智人と虚人──最弱と最強が寄り添う“共依存”の物語に込められたこだわり
『IZON.』に込められた想いと成功への道しるべ
2025年3月──クリーク・アンド・リバー社よりリリースされたアクションアドベンチャーゲーム『IZON.』。幻想的な世界観、個性あふれるキャラクター、3D技術を駆使して作られた美しいビジュアルで話題を呼んだ本作は、リリースにこぎつけるまでにちょっと不思議な経緯をたどったことでも注目を浴びました。
企画の発端は、造形作家であるYoshi.氏がプロデュースを手掛け、シリーズの累計販売数は120万個を超える人気カプセルトイ『紡ギ箱』。こちらの世界観やキャラクターをベースに、待望のゲーム化を果たしたのが『IZON.』となっています。
開発にあたって、プロジェクトに賛同したクリーク・アンド・リバー社がバックについてパブリッシングを手掛けることになったり、事前にファンからの応援を募るクラウドファンディングが実施されたりと、一般的なゲームのリリースとは少し毛色が異なる道を歩んできたこの『IZON.』という作品。成功への道筋の背景にある、クリエイター陣の奮闘とチャレンジをインタビューで紐解いていきます。
前編ではゲームが開発されることになった経緯をお伺いしましたが、後編ではゲームのテーマである“共依存”に込められたこだわりや、これからインディーでゲーム開発を志すクリエイターへのメッセージなどを語っていただきます。
前編はこちら
お話を聞かせてくれた方々

Yoshi.氏
本作のディレクターであり、『紡ギ箱』シリーズの生みの親。
Yoshi.氏 X(旧Twitter)@Yoshi6054

いちみ氏
フリーのシナリオライター&ゲームプランナー。Yoshi.氏とともに、企画の立ち上げ段階からプランナーとして本作に携わる。
いちみ氏 X(旧Twitter)@ichimimm000

木下陽童氏
クリーク・アンド・リバー社所属。Yoshi.氏といちみ氏が作り上げた本作の世界観やキャラクターに惚れ込み、会社を説得して資金を確保し、ゲーム化プロジェクトを推し進めた。
木下氏 X(旧Twitter)@yodo_izon
ゲームを開発する際のこだわりや苦労したエピソード
ここからはゲームシステムや世界観の作り込みやこだわった部分、苦労した部分などをお聞かせいただけますか?
何せイチから自分たちで作り上げていくということで、苦労話はたくさんありますね。いちみさんにもたくさんご迷惑をお掛けしました。
そんなことは……なんて社交辞令が言えないくらいには色々あったかもしれません(笑)。
最初は世界観やキャラクターの設定を固めるなど、主にシナリオライター的な役割としてジョインしたつもりでしたが。気づけばゲームシステムやら何やらの仕様を考えるなど、あれもこれもやらなきゃって状態になっていて、プランナーの立ち位置に……。おかげで毎日が新しい経験ばかりで大変でしたけど、振り返ってみると楽しかったです。
いちみさんには、とても助けてもらいました。僕もいちみさんもプラチナゲームズに所属していたわけですが、当時のスタッフがとても感覚的な方々が多くて、周囲にすごく甘えていたんだなって思い知らされました。
もう少し具体的にお伺いできますか?
僕が在籍していた頃のプラチナゲームズには、仕様のすべてを数字や言葉にして説明しなくても「こんな感じでしょ?」って直感で理解して、それをこちらの想像以上の形にしてくれるプログラマーやアニメーターがたくさんいたんですよ。
オバケのような方々ですね……。
まさに!
良くも悪くもそういう方々との仕事に慣れてしまっていたわけですが、実際のところ世の中にそんなプログラマーばかりかと言われれば、そんなことはなくて。基本的にはディレクターである僕がしっかりとシステムを細部まで考え、それを言語化してプログラマーさんたちに伝えなければなりません。でも、それがなかなか上手くいかなかったりして、そういうところをいちみさんにフォローしてもらいました。
私に全部丸投げされているわけではありませんから、ものすごく苦労したわけではないですけどね。Yoshi.さんは、ご自身のなかにあるビジョンがこちらに伝わるまでしっかり説明してくれますし、とてもやりやすかったです。Yoshi.さんがやりたいことの芯からズレてさえいなければ、こちらがやりたいことを盛り込んでもしっかり許容してもらえるのも、私としてはうれしい部分でしたね。
いちみさんには自分には見えていなかったものを気づかせてもらえたり、言語化してもらえたりしたので、とてもありがたかったんです。時には「ここはもっとしっかり考えを固めないとダメですよ」みたいに、ちょっと叱ってもらえたりもして。自分が気づけなかった部分を諭してもらえるパートナーって、とても助かるなあって思いました。
『IZON.』というタイトルのどおり、いちみさんに“依存”されていた部分もあるのかもしれませんね。
確かにそうかも?(笑)
いやいや、依存というほどのものではなかったと思いますけど(笑)。
言葉のインパクトとして強いですよね、この『IZON.』=依存というタイトル。『紡ギ箱』から『IZON.』にあえてタイトルを変えた理由を教えてもらえますか?
世に出たのは『紡ギ箱』という名前のほうが先でしたが、あれはカプセルトイとして立ち上げるにあたって考えた企画名でした。ゲームとしてのタイトルである『IZON.』のほうが成り立ちとしては先なんですよ。力こそ弱いけど、賢くて常に先のことを考えている智人(ちびと)と、強大な力を持つけど記憶を失っていて、自我が薄い虚人(きょじん)が、互いに足りない部分を補う形で物語を織り成していく。最弱と最強のメインキャラ2人の“共依存関係”を描きたいというのは、自分のなかの大きなコンセプトでした。
“超強い虚人を操作して超弱い智人を守りながら戦う”というのは、最初に見せてもらった企画書の段階からすでに明確になっていました。そこから“虚人が智人を抱えながら戦う”というアイデアが生まれ、それを生かすゲームシステムはなんだろうと、2人で話し合いながらゲームを構築していった感じです。
キャラクター紹介

