役者さんたちの演技を見て観客が謎解きにチャレンジ! 独自のコンセプトが目を引く演劇集団「カスタムプロジェクト」とは
舞台上で巻き起こるさまざまな殺人事件。その謎を解き明かすのは……劇を見ているあなた自身?
観劇の合間に「推理パート」を設け、観客側も探偵気分で犯人探しに参加できるという、独自色が強いコンセプトで話題の演劇集団「カスタムプロジェクト」を皆さんはご存知でしょうか?
役者たちが殺人事件の騒動を演じる「出題パート」。それを見て得られたヒント、および配られる捜査資料を用いて、観客自身が謎を解き明かす「推理パート」。そして再び演劇で事件の全貌が明かされる「解決パート」。この3部構成で殺人事件の顛末が描かれていく本プロジェクトの公演は、さながら舞台とゲームを融合させたかのような不思議な味わいが魅力となっています。

来たる8月22日~24日には、記念すべき第十回公演を迎えるこちらの演劇集団。本記事ではその主催者であり、自身で脚本・演出も手掛ける東 幸希さんと、主要キャストの1人して長くプロジェクトに関わっている声優の西口有香さんのお2人にインタビューを敢行。個性的で独創的な本プロジェクトの根幹にある、挑戦的な意気込みについて語っていただきました。
お話を聞かせてくれた方々
東 幸希さん

カスタムプロジェクトの主催者。脚本家・演出家としても名を連ね、数々の「謎解き」の仕掛けを観客に提供。
カスタムプロジェクト公式サイト
西口有香さん

声優・舞台役者。主な出演作品は『センチメンタルグラフティ』七瀬優役、『FLOWERS』小御門ネリネ役など。「カスタムプロジェクト」の主要キャストの1人として、数多くの公演に参加。
公式X
カスタムプロジェクトの舞台は「挑戦的なゲーム」である
演劇と謎解きゲームを融合させた「カスタムプロジェクト」の舞台って、数ある演劇のなかでもかなり挑戦的だと感じています。舞台好きはもちろん、ゲーム好きのツボにもハマる絶妙なバランスだと思うのですが、プロジェクト発足当時からこの形で舞台を手掛けてこられたのでしょうか。
いいえ。発足当時は今のスタイルではなく、普通のコメディ演劇をやっていたんですよ。現在の双方向的な観客参加型のスタイルにシフトしたのは、第三回目の公演からです。

そうなんですね。では、今のスタイルに舵を切った理由は何だったのでしょう?
演劇って基本的には一方通行なエンターテイメントじゃないですか。お客さまは脚本や役者の演技をご覧になることを楽しむ。それは当たり前の話なのですが、一方でインタラクティブかつ双方向的なアクティビティがあれば、より楽しんでいただけるんじゃないか。作り手である我々も面白いことができるんじゃないのか。そう考えたのが方向変換のきっかけでした。
ミステリ系の舞台演劇自体は、他にもたくさん公演されていると思いますし、観客はもちろん犯人やトリックについて考えながら鑑賞していると思うのですが。
そこに「リアルの謎解き」を盛り込み、実際に推理パートを設けて観客を事件の流れに巻き込んでいくというのはすごく斬新だと思いました。個人的にはクイズとミステリの融合だと思っています。
まさに!
そのクイズとミステリの融合というのはこちらも意識している部分です。本格的なミステリにこだわり過ぎると敷居が高くなってしまいますからね。謎解きもクイズのような選択式にしたり、捜査資料にヒントをたくさん盛り込んだりして、エンタメ性と両立させることを重視しているつもりです。
先ほど元々はコメディ演劇をやっていたというお話も聞きましたが、そこも納得です。自分は第五回公演の「疑惑の教室にて」から毎年拝見させてもらっていますが、毎回どこかしらに笑える要素が入っていて、そこが「カスタムプロジェクト」の味だなって思っていました。
ありがとうございます。舞台としても謎解きゲームとしても楽しんでいただきたいので、要所でくすっと笑える要素だったり、終盤でのどんでん返しだったりには力を入れているんですよ。

