【滋賀の怖い話】謎の妖怪「フクマカブセ」について。イナブラさん、フスマ、……各地に類似の怪異も

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【滋賀の怖い話】謎の妖怪「フクマカブセ」について。イナブラさん、フスマ、……各地に類似の怪異も

【絶滅危惧怪異ファイル】No.04:フクマカブセ

呼称:フクマカブセ

怪異タイプ:妖怪

主な目撃地: 滋賀県

時代:不明

カテゴリー: 絶滅危惧Ⅱ類(VU)

カテゴリー(略称)生息状況(本連載における独自定義)
絶滅(EX)文献すら残っておらず、人類の歴史から完全に消え去った怪異。本ファイルでも追跡不可能。
野生絶滅(EW)一般の記憶からはほぼ完全に消滅しているが、古い文献や資料データベースにのみ痕跡が残っている状態。
絶滅危惧Ⅰ類
(CR+EN)
ネットの深海に数件の足跡があるのみ。コアな民俗学者や、ごく一部のオカルトマニアの脳内にのみ、辛うじて生存が確認できるレベル。
絶滅危惧Ⅱ類(VU)一般知名度は低いが、Wikipediaや一部のまとめサイトに個体が確認できる状態。今手を打たねば風化する。
準絶滅危惧(NT)昭和〜平成の怪談ブーム時は野生に溢れていたが、令和のZ世代・α世代へのバトンタッチに失敗し、じわじわ生息数を減らしている怪異。

フクマカブセ

「フクマカブセ」――それはかつて甲賀郡・多羅尾村(現在の滋賀県甲賀市信楽町多羅尾)で語られたという妖怪の名前である。この怪異に関する記録は、調査報告書『民俗採訪』(1962)に収録された「多羅尾村年中行事(甲賀郡誌)」の中にみることができる。同書によれば、フクマカブセは川べりや橋のたもとといった水辺に潜み、道を歩いている人に突然、白い布のようなモノを被せる正体不明の存在だという。もし道中突然目の周りが暗闇に包まれたならば、それはフクマカブセに「カブセラレタ」状態なのだという。

なお、フクマカブセに「カブセラレタ」人間は、長持(衣類や寝具などを収納する大型の木箱)の中に入れたり、牢を作ってその中に閉じ込めたりして治療したと伝えられている

フクマカブセと、類似の妖怪たち

突然何かを被せ、視界を奪う。――かなり独特な手口を持つ滋賀のフクマカブセであるが、驚くべきことに同じようなやり口の妖怪は、各地に存在するようだ。

新潟県・佐渡島では、「フスマ」と呼ばれている怪異の伝承がある。フスマは、夜、人里はなれた所を歩いていると、ふわりと柔らかな大風呂敷のようなモノを突然頭から被せてくるという。被せられたモノはどんな名刀でも切れないそうだが、一度でもお歯黒を染めたことのある歯で噛み切れば、簡単に断てるのだそうだ。そのため、フスマ対策として、男性でもお歯黒を付けるようにしていた時代もあったという(『佐渡の昔話』)。なかなか独特な対処法であり、被害者を長持や牢に閉じ込めて治療するというフクマカブセの風習とも、どこか通じる奇妙さがある。

東京などではこの「フスマ」を「野衾(ノブスマ)」と呼び、ふわりと来て人の目口を覆う、むささびかコウモリのようなものであるとされていたそうだ(『妖怪談義』)。

静岡県熱海市下多賀に出没したとされる「イナブラさん」は、伊豆地方で「ナライシブタ」と呼ばれる、晩秋から初冬にかけて海上から吹きつける冷たい風雨に乗ってやってくる存在だといい、稲むら(刈り取った稲を積み上げたもの)のような姿をしているのだという。イナブラさんは、人に「オッカブサッテ」くるといい、逃げようとしたら追いかけてくるし、立ち止まったならば、イナブラさんも立ち止まるそうだ。覆い被さってくるという特徴からか、イナブラさんは衾(ふすま)を入れる袋を意味する「スマブクロ」と呼ばれることもあったという。イナブラさんに「カブセラレタ」人間は、死骸も残らず、消えてしまうと伝えられており(『民間伝承』45-2)、こちらは「フクマカブセ」や「フスマ」に比べて危険度がかなり高い。

これらの怪異が同一の妖怪から派生していったものなのかは定かではないが、覆いかぶさる、人が道を歩いている時に出没する、水辺にゆかりのある場所や地域で語られているなど、複数の共通点があることは注目に値する。また、「フクマカブセ」の「フクマ」という音は、「スマブクロ」や「フスマ」と、音韻的なつながりを感じさせる。「フクマ」は、「フスマ」が転じたものなのかもしれない。

左から、ムササビ、コウモリ、稲むらのイメージ

出典:

・国学院大学民俗学研究会編『民俗採訪』昭和37年度(国学院大学民俗学研究会、1964年) 国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/pid/9541911(参照:2026年6月25日)

・『民間伝承』第45巻第2号(六人社、1981年) 国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/pid/2237584(参照:2026年6月25日)

・不苦楽庵主人『佐渡の昔話』(池田商店出版部、1938年) 国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/pid/1462259(参照:2026年6月25日)

・ 柳田國男『柳田國男選集 第5巻(妖怪談議)』(修道社、1972年) 国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/pid/12172077(参照:2026年6月25日)
・国際日本文化研究センター(日文研)「怪異・妖怪伝承データベース」

フクマカブセ | フクマカブセ | 怪異・妖怪伝承データベース ※今回の調査の端緒として参照

番外編4コマ:カブセラレタ……

「絶滅危惧怪異ファイル」について

現代の「口裂け女」や「トイレの花子さん」、「きさらぎ駅」などのように、人々に噂され、その存在をその時代に生きる誰かに確実に認知されていた怪異は数えきれないほど存在するにちがいない。しかし噂の性質上、それらの多くは、時の流れによってやがて人々から忘れ去られてしまう。

人々に語られなくなること。それは怪異にとって、死と同義と言っても過言ではないだろう。

筆者は、こうした消失の危機にある怪異を「絶滅危惧怪異」と呼び、それらに今一度日の目を見せたいと考えている。よって、本連載ではこれからもどんどん歴史の影に隠れた奇妙な存在たちを紹介していくつもりだ。

次は、あなたの住む町のすぐ隣に眠る、忘れ去られた恐怖を呼び覚ますことになるかもしれない。

ライター紹介

永井四不像

オカルト系ライター。連載「絶滅危惧怪異ファイル」を担当。忘れ去られた古い妖怪や都市伝説を発掘し再び日の目を見せたいと考えている。

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