今、全国的に盛り上がっている「学生お笑い」の潮流。関西では近年、令和ロマンや真空ジェシカらに感化された学生たちの精力的な活動により各大学にお笑いサークルが誕生し、活性化しているという。新進気鋭のサークルが乱立するなかで異彩を放つのが、「同志社大学喜劇研究会」(通称:喜劇研)。1962年に創設され、生瀬勝久やカズレーザー(メイプル超合金)、東ブクロ(さらば青春の光)など錚々たる面々を輩出している。
今回は、喜劇研の第64代の会長を務めるニシノと、相方のアクツによるコンビ「おかわりアイロニー」に、喜劇研究会の熾烈な競争システムや、学生お笑いに対する考えをたっぷり語ってもらった。

伝統を守りながら、新たな価値観を追求する
——楽屋Aの加藤さんから、「ニシノさんが会長就任されて、喜劇研が変わった」と聞いたのですが、どう変わったのでしょうか。
ニシノ:僕が変えた訳ではないのですが…。喜劇研は長い歴史の間、学内ライブをメインでやってきていました。それを僕の少し上の世代から、賞レースや劇場のオーディションライブに出ることも推奨するようになったって感じです。
——学内ライブとはどんなライブなのでしょうか。
ニシノ:4、5、7、10、12月の年間5回大学内で行うバトル形式のライブで、一般向けに公開もしています。ただ、これは喜劇研の全員が出られる訳ではありません。出場権が与えられるのは、学内ライブまでに行われる4回のネタ見せに3回以上出席していて、その中から選ばれた上位18位まで。今までの先輩たちはこの熾烈な学内争いのために、日々自分たちのお笑いを追求していました。
——伝統的なライブなんですね。
ニシノ:そうですね。長く続いている分、大学生お笑いの大会で結果を残す代があったり、学内ライブの質が高い代があったり、喜劇研はなんとなく代ごとにカラーが出るんです。たとえば僕の一個上の63代の代表たちは、楽屋Aの口火や、1UPに出演して結果を残していました。「毎日挨拶する先輩が、学外の舞台に立って、自分らがおもろいって証明してきている」って痺れたのもあって、学内ライブの評価制度の見直し、劇場に積極的に出演しているか、SNSなどで宣伝しているかといった姿勢も加点対象にしました。だから僕が喜劇研を変えたというよりは、先輩が拓いてきてくれた間口を、もっと大きくしようと奮闘しているって感じです。
——なるほど。身近に結果を出している人がいると、燃えますよね! 学外のライブにたくさん出ることは、喜劇研にとってどういうメリットがあるのでしょうか?
ニシノ:やっぱり、お笑いをやる上でいろんな価値観や評価軸に触れることは大切だと思うんです。学内ライブは、コアなお笑いファンでない一般の方も観に来られます。だから、どうしてもネタの系統はその人たちを意識した王道スタイルに偏ります。一方、大学生のお笑い大会は観客がゴリゴリのお笑い好きが多いので、王道だけでは評価されにくい。そうしたお客さん向けのネタを練習するには、楽屋Aや1UPの舞台に立って、研鑽することが一番早いんですよね。劇場への出演を評価軸に加えるのは、誰かが積極的に舞台に立つことで、学外の人たちに喜劇研の存在を覚えてもらいやすくなること、人脈の形成に貢献してくれていると思うからです。

ニシノさんに代表が変わってから
——ニシノさんのその考え方も大分カッコイイですね。相方のアクツさんから見て、ニシノ代表はどうですか?
アクツ:結構イイと思います。代表がニシノに変わって、評価制度の見直しもあって、外の劇場に出る部員も増えましたし。結果僕らもこうして取材受けたり、わかさ生活さんのラジオに出してもらえたりと貴重な経験も積めて、良いことのほうが多いです。
——そうだ、わかさ生活さんのラジオにも出られたんですよね。
アクツ:楽屋Wを深掘りするという回で、今年6月に『わかさ生活ラジオひろばin関西』に出させてもらいました。と言っても、メインは楽屋Aの加藤さんへのインタビューでしたが(笑)。僕らはネタもやらせていただいたんですよ。
——おかわりアイロニーや喜劇研のことを、ラジオきっかけで知った方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
アクツ:そうだと良いなと思います。それこそ最初は喜劇研が楽屋Aや1UPで、他大学のお笑いサークル所属の人らと顔を合わせると「お高く止まった喜劇研(笑)」みたいにちょっと仲間外れにされる空気感があったんですけど、最近は仲良くしてくれる人が増えてきて、そういうのも嬉しいですね。
——なるほど。閉じているとそういうイメージもつくのかな……。ちなみに、代表はどうやって決めたんですか?
アクツ:合宿中に投票で決めました。1票ずつ開票するし、ガチの票と一緒に、例えば「ウルトラマン」などのおふざけ票を入れることも許可しているので、夜にスタートして朝方までかかりました。
ニシノ:他の部員と競って、決選投票までいったので余計にね…。
——そんなに白熱した戦いだったんですね。
アクツ:ニシノは真面目で、頭が良いから、酷な事実をスッパリ言ってしまうところがあって、周囲からちょっと怖がられている節があるんですよね。怖い人が権力を持ったら不安じゃないですか。だから投票割れたのかな~って。

