創業90年以上。昭和初期から東京亀戸で続く「佐野みそ」は、日本人のソウルフード「みそ」を扱う専門店です。
店内に並ぶのは、全国で造られた70種類以上のみそ。「みそってこんなに種類があるの?」と、思わずそう口にしたくなる景色は圧巻!
今回は、そんなみそのスペシャリスト「佐野みそ」の3代目の佐野正明さんに、多彩なみそを扱う理由やみその魅力を伺ってきました。
人と同じようにみそには「個性」がある。70種が店頭に並ぶ理由

1934年、東京亀戸の地ではじまった、みそ専門店「佐野みそ」。
創業したのは、3代目佐野社長の祖父にあたる佐野一郎さん・花子夫妻です。東京大空襲により一度店舗は全焼してしまったそうですが、戦後は「みそ配給支所」として営業を再開し、1960年に社屋を再建。
現在は亀戸・砂町銀座で計3つの店舗を構え、今日まで日本人のソウルフードであるみそ文化を守り続けています。

今回は、亀戸の本店へ。店内には、北海道、東北、信州、九州と全国各地から取りそろえた70種以上のみそがズラーっと並んでいます。全国の味噌蔵へ足を運び選び抜いたものや、ニーズに合わせて蔵元と共同で造ったものなど、「お客さまのために」という想いの詰まったこだわりのラインナップです!
多彩なみそを一同に集めるのには、個性豊かな「みそ文化」を楽しんでほしいという代表の想いがあるといいます。
みそは、戦国時代「兵糧」として使われた歴史のある、伝統的な発酵食品です。
東北なら赤色で辛口の「赤味噌」、信州なら「淡色味噌」のバランス型、京都は塩分控えめの「白味噌」、九州は甘めの「麦味噌」など、みその味や特徴にはその土地の風土や気候、採れる食材などが大きく関係しています。
また、たとえ同じ土地の味噌蔵であっても、保有する「菌」の違いによって味に大きな差が出るほど繊細な食材です。
佐野みそでは、そういったみその「個性」を楽しんでもらうべく、全国の蔵元で造られた味噌を並べています。

個人的な「好み」で選ぶのではなく、それぞれ「個性」を見出すことも佐野社長のこだわり。
そのみそがもつ「個性」を大切にすることが、さまざまな香りや味わいのみそを販売する原動力になっているといいます。
「ソ(噌)ムリエ」があなたにぴったりのみそとマッチング!

種類が多くて迷ってしまう方もご安心を。店舗内のみそは全種類、その場で試食でき、実際に味を確かめながら、お気に入りの一品を選べます。
さらに、みそのスペシャリスト「ソ(噌)ムリエ」が常駐し、好みや用途に合わせたみそ選びをサポートしてもらえるんです。
甘いみそ、淡白なみそ、濃厚なみそ、それぞれ良さや魅力があります。そういったみその魅力や個性を的確にお客さまに伝えるために導入したのが「ソ(噌)ムリエ」です。社内試験に合格したみそのスペシャリストとして、現在10名ほど在籍しています。
「このみそはこの食材と合う」「こんな使い方をするとおいしい」などのアドバイスはもちろんのこと、「お子さんがみそ汁を飲まない」「夫婦で好みが違って困っている」「みそ汁の味がマンネリ化している」など、日常的なみそのお悩みをご相談してもらえると、毎日の食卓がぐっと豊かになると思いますよ!

筆者も取材中に、2種類のみそを購入させてもらいました。
普段はフルーティーなみそを使っているとお伝えしたところ、自然なあまみが特徴の「薩摩みそ 櫻島」(九州)、チーズのような独特な香りを放つ「味噌玉造り 幻蔵」(信州)とマッチング。
はじめて出会う種類のみそばかりで最初は目移りしてしまいましたが、色や香り、味わいも本当にそれぞれに違いがあることが実感でき、選ぶ時間も楽しかったです。

その場でおいしいみそ汁を。カフェ「味苑」オープンの背景

量り売りのほか、店内でひときわ存在感を放つのが、みそカフェ「味苑」です。
2016年に店舗内にオープンした体験型カフェで、佐野みそで実際に取り扱うみそを使った「おみそ汁」がいただけます。
これまで、「このみそはこんな特徴があって……」「こういう食べ方がおすすめで……」一人ひとりのお客さまに、ていねいにみその魅力をお伝えしてきました。とはいえ、言葉だけだとご自宅で使うイメージが沸きづらいのではないかと……。
そこで思いついたのが、店舗内でおみそ汁が食べられる場所です。実際に食べていただくカフェスペースを設けることで、よりみその魅力やおもしろさが伝わると考えました。

