イントロダクション
どうも! 『しゃがみこみ書店』棚主のいっちーです!
前編「お店に行くまでにやったこと」は読んでいただけたでしょうか?
「あんなにたくさん考えないといけないの!?」と驚いた人もいるかもしれません。
棚を借りて、ただ本を並べるだけでも、もちろんそれで立派な“棚”です。
でも、重度の本好きのぼくとしては、やっぱり細部までこだわりたくって……。
ちょっと熱が入りすぎて、やろうかなと思っている人の気持ちをそいじゃっていないか、実はちょっと心配です。
逆に、「こんなんじゃまだまだ棚主とは呼べないな」って腕組み仁王立ちしてる読者の方は、
ぜひお店でお会いして、感想を聞かせてください!
さて、後編はいよいよ――
『一乗寺BOOKAPARTMENT』に実際に行って、棚づくりをしてきた様子をお届けします!
棚づくり、うまく……DEKIRUかな!?
さっそく、いってみましょ~!
『一乗寺BOOKAPARTMENT』までご案内~!
ぼくが棚を借りることになった『一乗寺BOOKAPARTMENT』があるのは、京都市左京区の一乗寺!
ここはラーメン激戦区として有名ですが、
実は、古本屋さんや出版社も集まる“本の街”でもあるんです!
ではさっそく、『一乗寺BOOKAPARTMENT』までご案内します!
ナビゲーターはもちろん、名物書店員を目指しているでおなじみ、いっちーです!
まずは叡山電鉄・一乗寺駅で下車!

そこから西側へ、てくてくと歩いていきましょう。


100円ローソンと、その横の細い道を通り過ぎて――

最初に出てくる交差点を南へ。
そのまままっすぐ進んでいくと、青と白のA型看板と、黒と白の突き出し看板が見えてきます。これが目印!

『一乗寺BOOKAPARTMENT』に、到・着です!

駅からはのんびり歩いて、だいたい5分くらいでした~。
ちょっとしたお散歩気分で行けちゃいますね!
中に入ると、まず目に飛び込んでくるのは――
ずらりと並んだ本棚たち!


そしてもちろん「いらっしゃいませ!」と、店主さんのあたたかい笑顔もお出迎えしてくれます!
棚に近づいてみると……
そこに並ぶ本たちは、まるで宝箱からこぼれた金銀財宝のようにキラキラと輝き始めます!
まるで「ぼくを読んで!」「手に取って!」とどの本も今か今かと出番を待っているよう……思わず本に伸ばしかけた手を棚のいちばん下にもっていきます。
なぜならば、そう、棚の最下段こそが、
ぼくの小さな本屋さん『しゃがみこみ書店』だからです!
レッツ棚準備!
店主さんにご挨拶して、『しゃがみこみ書店』開店準備スタートです!
開店準備の流れはこちら。
1. 棚は入るのか?
2. 引き出しに本の陳列
3. 引き出しに看板を設置
4. スリップづくり、本の帯つけ
5. 完成!
さて……運命の引き出し入れ、いってみよーっ!!
入るのか……!?

入るのか……!?!?


入ったーーーーっ!!!!
いやぁ~~、これはさすがにドキドキした……!
入らなかったら、ぜ〜んぶやり直しだったからね!?
ほんと、心の中でガッツポーズ決めました。
さて、入れた箱を……またすぐに引き出しまして。
本を入れていきます!
文芸書はサイズが大きいから縦に。
文庫本は横にして……一冊は表紙が見えるように面にして……
沈んでしまわないように、下には台座をセット!

いい感じ!
……とはいえ、このままだとちょっと味気ない。
下手したら、ただの在庫ストックと間違えられちゃうかも……!
ということで、大看板&小看板の出番です!
ぺたぺたぺた……よし、おっ! 一気に書店らしくなってきましたよ!

と思ったそのタイミングで、お客様ご来店!
これは記念すべき一人目!とテンション上がって
「今日オープンしたばかりなんです!」なんて声をかけたら──
「いや、まだですよ! スリップ入れなきゃ! 今のままだと値段がわからないです!」
と店長さんから冷静なツッコミ!
うわーっ! やってしまった!
そうだ、スリップ、忘れてたーー!

というわけで、急いでスリップを書いて……

さして……

持ってきた帯も巻いて……

今度こそ準備完了!
最後にもう一度、箱に棚をスッと入れれば──

いらっしゃいませ!
『しゃがみこみ書店』、オープンです!
置いた本の紹介!
ついにオープンした『しゃがみこみ書店』!
テーマは『痛みを読む』!
記念すべき最初のラインナップは以下!

