「コーラって、自分で作れるものなんだ」
そんな発見から始まった、世界初のコーラ専門店『伊良コーラ』。複数のスパイスや柑橘類などの天然素材を使った一杯は、多くの方を魅了し、今では全国1,000店舗以上で取り扱われています。
代表のコーラ小林さんは、自宅でのコーラ作りをきっかけに、2018年7月「伊良コーラ」を創業しました。そこには、おいしいコーラを届けたい想いだけでなく、「ハッとさせるような感動体験を届けたい」という想いがあるといいます。
今回は、小林さんのコーラとの出会いから、食材や製法へのこだわり、そして未来への挑戦について伺ってきました。
なぜ「コーラ」だった? 世界初の専門店が生まれるまで

「伊良コーラ」の始まりは、「偏頭痛にいい」という話をきっかけに世界中のコーラを愛飲していた小林さんが、WEBサイトで100年以上前のオリジナルコーラレシピを見つけたこと。
材料を見てみると、シナモンやカルダモン、コリアンダー、ナツメグなど、近所のスーパーでも手に入るものばかり。「コーラって自分でも作れるんだ」という探究心から、自宅で手作りコーラ作りをスタートさせたそうです。

会社員として働きながら、帰宅後に試行錯誤をくり返すこと2年半。コーラのような風味にはなるものの、なかなか納得のいく味にはたどり着かなかったといいます。
転機になったのは、和漢方職人をしていた祖父の遺品整理のために祖父の家に出向いたことでした。

下落合で「伊良葯工(いよしやっこう)」という工房を構えていた和漢方職人
祖父の工房に残された生薬の加工道具、資料を手に取るなかで「生薬の加工工程は、コーラ作りに生かせるかもしれない」と閃いた小林さん。その工程を参考にして生まれたのが、現在の伊良コーラの原点となる一杯だったそうです。
小林さんは、この時はじめて「このコーラを誰かに飲んで欲しい」と感じたといいます。

2018年7月には、祖父の名前を由来にした「伊良コーラ」を屋号に、移動販売車で青山のファーマーズマーケットに初出店。
12月には会社員を辞め、コーラ一本で独立することを決意し、2020年2月、祖父の工房を改装し、世界初のコーラ専門店『伊良コーラ 総本店下落合』をオープンします。
コーラにここまで惹かれた理由は、「よくわからない飲み物」だったからです。
世界中で親しまれているにもかかわらず、何からできているのか、どうやって作られているのかを知っている人は意外と多くありません。それでも、みんな当たり前のように飲んでいる。その状態がおもしろいなと思いました。
もともと、「人をハッとさせたい」「びっくりさせたい」という気持ちが自分の根底にあるんですよね。壮大なイタズラ心というか。おいしいコーラを届けることはもちろんですが、コーラを通して、今ある価値観を改めて問うような「驚き」を届けられたらいいなと思っています。

食材にも驚きと発見を。伊良コーラの製法のこだわり

伊良コーラには、コーラの実をはじめ、シナモンやカルダモン、クローブ、コリアンダーなど10種のスパイスと、レモンやライムなどの柑橘類を使用。すべて天然の素材が使用されています。
現在は、問屋からの仕入れが中心ですが、ゆくゆくはすべて顔の見える生産者から直接仕入れることも目標で、「材料の作り手の顔が見える方が、自分たちのものづくりがもっとよくなる」という想いがあるといいます。

伊良コーラの幹となる「コーラシロップ」は、コーラの実とスパイスをていねいに潰し、柑橘類と合わせてじっくりと火入れすることで完成。複数のスパイスを独自に調合し、祖父から受け継いだ漢方の製法を取り入れることで、スパイス本来の香りや風味を引き出しています。
なかでも特徴的なのが、「コーラ」の名前の由来でもある「コーラの実」。
味に大きな影響を与える食材ではないそうですが、「コーラの実なんて食材があるんだ!」という驚きを届けたいという、小林さんらしい“壮大なイタズラ心”から、使い続けているそうです。

店頭で楽しめるのは、定番の「ドリーミーフレーバー」、和山椒、クロモジ、柚子、はちみつの入った「ザ ジャパン エディション」、ドリーミーフレーバーに牛乳を加えた「伊良ミルコーラ」、高麗人参、冬虫夏草(とうちゅうかそう)、反鼻(はんぴ)などの高級生薬を贅沢に配合した「ザ ゴールドエディション」の4種類。

手間をかけることを惜しまず調合されたコーラシロップに、シュワッと炭酸水が注がれると、出来立てほやほやのコーラが完成。
舌を刺激するスパイスの風味。鼻を抜ける爽やかな柑橘系の香り。「本物のコーラってこんな味がするんだ」と飲み終えるまで終わらない感動も、伊良コーラだからこそ味わえる体験です。

