【イベントレポート】車の運転って、とても楽しい! 視覚障害者 自動車運転体験ツアー

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【イベントレポート】車の運転って、とても楽しい! 視覚障害者 自動車運転体験ツアー

企業の社会貢献事例をご紹介する連載番外編。後編では、栃木県中部自動車学校で行われた「視覚障害者 自動車運転体験ツアー」最終日の様子を詳しくレポートします。

3日間にわたった「自動車運転体験ツアー」最終日

紅葉が終盤を迎え、朝に霜柱が立ち始めた12月の栃木県宇都宮市西部。一台の貸切バスが、栃木県中部自動車学校に到着しました。

乗っていたのは、全盲や弱視など、視覚障害がある方々。目的は、「視覚障害者 自動車運転体験ツアー」に参加することです。日程は全3日間。このレポートは、検定が行われる最終日に密着したものです。

実際に運転する車の後部座席にも乗せていただいたのですが、そこで聞いたのは喜びと興奮の声。ドキドキとワクワクが詰まった思い出に残る1日がスタートしました。

視覚障害者 自動車運転体験ツアー3日目のスタートです

バスが到着したのは、朝8時45分のこと。ツアースタッフやボランティアさんと一緒に、視覚の障害がある参加者が、続々と自動車学校に入っていきます。

すでにツアーの3日目ということで、みなさん、打ち解けてリラックスした雰囲気。「今日は検定だね」「車庫入れ、できるかな」「FさんやKさんは余裕でしょ」など、すでに運転が待ちきれない様子です。

9時になり、今日のスケジュールの確認とコースの再確認が行われました。昼食を挟んで2回の運転練習の後、14時前後から検定がスタートするようです。

目指すは検定合格。朝のミーティング

朝のミーティングがスタート。検定の日なので少し緊張感が伺えます

事前に「もっといろんなことに挑戦したい!という意見を取り入れて、難易度が高いコースを設定しました」と聞いていましたが、実際に走行するコースの詳細を知り、びっくり!なんと、スタート後に直線を走り、90度の右折を2回。さらに直線を走り、90度の左折を2回。もう一度、直線を走って最後に90度の左折を行います。しかも、その途中には1箇所、バックギアに入れて車庫入れを行うとのこと。

想像してみてください。私たちは目を閉じてこのコースを運転できるでしょうか。ひょっとして、とんでもないツアーなのではないか。説明を聞くほど、不安を感じたのは紛れもない事実です。

かなりテクニカルなコースレイアウト。みなさん、初日に歩いて距離感やカーブの角度を確かめたそうです

しかし、その不安感を打ち消したのは、「今日もがんばるぞ!」「もうちょっとスピードを出したいよね」「あのカーブでセナ足を使うんだよ(F1の伝説のドライバー、アイルトン・セナが駆使したドライビングテクニック)」という参加者さんたちの声。昨日の練習で運転技術が上達し、ドライブを目一杯楽しんだという確かな自信が言動に満ちあふれています。そこにあったのは「早く運転したい!」というポジティブな感情の渦でした。

主催者として企画を練り上げた伴流高志さん

このツアーを主導したのは、日本介護システム株式会社、株式会社オートテクニックジャパン(以下:ATJ)、株式会社栃木県中部自動車学校の三社です。

特に日本介護システムの伴流高志さんは28年前から障害者や高齢者を対象としたユニバーサルツーリズムを企画し続けてきた、この道の第一人者。そこに障害者や高齢者の運転技術開発や啓蒙活動を続けてきたATJと、運転教育におけるプロフェッショナルの栃木県中部自動車学校が合流し、今回のツアーが実現したそうです。

ツアーの成り立ちや詳細については以下の記事をご覧ください

視覚障害者が自動車運転を体験! 異業種連携が生んだウェルビーイングへの挑戦

「心の目」で見る景色。同乗して驚いたスムーズなハンドル操作

栃木県中部自動車学校の協力がなければ実現しなかった企画です

10時30分、待望の運転体験がスタートしました。4台の教習車を使い、3つのグループに分かれて運転を行います。

参加者たちが次々とハンドルを握る中、Yさんが運転する車に同乗させてもらうことになりました。弱視のYさんの視力は、光の有無がわかる程度。それでも迷いなくシートに座り、シートベルトを締め、ミラーを調整して出発の準備を整えます。出発までに時間があるので、昨日までの感想を聞いてみました。

ほぼ見えていなくても、運転前のルーティーンだからとバックミラーを調節するYさん

「たっぷり練習をさせていただいたので、少しずつ運転に慣れてきました。最初はうまくできるのか不安でしたが、インストラクターの先生がすごく分かりやすく教えてくれて。ハンドルの切り方、アクセルやブレーキの踏み方って難しいですね。少しのつもりでも力んでしまいます」

