「じわじわと湊河湯を広めたい」20代の店長2人が挑む、地域に愛され続ける銭湯づくり

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「じわじわと湊河湯を広めたい」20代の店長2人が挑む、地域に愛され続ける銭湯づくり

「湊河湯が、湊河湯らしいまま、未来に残っていってほしい」

仲睦まじく、笑顔でそう語るのは、神戸・東山商店街にある老舗銭湯『湊河湯』で店長を務める、三宅里奈さん(26歳)と原田紋好さん(24歳)。

創業77年を超える湊河湯は、「銭湯を日本から消さない」を掲げるゆとなみ社が2023年に継業し、新たな姿でスタートした銭湯です。

年々、銭湯の数が減少し続けている日本。各地の銭湯で、若い世代へ銭湯の魅力を発信し、新たなファンを増やす取り組みが行われています。以前の湊河湯でも、ライブやイベントなど、若い世代に向けた企画を積極的に行っていました。

一方、店長になったおふたりが選んだのは、地域の人たちとともに育まれてきた”湊河湯らしさ”を未来へつないでいくことでした。

“湊河湯らしさ”という目に見えない価値を、20代の店長2人はどう守ろうとしているのか。地域に愛される銭湯のあり方を模索する日々について伺ってきました。

魅力はお墨付きの清潔感。陽の光で明るく開放的な浴室

二階建ての構造が関西特有で珍しく、浴室がとても明るい印象

大きな窓から太陽の光がキラキラと差し込む、明るくて開放感のある浴室が、湊河湯の魅力。特に日中は、その魅力が光る時間帯です。

脱衣所からガラガラと扉を開けて、浴室に入ると、右手にはカラン、左手には、電気風呂、深湯、ジェット風呂などバラエティ豊かな湯船が並びます。浴室内に階段が設けられているユニークな造りも特徴で、階段を登った先では、名物の露天風呂、スチームサウナ、そして水風呂が楽しめます。

露天風呂
スチームサウナ(無料)と水風呂。水風呂は親切な手すり付き

湊河湯の心地よい空間を支えているのが、毎日欠かさず行う清掃です。朝9時から開店前の13時までの4時間の間に、1人で男湯、女湯それぞれの浴室内をピカピカに仕上げ、お客さんを迎え入れています。

「清掃業務の経験はあったものの“開店”というゴールが決まっているなかで、ひとりで清掃するのはとても大変」と語るのは、神戸・大阪の温浴施設で勤務経験がある三宅さん。湊河湯で働くため愛知から神戸へ移住した原田さんは、「掃除は大変だけど、自分がピカピカに掃除したお風呂にお客さんを招き入れる瞬間は、仕事のなかで好きな瞬間のひとつ」と語ってくれました。

 

利用者の多くは、リニューアル前から湊河湯に通い続ける地元の方々。そんな常連さんたちからも「いつも清潔で気持ちがいい」とお墨付きをいただいているそうです。営業中、定期的に見回りを行い清潔感を保つのも、日頃から通ってくれるお客さんに喜んでもらうため。

日々積み重ねているこうした仕事が、湊河湯ならではの空気を支えています。

清潔感漂うポップな色合いがキュートな脱衣所

どんな人でも気持ちよく過ごせる空気が「湊河湯らしさ」

開放的で温かみのあるフロント&ロビー

そんな湊河湯の空気を作るのは、日頃から湊河湯に通う常連さんたちだと、おふたりは話します。

「湊河湯らしさは?」と聞かれれば「居心地のよさ」と答えます。
 
湊河湯は、東山商店街にある銭湯ということもあり、ご自身で商売をやられている方や、個人店を営んでいる方が多く通ってくれているんです。みなさん自分たちの手で商売をやってきた方たちばかりだからか、謙虚で、威張ったり、偉そうにする方々がいないんですよね。
 
地域で暮らす方も、はじめて来店した方も、肩身の狭い思いをすることなく、お互いが気持ちよく過ごせる。それが湊河湯らしさかなと思います。比較的トラブルが少ないのも自慢です。

神戸に越してきてはじめて東山商店街を見たとき、「まだこんなにシャッターの閉まっていない商店街が残っているんだ」と、その活気に驚きました。
 
湊河湯には、リニューアル前から通ってくれているお客さんが変わらず通い続けてくれています。従業員たちもおだやかな子ばかりで。そういった人たちが集まることで、湊河湯らしい雰囲気が自然と生まれているのかもしれません。

「神戸の台所」として90年近く地元民から愛され続けている東山商店街。南北300mに100軒以上のお店が並んでいる

「お客さんに感謝を伝えたい」周年イベントの新たなカタチ

湊河湯公式Instagramより

そんな「湊河湯らしさ」を大切にしたいという想いは、2026年8月に行われた周年イベントにも表れています。

これまで、浴室でのライブパフォーマンスなど、どちらかといえば若い世代に湊河湯を知ってもらう企画を行うことが多かった周年イベントでしたが、継業3年目となる今年、店長を任されたおふたりが出した答えは、「いつも来てくれる常連さんたちに感謝を伝える場」にすることでした。

ゆとなみ社が継承する銭湯のなかでも湊河湯は、70〜80代くらいの年齢層のお客さんが多い銭湯なんです。店長になる前から「日々のありがとうを常連さんに伝えられるイベントを企画できたらな」と思っていました。
 
銭湯は公衆浴場なので、入浴料を自分たちで決めることができません。今、こうして湊河湯が続けて来られているのは、やっぱり日頃から通ってくれる方々あってこそ。周年イベントも派手じゃなくていいから、いつもの湊河湯を感じられる場にしたいなと思っていました。

