待望の電話が鳴った!
着信を見ると、「おもしろい職人さんがいたら、ぜひご紹介を!」とお願いしていた知り合いの社長さんからです。
ドキドキしながら電話に出てみると、「いましたよ!知り合いの会社なのですが、一点物のオリジナル家具を作っていて、職人さんが多数いるらしいです!」と教えてもらいました。許可を取り連絡してみると、「取材ですか?OKですよ。なかなか世の中に知っている人が少ないジャンルなので、ぜひ」という快諾のお返事。
あれ?家具職人さんってかなりメジャーな存在ですよね?と思いながら、取材の当日を迎えました。

メジャーだと思った家具職人。だが…
「失礼しま〜す」と1階のドアを開けると、まさに木工作業の真っ只中。みなさん、テキパキと木材を加工しています。天板があって、四角い間仕切りを作っているところを見ると、棚かな?と思いましたが、それにしては天板がバームクーヘンのような形状をしています。一人の職人さんは、型を起こして複雑な形状の造作をしておられました。

これは一体、何を作っているのだろう?と、しばらく作業を眺めていると、ふいに声を掛けられました。振り返ると立っていたのは、株式会社横浜家具製作所の代表取締役、浅井雄二さん。
浦田くんですか?おはようございます。
おそらく初めてだと見ても分かりにくいでしょうから、まずはオフィスで私たちの仕事について解説させていただきますね。
早速、誘われるまま2階のオフィスへ。

うちは木工と家具作りから、お客様のご希望される住環境を生み出す仕事をしています。例えば、そこに見えているパーテーションやデスク、棚などはサンプルで、すべて自社で作ったものです。
社名の「横浜家具製作所」から察するに、横浜で家具を製作している会社ということですよね?
はい、その通りです。でも、ちょっと浦田くんのイメージと違うのは、特注の一点物の家具ばかりを作っている会社ということでしょうか。毎回、作るものが異なる仕事なので、うちにはメーカーさんのように品番で管理できるカタログはないんです。
特注の一点物というとタンスとかテーブルみたいなものでしょうか?
Instagramとかにアップすると「格好良い!」って言われているみたいな。
依頼があればそういう家具も製作しますが、おそらく浦田くんがイメージされているのは作家さんの家具かなと思います。作家さんは自らの創作の力から家具を作っていますが、私たちはお客様の依頼をカタチにすることが仕事です。

あ、なんとなく分かってきました。これまで何名か取材させていただいて、職人さんはお客様の希望することを手仕事で実現する人たちだと教わりました。
例えば、マンションや建売住宅を買うと、理想の暮らしを実現できないという話を聞きませんか?
もしくは、工務店さんに頼んだけど断られたとか。
一般的には諦めてしまうらしいのですが、そこから木工と家具製作で理想の暮らしに近付けるのが私たちというわけです。本当に知られていなくて。ちょっと実例を見てみますか?(ここで、ささっとスマホが登場)



これらはすべて、私たちが製作したものです。最後にご紹介した収納棚ですが、「下に長い物の収納にするから浮かせてほしい」「物を置くからテーブルのような高さにしてほしい」「スピーカーが納まるようにしてほしい」というご依頼でした。このベージュ色の箇所にスピーカーが入っています。当然、音抜けが良い素材を採用するなど、ご希望を実現できるように作りました。
話を戻すと、先ほど1階の工場で作っていたのは、保育園からご依頼があった棚です。バームクーヘン状の天板の理由は、棚を連ねていくと半円形になるように作っているからです。
形状のオーダーは、保育園からですか?
はい。その上で予算内に納まるように素材を選び、設計をしたのは私たちです。子どもたちがケガをせずに舐めても安全なように仕上げることがミッションでした。

具体的には面取りや安全な塗装が施されるのでしょうか?職人さんの手作業が想像でき始めました。
そうですね。最も力量が問われるのは、設計図からどのように作業を進めていくかという段取りです。材料は仕入れた木の板や棒ですから、どのような材料をどのように使っていくのか。けっこう奥が深いんですよ。
それは確かに引き出しという名の経験の蓄積が必要そうですね。

工場で作るだけでは私たちの仕事は完成しません。現場に取り付けて初めて完成します。
今回の保育園は形が指定されていたとのことですが、現場に合うように提案することもあるのですか?
例えばマンションなら柱や梁が出っ張っている箇所がありますが、その形状に合わせて棚を作ることで、スッキリさせながら収納を増やしたいというご依頼は多いですね。
今いるこの部屋の一面(幅3mほど)、高さいっぱいの棚を作るならおいくらぐらいするのでしょうか?内容によってピンキリとは思いますが。
さすが関西出身の浦田くんですね。唐突にお金の話(笑)。
中央値は100万円ぐらいでしょうか。リビングの大きなテレビを引っ掛けるとか、収納の扉や引き出しが増える、ガラスやアクリルをはめ込むなど、作業が増えると値段は高くなっていきます。対して、簡素な作りだともちろん安くなります。材料によってもけっこう変動するので、あくまでも目安にしてください。

