世界各地で、それぞれの問いやテーマを抱えながら学ぶ若者たち。
留学対話は、そのリアルな声を記録していく連載です。
第3回となる今回は、デンマークでインクルーシブな教育と福祉について学ぶ、野添葉音(はのん)さんにお話を伺いました。
日本では上智大学総合人間科学部で社会福祉を専攻し、現在はデンマークのエグモント・ホイスコーレに留学中です。
障害のある学生と障害のない学生が共に暮らし、学ぶ環境の中で、福祉や教育、そして社会のあり方について実践的に学んでいます。
耳に障害のあるお母様がきっかけとなり、障害者雇用や社会参加のあり方に関心を持つようになったという葉音さん。働くことを軸に考えていた福祉への視点は、デンマークでの生活を通して少しずつ変化していったといいます。
障害のある人とない人が自然に関わり合う教育環境のこと。コミュニケーションの多様な形のこと。そして、福祉を支える制度や財源の重要性について。
今回は、デンマークでの学びと実践、そして留学を通して見えてきた新たな問いについて、じっくりとお話を伺いました。
プロフィール
葉音さん
上智大学総合人間科学部社会福祉学科在籍。現在、デンマークのエグモント・ホイスコーレに留学中。
障害のある学生と障害のない学生が共に暮らし学ぶ環境の中で、インクルーシブ教育や障害者福祉について実践的に学んでいる。
留学テーマは、デンマークの対話から学ぶインクルーシブな職場づくり。
今後はインドネシアの国際機関でインターンシップにも参加予定。
趣味は食べることと、グリーティングカード集め。
Instagram:@link.to_hanon
note:https://note.com/light_cosmos690

障害のある人と健常者が一緒に暮らし、学ぶ学校へ
みお:まずは自己紹介をお願いします。
葉音さん:上智大学総合人間科学部で社会福祉を専攻している葉音と申します。
現在は文部科学省が展開する留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」を利用して留学中で、インクルーシブな社会や職場づくりについて学んでいます。
留学全体としては、マルタでの語学留学、デンマークでのボランティアを経て、現在はデンマークのエグモント・ホイスコーレという学校に半年間留学しています。その後はインドネシアで国際機関のインターンシップに参加する予定です。
みお:今いるエグモント・ホイスコーレはどのような学校なのでしょうか。
葉音さん:大学ではなく、デンマーク独自の成人教育機関です。
特徴的なのは、障害のある学生が全体の約4割を占めていることです。身体障害、知的障害、精神障害などさまざまな背景を持つ学生が、障害のない学生と一緒に学び、生活しています。授業も少しユニークで、性教育、乗馬、クライミング、アウトドア、陶芸などもあります。
たとえばクライミングでは、普段車椅子を使っている学生も参加できるように設備やサポート体制が整っています。福祉国家としての制度や財源があるからこそ実現できている教育だと感じています。

最も印象に残っているのは、デンマークの大自然の中を40km歩き、キャンプ生活を体験するアウトドアクラスです。
身体障害や知的障害のある生徒も参加し、ランニング用車椅子の使用や、チームメンバーによる食事・移動のサポートを受けながら、全員で挑戦しました。チームが一丸となって過酷な道のりを進んで得られた達成感と、友人たちとの信頼関係が築けたことに、とても感動しました。

留学で気づいた、大切なこと
みお:留学を通して印象的だった気づきはありますか。
葉音さん:もともと私は障害者雇用に関心がありました。
母が耳に障害を持っていることもあって、障害のある人たちの働く選択肢の少なさを身近に感じながら育ったんです。だからこれまでは、働くことが生きがいにつながるのではないかと考えていました。
でもデンマークに来て、その考え方が大きく変わりました。
障害のある人たちは、福祉制度によって安定した生活基盤が保障されていて、そのうえで友人や家族との関係を大切にしながら暮らしています。
その姿を見ていると、働くことそのものよりも、自分の意思で選択できる生活を送れることの方が重要なのではないかと思うようになりました。充実した福祉の実現には、国の安定と国益を維持し、社会保障財源を確保することが重要なのだと感じています。
みお:学校ではどのような方たちと関わっているんでしょうか。
葉音さん:学校には大きく分けて二つの立場の学生がいます。一つは障害のある学生。もう一つは障害のない学生です。
障害のない学生は授業を受けながら、障害のある学生の日常生活をサポートする役割も担っています。私は日本から来た重度障害のある学生をボランティアとして支援しています。
デンマークでは、障害のある人自身がサポートする人を面接で選び、雇用する制度もあります。支援される側が主体になれる仕組みが整っているんです。

