イントロダクション
盲導犬という言葉を知っている人は多いと思います。
しかし、盲導犬としての役目を終えたあとの犬たちがその後、どんな毎日を送っているかはご存じでしょうか?
今回取材したのは、引退盲導犬のエディおくんと暮らす中西さん。
盲導犬として長い時間を過ごしてきたエディおくんは、いま、中西さんの家で、家族の一員としての日々を送っています。
散歩のこと、ごはんのこと、撫でられるのが好きなところ。
そして、「今は幸せかな」と迷いながら、それでもそばにいる毎日のこと。
中西さんとエディおくんの暮らしについて、詳しくお話をうかがいました。
エディおくんプロフィール

12歳(2025年12月取材当時)
2026年3月で13歳を迎える。
出会い
取材にご協力いただきありがとうございます。
よろしくお願いいたします。

よろしくお願いいたします。
まずは引退した盲導犬を迎えようと思ったきっかけを教えてください。
この子の前にいた犬が亡くなりまして、年齢的なこともあって新しい犬は飼えないと最初は思っていました。
でも、私は生まれたとき今までずっと犬がそばにいる生活が当たり前だったので、家に帰っても尻尾を振って出迎えてくれる子がいないのが、すごく寂しかったんです。
それで、インターネットで調べて、いろいろなところに声をかけていきました。
しかし、どこにお願いしても、断られる日々。
最終的に偶然、盲導犬協会さんのページに行きついて、相談したところ、保護者が二人いればいいですよとのことでしたので、息子と娘になってもらい、無事、エディおくんを迎えることとなりました。
これまでずっとそばに犬がいた生活だったんですね。いったいどれくらいの数、飼ってこられたんですか?
犬だとこれまで20匹近く飼っていましたね。猫はこれまでで10匹くらいですね。
犬と猫両方同時に飼っていたこともありますし、犬に至っては常に2、3匹ほどが家にいましたね。
そんなに!? 多頭飼いをされるようになったのにはどういった経緯があったのでしょう?
昔は、捨て猫や捨て犬がとても多かったんです。今でこそ私の家の周りは住宅街ですが、当時はほとんど家がなくて、坂の下にあるお店が見えるくらいでした。人けも今よりずっと少なかったので、捨てやすかったのだと思います。
散歩で堤防に行ったときや、普通の道端に段ボールに入れて捨てられている子を見つけると、どうしても放っておけなくて、家に連れ帰っていましたね。
それから、夫が建築関係の仕事をしていたことも大きかったと思います。建築途中の家は、捨てられた犬や猫たちにとって雨風をしのげる絶好の場所なので、そこに居ついてしまうことがよくあったんです。
でも、完成が近づくと、ずっとそこに置いておくわけにもいかなくて、それでまた家に連れて帰って……。
そんなことを繰り返しているうちに、気づけばたくさんの犬や猫が家にいるようになりました。
たくさんの犬猫を引き取って育てられ、今では引退した盲導犬を引き取っている中西さん。
盲導犬のことはいつどこで知ったのでしょうか?
小学生くらいのころですね。
昔から名古屋によく遊びに行っていたのですが、名古屋駅周辺で盲導犬の募金をやっているのをよく見かけていました。見つけるたびに、毎回募金するようにしていたんです。
それに、自分が行ったお店のレジに盲導犬の募金箱が置いてあることも多くて、自然と目に入っていましたね。
ただ、存在自体は知っていましたが、盲導犬が具体的に何をしているのかまでは、その頃はあまり分かっていませんでした。
でも、三本足の盲導犬サーブの映画を観たことがきっかけで、初めて盲導犬に強い関心を持つようになりました。
そういう理由もあって、盲導犬自体には関心があったのですが、引退盲導犬のボランティアの存在を知ったのは、エディおくんがきっかけです。
最初にエディおくんに会ったときの印象や、迎える前後での印象の変化はありましたか?