智人(ちびと)
本作の主人公。強がりだが根は優しく、寂しがりやの女の子。世界でも稀有な能力である『創造の力』を受け継いでいるが力をうまく使う事が出来ず、また特異な生まれのためにハコニワの中でも最も弱い存在となっている。導かれるように虚人と出会い、はじめは生き抜くための道具のように接していたが、徐々に心を通わせ依存し合うようになっていく。

虚人(きょじん)
本作のもうひとりの主人公。はるか昔に、人の手により造られた災厄の兵器。その力はあまりに強大で世界を滅ぼしかけた為、ハコニワの奥底に封印されていた。永い時が経ち、智人の手により封印が解かれるも記憶を無くしていたため、智人を「親」と認識し慕うように。智人との旅のさなかで記憶を徐々に取り戻していくが…。
智人を虚人が抱えてさえいればほぼ無敵というのが斬新でした。バリアもあるし体力も回復していくから、そうそうやられることはない。あのアイデアはかなり挑戦的だと感じましたし、だからこそ面白かったです。
ありがとうございます。試行錯誤を重ねてたどり着いたシステムなので、気に入っていただけたのならうれしいですね。
ゲームをプレイされた方々の評価はいかがでしたか?
すべてのプレイヤーさんのご意見を見たわけではありませんが、面白いといってくださる方がたくさん居てくださりホッとしました。現在リリースしている“第1節 封厄ノ塔”は難易度自体もそこまで高くしていないつもりです。カプセルトイからゲームの世界に入ってきてくださるプレイヤーさんもたくさんいますからね。
なるほど、そういったゲーム慣れしていない方々でもしっかりクリアできる難易度調整を心がけたわけですか。それも一つのこだわりと言えるかもしれませんね。
ゲームの難易度は物語の体験に没入できるレベルに調整し、ゲーム性よりもストーリーとキャラクターの掛け合いを重視して設計しています。その分、普段からこういったアクションアドベンチャーを遊び込んでいらっしゃるプレイヤーさんには物足りなく感じてしまったかもしれませんが……。そこらへんは“第二節”以降でもう少し詰めていきたいところです。
ストーリーへの没入感はだいぶこだわっていますよ。ゲームの都合で万が一にもストーリーが歪められてしまうことを避けようと、開発前にすべてのシナリオを完全に書き上げ、声優さんのボイス収録まで完了させましたから。このアプローチはなかなか珍しいと思います。
たしかに珍しいかと。普通は先にゲーム部分を完成させて、そのうえで必要な音声を収録するのが一般的ですもんね。
そうですね。でも、それだと「ここを直しちゃおう」が成立しちゃうので……。今回の物語ではそういった妥協を自分たちに許さないよう、あえてボイスを先行して収録しました。
そこまでして没入感にこだわる執念がすさまじいです。ちなみに先ほどお話に出たことと重複してしまうのですが、ストーリー自体はまだまだこれからってことでよろしいでしょうか? 遊んでみた自分としても“第一節”は壮大な物語の冒頭部分でしかないって印象を抱きました。
そうですね。智人と虚人を主人公にした物語はまだ始まったばかりです。
では“第二節”以降の展開も期待してもいいと……。
もちろん構想はあります。
クリーク・アンド・リバー社としても、本作を1作だけで終わらせるプロジェクトとは考えておりません。“第一節”の制作段階で先の展開を見据えてリソースを注いだ部分もありますし、引き続きしっかりとYoshi.さんやいちみさんが考える『IZON.』の世界を構築していってほしいと考えています。
個人的にはSteamだけではなく、より多くのプラットフォームで本作が遊べるようになれば、より世界中に広がっていきやすいのでは……なんて考えたりもします。
実はそういったご要望もたくさんお寄せいただいており、我々としても無視できないと考えているところでした。
カプセルトイで『IZON.』の存在を知ってくれたファンのなかには、まだ小学生の方もいらっしゃって。親御さんと一緒にワンフェスなどの会場まで造形物を買いに来てくれたりもするんですよ。でも、小学生にとってSteamでゲームを遊ぶというのはなかなかハードルが高いと思うので……。そういった層にもアプローチするために、コンシューマでも『IZON.』をリリースできたらいいなという想いはあります。
