シオマルが観た! 女子野球界全体の底上げを体感した「全日本野球選手権大会」

  1. TOP
  2. 女子野球・夢の軌跡
  3. シオマルが観た! 女子野球界全体の底上げを体感した「全日本野球選手権大会」
女子野球・夢の軌跡
  • スポーツ
  • 野球

シェア

X X(Twitter) Facebook Facebook
シオマルが観た! 女子野球界全体の底上げを体感した「全日本野球選手権大会」

皆さんこんにちは。野球がだいすきなシオマルです。

ドラフト会議も終わり、NPBは日本シリーズに突入しましたね。野球好きの皆さんは、寒くなりオフシーズンに入ると、少し趣味の時間に余裕ができるのではないでしょうか。それとも、すでに来季に向けて戦力チェックに時間を割いていらっしゃるでしょうか。

もし、少しでも時間に余裕があれば女子野球にも目を向けてほしいな、なんて思いながら、今回も「女子野球を伝えたい!」を書いてまいります。

高校・大学・クラブチームから選出された強豪が集う「第21回 伊予銀行杯 全日本女子野球選手権大会」

さて、今回私が注目したのは「第21回 伊予銀行杯 全日本女子野球選手権大会」です。

こちらの大会は、2025年10月11日(土)~10月15日(水)まで、愛媛県松山市のマドンナスタジアム・坊ちゃんスタジアムにて開催されました。

出場チームは高校・大学・クラブチームから選出された強豪、計26チーム。

この形式、女子野球ではよくあるのですが、女子野球に慣れていない方からしたら、かなり不思議ですよね。どうして高校、大学、社会人クラブが混合で試合をするのだろう、と思いませんか。

私は、この形式はただ「まだまだ競技人口が少ないから」という理由で続いているのではないと思っています。今回はそんな視点も含めながら、決勝戦「神戸弘陵学園VSエイジェック」の試合観戦記録を書きたいと思います。

「第21回 伊予銀行杯 全日本女子野球選手権大会」公式サイト

https://jwbnc.womensbaseball.jp/2025

シオマル注目の選手は?

神戸弘陵学園は、女子甲子園大会の常連校。優勝経験が豊富で、昨年の伊予銀行杯の優勝チームでもあります。今年の夏の甲子園大会では惜しくも準決勝で敗退しましたが、その安定した強さは誰もが知るところです。そしてこの大会、3年生にとっては高校生活最後の大会となるため、選手たちの思い入れはかなり強いものでしょう。

対するエイジェック野球部は2018年に創部された社会人クラブチーム。学業・仕事と並行して野球にと取り組むNPB公認クラブチームとは違い、選手は社員として会社に所属しながら、選手として野球に取り組んでいます。

セカンドキャリア支援も考えられており、現役の間は野球の練習に集中して取り組む環境が整っていて、各大会で優勝候補と名を挙げられる安定して強いチームといえます。

決勝戦、私が、というか多くの女子野球ファンが注目していたのは、神戸弘陵の先発・阿部さくら投手でしょう。今年春に東京ドームで開催された「第26回全国高等学校女子硬式野球選抜大会」の決勝では、8奪三振・1失点完投を成し遂げ、チームを史上初の3連覇に導いた選手。

彼女は2年生の頃も、夏の「全国女子硬式野球選手権大会」の決勝で6回2/3を4安打5奪三振無失点という内容でチームを牽引しています。

「阿部で打たれたら仕方ない。」と言われるほどの実力を持った選手ですが、今大会では日程の詰まった中で5連投目。疲労が心配される状態でした。

神戸弘陵は夏の大会で岐阜第一を前に準決勝で敗退した悔しさを今大会で晴らせるのか。とても楽しみな試合が始まりました。

先攻・神戸弘陵学園、後攻・エイジェックでプレイボール!