吃音-伝えられないもどかしさ-/近藤雄生/新潮社
かんもくの声/入江紗代/学苑社
注文に時間がかかるカフェ/大平一枝/ポプラ社
人間失格/太宰治/新潮文庫
ミモザの告白/八目迷/ガガガ文庫
わたし、虐待サバイバー/羽馬千恵/ブックマン社
なぜあなたばかりつらい目にあうのか/加藤諦三/朝日新書
死にたくなったら電話して/李龍徳/河出文庫
八月の母/早見和真/角川書店
その生きづらさ「かくれ繊細さん」かもしれません/時田ひさ子/フォレスト出版
この中から三冊をガチブックレビューしちゃいます!

『吃音-伝えられないもどかしさ-』/近藤雄生/新潮社
「吃音」と聞いて、自分には関係ないと思った人もいるかもしれません。
正直、ぼくもそうでした。
だって、こうして文章を書いてるし、むしろおしゃべりな方だし、全然真逆じゃん!って。
でも、この本を読んでみて、「あ、全然他人事じゃなかったんだ」と思わされました。
本の内容は、吃音を持つ人たちに取材していくルポルタージュ。
でも、ただ「言葉がうまく出てこない人がいる」という話ではありません。
他者にからかわれたり、気を使われたりすることで、すり減っていく心模様や、吃音をめぐって生まれる人との関係や、気づかないうちに誰かを傷つけてしまう“無自覚な加害”についても深く掘り下げられていて、読んでいて何度もハッとさせられました。
「世間で“当たり前”とされていることが、自分には当たり前にできない」
そして、その苦しさを、『誰にも伝えられない』
――この“もどかしさ”、実は、心当たりのある人も多いんじゃないでしょうか。
ぼく自身、言葉にできない苦しさや、「わかってもらえない」という経験を思い出しながら読みました。
さらにラストでは、意外な展開も待っています。
ノンフィクションなのに、まるで一つの物語のように引き込まれる一冊です。
最初にこの本の表紙を見たとき、ぼくは「なんて暗い灰色なんだろう」って思ったんです。
でも読み終わった今は、そうじゃないなって。
この灰色は、きっと、闇みたいな黒から、光の白へ向かう途中の色。
その途中にいる人たちの希望が、ここには描かれてるんだなって思いました。
読んだ人の気持ちもそうなってくれたらいいなと思って、今回この本をセレクトしました。

『ミモザの告白』/八目迷/ガガガ文庫
この棚で唯一のアニメ絵に驚いた人もいるんじゃないでしょうか。
ちょっと重ためのものが多いから、ここでいったん休憩に……というわけではなく、これもちゃんと『痛みを読む』本です。
表紙からわかる通り、ライトノベルと呼ばれるジャンルの本なのですが、内容は全然ライトじゃありませんでした。
むしろヘビー、いうなればヘビーノベルです。
主人公は、ごくごく“ふつう”の男子高校生。
どこにでもいる、自信も目立つところもない、そんなタイプの男の子。
彼の幼馴染は、容姿端麗・スポーツ万能・成績トップ・女子にも大人気――
まさに、誰が見ても“完璧すぎる存在”。
そんな彼がある日、セーラー服を着て学校にやってくる。
クラスは一瞬でざわつき、空気が変わります。
ざわめき、からかい、奇異の目。
これまで“ヒーロー”だった彼が、その日から“異物”として扱われはじめるのです。
一方で、劣等感を抱きつつも彼と距離を保ってきた主人公。
そして、主人公が想いを寄せる、クラスの愛されキャラの女の子。
この三人はひょんなことから友達となるのですが、周囲はもちろん黙っているはずもなく……
「見た目」とはなにか。
「普通でいようとする空気」は、誰を、どう傷つけるのか。
主人公にも、完璧な幼馴染にも、ヒロインにも、そしていじめてくるクラスメイトにも、ちゃんと傷があって、誰も悪くないのに「傷ついたから責任を取れ」ともがくその様が、とても痛々しく、ある種のモザイクなしで描かれた今作。
特にラストはつらすぎて、続きの巻をぼくはいまだに読めていません。

