【京都の怖い話】スッポン料理店を経営していたのはスッポン⁉ 呪いか妖怪か。「鼈の怪」の謎

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絶滅危惧怪異ファイル
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【京都の怖い話】スッポン料理店を経営していたのはスッポン⁉ 呪いか妖怪か。「鼈の怪」の謎

イントロダクション

今となっては忘れ去られようとしている怪異を発掘し、紹介する「絶滅危惧怪異ファイル」。第3回に紹介するのは、スッポンにまつわる怪異だ。

スッポンといえば、現代でも滋養強壮の高級食材として知られる一方、「一度噛みついたら雷が鳴っても離さない」と言われるほどの強い執念を持つ生き物である。そんなスッポンにまつわる非常に奇妙なうわさが、江戸時代後期の京都にて語られていたという。

【絶滅危惧怪異ファイル】No.03:鼈の怪

呼称:特になし

怪異タイプ:動物型

主な目撃地: 京都府・京都市中京区

時代:江戸時代後期

カテゴリー: 絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)

カテゴリー(略称)生息状況(本連載における独自定義)
絶滅(EX)文献すら残っておらず、人類の歴史から完全に消え去った怪異。本ファイルでも追跡不可能。
野生絶滅(EW)一般の記憶からはほぼ完全に消滅しているが、古い文献や資料データベースにのみ痕跡が残っている状態。
絶滅危惧Ⅰ類
(CR+EN)
ネットの深海に数件の足跡があるのみ。コアな民俗学者や、ごく一部のオカルトマニアの脳内にのみ、辛うじて生存が確認できるレベル。
絶滅危惧Ⅱ類(VU)一般知名度は低いが、Wikipediaや一部のまとめサイトに個体が確認できる状態。今手を打たねば風化する。
準絶滅危惧(NT)昭和〜平成の怪談ブーム時は野生に溢れていたが、令和のZ世代・α世代へのバトンタッチに失敗し、じわじわ生息数を減らしている怪異。

鼈(すっぽん)の怪

それは中京(現代の京都府京都市中京区あたり)に住む男が3人、「スッポンを食べよう」と言い合って、スッポン料理を売る店へと出かけた時のことだった。

1人が店の門をくぐり抜けるやいなや、突然「おれはやっぱり食べるのをやめる」と言い出したのだ。すると残りの2人も「確かにそうだ、やめよう」と、揃ってすぐに店を出てしまったのである。

さて、その帰り道。2人は言い出しっぺの男に尋ねた。

「なぜ急に食べるのをやめると言い出したんだ?」

するとその男は、全身をガタガタと震わせながらこう言った。

「店に入って奥を覗いてみると、スッポンがコタツにあたって寝ていたのが見えた。それがどうにも不気味で、よくよく見てみたら、そのスッポンの顔がお店の主人の顔そのものだったんだ。それでおれは恐ろしくなってしまった」

それを聞いた残りの2人は、顔を見合わせてこう言った。

「実は……おれたちも全く同じものを見た。お前が真っ先に『食べるのをやめる』と言い出してくれたから、嬉しくなってすぐに賛成したんだよ」

彼らはこの事件以降、生涯にわたって二度とスッポンを食べることはなかったという。

スッポン料理店の店主の正体とは?

スッポン料理店の店主が、実はスッポンそのものだった――。

なんとも奇妙な話であるが、この顛末を聞いた時にまず最初に浮かびあがる疑問がある。

その店主の正体は、人間に化けて店を経営していたスッポンの妖怪だったのだろうか。それとも、スッポンの呪いによって男3人が幻覚を見せられていたのだろうか。

どちらの結論に至ったとしても、そこに潜むのは底知れぬ恐怖である。もし前者だったとすれば、このスッポンの化物は自らの同胞をその手で調理し、人間に振舞っていたことになる。まさに狂気である。一方で後者だったとすれば、料理店そのものが、殺されてきたスッポンたちの凄まじい執念の呪いによって浸食されていることになるのだ。

