナム経済メディアInfobankの今後の展望を教えてください。
今はビジネスや経済の情報発信を中心に取り組んでいますが、将来は旅行やグルメ、文化など、ベトナムに関わることであれば何でも積極的に発信していきたいと思っています。いわば、日本の中にベトナムブームを起こしたい、というのが正直な気持ちです。
メディアで語られるベトナムといえば、「安い労働力」「新興市場」「親日国」といったフレームが定番です。確かに間違ってはいないけれど、それだけでは今のベトナムの本質的な変化は伝わらないし、最近は日本国内のベトナム人もかなり増えていて、時折ネガティブなニュースも散見されます。
一方で、韓国や台湾は観光先としてすっかり定着していて、本屋に行けば関連書籍が棚いっぱいに並んでいます。でもベトナムはまだ、日本人の日常にはなかなか登場しない。その差を、少しずつ縮めていきたいのです。
仕事でベトナムに関わる人だけでなく、旅行や料理など日常のふとした瞬間に「そういえばベトナムって面白そう」と思ってもらえるような、そんなきっかけを増やしていくことが、InfoBankの長期的なビジョンです。

完璧な準備なんて必要ない
——最後に読者の方へメッセージをお願いします。
若いうちに海外の地を踏むことは、その後の人生に大きな転換点をもたらし、新しい視点を与えてくれると思っています。私の場合はベトナムでしたが、どこでもいい。まず外に出てみることが大切です。
特に20代の方に伝えたいのですが、完璧な準備なんて必要ありません。私も最初はバックパック一つで飛び込みました。年齢は関係ないけれど、若いうちにぜひ経験してほしいことのひとつが、バックパッカー旅行です。
日本にいると、どうしても似たような環境、似たような価値観の中で生きがちです。でも一歩外に出た瞬間、自分がいかに狭い世界の中で物事を考えていたか、気づかされる瞬間があります。その気づきは、本を読んでも、ネットを調べても、絶対に得られない。自分の体で感じるしかない。それこそが、海外に飛び出すことの一番の価値だと、今も確信しています。
InfoBankについて
ベトナム経済ビジネスを専門に配信するメディア。
https://infobank-vn.com/
