イントロダクション
HAPPY! 三度の飯より「本」と「ことば」が大好き、いっちーです!
今回取材させていただいたのは、イラストレーターのオカユウリ先生。
繊細であたたかい世界観の女の子のイラストで知られ、作品はさまざまな場面で多くの人の心をつかんでいます。
いっちーも、もちろんその一人。ある日展示作品を拝見して、すごい!と感動したのを今でも覚えています。
そんな先生のお話を直接うかがえるなんて、本当に光栄……!
少し緊張しつつも、胸いっぱいのワクワクを抱えてインタビューに臨みました。
それじゃ~いってみよー!
オカユウリ先生プロフィール

オカユウリ (okayuuri)
「内緒の気持ちに色をさす」
セーラー服とお花が大好きな絵描き。
思春期の複雑で繊細な少女たちにのせて、誰にも言わない内緒の気持ちをとろける色で描き出す。
年に数回の頻度で各地で個展を開催し、企画展やイベントにも積極的に出展している。
展示やイベントでの作品発表の他、様々なコラボやクライアントワークも広く制作。
〈主な仕事歴〉
「久保さんは僕を許さない」アニメED作画
mekakushe「恋のレトロニム」MVアニメーション
ロクデナシ「まちぼうけ」ジャケット・MVアートワーク など
絵との出会い/原点
本日はお忙しいところ、インタビューにご協力くださり、ありがとうございます。
どうぞよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
まずは、絵との出会いについて。
現在のように素敵な絵を描かれるようになるまでの経緯を、最初にうかがわせてください。
Q1. 絵との最初の出会いは、どんなものだったのでしょうか。
“きっかけ”といえるような、かっこいい出来事は特にないんです。
というのも、私が物心つく前から、身近に絵があったんですよね。
両親がどちらも芸術に関心があるといいますか、少し関連する仕事をしていたので、家には画材がそろっていて、自由に触らせてもらえる環境でした。
だから、物心ついたときには“絵がそばにあること”が当たり前だったんです。
生まれたときから、絵が身近にある環境だったなんて!
まさに、描くべくして描くようになった──という感じですね。
はい。あとは、母の存在もとても大きかったと思います。母は専業主婦をしていたのですが、絵や裁縫などをいつも一緒にしてくれていました。
なので、絵だけでなく“ものづくり”に触れる時間が、小さいころから自然とたくさんあったんです。
Q2. そのように、さまざまなものづくりに触れてこられた中で、絵が中心となっていったのは、どのような経緯からだったのでしょうか。
純粋に、“絵を描くことが一番肌に合っていたから”ですね。両親からは「自分ができなかったから、やらせてあげたい」と言われたこともあります。
道具や環境だけでなく、ご両親の応援が、いつもそばにあったのですね。
お話をうかがっていると、今の絵に宿るあたたかさの理由が、少し分かったような気がします。
Q3.子どもの頃に、よく描いたり眺めたりしていたものは、どんなものだったのでしょうか。
小さい頃は、母の仕事で使うカットイラスト集が家にあって、トレーシングペーパーでそれをなぞって遊んでいました。
あとは、アニメの模写をよく描いていましたね。
例えば『家庭教師ヒットマンREBORN!』や『ソウルイーター』などは、キャラクターイラストが上手くなりたいと思うきっかけにもなりました。
Q4. これまで、さまざまな絵をご覧になってきたと思いますが、その中でも忘れられない絵はありますか。
実は絵を“ちゃんと見る”ようになったのは、自分がしっかりと描くようになってからなんです。
印象に残っているのは、とある大学の卒業展で見た、学生さんの作品ですね。
油絵の具で描かれた絵画なのですが、白を主役にした一枚で、
今も私が“白い絵”を描いたり、白い絵画集を出したりしている背景には、その作品の存在が根底にあります。
白い絵の作品
ちなみに、その作品を描かれたのは、どなたなのでしょうか。
それが、わからないんですよね。もちろん、きちんと調べれば分かるのだと思うんですが……。
でも、もう見られないからこそ、自分の中でとても大切なものとして残っている気がしていて。
もう一度見てしまったら、その感覚が揺らいでしまうんじゃないか――そんな不安も少しあるんです。
一度きりの出会いだからこそ、心の中で大切に息づき続けている作品なんですね。
Q5. ご自身の絵に影響を与えた、“好きなもの”は、ほかにもありますか。