そう話すYさんに先生が笑顔で会話を重ねます。「Yさんは心の目が見えていますから。とっても安全な運転ですよ」。車内で笑い話をしていると、スタートの時間がやってきました。

一気に緊張する車内。Yさんが静かにアクセルを踏み込むと、車はスムーズに動き出しました。先生は、ハンドル、アクセル、ブレーキの加減を口頭で伝えているだけ。それでも、グングンと進むYさんの車。なんと、スピードが30km/hに達する瞬間もあり、カーブでもハンドルを持ち替えてスムーズに曲がっていました。視覚障害があっても、こんなにも運転がスムーズだとは。

左から、先生、Wさん、Yさん。3日間をともにしたことでコンビネーションもバッチリ

このツアーには、一人の視覚障害者に対して、迷わないように手を引くボランティアの方が必ず一名付き添っています。Yさんの介助を担当したのはWさんという大学生。これからの人生に役立ちそうだと介助のボランティアを引き受けたそうです。

「将来、視覚訓練士を目指して勉強中です。視力がとても悪い方を受け持つこともある仕事なので、経験になると思って参加しました。たまたま月曜日の授業がない週だったので土曜、日曜、月曜と全日程を参加でき、視覚障害者の方々がどのようなことに困っているのかを知る気付きがたくさんありました」

ワクワクが止まらない運転体験

頭を振ってからバックする車庫入れをみなさんが行われていました

15分の時間を目一杯使ってコースを3周したYさん。車庫入れには少し苦労したようですが、検定に向けて改善点が見つかった様子。車を降りた時にあらためて、今日の運転の感想を聞いてみました。

「とっても楽しいです!本当に楽しい!ずっと乗っていたい!」

Yさんの表情と言葉には、「できる」ということが、どれだけ人生に希望と彩りをもたらすのかを教えてくれます。同じ時間帯に運転をしていたMさんにもお話を伺いました。

「あまりストレートで伸びないんだよね(笑)。もっとガンガンいきたいですよ。難しいよりも、楽しい気持ちが勝っています。昨日からずっとワクワクしっぱなしで。先生とのコンビネーションも仕上がってきたから、今日はさらに楽しいです」

ストレートを疾走する自動車。視覚障害者が運転するとは思えないスムーズさ

一方で、少し眠そうなTさん。どうやら昨日、夕食の餃子食事会の後にも運転談義に花が咲き、ベッドに入ってからも興奮で寝付けなかったようです。

「あまりにも楽しくて寝られませんでした。次の機会には気を付けます(笑)。いつもは乗せてもらう一方ですから、私が運転することで車が進むというイメージがありませんでした。実際にやってみて、こういうことかと。すごく衝撃でした。新鮮な気持ちが膨らんで、とても刺激になります。他の目が不自由な人たちにも、ぜひ経験してほしい!これは、意識が変わりますよ。自力で何かができるんだというポジティブな気持ちが芽生えてきます」

さまざまな背景がある参加者のみなさん。今日、共通して得たのは、ポジティブな感情という未来

どんどん練習が進んでいく中、年長者のFさんに出会いました。なんと、Fさんは10年来の視覚障害運転の経歴を持つそうで、企画のお手伝いもしている様子。

「私は網膜色素変性症という難病で、大人になるまでは通常の視力だったのですが、24歳から20年かけて全盲になってしまいました。
子どもの頃から車が大好きでね。小学生の頃には親戚が通っていた自動車学校の教本を勝手に読んでいましたし、高校生の頃には自動車専門誌を読み漁っていたほどです。
だから、大人になったら車を運転している未来しか考えていませんでした。でも、どんどん視力が悪くなっていき、結局、運転は叶わぬ夢として凍結保存していたのです。
それが10年前に伴流さんのツアーに出会って、夢が叶いました。今では、自動車運転体験ツアーは趣味のひとつです。よく、伝道師など良い人のように言われますが、違いますよ。私は運転が趣味で楽しい! 企画のお手伝いの話は、楽しみの延長にたまたまあっただけです」

視覚障害者トップドライバーと名高いFさんの運転の勇姿

練習時間の最後に同乗させていただいたのが、Kさんです。弱視で、角度によってはうっすらと白線が見えるとのこと。でも、正面の景色は見えないそうです。そのKさんもまた、大の車好き。若いだけあってスピードに対して興味津々のようです。

「昨日は思った以上のスピードを出すことができました。でも、今日は検定ですからね。良い子にして、上手に運転することだけに集中します。
参加した理由は、車が大好きだからです。運転も好きだし、マシンとしても好きだし、文化としても好きです。運転できる機会があれば全国どこにでも行ってみたい。今回のツアーで、知らない土地まで移動できる自分を発見しました。運転のおもしろさを、今後ぜひ、いろんな人に伝えたいです」