エイジェックの先発投手は背番号15・堀 明日香投手。エイジェック野球部としては1年目ですが、去年まで履正社高校女子野球部に所属していた経験豊富なピッチャーです。立ち上がり、本調子ではなさそうではありましたが、神戸弘陵打線をしっかりと抑えました。

1回裏、楽しみにしていた神戸弘陵の阿部投手がマウンドに立ちました。落ち着いた表情からは緊張は感じられません。2番・高橋選手に死球を与えたものの、その後は淡々とアウトを重ねます。


2回表、早くも試合が動きます。神戸弘陵は6番・早川選手が四球で出塁すると、続く7番・青木選手が手堅く送りバント。1アウト二塁のチャンスで打席には、今大会いまだノーヒットの松元選手。制球の定まらない堀投手を前に、松元選手は焦ることなく粘りを見せます。カウント3ボール1ストライク、5球目——。高めに浮いた球を捉え、ライトへタイムリーヒットを放ちました。早川選手も2塁から必死にホームに帰還し、神戸弘陵が先制点を奪います。

この回、エイジェックは早くも先発・堀投手を下げ、背番号17番・永田投手をマウンドに送り込みます。永田投手はエイジェック7年目、キャプテンも任される信頼の厚い投手です。


4回まで、阿部投手は2安打無失点。永田投手も追加点を与えることなく粘り強いピッチングで流れを神戸弘陵に譲りません。

5回裏、試合が大きく動く

試合が大きく動いたのは5回裏、エイジェックの攻撃。

8番・荻野選手がレフトにヒットを放ち出塁すると、9番・内藤選手の打席で2盗、さらには1番・小谷選手の打席ではなんと3盗までも成功させたところからでした。連投の疲労に加え次々と仕掛けられる盗塁の圧力が、神戸弘陵の阿部投手に襲い掛かります。ここまでの落ち着いたポーカーフェイスにも、ついに疲れの表情が見え始めました。


それもそのはずです。経験豊富なクラブチームの選手たち相手に、もう3巡目の打席。

狙い球は絞られるし、タイミングも徐々に合わせられ、クセも見抜かれていきます。 荻野選手の3盗の後、小谷選手には四球、高橋選手には死球を与えてしまいます。2アウト満塁のピンチで迎える打者は、前日の準決勝でサヨナラ打を決め、読売ジャイアンツ女子チームを打ち破った大野七海選手。


やはり野球は、良いタイミングで勢いのある選手に打席が回ってくるものだな、と思いながら中継を見ていると——。


「ウァー!!!!!!」

狙っていました!と言わんばかりの雄叫びをあげながら、阿部投手のインコースのストレートを振りぬきました。大野選手の打球はレフトの頭を越え、走者一掃のタイムリーツーベースヒットとなりました。

続く4番・生井選手の打球を避けたときの阿部投手の身体の動きは限界そのもので、表情も曇るばかりです。高校生の未完成の身体にはキツいよ…と思っていたところで、投手交代が宣言されました。


6回表、打席に立つのは阿部投手とバッテリーを組んできたキャプテン・山本選手。劣勢に立たされてもずっと笑顔の彼女。

「キャプテンだなぁ、太陽だなぁ。」なんてつぶやいていたら、当然のように右中間にツーベースヒットを放ちます。笑顔の裏に勝利への執念を見た瞬間であり、バッテリーの絆を感じた瞬間でもありました。続く打者が凡退に終わり結局点には繋がらなかったけれど、着実に塁を進み、ホームにヘッドスライディングするキャプテンの姿には、本当に胸を打たれました。この試合、山本選手は3打数3安打の大活躍でした。


6回裏、この回から神戸弘陵の投手は3年生の宋内投手、そして黒木投手の継投に。

これ以上の点差は避けたいところでしたが、エイジェック野球部はそう簡単に逃がしてはくれません。先頭打者・辻倉選手がライトに、続く荻野選手がセンターにヒットを放つと、代打の島田選手が犠飛、重ねて高橋選手がセンターにタイムリーヒットを打ち、たちまち2点を追加します。

最終回、4点差に広げられた神戸弘陵の前に立ちはだかるのは、エイジェックのエース・竹村投手。ストレートの走り方が見事で、コントロールもとても良い投手です。

ここでも私の心を打ったのは、絶望的な状況でも笑顔を絶やさず打席に立つ神戸弘陵の選手たちの姿でした。3年生との最後の時間を惜しんでいるであろう2年生も、自分たちの最後の打席となるであろう3年生も、みんな晴れやかな笑顔で試合に臨んでいます。 結局三者凡退で試合は終了しましたが、試合が終わるその瞬間まで野球を楽しもうとする姿勢は、女子野球特有の晴れやかさだと感じました。