セーラー服や、淡くて繊細な恋心を描くことが多いので、意外に思われるかもしれないのですが、実は私、バトルやファンタジー作品が小さい頃から好きなんですよね。
音楽も、可愛い恋愛ソングを聴いていそうだと思われがちなんですけど、実は「THE BACK HORN」のようなロックバンドや、かっこいい曲が好きで、よく聴いています。

THE BACK HORN
1998年結成。“KYO-MEI”という言葉をテーマに、聞く人の心をふるわせる音楽を届けていくというバンドの意思を掲げている。2001年シングル『サニー』をメジャーリリース。FUJI ROCK FESTIVALやROCK IN JAPAN FESTIVAL等でのメインステージ出演をはじめ、近年のロックフェスティバルでは欠かせないライブバンドとしての地位を確立。そしてスペインや台湾ロックフェスティバルへの参加を皮切りに10数カ国で作品をリリースし海外にも進出。黒沢清監督映画『アカルイミライ』(2003年)主題歌「未来」をはじめ、紀里谷和明監督映画『CASSHERN』(2004年)挿入歌「レクイエム」、乙一原作『ZOO』(2005年)主題歌「奇跡」、アニメ『機動戦士ガンダム00』(2007年)主題歌「罠」、水島精二監督映画『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the trailblazer-』(2010年)主題歌「閉ざされた世界」、熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画『光の音色 –THE BACK HORN Film-』、作家・住野よるとコラボレーションした小説×音楽の話題作「この気持ちもいつか忘れる」など、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観から映像作品やクリエイターとのコラボレーションも多数。日本屈指のライブバンドとしてその勢いを止めることなく精力的に活動中!
オフィシャルリンク
WEBSITE:http://www.thebackhorn.com/
Twitter:https://twitter.com/THEBACKHORNnews/
Instagram:https://www.instagram.com/thebackhorn/
THE BACK HORN!
作品から受ける“きらきら・ふわふわ”としたイメージとは、対照的な世界観ですね……。
そうなんです。でも、個人的には、あまり遠いものだとは感じていないんですよね。
というのも、聴いている音楽や読んでいる作品と、私が絵を描くときの“熱い気持ち”とはつながっているんです。
外から見ると別の世界に見えても、その奥で同じ“熱”が灯っているんですね。
そのお話をうかがって、作品に流れる“熱”の源が、少し見えた気がします。
Q6. 本格的に絵を描き始めたのは、いつ頃で、どのような理由からだったのでしょうか。
小さいころから絵を描くことは好きでした。ですが、その頃は“ただ好きで描いている”という感じだったんですよね。
そんな私が、絵画を“練習しよう”という気持ちになったのは、中学生のときです。
私は美術部に入っていたんですけど、そこが少し特殊でして……。
なんといいますか、“ガチ”な美術部だったんです。
ガチな美術部!? もしかして美術系の中学校に通われていたのしょうか?
いえ、家の近くにある普通の中学校でした。
ただ、顧問の先生がとてもしっかりした方で、まずはデッサンから始めるんです。いわゆる、リンゴなどのモチーフを描いていって、最終的には彫刻の顔を描く──あの流れですね。
それらをクリアしないと、好きなものを描くことができない、という部活でした。
それは、まさに“ガチ”ですね……。
そんな美術部に入ろうと思われたきっかけは、何だったのでしょうか。
私は運動が苦手だったので、文化部に入ろうと思ったんです。
その中で、吹奏楽部か美術部かで迷って、絵が好きだったこともあり、美術部を選びました。
でも、ふたを開けてみたら、朝練もあるような体育会系の部活だったんですよね。
それは災難でしたね……。
確かに当時は大変だなって思うこともありましたけど、あのガチな練習のおかげで、ちゃんと絵を学べたところもあるので、今では良い思い出です。



Q7. 今の画風につながる“きっかけ”は、いつ頃のことだったのでしょうか。
もしかして、中学生時代の“ガチな練習”の中で、生まれたものなのでしょうか?
