イントロダクション
HAPPY! 三度の飯より「本」と「ことば」が大好き、いっちーです!
今回取材させていただいたのは、描くことで完成する絵本『SOZOくんドリル』の作者、しもむらにいなさん!
最初に触れる本といえば絵本。中には勝手に落書きして怒られた、なんて人もいるのではないでしょうか?
しかし、なんとこの絵本は“描く”こそが正解なんです!
でも、どう描くかの正解はなくて……!
とにかくとっても面白い絵本なので、お話を聞きたくてオファーしちゃいました!
それじゃ、いってみよ~!
しもむらにいなさんプロフィール

2001年、大阪府に生まれる。
嵯峨美術大学にてグラフィックデザインを専攻。
子どもの想像力や発想力に目をつけ作成した『SOZOくんドリル』は、第56回毎日・DAS学生デザイン賞グラフィック部門に入選。2025年株式会社わかさ生活に入社。書籍部門に配属、本書の発刊決定。
絵本を読むことについて
取材をご快諾いただき、本当にありがとうございます!
よろしくお願いします。

こちらこそ! よろしくお願いします!
まずは絵本と出会うまでのしもむらさんについて教えてください!
実は小さい頃から絵本を読んでいたんです!
というのも、私の母が絵本屋さんをやっていまして……ささやき書店というんですが。



母親が絵本屋さん!? まさに絵本を描くべきして生まれてきたみたいな環境ですね……。
はい。本当に小さい頃から身近に絵本がありました。お店にあったという意味だけではなく、家にもたくさんありましたし、なにより母が本当に絵本が大好きで、読み聞かせもよくしてもらいました。
なかでも『わたしのワンピ―ス』が大好きで! どれくらい好きだったかと言うと、幼稚園で泣いてるときに『わたしのワンピース』を読んでもらったらすぐに泣き止んでいた、というエピソードがあるくらいです。

わたしのワンピース にしまきかやこ 作(こぐま社)
わたしのワンピース(Amazon.co.jp)
読んだら必ず泣き止む本! それはすごいですね。
どういったところが泣き止むほど好きだったんでしょうか。
やっぱり世界観ですね。絵がかわいいのはもちろん、色づかいや、花や星などきれいなものがたくさん出てくるんです。読むだけで明るい気分になって、それで泣き止めたんだと思います。
たしかに嫌な気持ちもふっとびそうなくらいポップで明るく、かわいい絵ですね!
内容も明るくて、自由で、ふわふわしていて、頬がふっとゆるんで、胸がほっこりあたたかくなります。
さきほど、読み聞かせをよくしてもらっていたとおっしゃっていました。
その頃から今までの読書遍歴を教えてください。
『わたしのワンピース』の他には『バムとケロ』も好きで読んでいました。
そこからは絵本のキャラクターにハマっていって、絵本以外にもグッズを集めるようになりましたね。
私は美術大学に通っていたんですが、ポスターデザインの課題の資料にも絵本を使っていたくらいです。
とくに『ミッフィー』は大好きで、たくさん読みましたし、たくさんグッズを集めていますし、たくさん参考にさせていただきました。
他にも、『くまのがっこう』シリーズ『パンどろぼう』『バーバパパ』『ぐるんぱのようちえん』『クルテク』『すてきな三にんぐみ』と、挙げればキリがないですが、繰り返し何度も読んでいるのはこのあたりだと思います!

くまのがっこう ジャッキーのパン屋さん あだちなみ・絵 あいはらひろゆき・文(ブロンズ新社)
くまのがっこう ジャッキーのパン屋さん(Amazon.co.jp)

バムとケロのにちようび 島田 ゆか・作(文溪堂)
バムとケロのにちようび(Amazon.co.jp)

ぐりとぐら なかがわ りえこ・作 おおむら ゆりこ・絵(福音館)
ぐりとぐら(Amazon.co.jp)