慈悲と怨念の表裏――『閑田耕筆』が伝えるもうひとつの「スッポン実話」

この世にも奇妙な怪異の出典は、江戸時代後期に京都の文筆家・伴蒿蹊(ばんこうけい・1733~1806)によって記された『閑田耕筆(かんでんこうひつ)』である。

実は同書には、先ほどのおぞましいスッポン屋の怪談の前に、スッポンという生き物の性質を示す、もうひとつの興味深い話が収められている。

それは、浪花(現在の大坂)に住むある男の話。男が重い病に伏せっていた際、主治医から「あなたの病には、スッポンを薬として飲むのが良いでしょう」と勧められた。しかし、男はスッポンを殺して調理するのがどうしても忍びなく思えてならなかった。そこで男は、買ってきたスッポンに向かってこう語りかけたという。

「本当はお前を薬にしなければならないのだが、可哀想だから逃がしてあげるよ」

 そう言い聞かせて、スッポンをそのまま自然へと放してやったのだ。

するとどうしたことか。不思議なことに、男の病は綺麗に治ってしまったのだという。

ちなみに、男をあれほど悩ませていた病の正体は、他でもない、痔であったそうだ。

「一度掴んだら離さない」執着の化身

スッポンについて、このように全く毛色の違う二つの話が並べて示されているのは面白い。

片や、コタツの中で不気味な姿を見せ、男たちに強烈な恐怖を植え付けたスッポンの怪異。片や、命を救ってくれた人間の病をたちまち癒やしてみせる、奇跡の恩返し。

この二つのエピソードが共通して浮き彫りにしているのは、スッポンという生き物が持つ「極限まで突き抜けた執着心の強さ」ではないだろうか。

スッポンは「一度噛みついたら雷が鳴っても離さない」ということわざが存在するほど、凄まじい顎の力と執念を持つ。その生態的な特徴が、精神的な領域——すなわち「怨念」や「報恩」といった因果応報のエネルギーにまで昇華された結果が、これらの逸話なのだと考えられないだろうか。

出典:

・伴蒿蹊「閑田耕筆」(伴蒿蹊[著]ほか『閑田耕筆 年々随筆 遊京漫録 花月草紙 (有朋堂文庫)』所収)

・国際日本文化研究センター(日文研)「怪異・妖怪伝承データベース」

鼈 | スッポン | 怪異・妖怪伝承データベース

※今回の調査の端緒として参照

番外編4コマ:私はあの日、確かに件のスッポンを見た……

「絶滅危惧怪異ファイル」について

現代の「口裂け女」「トイレの花子さん」「きさらぎ駅」などのように、人々に噂され、その存在をその時代に生きる誰かに確実に認知されていた怪異は数えきれないほど存在するにちがいない。しかし噂の性質上、それらの多くは、時の流れによってやがて人々から忘れ去られてしまう。

人々に語られなくなること。それは怪異にとって、死と同義と言っても過言ではないだろう。

筆者は、こうした消失の危機にある怪異を「絶滅危惧怪異」と呼び、それらに今一度日の目を見せたいと考えている。よって、本連載ではこれからもどんどん歴史の影に隠れた奇妙な存在たちを紹介していくつもりだ。次は、あなたの住む町のすぐ隣に眠る、忘れ去られた恐怖を呼び覚ますことになるかもしれない。

ライター紹介

永井四不像

オカルト系ライター。連載「絶滅危惧怪異ファイル」を担当。忘れ去られた古い妖怪や都市伝説を発掘し再び日の目を見せたいと考えている。粘土造形や仮面作りが趣味で、プライベートではたまに自作の仮面を付けてフリマなどに店を出す。(自己紹介記事:わかさ生活にオカルト系ライター爆誕!? 日常に潜む「不思議」を追う。新人・永井の奇妙なご挨拶 | チャレンジャー応援メディア DEKIRU!

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