きっかけはもう少し後で、高校生のときですね。
私は美術科のある高校に進学して、デッサンだけでなく、油絵や彫刻など、さまざまな表現を学びました。
そのなかで出会ったのが、私にとって大きな転機となった“空気遠近法”という技法です。
空気遠近法とは
暖色系の色は手前に、寒色やくすんだ色は遠く・弱く見えるという特性を生かした描き方のこと。



いろいろな描き方を模索していくなかで、この技法にハッとするものがあり、取り入れたんです。
最初のころは、机は茶色、壁は白、といったように、物が本来持つ色をそのまま使っていました。
ですが、あるときから「違う色でも表せるのではないか」と模索するようになり、少しずつ本来の色がキャンバスから消えていったんです。
そして、元の色にとらわれず描いていくうち、最後に残ったのが、現在メインで使っている赤と水色でした。

高校生のころに、すでに今のスタイルの“原点”が生まれていたんですね……!
Q8. はじめてお客様に絵を買ってもらえたのは、いつ頃のことだったのでしょうか。
そのときの周りの反応は、どんなものだったか覚えていますか。
これも高校生のときです。
イラスト関係を投稿するSNSを作ったことをきっかけに、いろいろな展示があることを知ったんです。
はじめて作品が売れたのは、小さな作品を販売する展示でした。
会場は東京だったのですが、当時は東京に住んでいなかったので、作品を送って展示してもらうという形での参加でした。
展示期間が終わって荷物が戻ってきたとき、送ったときより箱の中身が減っていて、そこで初めて「私の絵が売れたんだ!」と知りました。絵が入っていた箱を見つめながら、うれしさをかみしめていましたね。
それはうれしいですね……!
そのときにはすでに、今のようなスタイルが形になっていたのでしょうか。
いえ。空気遠近法は使っていましたが、まだ模索段階で、暗めの色なども使っていたころですね。
暗めの色なども使っていたころの作品
Q9. これまで活動されてきたなかで、特に印象に残っている感想や言葉を教えてください。
いちばん印象に残っているのは、「春っぽいね」と言ってもらえたことです。
大学生で上京して1年目に、初めて個展を開いたんですが、それまでは合同展示ばかりで、自分でギャラリーを借りて展示するのは初めてでした。
その個展で「春っぽいね」という感想をいただいたんです。
確かに淡い色使いや、ピンクや赤をよく使っているので、言われてみればその通りなんですが、そのとき「春っぽい」と言われて初めて気づいたんですよね。
それ以来、人に自分の絵を紹介するときは、「春っぽい絵です」と言うようになりました。
春っぽい作品
描くことについて
ここまでのお話を通して、オカユウリさんの創作の原点が、少しずつ浮かび上がってきました。
家の中に当たり前のようにあった“絵のある環境”、ものづくりを一緒に楽しんでくれたご両親の存在。
そして、美術部での本格的な練習、高校時代に出会った空気遠近法という表現――。
それらの経験が折り重なり、今のスタイルの“はじまり”が形づくられてきたことが伝わってきます。
ここからは、“描くこと”にフォーカスを当てて、お話をうかがっていきます。
Q10. どんなときに、「描きたい」と強く感じるのでしょうか。
「描くのが楽しそうだな」と思ったものを見たときですね。
たとえば、私の家のお風呂には窓があるんですが、夕方くらいになるときれいな日差しが入るんですよね。
そういう風景を見たときも描きたくなりますし、モチーフだとフリルや、ニットの網目、ソフトクリームの渦なども描きたくなりますね。
ソフトクリームがモチーフの作品
フリルがモチーフの作品
何かを見た瞬間に、描きたいという気持ちが生まれることが多いのですね。
そうですね。ほかには、面白い雑学を聞いたときにも描きたくなります。
私は水族館や博物館が好きで、よく行くんですが、キャプションや説明文が面白いと、自分なりの解釈で絵にしてみたいと思うんです。
文章で得たイメージを、どのように絵へと落とし込んでいかれるのでしょうか。
たとえば、動物の生態や姿を、人に当てはめて想像してみたりします。いわゆる“空想”ですね。
昔から本をよく読んでいたこともあって、文章を読んで空想するのが好きで、「これがもし人だったらどうなるんだろう」と考えてしまいます。
絵だけでなく、本にも親しんでこられたことが、今の表現につながっているのですね。
そうですね。小さいときに、たくさんものづくりを体験させてくれたことは、大きな学びだったと思います。
でも、勉強していたのは子どもの頃だけじゃなくて、今も学び続けているんですよ。