残念ながらこのインタビューの時点では具体的にお話できることはないのですが。我々としてもそういった方々の想いはしっかりと受け止めていることはこの場を借りてお伝えしておきたいです。
『IZON.』の世界をより広げるという意味では、ゲーム以外のアプローチだってありえますよね。たとえばアニメや小説、コミックといったメディアミックス展開も実現できれば面白そうです。
アニメやコミックといったメディアミックス事業は、多様な事業部門を持つクリーク・アンド・リバー社としても得意とする分野なので。積極的に仕掛けていき、もっと『IZON.』の認知度を広げていけたらとは思っています。個人的にはファンタジックな絵本にしたりするのも面白そうだと考えていたりしますね。
『IZON.』の世界観が飛び出す絵本とかになったりしたら、ものすごく映えそうですね。ますます広がるであろう『IZON.』のこれからに注目しています。
夢を実現したい……そう考える未来のチャレンジャーへのメッセージ
では最後にYoshi.さんにお聞きしたいのですが。あらためてこの『IZON.』のプロジェクトがここまでたどり着いた秘訣はどこにあったとお考えでしょうか?
今後第2、第3の『IZON.』を目指すクリエイターに向けてのアドバイスもお願いしたいです。
いくつかあると思いますが、一番大きかったのはやはり人との繋がりを大切にしたことでしょうか。いちみさんに協力を仰ぎ、木下さんにお話を聞いてもらうことがなければ、このプロジェクトがここまで到達することはありませんでした。僕一人の力では成し得られないことを、チームの助けを借りて実現する。そのための行動力とコミュニケーションはとても重要だと考えます。
ここまでのお話を聞いているだけに、とても重みのある言葉ですね。
実際のところ、綿密なコミュニケーションは本当に重視したつもりです。みんながリモートで作業を進めるかたちだったので、なおさらですね。できるだけ全員とコミュニケーションを密にとり、メンバーの得意分野をヒアリングして適材適所に配置することで、チームとしてのズレを最小限に抑えることができたと自負している部分はあります。
たしかに。開発チームはまだ経験の浅いメンバーも多いのですが、Yoshi.さんが全員としっかりコミュニケーションを取り、自分のやりたいことを明確に伝えてくれたからこそ、1年という開発期間で“第一節”を世に送り出すことができたんじゃないですかね。
あのクオリティのものを1年で仕上げたんですか?
しかもまだ経験の浅いメンバーで?
それは素直にスゴい!
何せディレクターからしてピカピカの一年生でしたから(苦笑)。
でも、だからこそコミュニケーションは本当に重視しました。
ディレクターのYoshi.さんやプランナーのいちみさんが、率先して汗をかく行動力の高さも成功のポイントだったと思いますね。頑張っている人を見ると人間は応援したくなりますし、自分もやらなければと前を向ける部分ってあるじゃないですか。
積極的な行動力とコミュニケーションって根本的なところで相通じるものがありそうですね。険しい道を歩んできた先達が語る言葉として、ものすごく説得力があります。
これはゲームに限ったことではありませんが、もし自分の中に作りたいものがあるとして、それを実現するには行動を起こさないと何も始まりません。まずは第一歩を踏み出すところから始めてみてほしいです。作品の制作や売り込みではなく、仲間づくりから始めるのもいいと思います。支えてくれる人がいてこそ前に進める側面はありますし、それらが融合できたからこそ『IZON.』は完成にたどり着けたんだと僕は本気で思っていますので。
たった一度の人生ですから、もし夢があるのなら挑戦することを恐れず、ぜひ頑張ってみてほしいと思います!
素敵なお言葉ですね。本日はお忙しいなかありがとうございました!
なお、5月23日(金)に発表された「電撃インディー大賞2025」(主催:電撃オンライン)で、『IZON.』はアドベンチャー部門および総合ランキングのいずれも第5位にランクイン!第二節以降のリリースも楽しみになるばかりです。
またDEKIRU!では、ゲームブロガーの双葉ラー油さんによるレビューも掲載。『IZON.』をまだプレイしたことがない方も要チェックです!