ほほぅ。100万円。でも、専用設計で取り付けまでしっかりしてもらえることを考えると、納得価格かも。営業エリアは関東一円みたいな感じでしょうか?
大工さんだと、往復できる距離が営業エリアになります。でも、家具の場合は1日で取り付けが完了することが多く、大掛かりな場合でも2日ほどです。作るのは工場ですから、出張は取り付けだけ。つまり、ご依頼があれば日本全国どこにでも行けますね。以前に九州まで取り付けに伺ったことがあります。名古屋、新潟、東北南部あたりはかなり現実的な距離で、実際にご依頼も点々とあります。
この仕事の喜び、「やっていて良かった!」みたいな瞬間ってどういう時でしょうか?
これは、人によって異なりますね。工場で黙々と作り込むのが好きなタイプは納得のいく仕上がりにしていくことですし、完成を見たい人やお客様の反応が幸せな人は取り付け終わった時でしょうから。
今日は、工場の職人さんをご案内いただけるのですね。
そうですね。では、工場に行ってみましょうか。
さっそく工場に潜入!

ここでは、材料を作るための加工をしています。
何のことを言っているか分かりにくいですよね。例えば5cm角の木の棒が必要だとすると、材料として仕入れている棒は5cmよりも大きく、角が90度になっていません。これら木の板や棒を加工して、図面に合う材料にしていく時に使うのがこれらの機械です。
材料を作るという概念がありませんでした。
見ての通り、かなり古い機械ばかりです。この前、知り合いの金属加工メーカーさんが、新型の機械が出たから数千万円必要だと話していましたが、木工にはそういうことはほとんどありません。切る、曲げる、組み立てる、塗料を塗るくらいですから。
(心の声:きっとシンプルなものほど難しいはず)
若手職人が感じるやりがいとは
せっかくですから、若い職人さんをインタビューしてもらいましょう。あそこで作業している武藤さんでお願いします。

ギュイーンという音を立てながら、電動工具で面取りをしているかと思うと、おもむろに鉋(カンナ)を手に取り面を整え、再び電動工具で作業するというように、徹底的にきれいな仕上がりを目指している様子。
ちょっとお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?

はい、ちょっとだけなら。
武藤さんは、入社されてどれくらい経ちますか?
もうすぐ2年です。やっと少しずつ慣れてきた頃かなと。
基本的なことは入ってすぐに先輩方が教えてくれましたし、社歴が長くて年齢が近い先輩がいるので、分からないことがあっても聞きやすい環境が良かったです。
先ほど浅井さんから32歳とお聞きしましたが、ということは転職でこちらに?
はい。前職ではアパレルや化粧品の業界にいたのですが、セールスが主な仕事になった時に、求めているのはこれではないと思ってしまって。もともとは服飾の学校を卒業したこともあり、手でモノを作るのが好きなんです。求人を見ていたら、アパレルと同じくらい好きな家具の求人があると知り入社を希望しました。
横浜家具製作所での仕事は、思い描いていた内容通りでしたか?
はい。あらためて暮らしに密着したモノづくりが大好きだと再確認できました。
中でも家具はジャンルがたくさんあるので楽しいですね。横浜家具製作所はお客様が望まれる一点物の家具を作っているので、毎回異なるものを作っています。職人としての引き出しがどんどん増えていることを実感でき、やりがいをすごく感じます。

つながると半円形になる棚を作っていると聞いていますが、今日はみなさん、どのような作業をされているのですか?
私は組み立てと面取り、塗装ですね。あちらの先輩方は、家具に付ける足を作っておられます。枠組に合わせて薄い木の板を曲げながら貼る作業ですね。

とても難しそうな作業ですね。
今回は個数が多く作業量が多いので、先輩方も総出で作っています。
普段は、担当制で図面を渡されてから完成まで一人で辿り着かなくてはなりません。まず、図面を読み取って作業工程を考えます。そして、実際に加工をして家具を作っていくのですが、最後の工程が特に難しいですね。現場で家具を組み立てて取り付けるためには、トラックで運搬しなくてはなりません。工場で組めるところまで作業しつつも、運搬効率が良く、現場でも手数が減るようなユニットにすることが求められます。
また、現場ではマンションならエレベーターで運びますし、戸建住宅なら開口部の面積や階段での取り回しも意識する必要があります。
今は2階にリビングがある家は多いですからね。
とはいっても、まだまだ先輩と組んでする仕事は多いですね。最近、ふんわりとでも「先輩たちがこうしたいのかなと」いうことが分かるようになってきました。確信があれば先回りして気を利かせられますし、微妙な時でも「こういうことですよね?」と確認できるようになってきました。成長できているようで、嬉しいです(笑顔)

いろんなタイプの先輩がいらっしゃいそうですね。
そうですね。それぞれ性格も異なりますし、経歴も異なります。でも、もっともっと良い家具を作りたいという気持ちは同じだと感じました。休憩時間やお昼の時に、仕事のこともプライベートのことも雑談をする中で、いろいろ学んでいます。
ベテランの方は、やっぱりすごいですか?
すごいですよ。特に仕事の話をすると、こんなにも細かいところまで瞬時に考えているのかと思います。暮らしの中でどのように使われていくのか、そして家具を触ったお客様がどう動きどう感じられるのか、とても鮮明なイメージを持っておられます。だから作業になると、ここは真っ直ぐに切らないといけない、ここはきれいに落とす、ここはそこまで精度は求めなくても良いと、判断が的確で。慎重なのに早くて精度が高い。すごく勉強になるし、私もそうなれたらと日々、頑張っています。