私はいろんなことに興味があって、例えば動物の進化の歴史や生態、宇宙や深海なども好きなんです。
ほかにもここには挙げきれないくらい好きな分野がたくさんあります。“知識に触れること”そのものが好きなんですよね。
大人になってからは、これまで勉強してこなかった分野を学ぶことが楽しくて、そうやって得た知識から生まれている絵も、少なからずあると思います。
Q11. 一枚の絵を描き始めるとき、最初に手をつけるのはどの部分でしょうか。
どこか一ヶ所から、という描き方はあまりしていなくて、まずは全体にふわっとアタリをつけるところから始めます。
そこから、少しずつ描き込みを進めていく感じですね。
色を塗るときも同じで、最初に全体へ下地を入れてから細部を描いています。
製作途中
完成した様子
ソフトクリームがモチーフの作品 製作途中
ソフトクリームがモチーフの作品
Q12. オカユウリさんの作品の魅力の一つがキャラクターに“温度”を感じることだと思います。
作品を制作されるときになにか意識されているのでしょうか?
ありがとうございます。
“温度”という意味でいちばん分かりやすいのは、色。特に“柔らかい色使い”だと思います。
私の絵を“春っぽい”と感じていただくことが多いのは、赤やピンクをメインカラーにしているからなのですが、実は“青い絵”を描くときにも、赤やピンクを少し混ぜているんです。
そのおかげで、自然と“あたたかい空気”を感じてもらいやすくなるのかなと思っています。
あとは、表情や指先など、細かい部分を描くときは、線の“やわらかさ”を意識していますね。
線の柔らかさ、あたたかさを感じられる作品
色づかいだけでなく、線の柔らかさや空気感まで丁寧に意識されているからこそ、
読み手が“温度”を感じ取れるのですね。
Q13. 無意識のうちに、つい何度も描いてしまうモチーフはありますか?
また、構図の傾向や色づかい、服のデザインの系統など、自然と選んでしまう“癖”があれば教えてください。
セーラー服やお花、天使は、無意識のうちによく描いてしまうモチーフですね。
それから、浮遊感のある構図も多いと思います。風が吹いているような雰囲気で描くことが多く、全身を描くときは、体が少し浮いているように見えるポーズになることが多いですね。
セーラー服と浮遊感
花モチーフ
天使
Q14. それらのモチーフをよく選ぶようになったのは、どんな理由からなのでしょうか。
女の子を描くのは、描きやすかったというのと、描くのが好きだったからですね。
セーラー服を描くようになったのは、当時の私がファッションにあまり詳しくなかったからで、まずは“自分が着ていたセーラー服”を参考に描き始めました。
それを続けていくうちに、丈や襟、袖はこれがいい、といった“好きなポイント”やこだわりが、少しずつ出来上がっていったんです。
Q15. 色の置き方や線の引き方など、制作の際に意識されている“こだわり”があれば教えてください。
線の柔らかさですね。硬くなりすぎないように気をつけています。
というのも、私は“ラフっぽい絵”が好きなんです。もちろん、描き込まれた絵も好きではあるのですが、下描きの線が少し残っていたり、勢いや息づかいを感じられる作品が特に好きで。
だから自分が描くときも、丁寧に描きすぎないように意識しています。
ラフさを残した作品
Q16. 絵を描くとき、デジタルとアナログはどのように使い分けているのでしょうか。
依頼内容によって使い分けています。デジタル媒体で使われるものは、デジタルで描くことが多いですね。
でも、実は私はアナログが好きなんです。あたたかみを感じられるのも理由の一つですし、制作の段階でも、水彩だと“にじみ”など、やってみるまで分からない偶然の模様が生まれることがあって、そういうところが好きで。これはアナログにしか出せない良さだと思っています。
一方で、デジタルにも利点があります。たとえばラフを描くときは、デジタルのほうが思い切って描けますし、修正もボタン一つでできるので便利なんですよね。
アナログで描いた作品を、あとからデジタルで整えることもあります。
ラフと加筆をデジタルで行なっている動画
デジタルで描かれた作品
Q17. どんな環境で描いていることが多いのでしょうか。
場所や時間帯、ルーティン、こだわりなどがあれば教えてください。
実は、これといったこだわりはないんです。
もちろん作業用のデスクはあるのですが、そこで制作するときもあれば、気分を変えたくて、別の机で描くこともあります。
デジタル作業はiPadを使っているので、布団の中で描いていることもありますね。
iPadで制作されることもあるとのことですが、場所を変えてカフェや移動中に描くこともありますか?