令和ロマンに憧れて学生お笑いの道へ
——なんと!とても柔和な雰囲気ですが、そんな一面があるんですね。続いてはおふたりについて教えてください。おふたりはどうして喜劇研に入ったんですか?
ニシノ:喜劇研に入ったのは、お笑いが好きだったからです。中1ですでに漫才をはじめていましたし(笑)。明確に意識をしたのは、2023年の『M-1グランプリ』でした。今までは僕らよりうんと年上の人たちが優勝していたんですけど、令和ロマンが優勝したときに「時代が変わる!」って期待感を抱きました。それで、大学に入ったらお笑いをやろうと思ったんです。
さっきアクツも言っていたんですけど、僕は勉強が苦手じゃないんですよ。で、代々京都の家系なんで京都から出ることも考えていなかったんです。だから志望校は京大と同志社。同志社ならそんな頑張らなくても入れたし、家族もOKしてくれたので、それで。
アクツ:嫌なとこ出てたで。
ニシノ:えぇっ!?
——よく世間でネタにされている京都っぽさを一部感じ取りました(笑)ありがとうございます。アクツさんは福島出身のスポーツマンですよね? なぜ喜劇研に?
アクツ:僕は小学校から高校までガチで野球をやっていて、評定も悪くなかったので推薦で同志社に入学しました。お笑いをちゃんと観だしたのは、部活を引退して大学の推薦を取った後ですね。YouTubeで令和ロマンのチャンネルが目に留まって、「この人たち面白いな。今年M-1に出るのか」というくらいの軽い気持ちで2023年の『M-1グランプリ』を観たら、ネタもめっちゃ面白いし、優勝するしで。大学に入ったらお笑いサークルあるし、やってみようと思いました。
——おふたりとも令和ロマンの影響が強いんですね。コンビ結成のきっかけは何だったんですか?
アクツ:サークルでは、自己紹介をしてから全員でコンビを組みたい相方の名前を書くんですよ。で、僕らはお互いがお互いを1位指名していたので、それで…ですね。
ニシノ:同じ学部だったんで、時間も合わせやすいかなと思って(笑)。
——相思相愛だ…!

取材を通して感じたのは、おかわりアイロニーは2人とも、高い自己管理能力を持った真面目な人物だということ。
学業、バイト、お笑い。それぞれに向き合う時間をきちんと管理し、それぞれの目標に向かって努力をしている。
ただ、性格は対称的。厳しく物事を突き詰めるニシノさんと、柔軟さと礼儀正しさを兼ね備えた愛されキャラのアクツさん。
主な人間関係の形成はアクツさんの得意分野だが、内向的で馴染めない人とは、広い視野で全体を見ているニシノさんとの相性が良い。お互いが得意分野でサークルと相方を支えているように思った。
ふたりの、学生お笑いの、関西のインディーズシーンのこれから
——今は大学3年生ということで、そろそろ進路を決める頃かと思いますが、お二人はどうされるんですか?
アクツ・ニシノ:就職ですね!
——え、プロは目指さないんですか?
ニシノ:プロの芸人になることは考えていません。そこまで腹括ることは無理でした。だから、楽屋Aにいるプロの方々はやっぱ尊敬しすぎて、話しかけにくいですね(笑)。僕みたいな中途半端な者が話しかけるのは、なんか違うと言いますか…。
アクツ:僕は話せますけどね(笑)。でもプロになるより、元々興味のあった地方創生に貢献できる職に就きたいという気持ちの方が強いです。大学はメディア系の学部なので、広告の力に可能性を見出しています。難しい仕事だとは思いますが、野球で培った体力と根性には自信があるので、頑張っていきたいです。
ニシノ:僕も自分の力が発揮できる職に就けたらなぁと思っています。
——就活、不安もあると思いますが応援しております。喜劇研究会には今後どうなっていって欲しいですか?
ニシノ:今のように外の舞台に立つことも、学内ライブもどちらも大事にしていって欲しいです。お笑い芸人が増えたことにより、尖らないと目立てなかったり、評価されるのもそういう芸人さんだったりという現状がありますが、僕は王道スタイルのお笑いも文化として大事だと思うんです。新しいことに手を伸ばすことと、古き良き伝統を捨てるのは違う。伝統の上に僕らはいるから、どちらも大事にしたいと思っています。
——関西のインディーズお笑いシーンに対してはどうですか?
ニシノ:僕としては「学生芸人」とか「社会人芸人」という括りではなく、同じ舞台で同じ芸人としてごちゃ混ぜになれたら良いのになと思います。楽屋Aなどの舞台に立っていてよく感じるのは客層の分断です。学生がメインのイベントだと、客層はどうしても学生に偏ってしまいます。ですので、そういった壁を取り払うことで、プロに求められることを学生芸人は知れたり、視座も上がったりできるんじゃないかと考えています。お客さんも側もそういうことを気にせず、もっと気軽に観に来てもらえるのが理想です。
——ありがとうございます。確かにその偏りがなくなったら、もっとこのシーンは盛り上がりそうですね。最後に、宣伝はありますか?
アクツ:10月と12月に学内ライブがあります! 一般公開もしていますし、部員全員が全身全霊で挑むライブなので、是非観に来てください!