武藤さんはこの先、どんな家具職人さんになりたいですか?
職人ですから、お客様が求めているものを作ることが常に目標になります。作れないと話になりません。ですから、今はひたすら先輩方の背中を追いかけています。
個人的にずっと考えているのは、お客様にちゃんと商品を説明できる職人でありたいということ。現場で、「はい、取り付けました」「ありがとう、きれいですね」だけだと素っ気ないじゃないですか。何か一声でも背景を語れるような職人になりたいです。
材料などの勉強も大変そうで、やりがいがありそうですね。
は、はい(汗)
あれ、さっきまでの勢いが(笑)
木工でお客様が願う暮らしを実現していく仕事が、ここにある
私が変わって解説しましょう。
住宅の内装や家具の流行は、本当に変化が早いです。少し前に濃い色の木目が流行っていたと思ったら、あっという間にナチュラルに変わっていますから。デベロッパーさんやハウスメーカーさんは、毎年のように新建材を発表します。木材だけではなく、壁紙やフローリング、ガラス、金具など、あらゆるものがその対象。ですから、新材料の勉強は、私くらい経験があっても大変なんですよ。
武藤さんには、まずはじっくりと図面の読み解きや加工技術を身に付けてほしいと願っています。
とても優しい会社だと思います。職人さんというと、ビシバシのイメージが(笑)

そういう時代ですからね。
職人の世界に若い人がやってこないという話をよく聞くと思いますが、木工の分野も同様です。コロナ前後くらいまでは、求人を出したら性別や世代を問わず応募がありました。でも、現在は若手だけ応募がやってきません。特に2025年中は厳しかったですね。
例えばうちは、取り付けが土曜日や日曜日になることもありますし、お給料も今をときめく業種ほどではないので。売り手市場の今は選んでもらいにくい状況です。木工、おもしろいんですけどね。
私も木工、とても楽しそうだと感じました。実際に武藤さんは、あんなにもイキイキとしておられますから。

しかも、既製品ではない特注の一点物の家具を作れるなんて、なかなかない職業だと思うので、やってみたい人がいたら幸せな職場だと思うのですけどね。
今回も求人、一丁入りました!我こそはという人は、ぜひ横浜家具製作所に。東名高速道路の横浜町田インターのすぐ近くです。(2026年2月現在、本当に求人中です)
取材を打診された時にも話しましたが、そもそもこのような業種業態があること自体が知られていません。住宅というと建築をイメージされますし、家具というと既製品のイメージが強いですから。木工でお客様が願う暮らしを実現していく仕事が、ここにありますよ!と声を大にして言わせてください(笑)

確かにあの武藤さんの汗を見ていると、このお仕事の魅力を広く伝えたいです。さっき作例を見せていただいた時に思ったのですが、きちんとその場所に収まるように作られた棚って思っていたよりも圧迫感がないんですね。
ふっふっふ。その通りなんですよ。物が多いご家庭や本が多いご家庭は、得意中の得意。家の構造は熟知していますから、間仕切り壁を本棚に変えることだってできますよ。
本当ですか!うわー、うちには秦の始皇帝が出てくる漫画とか、高校1年生で自転車を始めてインターハイで活躍する漫画とか、明治末期の北海道や樺太の漫画とか、奇妙な冒険をする人間讃歌とか、山ほど漫画があって片付いていなくて。
それは、浦田家の壁がなくなっちゃいそうですね(笑)。
ということで、なぜだか我が家の蔵書がコミックばかりということがバレてしまいつつも、本当に頼んだらこの家が片付くことは間違いなさそうだと思った一日でした。浅井さん、武藤さん、ありがとうございます。
今回出会った職人さん

会社名:株式会社横浜家具製作所
代表者:浅井 雄二
所在地:〒246-0008 横浜市瀬谷区五貫目町26-34
お問い合わせ:公式サイトのフォームをご利用ください
公式サイト:https://hamakagu.com/
ライター紹介

浦田浩志(公式サイト・Instagram)
得意:インタビュー記事、コンテンツ企画。
兵庫県神戸市出身、神奈川県逗子市在住。大学を卒業して入社した広告代理店で、求人広告の制作を担当。いきなりボスから「女性の求人を書くときは、君は女性になりなさい」という謎の教育を受ける。社長取材などを多数担当したことで、心臓に毛。近年は、初の永世七冠を達成した棋士の方や「宮さんがぜーんぶ破っちゃったの」と語ってくれた方、「問うな、踊れ、そして生きろ」という名言の方など、著名人も取材。一方で、大学時代からバックパッカーとして50か国以上を訪問。子連れでSUPを持ち込みインドへ行くなど神出鬼没。つながりがある造園関係者は100名以上、取材した鍛冶屋は50件以上を数える。