『八月の母』/早見和真/角川書店
2024年に読んだ本の中で、間違いなくトップ3に入る作品です。ただ、「面白かった」と言うにはためらいがあります。「重い」、あるいはやはり「痛い」と表現したほうが正確かもしれません。
“痛みを読む”のが好きなぼくですら、「もうやめてくれ!」と叫んで本を閉じました。心臓がバクバクして、手が震えて、怖くて怖くて、しばらくページを開けませんでした。それでもなんとか続きを読もうとして、でもまたすぐ閉じて、呼吸を整えて、また開いて──その繰り返しでした。
最後までたどり着いたとき、ぼくはただ黙って座り込むしかありませんでした。全身がざらざらして、自分が罪でも犯したような、取り返しのつかない何かに手を貸したような気持ちが押し寄せてきました。
本を読んで、ここまでぐちゃぐちゃになったのは久しぶりどころか、生まれて初めてかもしれません。
本作は、2014年の夏、愛媛県伊予市で実際に起きた「伊予市団地内少女監禁暴行死事件」をモチーフにしています。17歳の少女が、約1か月間にわたって監禁され、複数の人物から暴行を受け、命を落としたという痛ましい事件です。
ただ『八月の母』では、この事件を「個人の異常さ」によるものとしては描いていません。「毒親による母性の連鎖」や「田舎という閉鎖的な環境」が生み出した“必然”として描かれています。
つまり──これは“誰か”の異常ではなく、“みんな”の無関心が作り出した地獄なのです。
物語には最初から最後まで救いがありません。それどころか、読者の顔を絶望の底に押しつけて、さらに深く沈めようとするような感覚すらありました。胸のあたりに大きな蜘蛛がまとわりついているような不快感。そして、人を人として見ない人々の言動や、あまりに生々しい描写の数々──読む手を止めたくなる瞬間が幾度もありました。
特につらかったのは、「逃げ場のない田舎」の描写です。ぼく自身、四国で育ったこともあり、作品に登場する風景や空気のにおいまで、まるで自分の記憶と重なって見えてきました。知っているからこそ感じる嫌悪感、不快感。そして、「地元から逃げたはずの自分が、まだそこにとらわれている」と気づかされる瞬間が何度もありました。
四国には美しい自然があり、空気が澄んでいて、食べ物も本当においしいです。それは確かに事実だと思います。ただもう一つ、田舎の美徳としてよく言われる「人が温かい」という言葉については、この本を読んだあとでも同じように言えるでしょうか。
どんなガイドブックよりも深く、細やかに、四国という土地の本質を描き出したこの作品。読むには覚悟がいりますが、それでも手に取ってほしい一冊です。
この作品が描いているのは、特異な加害者の残虐性ではありません。
事件が「起こるべくして起こった」としか言えないような、閉ざされた環境と、無自覚な人々の静かな暴力なのです。
そして、それは田舎だけの話ではないと思っています。その残虐性は、種のように誰の中にも潜んでいて、程度の差こそあれ、確かに毎日どこかで小さく咲いています。
こんな紹介をしておいてなんですが、どうか「これは田舎だけの話」という形で、この作品の読後感を処理しないでほしいです。
『痛みを読む』の一冊として、そんな気持ちでセレクトしました。
このほかの本のブックレビューはぜひお店でご確認ください!
どの本もぼくがその本から受けた衝撃や気づきを愛情と熱量いっぱいでレビューしています!
そちらも楽しみにご来店してもらえたらうれしいです!
おわりに
『シェア型書店「一乗寺BOOKAPARTMENT」の棚主になってみた!』
いかがだったでしょうか?
「自分も棚を持ってみたいけど、何をすればいいのかわからない……」
そんなふうに思っている人の参考になれていたら、うれしいです!
自分の棚を持って本を売るなんて、本好きにとってはまさに夢のような体験。
実際にぼく、いっちーもお店に行くまでの準備、お店に着いてからの設営、そして……開店の瞬間!
ずっと幸せな気持ちでした。
でももちろん、これで終わりじゃありません。
ここからが、本当の始まりです!
たくさんのお客様に楽しんでもらえるように、これからもがんばります!
ぜひみなさん、『一乗寺BOOKAPARTMENT』へ、
そして『しゃがみこみ書店』へ、遊びに来てください!
もちろん、名古屋にお越しの際は
『はつ恋生活』にもぜひ!
待ってるよー!
お店情報、SNSリンク
『一乗寺BOOKAPARTMENT』
小さなシェア型書店(貸し棚書店)です。
約55のひと棚本屋が出店。
古本、ZINE、新刊があります。
本好きが集まる「話せる本屋」
コーヒーやビールも飲めます。
読書会などイベントも開催。
最新情報はXでチェックを!
(フリーペーパー『本の街 一乗寺BOOKMAP』より引用)
アクセス
〒606-8187
京都府京都市左京区一乗寺大原田町23-15
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水木:13:00~20:00
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