外で描くことはあまりないですね。というのも、外では“そのとき思ったことをメモする”ことが多いからです。
水族館や美術館に行ったときも、その場で考えたことの断片をメモすることはありますが、ラフを練るのは家に帰ってから、調べものをして進めるようにしています。
文章から空想する、というお話は、ここにも活かされているんですね。
「こだわりはない」とのことでしたが、続けていくうちに、自然と今のスタイルになっていった──そんな感覚に近いのでしょうか。
そうですね、こだわりというよりは、やりやすいように続けていくうちに、“自然と形になっていった”部分はあります。
たとえば、よく使う道具にはそれぞれ定位置がありますし、絵の具も色ごとに引き出しに分けています。
何かを食べながら描くことは特にありませんね。飲み物は水か白湯にしています。
というのも、私は描き始めると“いつまでも描けてしまう”タイプなので、どうしても不健康になりがちで……。せめて飲み物だけでも水にしておこう、と思っていて。
食べながら描かないのは、筆がのっているときにほかのことをしたくないからですね。集中すると、つい没頭してしまいがちです。
集中していると、飲み水と筆を洗う水を、うっかり間違えてしまいそうですね。
そういうときもあります(笑)。
「集中すると没頭してしまう」とおっしゃっていましたが、描くのはどの時間帯が多いのでしょうか。
私は夜型ですね。深夜から朝にかけての時間帯が、いちばん集中できるんです。
となると、今回の取材は、かなり早い時間帯で……大丈夫でしたか?(取材は午前中)
それは大丈夫です!
むしろ、絵を描くことに没頭すると家にこもりがちで、不健康になってしまうので……用事があって外に出られるのは助かります。
それはよかったです……!
Q18. これまで制作されてきた作品の中で、特にお気に入りの一枚を教えてください。
今、名刺に使っている絵ですね。
毎年2〜3月ごろに年度の締めのような個展を続けているのですが、その個展のメインビジュアルは、第一回の個展と似た構図で描くようにしているんです。
その中でも、特に思い入れがあるのが第二回のメインビジュアルで、いま名刺に使っている絵は、その二回目のメインビジュアルをリメイクした作品なんです。
「今の自分が描いたらどうなるんだろう」と思って描き直した一枚で、昔の絵と見比べられてしまうぶん、とても気合いを入れて制作しました。なので思い入れも強くて、今でもアイコンや名刺に使っている、お気に入りの作品です。
リメイク元
リメイク後





描くこと・続けること
ここまでのお話から、オカユウリさんが“描く”という行為そのものに、どのように向き合ってこられたのかが見えてきました。
日常のなかで生まれる「描きたい」という衝動、知識や文章から空想を広げて形にしていく楽しさ。
さらに、色づかいや線の柔らかさへのこだわり、アナログとデジタルを行き来しながら、自分に合った制作環境を積み重ねてきた時間――。
そうしたひとつひとつの選択が、現在の表現世界を支えていることが伝わってきます。
ここからは、“描き続けていくこと”について、さらにお話をうかがっていきます。
Q19. 制作活動の中で、描くことがつらくなったり、続けられないかもしれないと感じた時期はありましたか?