ちなみに、西口さんは初期からのプロジェクトメンバーだとお聞きしていますが、東さんがコメディから観客参加型の推理劇に趣向を変えたいと口にされた時にはどんな印象だったんですか?
おっしゃるとおり、私は今の謎解きスタイルになる前の、まだコメディをやっていた頃からプロジェクトに参加させてもらってきました。実はコメディだった第二回公演から推理型に切り替わる第三回公演って、少し時間的な空白がありまして。
そういえばそうだったね。
それもあってか、久しぶりに東さんから「また芝居やるけど出てみませんか? 今度は観客参加型の推理ものだけど」ってお話が来たときは、あまり違和感なくスッと受け入れてしまったんですよ。私自身が元々ミステリが好きなこともあって純粋に面白そうだって思いましたし、久しぶりに東さんや皆さんにお会いしたかったこともあって、すぐに参加を決めました。

かつては自分の中で「カスタムプロジェクトは第二回公演で終わりにしよう」という考えもあったので、少し空白期間が生まれました。普通にお芝居を楽しんでいただくというのは、第二回公演でもうひと区切りできた感触があったんですよね。
一方で、その空白期間中に「次は双方向でやる」という新しいアイデアを思い付いたわけですか?
はい。自分たちで言うのもなんですが、かなり独特というか珍しいかたちの公演なので、お客様に受け入れてもらえるのかいまだにドキドキしています。毎回がチャレンジって感じですよ。
今のかたちでの公演をすでに7回も重ねてきて、なおそういった緊張感はありますか?
めちゃくちゃありますよ(笑)!
純粋に舞台演劇として楽しんでもらうのはもちろん、推理という犯人当てのゲームも楽しんでもらいたいわけで。ミステリである以上はロジカルでなくてはなりませんし、だからといってゲームとしてのカタルシスも必要。演劇ファンにもミステリファンにも、ゲームファンにも受け入れてもらえるものを作り続けるというのは、かなり難易度が高いと思っています。

さじ加減は難しそうですよね。シンプルに謎解きの快感だけを味わってもらうなら、誰もが正解にたどり着ける難易度にするべきでしょうけど、実際はそんなことになってはいませんし。
もちろん。誰でも解ける内容にしてしまうと、ミステリファンにとっては手ごたえがなさすぎると思いますので。だからといって過度に難解にするわけにもいかず、毎回四苦八苦しています。
そのクリエイティブな葛藤が、毎回面白い舞台に仕上がる秘訣な気もしますが。東さんとしては、やはり多くの人に謎を解いてもらいたいとお考えなのでしょうか?
それとも正解者が少ない方が達成感があるものなのでしょうか。
前者ですね。できれば多くの人に謎を解いてもらって、犯人を追い詰めた快感を味わってほしいと思っていますので。
演じる西口さんとしてはいかがですか?
やはり「観客をだましてやろう」という想いで演技をされているんでしょうか?

役によってまちまちですね。犯人役を演じているときは探偵役や観客を欺きたいという想いはありますし、逆に探偵役を演じているときは「ここに気づいてほしい!」と思いながら演技をしている側面はありますから。
その違いは演技にも出てきそうですね。
口にする言葉ひとつとっても変わってくる部分はありますね。セリフを「立てる」と言いますか……わざとらしくならない範囲で、観客に「ここに気づいて!」とヒントを出しているところはあります。東さんにもバレない範囲で(笑)。
そこはバレちゃダメなんですか(笑)。
演出家としては、わざとらしく演じてほしくないって側面はありますね。これは舞台演劇であり、同時に謎解きゲームでもある「カスタムプロジェクト」ならではの注文かもしれません。
もう少し詳しくお伺いできますか?
役者さんには公平性を重視してほしいので、毎回異なる我を出されてしまうと困ってしまうんですよ。複数の公演を行うなか、どこかの公演でだけ演技がわざとらしくなってしまって、それがきっかけで正解率が上がってしまったらフェアじゃありませんよね?

