香川県・屋島に、ちょっと変わった水族館があります。日本でマナティーを見られる水族館は、全国でわずか4か所。そのうちの一つが、国立公園の山上という珍しいロケーションに位置しています。55年以上の歴史を持つこの水族館が、2027年春(予定)に全面リニューアルして新たなスタートを切ります。
その名は「新屋島水族館」。手がけるのは、世界63カ国以上に大型水槽を納入してきたアクリル水槽メーカー・NIPPURA株式会社(以下、NIPPURA)です。
世界を舞台に活躍する水槽メーカーが、なぜ山の上の小さな水族館を守り続けるのか。社長室長の平木拓さんに話を聞きました。

世界初の360度水槽を復刻
ーーリニューアルの最大の見どころを教えてください。
今回のメインコンセプトは、1969年の屋島水族館建築当初に誕生した「柱のない360度見渡せる水槽」の復刻です。当時、水族館の水槽といえば小さなガラス窓から覗き込む方式が主流でした。柱なしで360度見渡せる大型水槽は、世界で前例がなかった。それを、NIPPURAの創業者がアクリル素材で世界初の水槽を実現したんです。
その水槽が今回、新しく生まれ変わります。国内では見られないデザインの水槽も複数導入する予定で、NIPPURAがこれまで世界中で培ってきた技術とノウハウを、ここ屋島に結集させます。


ものづくりの原点。屋島水族館の再生に挑戦。
ーーNIPPURAが水族館の運営を始めたきっかけは何ですか?
創業のきっかけが屋島水族館だった、という原点があります。最初の水槽を作った場所ですから、特別な場所なんです。
老朽化に伴う閉館が検討されているという話を聞いたとき、当初は当然、困惑しました。
でも、自分たちが創業するきっかけを作ってくれた場所がなくなるだけじゃなく、屋島から水族館がなくなれば、子どもたちが生き物に触れる場所が失われる。かつて年間200万人が訪れた観光地の火が消えてしまう。そう考えたとき、水槽メーカーが水族館を運営するなんて、前例がないことでしたが、我々しか引き継いでいける者はいないという考えに至りました。
ーー建設には相当な制約があったと伺いました。
本当に大変でした(笑)。屋島は瀬戸内海国立公園の中にあり、しかも山全体が天然記念物に指定されているエリアです。環境省と文化庁、両方の規制をクリアしなければならない。
建て替えには様々なハードルがありました。
何度も構想を練り直しながら、両方の規制に収まるような計画をつくり上げていきました。
それでもやり遂げられるのは、NIPPURAが水槽製造と水族館運営の両方を担える、世界でも極めて稀な会社だからだと思っています。
ーーマナティーは引き続き見られるのでしょうか?
はい、引き続きマナティーを見ることはできます。マナティーのエリアについては、2期工事として将来的に場所を移し、新たな展示水槽を設ける計画を進めています。より良い環境でマナティーを迎えられるよう、しっかり準備していきたいと思っています。
マナティーの魅力を伝えるのは、飼育員一人ひとりです。担当によって語り口がまったく違う——それ自体がひとつの見どころになっています。しかも、お客さまとの距離がとても近い。飼育員が目の前でマナティーのことを話してくれる、フレンドリーな雰囲気は、大型水族館ではなかなか体験できないものです。