今年は、いつも湊河湯に通ってくれている常連さんたちに楽しんでもらうべく「のど自慢大会」を企画しました。常連さんたちが、店内で流れる歌謡曲に合わせて楽しそうに歌っている姿を見たことと、スナック通いを趣味にするお客さんのお話がきっかけです(笑)
当日は、脱衣場にステージを作って、お客さんに歌を披露してもらいます。10枠ほど歌い手を募集したのですが、想像以上に早く募集が埋まりました。ライブやイベントなど、これまでのように若い方に向けた周年イベントだったら、きっと常連さんたちは集まってくれなかったと思うので、うれしかったですね。

「じわじわと湊河湯を広めたい」らしさを守りながら、未来へつなぐ

ウェーブ型が印象的な立ち飲みカウンター

日頃から通ってくれる常連さんたちを大切に想う一方、湊河湯を未来に残すために欠かせないのが、若い世代の方に銭湯に足を運ぶきっかけを作ること。

2023年のリニューアルでは、ゆとなみ社で初となる立ち飲みカウンターを設置し、神戸・新開地のクラフトビール「湊ビール」が楽しめる新たな場作りにチャレンジ。

現在は、三宅さんが手作りで仕込む自家製フルーツシロップ(レモン、スパイスジンジャー、季節のフルーツ)も加わり、ノンアルコールも充実。湯上がりの一杯を気軽に楽しめるスペースになっています。

人気のオリジナルグッズも、おふたりらしいこだわりが詰まった部分です。

自分たちと同世代の人たちの目に止まるよう、「自分たちが心からほしいと思うもの」を意識しながら制作に取り組んでいるといいます。

新作のTシャツは、個人的にも好きなイラストレーターの方にデザインを依頼しました。“THE銭湯グッズ”というよりも、日常使いしていても違和感がないものを作りたくて……。渾身の一作です!

原田さんが企画したオリジナルTシャツ

最近では、店内の販売だけでなく、近所の公園で開催されるマルシェにも出店。近くに住んでいても、まだ湊河湯に足を運んだことがない方々に向けて、認知を広めていきたい想いがあるといいます。

常連のお客さんと新規のお客さん、このバランス感が難しいと日々感じています。マルシェの出店は、少しでも多くの地元の方に湊河湯を知っていただけたらと思ったことがきっかけでした。
 
仮にこの先、自分たちが店長を離れることになったとしても、湊河湯が湊河湯らしさを残したまま、末長く愛される銭湯にしていきたいと思っているんです。
 
地域の人たちに愛される湊河湯らしさを残すには、銭湯ブームやサウナブームに乗っかって一時的なお客さんを取り込むだけではなく、じわじわと湊河湯を地域に根付かせていくことが必要だと思っています。

外観のネオン♨︎マークをモチーフにしたオリジナルくつ下

「余白」を大切に。自分たちのペースで湊河湯をよりよく

(左)原田さん(右)三宅さん

湊河湯のある兵庫区で生まれ育ち、地元に戻ってきたタイミングで「好きなお風呂に関わりたい」と湊河湯で働き始めた三宅さんと、「好きな環境に囲まれた中で仕事がしたい」という想いから神戸への移住を決め、好きな銭湯で働き始めた原田さん。

経歴も性格もバラバラなおふたりですが、「今、店長ができているのは2人だから」と口を揃えて語ってくれました。

私たちは得意分野がきれいに分かれているんです。
 
あこちゃん(原田さん)は、0→1のアイデア出しが得意。「これやってみたい!」といった新しいアイデアで溢れていますし、明るく社交的なので、湊河湯の外交担当です。イベントやグッズ企画など、外部の方とのやりとりをお願いしていますね。私は、どちらかというと1を具体的にして10にする方が得意です(笑)。

私は、アイデア出しは得意なのですが、事務作業が苦手で……。里奈ちゃん(三宅さん)は事務やお金の管理が得意なので、お任せしています。
 
店長をやることは不安でしたが「2人一緒ならできそう」と思いました。得意分野をそれぞれ分けているからこそ店長ができているし、ふたりだから乗り越えられていることも多いです。

そんな2人に、日々仕事で意識していることを尋ねると「自分たちのペースでやること」という答えが返ってきました。

銭湯ってゆっくり過ごして、気持ちを穏やかにする場所だと思うんです。
 
運営側が売上と睨めっこしながらキリキリしている雰囲気が出ていると、ほかのスタッフにも、お客さんにもそういう空気が伝わってしまうと思うんですよね。自分たちの心に余裕があることは大切だと思っていますし、ギスギスした雰囲気は苦手なので意識しています。

銭湯を続ける上で「売上」はとても大切ですが、そればかりになってしまうと余裕が持てなくなってしまう。ほかの銭湯と比べて競争するのではなく、自分たちのペースを守ることも、湊河湯らしさにつながるなと。あこちゃんとも、よく「のんびりいこうね」と言い合ってます。

ネオンがパッと目をひく、夜の湊河湯

常連さんを大切にしながら、新しい人にも少しずつ湊河湯を知ってもらう。その両立を模索する三宅さんと原田さんの挑戦は、まだ始まったばかり。

「じわじわと湊河湯を広めたい」という言葉の裏には、地域に根付いてきた湊河湯を、この先も変わらず愛される場所として残したいという願いがありました。

おふたりがつくる湊河湯が、これからどんな場所になっていくのか楽しみです。

湊河湯

住所:兵庫県神戸市兵庫区東山町2-3-5

営業時間:13:00-23:00

定休日:火曜日


HP:https://yutonamisha.com/

instagram:https://www.instagram.com/minatogawayu

取材・執筆:はせがわみき

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