確かに。ゲームとして考えたら、登場人物のセリフやアクションが毎回変わってしまうのはアンフェアに感じてしまうかも……。
一方で、舞台はナマモノというか、都度都度で演技が変わってしまう部分はありそうですし。これもまた他の舞台にはないチャレンジ部分だと思います。
「カスタムプロジェクト」の舞台では、そういった揺らぎを出来るだけ排することでゲームとしての公平性を担保しているつもりです。役者さんだけではなく、照明や音響、スライドなどのタイミングまで、出来るだけ揺らぎが出ないようにデザインしています。
そういう意味では他の舞台と大きく異なる演出論かもしれませんね。
確かにそうですね。私は声優としてのお仕事の時も含め、普段から演技の中でいかに感情を込めるかを重視する局面が多いんです。一方で、「カスタムプロジェクト」の舞台では感情より重視しているものがいくつかあって。例えばヒントになるセリフとか、トリックに関わってくる事象……たとえばアリバイの時間とか、そういった重要な証拠となる要素については、しっかりと正確に表現することを重視しています。絶対に間違えるわけにはいかないので。

なるほど。では、アドリブなんかもほとんどないってことですかね。
はい。
感情を完全に排してほしいとまでは思いませんが、演劇としてのリアリティや役への入り込みより、ゲームがフェアになるための演技を求めている部分はありますからね。
これは演じる西口さんたちには失礼かもしれませんが、観客側もそういう目で見ている部分はありそうです(苦笑)。
少なくとも自分はその場その場での登場人物たちの心情より、トリックや謎解きに注力して見てしまっています。むしろそうなるように東さんが演出されているってことなんでしょうけど。
情報量が多い舞台なので、お客さんがそういう見方になるのは仕方ないと思います。東さんの演出って、一般的な舞台よりテンポ感が早いんですよ。情報密度が濃い分、どうしてもたくさんの情報をセリフに盛り込む必要があるので、基本的には演者全員が早口気味なんです。
そう言われてみれば、そうかもしれないですね。でもそのおかげで、キャラクターの心理描写より謎解きに集中しやすいのかもしれません。
我々もそこは意識しつつ、大事なセリフがすっと流れてしまわないよう、わざとらしくならない範囲でセリフを立ててわかりやすく表現したりと、試行錯誤しながら演じているつもりです。

個性を出し過ぎるとアンフェアになるけど、すべてを排して淡泊になり過ぎると重要なセリフが頭に入ってこなくなる……。バランスが難しそうですね。本当に挑戦的な舞台だと思います。
そこは東さんがしっかり演出してくれていますけどね。テンポを重視しすぎてスッとセリフが流れたりしたら、あとでガツンと怒られますし(笑)。
そんなにガツンと怒ってるつもりは……(苦笑)。
そんな西口さんや東さんの「気づいてほしい」という想いに反して、自分はこれまでの舞台でまだ一度も全問正解が出来ていないんですよ。お恥ずかしい限りです。
いえいえ。正解率は毎年変わってきますが、おおよそ7~8%くらいになってしまうので。そういう意味では正解するのが大変なゲームになってしまっています。
「なってしまっている」という表現は気になりますね。本音としてはもう少し正解者を多くしたいってことでしょうか?
はい。30%くらいがベストなバランスだと思って、毎回頭をひねっているのですが……。中々思ったところに落とし込めていないというのが実情です。
そうなんですか!
てっきり脚本家も演じる役者さんたちも「謎は簡単には解かせないぞ!」という気概でやっておられるものかと(笑)。
あえてミスリードを意識するところもありますし、簡単に解けるものにしようとは思っていませんよ(笑)。
ただ、先ほども言ったように大事なところはセリフや演技ひとつとってもちゃんと意識してますし、究極の話、操作資料は見なくてもお芝居だけ見ていれば、謎はすべて解けるように作られていますので。我々もその気概で演じています。