ちいさな うさこちゃん ディック・ブルーナ・文 絵 いしい ももこ・訳(福音館)
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ぐるんぱのようちえん 西内 ミナミ・作 堀内 誠一・絵(福音館)
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もぐらとじどうしゃ エドアルド・ペチシカ・文 ズデネック・ミレル・絵 うちだ りさこ・訳(福音館)
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おばけのバーバパパ アネット・チゾン タラス・テイラー・作 山下明生(やましたはるお)・訳(偕成社)
おばけのバーバパパ(Amazon.co.jp)

すてきな三にんぐみ トミー・アンゲラー・作 今江祥智(いまえよしとも)・訳(偕成社)
すてきな三にんぐみ(Amazon.co.jp)
たくさん挙げていただきありがとうございます。瞳を輝かせながら語られていて、本当に絵本が大好きなんだなというのが伝わってきました。
良ければ、最近のオススメも教えてください!
『赤おじさんと白いイヌ』という絵本です!

赤おじさんと白いイヌ makomo・著 DESIGN PERSON・装丁(タバブックス)
赤おじさんと白いイヌ(Amazon.co.jp)
最初は表紙のゆるーい絵がかわいいなと思って手に取ったんですが、読んでびっくりしました。
最初、白い犬が迷っているところを赤おじさんに拾ってもらって一緒に飼い主を探す、といった話なんですけど、最後のほうに犬が急についにやったよ!と言って手が生えて、それで立てるようになるっていう。
なんとも衝撃的なお話で、つい買っちゃいました!
それはすごく衝撃的な話ですね! いっぽう、その突拍子もない感じが絵本って感じもします!
ここまでたくさんの絵本を挙げてくださいましたが、しもむらさんが絵本を読むときのポイントや、思わず手が伸びてしまう要素はどういったところでしょう。
やっぱりそのビジュアルや世界観ですね。
あとはグッズになったらかわいいだろうなってキャラクターが載っていたら、つい手に取ってしまいます。
読書遍歴のところでも、グッズの話をされていましたね。

私としては絵本を持ち歩きたいくらいなんですけど、重いし、かさばるじゃないですか。
その点、グッズは身につけておけます。まるで本の世界から飛び出してきたみたいでワクワクしますし、やっぱり好きなものが目に入るとテンションが上がります!
ここまでお話をうかがう中で、グッズにも手を伸ばすほど絵本やそのキャラクター、世界観が好きということが伝わってきました。
次は絵本以外にも影響を受けてきたものがあったら教えてください。

マティスという作家に影響を受けていると思います。
というのもこちらも私が大好きな『ミッフィー』とつながっていまして……実は本家がコラボしているんです。
わたしもそこから知りました。
色づかいがはっきりしているところが似ていて好きですし、私自身影響を受けているなと思いますね。

こどもと絵で話そう ミッフィーとマティスさん 菊地敦己・構成 国井美果・文(美術出版社)
こどもと絵で話そう ミッフィーとマティスさん(Amazon.co.jp)
あとは美大生時代に美術館や博物館に通っていたのも影響していると思います。
昔のものから現代アートまでたくさんのものを観に行きました。それこそ、絵本作家の原画展にも行ってましたね。
絵本を描くことについて
ここまでは絵本を読むことについて、たっぷりお話をうかがってきました。
さまざまな作品名が挙がるたびに、しもむらさんの“絵本愛”が伝わってきて、どの本も読みたくなってしまいました。
ここからは、絵本を描くことについてお聞きします。
まずは、絵本を描こうと思ったきっかけを教えてください。

やっぱり「絵本が大好き」というのが一番の理由です。小さい頃から「いつか自分も描いてみたい」という憧れがありました。
でも、簡単にはなれないだろうな、難しいだろうなってどこか諦めの気持ちもあったんです。
そんなある日、『うちゅういちの たかいたかい』の作者・ホッシーナッキーさんのトークショーを見たときに、「好きなことを何歳になっても続けて、人々に知られているっていいな」と思って、それで自分も挑戦してみようと思いました。

