わかさ生活が取り組む社会貢献活動に迫った書籍にまつわるコンテンツを展開している連載「『社会を元気にしたら会社も元気になった』のヒミツ」。今回はその番外編として、「社会を元気にする」という志を同じくする、他社による素晴らしい取り組みをご紹介します!
夢とは実現していくもの。同志がいれば必ず道は拓けていく
「できないことが、できるようになる」。年齢や立場に関係なく、その喜びは人生を歩む上で最も大切な感情のひとつなのかもしれません。「できるんだ」という達成感を味わった人に訪れるのは、自らの可能性が未来に向けて大きく広がる感覚。自己肯定感の高まりとともに、以降の暮らしがポジティブなものに変化していく人が多いそうです。
ほとんどの視覚障害者にとって、自動車の運転は「やりたい」以前に「できるはずもない」と諦めてしまっているもの。また、「やりたい」と願っていたとしても、そのような受け皿は存在しないだろうと、調べないままになっているそうです。この課題を解決しようと開催されたのが、2025年の12月に栃木県中部自動車学校で開催された『視覚障害者 自動車運転体験ツアー』。視覚障害のある方が「自らハンドルを握る」体験を通して、長年抱いてきた夢に挑戦すると同時に、運転者の視点から交通安全を学ぶことを目的とした取り組みです。
ツアーを主導したのは、日本介護システム株式会社、株式会社オートテクニックジャパン(以下:ATJ)、株式会社栃木県中部自動車学校の三社です。ATJでは、視覚障害者や高齢者、車いすユーザーなど、移動に困難を抱える人々の自由を支援する「ゼロラボ」という部署を設け、技術開発と社会実装を進めてきました。視覚障害者向けの歩行支援機器の開発や、地域の盲学校と連携した交通安全教室など、地道で身近な活動を続けてきたひとつの結果として、今回の運転体験プログラムが実現したそうです。担当者の斎藤勇さんに、その経緯を聞いてみました。

そもそも、自動車がどのような原理で動いているのかを知らない視覚障害者の方が、かなりおられます。
これまでにも安全講習を開催してきましたが、実際に教える側になって分かったのは、交差点の形状すら把握されていないという事実。東西南北の素直な形状の四つ角の交差点があるとして、いつも西側だけを歩行されているとすると、そこより東側のほとんどのことが明らかになっていないのです。歩道は東側まで歩けば分かるとしても、車線の中のことまでは分かりません。
ならば、いっそのこと運転をしてみれば良いのではないか。車の挙動はもちろん、交通ルールなども体験を通して実感してもらえるのではないかと考えました。当時は逆転の発想でしたが、今思うと正攻法だったと思います。
一方で日本介護システムの伴流高志さんは、視覚障害者や高齢者の方々が安心して外出や旅行ができる社会の実現を目指して、28年前からユニバーサルツーリズムの推進に取り組んできました。視覚障害者向けのツアーは、たくさんあるメニューの中のひとつだったそうです。

前職の大手旅行会社に勤務していた時から、13年にわたり視覚障害者向けの運転体験ツアーに携わってきました。その中で参加者さんたちの声を聞いてカタチにすることを繰り返し、今回の運転体験ツアーが実現しています。
最初は、車を動かしてみるという体験がスタート地点でした。ハンドルを握ってアクセルやブレーキを踏み、車を運転する。それだけでも、圧倒的に不可能が可能になったわけですから、参加者さんからは歓喜の声が上がりました。
でも、視覚障害者の方々って、みなさんが考えておられるよりもずっとアグレッシブなんです(笑)。回を重ねるごとに「バックで駐車してみたい」「シフトチェンジをしてみたい」と要望が増えていきました。ですから、今回のコースには車庫入れが組み込まれています。
貴重な場所と車両、そして運転教育のプロ3名を今回のツアーに提供したのが、栃木県中部自動車学校です。少子高齢化が進み、ドライバーの総人口が減少していく時代の中で、より社会に寄り添う自動車学校を目指してツアーに参画しました。教官の一人、網代力央さんに話を聞くと、今日が待ち遠しかったと眩しい笑顔。経験豊富な教官ということは一見しただけで分かるのですが、今日はどこか少年のようなワクワク感が滲み出ています。
本校では初めての試みになります。お話をいただいた時から興味は高まる一方。なぜなら、視覚障害者の方々は教習所からは最も遠い存在の人たちだからです。
法律で、矯正視力において左右それぞれの視力が0.3以上、両眼の視力が0.7以上ないと免許を持てませんし、自動車学校に入校もできません。一人の職業人として、未知の領域に足を踏み入れることは、必ずや自らを高めるきっかけになると思って参加しました。

それぞれの思いが結集して迎えたのが、12月13〜15日の視覚障害者 自動車運転体験ツアーだったのです。
視覚障害者 自動車運転体験ツアー2025の様子は下記の記事で詳しくレポートしています
なお今回の視覚障害者 自動車運転体験ツアーは、DEKIRU!を運営するわかさ生活がスポンサードしました。