描くことがつらいとか、やめようと思ったことはないですね。
私にとって絵を描くことは、物心ついたころから気づいたら身近にあったもので、それがない人生なんて考えられません。
ただ、「描くペースをゆっくりにしよう」と思った時期はあります。
でもそれは、描きたくないというネガティブな気持ちではなくて、ほかにやりたいことが出てきたからなんです。
私はいろいろなことに興味があるタイプなので、いろんなものに手を出しながら絵も描いていると、どうしてもパンクしてしまって。
そのバランスをとるために、「少しペースをセーブしようかな」と思ったんです。
――でも、結局どっちもやめられずにたまにパンクしちゃうんですけどね。
Q20. オカユウリさんが、今も絵を描き続けていらっしゃる“原動力”は、どんなところにあるのでしょうか。
“原動力”というのは、特にないんです。私にとって絵を描くことは、気づいたら“やりたくなっていること”なので、あえて動機づけをしなくても自然と続いていて。
ただ、別のことに興味が向いている時期でも、イベントや個展でいただいた感想やお手紙を読むと、「ああ、やっぱり描きたいな」って思うんです。特に、熱意のこもった言葉に触れると「ほかのことよりも、まず絵を描こう」という気持ちになります。
それから、仕事でお会いする方や、依頼をくださる方に「ファンです」「絵が好きでお願いしました」と言ってくださることもあって、そういう瞬間も、とても励みになりますね。
Q21. ご自身の作品が届いた相手や反応の中で、心に残っているものはありますか。
どの感想もうれしかったのですが、その中でも特に印象に残っているのは、“もともと絵に興味がなかった方に届いたとき”ですね。
ありがたいことに、アニメ関係のお仕事をさせていただいたことがあって、それをきっかけに展示を見に来てくださる方が増えました。
そのなかには、「これまで絵には全く興味がなかったけれど、アニメで作品を知って好きになって来ました」という方もいて……それが本当にうれしくて。
自分の絵を入り口に、“絵そのもの”に興味を持っていただけるのは、とても幸せなことだなと感じます。
アニメ放映後に描かれた作品
Q22. どんなふうに受け取ってほしいと感じていますか?
どんな気持ちで受け取ってくださってもいいし、受け取り方は人それぞれで構わないと思っています。
その中でも、多くいただく感想が「見るとあたたかい気持ちになる」というものなんです。
私の絵は、泣き顔や片思いの心情など、切ない場面や苦しい気持ちを描くことも多くて、必ずしもポジティブな絵ばかりではありません。
それでも「見ているとあたたかくなる」と言っていただけることがあって、その言葉にはいつも励まされています。最初から“あたたかさ”を目指して描いてきたわけではないだけに、なおさらですね。
日常の中でふと絵に触れたとき、その方なりの気持ちの中に、そっと“小さな幸せ”が生まれる瞬間があればうれしいな、と思っています。
大きな幸せももちろんうれしいですが、そうした小さな幸せを感じられる絵でいられたらいいな、と思っています。
未来の展望
ここまでのお話から、オカユウリさんにとって“描く”ということが、生活の中でいつも自然にそばにあった存在だということが見えてきました。
ときには、興味の向く世界が広がって立ち止まる瞬間もありながら、いただいた感想や出会った言葉に背中を押されるように、描くことへ戻っていく時間。
切ない気持ちや苦しさを描くことがあっても、「あたたかい気持ちになる」と届けられる感想の数々。
そうしたやり取りの積み重ねの中で、日常の中の小さな幸せを大切にしながら、作品と向き合ってこられた姿が浮かび上がってきます。
ここからは、これからの表現について、未来への思いをうかがっていきます。
Q23. 今後、描いてみたいテーマや世界観はありますか?