うちゅういちの たかいたかい ホッシーナッキー・作(中央公論社)
うちゅういちの たかいたかい(Amazon.co.jp)
そうして絵本作家の道を歩み始めたしもむらさん。
ご自身が“描く側”になった今、絵本づくりで大切にしているテーマやメッセージにはどんなものがあるのでしょう。
ひとつは、私が好きな絵本とも通じるところなんですが、「シンプルでわかりやすいこと」ですね。
それともうひとつ、絵本を描くときも、絵を描くときも、デザインするときも大事にしている言葉があります。
それが美大で教わった「なぜデザインをするのか」という言葉です。
「世の中を暗くするようなデザインはあってはいけない。明るくするためのデザインをする」という教えを常に大切にしています。
たしかに。世の中には暗い色を使ったデザインはあっても、世の中を暗くするためのデザインは思いつきません。
“デザイン”という言葉自体にも、どこか太陽のような明るさや前向きなエネルギーを感じます!
『SOZOくんドリル』について
ここからはついにしもむらさんの描かれた絵本『SOZOくんドリル』についてお話をうかがっていきます。
この『SOZOくんドリル』とはどんな本でしょう。

子どもたちは本来、無限の想像力を持っていると私は考えています。
でも、成長するにつれどんどん描く絵が常識的になってしまう。
もっと自由に絵を描いてほしい! そこで考えたのが「SOZOくんドリル」です。
このドリルは正解のない自由な発想を引き出す“きっかけだけ”を提示しています。
色鉛筆、サインペン、クレヨン、好きな道具で描いてもいいし、シールや紙を切って貼ってもいい。
このドリルを通じて子どもたちが自由な発想を楽しみ、将来わくわくする社会を作ってくれることを願っています。
この本の話を初めて聞いたときは、なんて挑戦的なんだろうと思いました。
けれどその裏には、子どもたちへのやさしい願いがしっかりと込められていたんですね。
この本を作ろうと思った背景やきっかけ、そしてアイデアのはじまりには、どんな経緯があったのでしょうか。

あるとき授業で『デザインで世の中にいい影響を与える』というテーマの課題が出たんです。
まずは、最近の社会で「良くない」とされていることを挙げていきました。
最初はプラスチック問題や保育園問題など、一般的なテーマを中心に考えていたんですが、
そのうち「もっと子どもが自由にいられたら」という考えが浮かんできたんです。
そこからさらに考えていくうちに、「最近の子どもたちはどこか大人びて見えるな」
「もっと子どもらしく、もっと自由であってほしいな」という思いが強くなっていきました。
その気持ちを形にできるツールとして生まれたのが、『SOZOくんドリル』です。」
社会問題で、影響を受けるのはやっぱり子どもですよね。
公園でボール遊びが禁止されたり、危ないからと遊具が撤去されたり……。
最近ではコロナもあって、学校に行けなかったり外で遊べなかったりと、本当に“自由”が少なくなってしまったように感じます。
ここまでお話をうかがっていて思ったのですが、少し“塗り絵”とも近いところがありますよね。
そうですね。私も発想の中で塗り絵が思い浮かびました。
でも塗り絵って枠組みがあったり、答えの絵があったりすることもあって、自由に塗ってもいいと言われても、きっちりしないとって感じることってあると思うんです。
そこで参考にしたのが教科書の落書きです!
教科書の落書き!?
あれって、誰かに何か言われてやるわけじゃないし、こうしなさいっていう枠すらないじゃないですか。あんなふうに自由なものに出来たらという発想から“描く絵本”というアイデアになりました。
たしかに、自分も幼い頃「好きなようにやっていいよ」と言われても、なんとなく褒められたくて“正解ぽい色”を選んでいた記憶があります。
その点、落書きって本当に自由ですよね。どこからそんな発想が出てくるんだろう?と思いますし、時代や世界観なんて関係ない。
お話を聞いていて、たしかに塗り絵よりも落書きのほうが『SOZOくんドリル』に近いなと感じました。
そんな思いやアイデアが実際に絵本という形になったとき、どんな感覚でしたか。
やっと憧れていた絵本という形で作品を生み出せた!と思いました。
学校の課題としてポスターは作っていましたけど、なによりも憧れの本の形で出せたのはうれしかったです。
この作品は、どんな読者に届けたいと考えていますか?
やはり、お子さんがメインになるのでしょうか。