シオマルが女子野球の発展を感じた場面

試合終了と同時に、エイジェックの選手たちは一斉にマウンドの竹村投手のもとへ駆け出しました。皆さん、笑顔と涙が入り混じった素敵な表情です。


また試合中に印象的だったのは、実況で選手たちから中崎監督への感謝の言葉が何度も紹介されていたことです。元西武ライオンズの投手である中崎監督。エイジェック女子野球部に就任してまだ1年目だそうですが、選手たちから「監督を日本一にする!」と言われているのを聞くと、本当に信頼の厚い方なのだと感じます。

男子プロ経験者が女子野球を導くという流れは、単なる技術面の向上だけではなく、女子野球というフィールドがより「本格的な野球」を語れる場所になりつつある象徴でもあると思います。

実際、普段から男子のプロ野球を熱狂的に応援している私からみても、社会人チームの選手たちの技術には驚かされるばかりです。女子だからパワーがないとか、肩が弱い、危ないなんて言われる時代はとっくに終わっているのだと、1試合観戦するだけで十分に伝わるでしょう。

そして、そんなハイレベルなチームと高校生のうちから真剣勝負ができる環境があるということ自体が、女子野球の今後の発展を支えていると思います。

神戸弘陵は昨年の優勝に続き、今年も大学チームを3度破る快進撃を見せました。高校生が大学生を倒す──それは単なる番狂わせではなく、女子野球の底上げが本格的に進んでいる証拠と言えるでしょう。


上の世代に自然に生まれている「下の世代の見本にならないといけない」という姿勢

以前キセキ~高校野球を動かしたある男の物語~(輝け甲子園の星 編集部 著)を読んだとき、印象に残っていた章があります。

「女子野球ジャパンカップ~語り継がれる大会の真実~」という章で、2011年~2019年まで開催されていた女子プロ野球機構主催のプロ・アマ・世代を超えて日本一を争う女子硬式野球の大会「女子野球ジャパンカップ」について書かれていました。ここには、プロと直接対決できることでモチベーションが上がる、という下の世代からの好循環だけでなく、上の世代の意識にも変化がある、といった記載があります。

どういうことか。上の世代が高校生に、下の世代に負けるわけにはいかない、という意識の問題ではありませんでした。

「女子野球という狭い世界で野球が上手くなること、試合で勝つことばかりに気が入り、ある試合でエラーをした高校生相手に、プロ側のベンチは大盛り上がりで喜びました。その選手たちをみた女子プロ野球機構の創設者・角谷建耀知氏からの言葉でプロ選手たちはハッとします。

―あなたたちは、プロですか。勝つことだけがこの大会の意味ですか。―

強さだけではなく、上の世代が心技体の全てで見本となること。野球少女たちの目指すべき姿を、技術だけでなく心の部分で体現し、女子野球界の普及や発展に対する意識を持つことの大切さを学びました。」

おおまかにですが、このような内容が書かれていました。

書籍では当時のプロとしての意識という点で書かれていますが、高校生を相手にする今の社会人チーム、大学チームの選手も、感じるものは十分にあるのではないでしょうか。NPB傘下のチームが運営するクラブチームの選手は「プロ球団」のユニフォームを纏って試合をしますし、「プロ球団」の名前を背負って活動しますから、特にそうかもしれません。

今や小中学生でも女の子たちだけで大会が成り立つ時代になりましたが、「常に野球少女の見本となる姿勢を見せ続けないといけない」という意識が上の世代に自然に生まれていくという面でも、高校・大学・クラブチーム混合の大会は、女子野球の発展にとってとても意義のあるものだと私は思っています。


オフシーズンに入り頻繁に野球の試合が観られない時期がやってきましたが、今回の「第21回 伊予銀行杯 全日本女子野球選手権大会」はマドンナジャパンTVというYouTubeチャンネルで特集されていますので、お時間ある際にぜひ覗いてみてくださいね。

また、現在(10月26日~11月2日まで)マドンナジャパンが中国・杭州で開催されている第4回BFA女子野球アジアカップにて圧巻の強さを見せています。

シオマルもまた記事にしたいと思っていますので、皆様もぜひご覧ください!

シェア

X X(Twitter) Facebook Facebook