車が大好きなKさん。スムーズなアクセルワークとブレーキングが素晴らしい

ここで、間違って世間に伝わってはいけないと、自動車学校の教官歴が長い網代力央先生が、Kさんの出したスピードについて解説してくれました。

「Kさんの運転技術の素晴らしさは、力まずにゆっくりとアクセルもブレーキもコントロールできること。ご本人がスピードを出してみたいと話されたので、昨日から少しずつスピードを出せるように指導してきました。基礎スキルがしっかりしているKさんと教官歴が長い私のコンビだから、少しだけ体験していただけました。この記事を読んでスピードを出せる体験ツアーと思われると困りますので(笑)」

やってみたいこととその実現について話しこむKさんと網代さん

ツアー主催者側の嬉しい苦労は、このようにツアーをカスタマイズしていくこと。今回のツアーでも、参加者たちから「次はもっとこんなことに挑戦したい!」というリクエストがたくさん届いているようです。中には、次回のツアーでパワーアップした企画となる可能性もありそうです。そして、最も遠方からの参加者のMさんにもお話を伺いました。

「奈良県からやって来ました。自動車の運転は滅多にない機会ですから、これは行かねばと思って。以前にも似たような体験ツアーに参加したことがあるのですが、その時は広場で運転するものでした。でも、今回はコース内での走行です。ハンドル重視の操作で、10mのコースの幅。車庫入れは特に楽しかったです。
私は先天性の視覚障害者のため、自分で車を運転するなんて考えてもいませんでした。車は乗せてもらうだけのもの。でも、実際に運転してみると、気分がまったく違います。とても特別な体験になりました」

運命の検定試験!そして手にした物は

検定は一発勝負。それだけに参加者さんの表情は真剣です

そして、やってきた運命の14時。ついに検定試験がスタートしました。みなさん、緊張した面持ちで車に乗り込んでいきましたが、それぞれ、課題をしっかりとクリアした様子。無事、全員が検定に合格できました。

コースから教習所の建物に戻ってきたのは16時頃、閉会式が行われたのですが、ここで大きなサプライズが!「栃木県中部自動車学校の敷地内だけ」という条件は付きますが、ツアー主催者お手製の運転免許証が授与されたのです。

これにはみんな、大興奮。一生縁がないと思っていた免許証が自分の手の中にあるのです。ボランティアさんに何と書かれているのかを何度も聞いて確かめ、免許証を指で愛でながら、何度も何度もその感触を確かめていました。

一生手にすることはないと思っていた自動車運転免許証が自らの手に

栃木を「聖地」に。誰もが挑戦を諦めない社会への第一歩

解散後に聞いたのは、主催者たちの思い。ATJの斎藤勇さんは、とにかく外出する体験をしてもらうことで、もっと自由に行動できるんだと気付いてほしかったそうです。まさに、その思いが叶った3日間だったと話してくれました。

「楽しかったという思い出にするだけではなく、今回のツアーで体験した一連のことが活きて、より豊かな人生を歩んでいただくことを目標にしてきました。これからは、もっともっと精度を高めたツアーに育てていき、ここ栃木に来れば、たとえ視覚に障害があっても夢が叶う聖地にしていきたい。そう話したら、参加者さんたちから山のような要望がやってきました(笑)。社内で共有したら、これは大変だとなっていますが、できることから次回のツアーに盛り込んでいきます」

すでに次回のことを話し合っている伴流さん(左)とATJの斎藤さん(右)

「誰しもが。挑戦する気持ちを平等に持てる社会」を目指してツアーを立ち上げた伴流さんは、周囲のサポートが何よりも大切だと話してくれました。

「障害がある人や高齢者は、チャレンジしたいと思っても、周囲の手助けがないと実現できません。ですから、そっと手を差し伸べる。
その気持ちは与えるとかやってあげるではありません。長い目で見ると、自分にも返ってくるかもしれないこと。それをつながりの中で、自然な行動から起こるような社会になればと思っています。
自動車運転ツアーは、そのひとつの切り口。私も栃木が視覚に障害がある人の聖地になるように、これからも動いていきます」

「できる」を実感できる場所へ。自動車の運転を通じて、ユニバーサルな社会やウェルビーイングな社会を目指す試みは、ここ栃木で着実な一歩を踏み出しました。

全員、検定に合格! 今日は新しい自分のスタート地点。また、ツアーで会いましょう!

視覚障害者自動車運転体験ツアー オフィシャルサイト

https://yasashiitabi.com/index100.html

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