そうですね。まずは子どもたちに触れてほしいです。
でも、大人の方々もやってみてほしいですね。
りんごは赤い、空は青い——。
そうした“常識”ができあがってしまっている人こそ、最初は少し難しいかもしれません。
けれど、やってみたら楽しめると思います。
多くの絵本がそうであるように、やっぱり年齢や性別を問わず、たくさんの人に触れてほしいですよね。
お話をうかがっていて、自分も同じように感じました。
次は、制作にあたって、特にこだわった点や工夫された点を教えてください。
『SOZOくんドリル』の原型は卒業制作として作ったのもあって、大学の教授と相談しながら作っていったんです。
具体的には、絵のどこを描かせるかを考えながら、自由度を生み出すために“あえて描かない“あえて残す”という取捨選択を意識しました。
そのバランスにはとてもこだわりましたね。
本当に自由ですよね。
中には「大きく育ったよ」と枝も幹も葉もなくて、根本だけが描かれているページもあって「ここをあえて残したんだ!」って思わず声が出ちゃうような仕掛けが盛りだくさんです。
眺めているだけで「ああしよう、こうしよう」とアイデアが次々に湧いてくるので、その工夫は大成功だと思います!

ありがとうございます!
工夫の話をもう少しすると、線の色をすべて黒にしているのも、じつは意図的なんです。
たとえば、にわとりのとさかだけ描いているページがあるんですが、ここを赤い線で描いてしまうと、どうしても赤で塗るしかなくなっちゃうじゃないですか。
この本では自由に描いてほしいと思っているので黒にしました。形を変えてもいいし、色を塗ってもいいし、シールを貼ってもいい。もちろん、今言ったこと以外でも何でもOK。本当に自由です!
なるほど。自分も「とさかは赤」だと思い込んでいて、脳内でなんの違和感もなく赤にしてしまっていました。
常識にとらわれていたんですね。
考えているだけで、脳の使っていないところが動き出すような、ほぐされていくような感覚があって、癖になります。
実際に読んだ人からも、そういった感想があったのではないでしょうか。
そうですね!
卒業制作で作ったとき、子どもがいる友達や保育士の友達に見せたんですが、
『こんなふうに想像力を働かせるツールはなかった』という声をもらって、
「これは販売しなきゃ!」と思いました。
卒業制作は展示だけで販売はなかったので、こうして実際に本として出せて本当にうれしいです!
これからの本の挑戦者へメッセージを
ここまで、絵本を“読むこと”と“描くこと”そして『SOZOくんドリル』について、たっぷりお話をうかがってきました。
どのお話でも、しもむらさんの絵本への愛があふれていて、聞いているだけで胸があたたかくなりました。
そんなしもむらさんに、あえてこの質問をさせてください。
あなたにとって、“絵本”とは?

何歳になっても楽しめるものですね。
子どもの頃はもちろん読んでいて楽しい気持ちになりますし、大人になってから読むと、新しい発見があったり、今だからこそ心に響くものがあったりして。
年齢だけじゃなくて置かれている環境や自分の状況によって感じ方が変わるのも魅力だと思います。
絵本って本当に奥深いんです。ぜひ読んでみてください!
ここまでインタビューにお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
最後に、これからの“本の挑戦者”へメッセージをお願いします!

はい!
まずは『SOZOくんドリル』に挑戦してくれる人へのメッセージです。
正解はありません。好きに使って、自分だけの一冊にしてください!
そして次に、親御さんへのメッセージです。
子どもが描いた絵って宝物ですよね。
この本も、描いてもらったら“ある種のアルバム”になります。
読み返して思い出に浸れますし、もちろん親御さんが挑戦してみても構いません。
当時描いた子が成長して、また新しく描いてみるのも、違いがあって楽しいと思います。
それ以外の方たちにとっても、この本は、本当に自由です! ぜひ挑戦してみてください!

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