こう言うと驚かれるかもしれないのですが、宇宙や歴史、神話といった世界観をモチーフにした作品も、いつか描いてみたいなと思っているんです。
それはまた、これまでとは全く違うモチーフですね。
そうですね。ただ、自分の中では、そんなに離れている感じはしないんですよね。
今はセーラー服やお花、思春期の女の子の“ピュアだけど複雑で繊細な心”を描いていますが、そういう感情って、あっという間に過ぎてしまう、どこかあいまいなものじゃないですか。
宇宙や歴史、神話も同じで、わからないことや説明しきれない部分がたくさんある。そういう意味で、どこか親和性があると感じていて。
だからといって、急に神話のキャラクターを描こう、みたいにガラッと世界観を変えるわけではなくて、“想像の余地が大きいそれらの要素”を、今描いているモチーフと組み合わせながら表現してみたいな、と思っているんです。
太陽のテーマでアポロンをイメージして描いた作品
これまでとまったく違うものを描く、というわけではないんですね。
そうですね。今のスタイルは、自分の中でひとつのアイデンティティになっているところがあるので、もしそれをガラッと変えるとすれば、別の名義で発表すると思います。
Q24. これから挑戦してみたい技法や、広げていきたい表現の方向性はありますか?
技法や方向性という点で言うと、私は小さいころから身近にいろいろな芸術に触れてきました。中学では美術部、高校では美術科に進み、今でも“見たことのない画材があったら買って試してしまう”タイプなので、これまでにまったく手をつけてこなかった技法というのは、ほとんどないんですよね。
そのうえで、今は“技法をどう組み合わせるか”や、“まったく違うジャンルとコラボレーションすること”に、より可能性を感じています。たとえば私は、水彩やアクリル絵の具など、さまざまな画材を重ねて描くことが多いのですが、同じ画材でも使い方を変えるだけで、まったく別の表情になる。その発見がすごく面白いんです。
大学時代には、水彩は“水で溶いて淡く使うもの”というイメージを持っていたのですが、あえて濃いまま使ってみたことで、新しい描き方に気づいたことがありました。そうした経験から、使い方を工夫したり、視点を少し変えたりすることに、今も面白さを感じています。
普段より暗めの色使いで描いたもの
普段使わない画材で描いたもの
“まったく違うジャンルとのコラボ”って、具体的にはどんなイメージなんでしょうか?
いろんなことに興味があるので、これだけというわけではないのですが、たとえば“陶芸”には興味があります。お皿を作って、その上に絵を描くような作品ですね。日常で使うものに描く絵は、キャンバスそのものの形を自由に楽しめますし、焼き上がるまでどんなふうに仕上がるかわからないところも魅力だなと思っていて。
実際に作ったことはないのですが、信楽焼がかわいくて好きなんです。そこに、自分らしい色──ピンクなどを取り入れて作れたら、きっと可愛い作品になるんじゃないかなと思っています。
かわいい信楽焼! 想像するだけでワクワクします。
Q25. 5年後、10年後、どんなふうになっていたいですか?
これからも、自分が“ときめく絵”を描き続けていられたらいいなと思っています。
そのうえで、絵を描く中で掲げている目標を、少しずつ叶えていけたらうれしいですね。
“絵を描く中で掲げている目標”……とは、どういったものなのでしょうか。
一つは、“自分の画集を自費出版ではなく、出版社さんから出すこと”です。
それから、意識して見に行かなくても、日常の中でふと目に入るような場所にも、作品を置いてみたいです。
たとえば、電車の中の広告のような場所に、自分の絵があったらいいなって。
そして、またアニメの制作にも関わっていきたいですね。
アニメや漫画、ゲームは、私自身ずっと好きで触れてきた世界なので、“好きなものと一緒に仕事ができること”に、今もすごく幸せを感じています。これからも、そうした世界の中で描いていけたらうれしいです。
過去の個展やPOPUPフライヤー
メッセージ
ここまでのお話から、オカユウリさんが“これからの表現”に対して、大切にしている思いや姿勢が見えてきました。
宇宙や神話といった新しいモチーフへの関心も、その根っこには、これまで描いてきた世界と通じ合う「曖昧さ」や「余白」へのまなざしがあります。