わかさ生活様からは、ツアーの取り組みにご共感いただき、ツアー参加者の皆様に対して、旅の疲れを癒してくれる、入浴剤「わかさの温浴」やソイプロテイン「わかさのたんぱく習慣」、ブルブルくんなどをご提供いただき、参加者から大好評でした。
イベントを未来へと機能させていくのは「旅」という概念
お話を聞いていく中で、三社ともに大切にしている考え方があることに気付きました。ところどころで「イベント」という言葉は出てくるのですが、それよりも圧倒的に「ツアー」と話されることが多いのです。初期の自動車運転ツアーの頃から伴流さんが大切にしているのは、「旅」という概念。企画者側も参加者側も、この体験ツアーを2泊3日の旅だと認識しているそうです。伴流さんに詳しく聞いてみました。
全国各地から参加される方々は、公共交通機関を乗り継いで宇都宮までやってきました。そして、2泊3日の中で、宿泊をともにし、食事を囲み、運転体験に臨んでおられます。その一連の流れすべてが、視覚障害者の方々にとって大きな挑戦なのです。
目が不自由な方たちにとっては、そもそも外出すること自体にハードルを感じるもの。でも、このようなツアーに参加できたという成功の体験があれば、次の一歩を踏み出しやすくなります。昨日も食事の時に「旅行をする自信がついた。大阪でたこ焼きを食べてみたい!」なんて声も出ていました。

確かに、旅をよく考えてみると、目的地までの移動も旅の大切な構成要素です。それどころか、あれこれ想像して計画を立てている時すらも旅と言えるのではないでしょうか。旅は思い立った時から非日常。そう話す伴流さんには、障害者ツアーを単体のイベントではなく、旅に落とし込んだ方が良いと考える理由があるそうです。
若い頃は、自然な出会いや新しい経験が、何もせずとも次々と訪れます。学年が上がることや、職場で仕事に慣れていく過程などは代表例ですね。
でも、年齢を重ねていくほど、ましてや障害がある人ほど、そのような機会は減ってしまいます。この課題を解決してくれるひとつの方法が、旅です。
長年、旅行を企画してきたプロとしては、新しい仲間ができ、新しいチャレンジに取り組むことで、お客様の人生が輝くものになってほしいとツアーを作っています。
今日、この場にいる人たち以外にも点在するウェルビーイングへの鍵
三社の強い結束から生まれた、今回の視覚障害者自動車運転体験ツアー。その成立に欠かせなかったもうひとつの存在が、手引きボランティアに参加した人たちです。視覚障害者が初めてのところでも安全に移動できるように、文字通り手を引いて案内し介助する存在。今回は、国際医療福祉大学・大田原キャンパスで学ぶ視機能療法学科の学生たちと、宇都宮市社会福祉協議会に参加する地域の方々が一体となり、ツアーを支えました。大学と社協それぞれに依頼をした斎藤さんは話します。
最初は緊張していた学生さんたちも、日が経つにつれてどんどん打ち解けてくれました。
参加者さんたちはもちろん、ボランティアのみなさんも体験に付き添うことで楽しみ、学びがあったと笑顔で話してくれて、私たちもとても幸せな気持ちになりました。
素晴らしい結束力でツアーを成功に導いた三社ですが、このツアーが生まれる最大のきっかけとも言える伴流さんと斎藤さんの出会いは、ほんの数か月前だったようです。当時、伴流さんは大手旅行会社に在籍していましたが、もっと機動力を生かしたユニバーサルツーリズムを実現したいと、現在の会社に転職が決まっていた頃。斎藤さんは、そうとは知らずに大手旅行会社のお問い合わせフォームに思いの丈を書いて伴流さんに会いたいとメッセージを送ったそうです。

正直、驚きました。当時いたのは大手ですから、個人宛の直接メッセージなんて来ることはほぼありません。でも、斎藤さんは熱意がビシビシ伝わるメッセージを送ってくれて、しかも新宿にまでプレゼンテーションに来てくれたのです。この人たちとなら理想に近付くことができる。そう思って始まったコラボレーションでした。
実際に今日のツアーの実現までにも、栃木県中部自動車学校さんとの交渉も、社内の調整も、斎藤さんが中心になって動いてくれています。先ほどご覧になられたように、参加者さんたちも、みんな笑顔。良い企画を作っていける最高の仲間たちと巡り会えたと感じています。
今回のツアーの魅力は、単に車を動かすのではなく、コースを走り、車庫入れまで行う運転技術がテーマでした。しかし、意欲満点の参加者さんたちは、すでに「もっと自分の感覚だけで運転できないか」という要望を寄せているそうです。その声を聞き、すでに伴流さんとATJの間では、まだ素案段階とはいえ、かなり踏み込んだ具体案まで出てきているそうです。伴流さんが続けて今後の目標を話してくれました。

これからは、我々が「提供する」ツアーではなく、参加者と一緒に「作っていく」ツアーにしていきたいです。お客様の声をもっと拾い上げる仕組みを作り、それがプログラムの中核になるような。もっと異業種が集まり、参加者も巻き込んで、みんなで育てていく。そんな取り組みにしていきたいと思っています。
今回のツアーでも新たな課題が見えてきました。昨日、盲導犬を連れてレストランに入店をしようとしたところ、「許可は取られていますか?」と聞かれたのです。
本来、盲導犬は許可の対象ではない存在。私たちがツアーを展開し続けることで、そのような情報も地域内で共有できるようになっていきます。つまりは、より良い社会になっていくためには、街全体が巻き込んでいく対象になるのではないか。根気良く続けていくことで、栃木県が視覚障害者の運転体験の聖地になるようなことすらも実現するのではないかと夢を描いています。
今回の成功事例があれば全国ツアーもできるのでは?とも聞いてみましたが、伴流さんもATJも、まったく考えていませんとのこと。「運転ツアーができた」ということ自体は良いことですが、真のゴールは、障害者や高齢者にもやさしい社会の実現です。ハンデの有無に関わらず、誰もが人生を楽しめる社会になることが、このツアーが目指す目的地。
丁寧さと大胆さ、出会いとチャレンジ、面白さと成功体験。誰も損をすることなく、関わるさまざまな人たちが幸せになっていく。栃木県宇都宮市で始まった視覚障害者の運転体験ツアーは、ひとつのウェルビーイングの成功例に育ちつつあります。