全国に広がっても、顔の見えるものづくりを手放さない

2021年4月には2号店である「渋谷神宮前」をオープンし、2023年3月、 新製品「イヨシコーラ」(缶)を完成させ、全国流通がスタート。
より多くの人に伊良コーラの感動を届けられるようになり、うれしい気持ちがあった一方で小林さんのなかには、“伊良コーラらしさ ”を届ける難しさを感じる葛藤があったといいます。
全国に商品が流通し、より多くの人に伊良コーラを届けることはうれしかったのですが、大きな会社に見られることが多くなり、「成功した」と見られてしまうことが増えました。
実際はスタッフは10名ほどで、製造も少人数です。もちろん、缶の製造に妥協は一切なかったですが、それまで職人がこだわって作ることを大切に育ててきたからこそ、伊良コーラの良さが伝わっていないように思えて歯痒かったですね。
店舗用のシロップをはじめ、販売用のシロップやボトル、そして缶用のシロップまで、現在は、すべて自社の工房で手がけているという伊良コーラ。製造スタッフはわずか4〜5名ほどです。

缶の製造を始めた当時は、仕込みや運び出しの都合から、缶用シロップの最終仕上げを協力会社に委ねていたそうですが、小林さんのなかに「最後まで自分たちの手でつくれない」という引っ掛かりがあったといいます。
そこで、思い入れのあった下落合の工房を離れ、新たな工房への移転を決意。
製造工程を一から見直したことで、効率は落ち、製造の負担も大きく増えましたが、現在では缶用シロップも含め、すべて自分たちの手で仕上げられるようになったといいます。
創業当時から、顔の見えるものづくりを大切にしてきました。
どんな工房で、どんな職人が、どうやってものづくりをしているのか。漢方職人だった祖父の影響を受けて生まれた伊良コーラだからこそ、職人の熱量のこもった一本を届けたいという想いがあるんです。
移転した工房は非公開なので、今後は、「ファクトリーストア」をつくることを考えています。製造過程を透明化することで、ものづくりの過程を伝える場があればいいなと。「伊良コーラ失敗作展」というのも、おもしろそうですよね。店舗の壁にこれまで失敗してきた試作品のレシピを並べたりして……。
伊良コーラは順風満帆に見えるかもしれませんが、実際はずっと試行錯誤の連続でした。今後は、そうした過程も含めて見てもらいたいです。
目指すは、コーラの本場ニューヨークでの出店


2026年4月には、4号店目となる「中野五丁目」をオープンし、感動体験の場を増やし続けている「伊良コーラ」。
直近の目標は、コーラの本場・ニューヨークへの出店。その先にはヨーロッパやドバイ、南米など世界各国への展開を見据えています。一方で国内では、日本文化の原型ともいわれる京都へ出店し、ブランドとしての文化的な厚みや奥行きを育てていきたいと考えているそうです。
店舗を拡大し続けるのは、決して認知を広めたいからではなく、驚きの体験ができる場を増やしていきたいという想いがあるからです。
伊良コーラにとって、「コーラ」はあくまで手段です。世界に対して、今ある価値観を問うような「ハッとさせる体験」を届けること、おいしいコーラで「小さな感動」を届けること。コーラを通して、自分たちがやりたいことを表現し続けたいと思っています。
個人的には、祖父が携わっていた薬種の文化は、この先少しずつ消えていくものだと思っているので、違う形で世の中に残していけたらという想いもありますね。
とはいえ、伊良コーラに来てくれた方には難しいことを考えず、純粋においしいコーラを楽しんでほしいです。その上で、驚きや発見のきっかけになれたのならうれしいなと思います。

新店の中野五丁目店にて
伊良コーラが目指しているのは、コーラを売ることだけではありません。一杯のコーラをきっかけに、「コーラってこんな材料からできているんだ」「こんな文化があったんだ」と、新しい発見や、驚きを届けること。
事業や規模が大きくなっても、決してクラフトを諦めない姿勢も、職人の祖父の工房からスタートした伊良コーラならではの想い。伊良コーラの一杯には、人を驚かせたいという壮大なイタズラ心と、職人が届ける誠実なものづくりが詰まっています。

伊良コーラ 中野五丁目
住所:東京都中野区5-60-2
営業時間:13:00-20:00
定休日:火・水
公式HP:https://iyoshicola.com/
SNS:https://www.instagram.com/iyoshicola/
https://x.com/iyoshicola
取材・執筆:はせがわみき