また、技法やジャンルの枠を越えながらも、自分らしさという軸を大切にしつつ、少しずつ表現の可能性を広げていきたいという考え方。
そして、画集の出版や公共の場での掲出、再びアニメの世界に関わることなど、夢や目標を丁寧に積み重ねていこうとする姿勢が印象的でした。
ここまで貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございます。
最後に二つだけ質問させてください。
Q26. 改めて、先生にとって“絵”とはどんな存在でしょうか。
意識しなくても、いつも身近にあるものですね。
きっかけも、何か壮大な出来事があったわけではありませんし、「やめよう」と思ったこともなくて、気づけば楽しく続けてきました。
これからも、その気持ちを大切にしながら描き続けていきたいなと思っています。
Q27. 「DEKIRU!」は“挑戦する人を応援するメディア”です。
よろしければ最後に、挑戦している方・これから挑戦したい方へ、メッセージをお願いします。
私には、二つの座右の銘があります。
一つ目は、“思い立ったが吉日”。
私は、考えてから行動するまでが早いほうだと自負していて、たとえば気になるイベントがあったら、それがたとえ遠方でも、衝動的に応募してしまうんです。
初めて個展を開いたときも、今のように多くの方に知っていただいていたわけではなかったのですが、それでも“やってみたい”という気持ちのまま動きました。
その一歩一歩が実を結んで、今の活動につながっていると感じています。だからこそ、まずは手をつけてみる、やってみる――それが大切だと思います。
二つ目は、“やらんよりマシ”。
作品を作っていると、完璧じゃないと人に見せられない、もっと練習してから、と感じてしまう瞬間があると思います。でも、誰にも見せずに眠らせてしまったら、世の中にないものと同じなんですよね。
だから、とりあえず外に出してみること、見てもらうことです。
たとえ完璧じゃなくても、“出さないよりは、出したほうがいい”。
私は、そうやって動いてきた自分の性格が、今の活動にも活きていると感じていますし、「このままの自分で良かったな」と思っています。
ぜひ楽しみながら頑張ってください!
まとめ
オカユウリさんのお話をうかがっていて、終始“楽しい”という感情が静かに伝わってきました。
繊細な線や淡い色合いの中に、あえて残されたラフさと、描く瞬間に宿る熱い気持ちが重なり合い、あたたかさを感じる一枚へと結びついていく——その背景を知ることができた時間は、とても貴重なものでした。
そうしたお話の中から浮かび上がってきた、大きな転機や劇的な出来事ではなく、日々の中で積み重ねてきた“好きであり続ける気持ち”そして“とりあえずやってみるという精神”。
そうして歩んできたこそが作品の世界を育て、今の表現へとつながっているのだと感じます。
これからも、オカユウリさんの描く絵が、誰かの日常にそっと寄り添い、小さなときめきややさしい温度を届けていく——その姿を思い描くと、作品を見たときと同じく、心の中にあたたかな余韻が広がりました。
本当にありがとうございました。
SNS・リンク

オカユウリ
HP https://uriokablack2.wixsite.com/okayuuri
Instagram https://www.instagram.com/blackistat2/
SHOP https://x.gd/SGKn1
1月

1月16日(金)〜25日(日) 二人展「月と太陽」 / aL Base(代々木)
太陽をテーマにあたたかな作品を集めます。
2月

2月1日(日)〜8日(日) 個展「スパークリング」 / Ginza CAT Gallery(銀座)
新しくオープンするギャラリーの柿落とし展示として個展をさせていただきます。
大切なスタートに私も大切な作品を預けたいという思いで過去に開催した個展「Sparkling!」から引用しました。過去作を中心にきらめきをまとった少女たちの作品を集めます。
2月8日(日)原画市 / 吹上ホール(名古屋)
原画やグッズが集まる即売イベント。
2月22日(日) COMITIA155 / 東京ビッグサイト
スペースno【い21b】
一年分の作品を集めた画集を頒布。バレンタインが近いのでオリジナルラベルのチロルも配ります。
3月

3月6日(金)〜19日(木) 個展「あのね」/ デザインフェスタギャラリー原宿
年度末に毎年開催する個展。