みお:葉音さん自身も留学生ですが、コミュニケーションはどのように取られているのでしょうか。
葉音さん:本当にさまざまです。
言葉での会話が難しい場合は、ジェスチャーや文字盤を使いますし、翻訳機を使うこともあります。
デンマーク語しか話せない学生も多いので、その都度方法を変えながらコミュニケーションを取っています。
ここに来て感じたのは、コミュニケーションとは話すことだけではないということです。相手に合わせて方法を考えること自体が大切なんだと思います。
みお:なぜデンマークで学ぼうと思ったのでしょうか。
葉音さん:日本の課題として感じていたのは、障害のある人たちと接する機会そのものが少ないことです。
インクルーシブ教育もまだ十分とは言えませんし、子どもの頃から一緒に学ぶ経験が少ない。そうすると、大人になってから職場で一緒に働こうとしても、お互いにどう接したらいいかわからないという状況が生まれてしまいます。
デンマークにも課題はありますが、この学校では障害のある人とない人の境界線をほとんど感じません。だからこそ、働く以前に、彼らがどのように学び、どのように暮らしているのかを知ることができると思いました。

デンマークに来て将来像が変わった
みお:留学後の進路についてはどう考えていますか。
葉音さん:進路は、留学を通じてかなり変わりました。
以前は福祉をビジネスの力で良くできないかと考えていたのですが、今はまず福祉を支える財源の仕組みを考えることが重要だと感じています。
デンマークで高福祉が実現している背景には、高負担を受け入れる社会の仕組みがあります。また、デンマークの若者たちと話していると、安全保障や国際情勢への関心の高さにも驚きました。
福祉だけを見るのではなく、経済や外交、安全保障も含めて社会全体を考える必要があると感じたので、今後はインドネシアの国際機関でインターンを経験し、その後は公共経済や社会保障についてさらに学びたいと考えています。
みお: SNSやnoteで積極的に発信されていますよね。
葉音さん:二つの理由から発信活動をしていて、一つは、障害のある人たちがどのように生きているのかをもっと多くの人に知ってほしいからです。実際に一緒に暮らしているからこそ見える日常や価値観があります。それを伝えたいと思っています。
もう一つは、留学の選択肢を広げたいからです。「トビタテ!留学JAPAN」のような制度や、北欧独自の教育機関である「フォルケホイスコーレ」のような、大学交換留学以外の道もあることを知ってほしい。自分自身がそうだったように、誰かが新しい挑戦を考えるきっかけになれば嬉しいです。

編集後記
障害者雇用への関心から始まった葉音さんの留学ですが、お話を伺うなかで、その視野が制度や社会のあり方そのものへと広がっていることが伝わってきました。
また、葉音さんの言葉からは、一人ひとりの暮らしや背景に丁寧に向き合おうとする誠実さが伝わってきました。制度や社会課題を語るときも、そこに生きる当事者の姿を見失わず、自らの経験や葛藤を通して考え続けている姿がとても印象的でした。目の前の人との対話を大切にしながら学びを深めていく姿勢が、葉音さんらしさなのだと思います。
デンマークでの残りの時間、そしてインドネシアでのインターンシップを通して、葉音さんがどのような学びを深めていくのか、今後も楽しみです。
ライタープロフィール

2024年に銘傳大学(台湾)、2025年にノルウェー北極大学への留学を経験。現在チャレンジャー応援メディアDEKIRU!で学生ライターとして活動するほか、自身のInstagramやnoteで留学体験を発信している。