ーー今回のリニューアルは、高松市との連携協定とも関係があると伺いました。
はい。屋島水族館は高松市と屋島地域の活性化を目的とした連携協定を結んでいます。市としても、屋島を観光地としてもう一度盛り上げたい思いがある。その為に屋島水族館の果たす役割が大きいと思っています。
屋島では2013年に「屋島活性化基本構想」が策定され、産官学民が連携して様々な事業が動き始めました。スカイウェイの無料化、山上交流拠点施設「やしまーる」の整備。こうした動きの中で、私たちとしても、水族館のリニューアルを通じて屋島全体の再活性化に貢献したいと考えています。
水族館だけで屋島を盛り上げようとは思っていません。水族館をきっかけに屋島に来てみたら、綺麗な夜景があって、四国村もある、他にも魅力的な場所がたくさんある。点と点が、つながっていく、体験の連鎖を生み出したいです。
高松市との連携から、新たな取り組みも生まれました。工事中の約2年間も生き物たちの飼育は続きます。そこで、その様子も子どもたちに見てもらえないかと高松市に相談したところ、ちょうど移転のタイミングだった旧青果市場の跡地利用を提案していただきました。現在はそこを「市場水族館」として公開しながら、新しい水槽に移す魚を少しずつ集めています。市との連携があったからこそ実現できた取り組みです。
ーー世界63カ国以上で水槽を手がけてきた経験が、今回どう活きているか教えてください。
水槽をつくる上で私たちが大切にしている考え方は、「水槽は大きければ大きい方がいいのではなく、いかに動物の生態を伝えられるかという、形状・見せ方が重要だ」ということです。
たとえば水槽のカーブひとつとっても、角度によって魚の動きの見え方がまったく変わる。水槽の形状を工夫することで、来館者が自然と生き物の目線に合わせて体を動かすような設計もある。同じ生き物でも、見せ方ひとつで発見の深さがまったく違います。
今回の屋島でも、そういった「体験が自然と生まれる」しかけを随所に取り入れています。都市型のおしゃれな水族館ではなく、飼育員がお客さまの目の前で生き物の面白さを伝える、人と動物が近い場所。世界中で学んできたことを地元・屋島に還元できると思うと、やりがいは大きいですね。


≪黒潮の海≫に幅22.5m×高さ8.2m×厚さ60cm*1のパネルを納品した他、アクアルームなどを含む多くの水槽のパネルを制作。
*1-2003年度ギネス認定
ーー2027年春のオープンに向けて、どんな水族館にしたいと考えていますか?
一言で言えば、「世代を超えて何度となく訪れる場所」と思ってもらえる水族館にしたいですね。観光で一度来てもらうだけでなく、地元の人が何度でも足を運んでくれる水族館です。
屋島にはすでに自然の豊かさがある。海も山も近い。その環境と水族館が一体になったとき、ここでしか体験できない何かが生まれると思っています。子どもたちが生き物と出会い、飼育員の話を聞いて、帰り道に「あの魚、どんな生き方をしてるんだろう」と思ってくれる——そういう体験の積み重ねが、いつか海や自然を守る人を育てることにもつながるんじゃないか。そう思っています。
なぜ、山の上の水族館を守り続けるのか。
「水族館の経営だけを考えれば、山の上は決して最適な場所ではない」と平木さんは率直に語る。それでもNIPPURAが屋島に水族館を残し続けるのは、57年前に創業の原点となったこの地への揺るぎない使命感があるからだ。
世界初の360度水槽が生まれた場所に、今度は国内で見たことのない水槽が並ぶ。屋島の火を消さないために戦い続けてきた人たちの想いが結晶した新しい屋島水族館が、2027年春(予定)に扉を開ける。

企業紹介
NIPPURA株式会社(コーポレートサイト)
本社:香川県木田郡三木町井上3800-1
水族館用大型アクリルパネルで世界シェア1位を誇る、香川発のグローバルメーカー
1969年、「量産ではなく、一品モノを作る仕事がしたい」という想いを抱いた創業者が、数人の仲間とともに香川県高松市で日プラ化工株式会社を設立。アクリルをはじめとする合成樹脂の加工業として歩みを始めた。翌1970年には、屋島山上水族館(現・新屋島水族館)へ世界初となるアクリル製回遊水槽を納入。この挑戦をきっかけに水族館事業へ本格参入し、水族館向け大型アクリルパネル「アクアウォール™」の設計・製造・施工を手がけるようになった。納入実績は世界63カ国以上、数百施設に上る。
手がけた沖縄美ら海水族館(2002年)、ドバイ「ザ・ドバイモール」水族館(2008年)、中国・広東省の長隆海洋王国(2014年)の水槽は、それぞれ完成時点での「世界最大」として、計3度のギネス世界記録に認定。この分野における世界シェアは1位を誇る。透明度・耐久性・安全性を追求した独自技術と、設計・製造から現場施工までを一貫して担う体制が、世界中の水族館からの厚い信頼を支える。