7種の野菜と肉or魚どちらかを選択可能
味苑のこだわりは「みそ汁が主役」の食事を提供すること。メインのみそ汁を中心に、焼きおにぎり(もしくはご飯)、おかず味噌、漬物、お菓子が添えられたシンプルで満足感の高いセットが楽しめます。

6種のみそから1〜2種お好きなみそをセレクトできるのも魅力。自宅のみそ汁とは違うみそを選ぶことで、ちょっとした冒険ができるのもポイントです。
みそ専門店とはいえ、飲食業は初挑戦。右も左もわからない状態だったこともあり、ほかの飲食店で半年間修行しながら飲食のノウハウを学び、構想から2年ほどで「味苑」をオープンしました。念願の飲食スペースが無事にオープンできたときは、うれしかったですね。
カフェができたことで、カップルやご夫婦など、20〜30代の若い世代の方々が足を運んでくれるようになったことも大きな変化でした。みそ屋にみそを買いに行くのは、少々ハードルが高いかもしれませんが、「おいしいおみそ汁を食べに行く」という目的があることで、立ち寄ってもらえる機会が増えたのではないかと思っています。
引き続き、みそを体験できる場を通して、みその魅力や楽しみ方を伝えていきたいです。

2025年には、店舗内に「くらべてみそ」をオープン。
12種類のみそと、2種のお出汁を組み合わせて、オリジナルおみそ汁が体験できるスポットです。ここでも、より気軽にみそを体験できる場を目指しているといいます。

みそには「生活に彩り」を加える力がある

2010年に3代目に就任してからというもの、ソ(噌)ムリエ制度を導入したり、味苑、くらべてみそをオープンしたりと、新たな可能性を模索し、みその魅力を発信し続けてきた佐野代表。
その背景には、ご自身が小学生の時に起こった2つの出来事が大きく関係しているといいます。
父が2代目を務めていた頃「みそは高血圧の原因だ」といった報道が流れたことがありました。現在は、さまざまな研究により逆に「高血圧を抑える」とされていますが、当時は家業を真っ向から否定された気分になり悲しく、同時に悔しさがあったんですよね。さびしそうに新聞を見つめる父の姿は今でも忘れられません。
同じ時期に、母が毎日、みそ汁に使うみそを変えるようになりました。赤っぽいみそ、真っ白なみそ、さまざまあるなかで、途中真っ黒なみそが出てきたことがあったんです。最初は正直「おいしくなさそう……」と思ったのですが、母に言われるがまま食べてみると、びっくりするくらい深みがあっておいしくて。
みそってこんなに種類があって、それぞれのおいしさや個性があるんだという実体験と、みその魅力を認めてもらえなかったという悔しさが、私の原点です。私の代は「原点回帰」を掲げ、みその魅力や楽しさを伝えていくことをなによりも大切にしています。
みそは、日本人にとって馴染み深い食材であって、決して特別感のあるものではないかもしれません。ただ、日本人の食卓に欠かせない食材だからこそ「今日はどのみそを使おうか」という選択肢があるだけで、食生活にパッと彩りを添えてくれる存在だと思います。
佐野みその使命は、そういったみそならではの楽しみ方を伝えていくことだと思っていますね。
これからもみその魅力を伝え続けるため、みそを使った調味料の商品開発など、あらゆる可能性を模索したいと語る佐野代表。
取材時には、「麹菌」「酵母菌」「乳酸菌」の3つの菌によってみそが作られること、みそのはじまりや歴史など、みそへの理解が深まるお話をたくさん聞かせていただきました。

特に印象的だったのは、日本でのみその消費量は減少傾向にあるということ。だからこそ、日本人のソウルフードであるみそ文化を守り続けたい。佐野みそには、そんな熱い想いが流れていました。
もっとみそのことを知りたいと思った方は、ぜひ「佐野みそ」へ足を運んでみてください。

佐野みそ 亀戸本店
住所:〒136-0071 東京都江東区亀戸1-35-8
TEL:0120-120-685/03-3685-6111
営業時間:
【店舗】10:00~18:30
【味苑】11:00~15:00
定休日:年中無休(元旦~3日を除く)
SNS:
https://x.com/sanomiso
https://www.instagram.com/sanomiso/
取材・執筆・撮影:はせがわみき