そうなんですか、東さん。
はい。逆にお芝居を一切見なくても、捜査資料を熟読すればすべての謎は解けるようにも作っています。そこも含めてフェアプレイに徹しているつもりなんですよ。
東さんが極力フェアプレーに徹しようとしているところは、イチゲーマーとして好感を抱きます。毎度公演ごとに謎解きのアイデアを考えるのは大変なのでは?
そうですね。大変でもあり楽しい部分でもあります。
私は元々小学生向けの知育コンテンツの制作など、教育現場に携わっていたこともあり、その経験を活用して謎解きのアクティビティを考えているんですよ。
小学生の知育コンテンツと謎解きが結びつかないのですが、もう少し具体的に教えてもらえますか?
当時の経験を活用できるのは、たとえば今回は「数字合わせ」を軸にしようとか、「暗号パズル」を盛り込もうとか、そういった謎解きの軸となる部分です。「折り紙」の要素を盛り込んでみたこともありましたね。
これらは小学生向けのアクティビティをベースにしつつ、大人でもしっかり楽しめる難易度に仕上げていくことを意識しています。
なるほど、そこから大人のエンターテイメントになっていくんですね。
個人的には、少しでも多くの方に「カスタムプロジェクト」の挑戦的な観客参加型舞台をご覧いただき、その楽しさに触れてほしいと願ってしまいます。
ありがとうございます。

出演者としてはもちろん、一人のミステリファンとしても、毎回個性的で面白い舞台に仕上がっていると思っていまして。ぜひもっと多くの人に見つけてほしいんですよね。ご覧になって損はさせないというか……絶対に楽しんでほしいという意気込みで毎回演じていますので。興味を持ってくれた人はぜひ公演をご覧いただければうれしいです。
今、まさに西口さんもおっしゃってくれましたが、ミステリって、たとえば推理小説だったり、映画やアニメといった映像だったり、それこそゲームだったりと色々触れる機会はあると思います。そんな中でこの「カスタムプロジェクト」の面白いところは、見ている観客が探偵側になって問題を解き明かそうと取り組めるところ。小説や映像作品とは違った面白さが体験できる機会だと思いますので、ぜひ一度劇場に足をお運びいただければ幸いです。プロジェクト一同でお待ちしておりますので、ぜひご検討ください。
第十回公演も楽しみにしています!
本日はありがとうございました。
カスタムプロジェクト第十回公演「月光ゲームの殺人」
日程
全6回公演
8/22(金)13:30〜/18:00〜
8/23(土)13:30〜/18:00〜
8/24(日)13:00〜/17:00〜
※開場は開演の30分前です。
チケット
前売り:4,000円 当日:4,500円
日時指定・全席自由
ご予約はこちらから
劇場
調布市せんがわ劇場
〒182-0002 東京都調布市仙川町1-21-5
京王線「仙川駅」から徒歩4分
出演
相原真志
西口有香(TABプロダクション)
奥村美紀(劇団娯楽天国)
迫 瑞樹(TABプロダクション)
田山佳枝(TABプロダクション)
竹下久美子
渡辺幸枝
城 美美(TABプロダクション)
三澤純一
豊田 望
浦島雅海
うすしお
スタッフ
音響/舞台監督*鈴木俊平
照明*森田三郎/山崎佳代
音楽*三留研介/Nez1(PROJECT DELTA)
宣伝美術*SHIRONAGASU WORKS
制作*小石川みなみ(マキビシステム)
あらすじ
僕たち11人は地下の施設に集められた。ここで借金返済のためのゲームをするらしい。
カードを引かされ、コードネームが割り振られた。
僕は東北。
他には、北海道、北陸、関東、東海、近畿、中国、四国、北九州、奄美大島、沖縄。
日本の地域名が割り当てられた。
「皆さんには資源を毎日お渡しします。これで製品を作ってください」
そして僕たちには紙が配られた。普通のコピー用紙だ。
「本日から14日間。新月から晦まで。ここで生活してお金を稼いでください」
紙を切るだけでお金を貰えるなんて楽勝だ。
……と思っていたが……ハサミがない。
え? どうやって切るんだ?
「それでは月光ゲームスタートです」
ゲームが進む中、殺人事件が起きる。
それは自殺としか考えられない不可能犯罪だった。
皆様には、犯人を推理していただきます。
出題パート
事件のあらましを役者達が演じます。
推理パート
操作資料を見ながらお客様自身が推理し、解答用紙にご記入頂きます。
解決パート
事件の全貌を役者達が演じ、解決します。