来て最初のころは、エディおくんが何事にも興味を示さなくて、驚きましたね。
顔合わせのときも盲導犬協会の人にくっついていて、これまで飼ってきた犬と違って“愛想をふりまかない”子というのが第一印象です。
以前一緒にいた方に愛着があって、自分たちになつくのは無理かもしれない、という不安が正直ありましたね。
でも、一か月、二か月と一緒に過ごすうちに、どんどん懐いていってくれてうれしかったです。
自分が盲導犬であるということを意識せず、ゆったりとした生活を送れているんですね。
ところで、ここまでお話をうかがっていて気がついたのですが、盲導犬協会さんは「エディ」と呼んでいたのに対して、中西さんは「エディおくん」と呼んでいますね。これにはどういった理由があるのでしょう?
はい、おっしゃるとおり、もともとはエディという名前だったんです。
それをエディおくんと呼ぶようになったのには、二つ理由があります。
一つは、これまで飼ってきた犬のほとんどが日本名だったので、「お」をつけると日本名っぽくなるかなと思ったからです。
そしてもう一つは、盲導犬だったころと今は違うよ、という意味を込めてです。
ずっとエディと呼んでいると、盲導犬をしていたころのイメージが抜けないんじゃないかと思いました。かといって、新しい名前で呼ぶと、名前として認識するまでに時間がかかるとも思ったんです。
そこで、エディおくんと呼ぶようにしました。
まさかエディおという名前にそんな意味が込められていたなんて、本当に素敵な理由です……。
私も今回の取材ではエディおくんと呼ばせていただきます。
ありがとうございます。
暮らしと日々のこと
ここまでは中西さんの飼われてきた犬についてや、盲導犬について、エディおくんとの出会いについてうかがってきました。
ここからはエディおくんとの日々の暮らしについて聞かせてください。
いま、エディおくんと、どんな毎日を過ごしていますか?


毎日、一緒に散歩に行っています。
犬は寝たきりになると、そのあとは早いと聞きます。エディおくんは、少し腰が落ちてきているのもあって心配で、そうならないためにも毎日歩くようにしています。
毎日の散歩の中で気をつけていることはありますか?
20分以上歩くと、家の玄関までの階段を上りづらくなってしまうので、20分いかないくらいを目安に散歩しています。階段だけじゃなくて坂道も上りづらそうにするので、なるべく平坦な道を選んで歩くようにしていますね。
運動のさせすぎも、やらなさすぎも問題なんですね……。
ごはんは、どのようなものを食べさせているのでしょうか?
ごはんには、グルコサミンのサプリと風化貝カルシウムを混ぜたり、ふりかけたりして与えています。最初は指定の量のごはんをあげていましたが、だんだん量も増えてきました。
白米で言うと0.3合くらいで、犬用の缶詰とドッグフードを一緒に食べています。
そして実は……食後には“第二のごはん”があるんですよ。
第二のごはん!?
はい。私たちが食べているものを見て、食べたがるんです。なので、なるべく同じものを食べられるように、ほんの少量ですが与えるようにしています。
もちろん、犬にあげても大丈夫かどうかは事前に調べていますし、塩分や甘いものも取りすぎないように、きちんと調整しています。


二回も食事があって、食べたいと思ったものを食べているにもかかわらず、エディおくんが健康的な体型を保っているのは驚きです。
来たばかりのころはダイエットフードを食べていて35kgだった体重が、今は32~33kgくらいで、むしろ今のほうが少し痩せているのがとても不思議です。

日常の中で「エディおくんを迎えてよかった」と感じる瞬間はどんなときですか?
瞬間というより、毎日ですね。
夫婦二人でいるときより、会話や笑顔が増えて、家の空気が明るくなりました。
なんていっても仕草がかわいくて、「僕、見てないよ」という顔をしながら待っているところとか、本当にかわいいです。

ほかにも、私が病気で寝込んでいるときに、そっと近くまで来て、何も言わずにそばにいてくれたこともありました。
そういうときこちらの体調や気持ちを、ちゃんと分かっているんだなと感心しますし、うれしいですね。

中西さんがエディおくんを大切に思っているように、エディおくんもまた、中西さんのことを大切に思っているんですね……。
そうした日々をふまえて、家族の中でエディおくんはどんな存在ですか?
いないと困る存在です。だから、少しでも長生きしてほしいですね。
それだけ大切に思っているからこそ、もっとわがままになってもいいんだよ、と思うこともあります。
たとえば、この子はあまり吠えないんですよね。そういうところが、盲導犬らしい部分なのかなと思うのですが、そうした姿を見ると、「今、幸せかな」「盲導犬だったころのほうが幸せだったのかな」と考えてしまうこともあります。
長生きしてほしいのと同時に、幸せでもいてほしいですね。
印象に残っている出来事
エディおくんと過ごす中で思い出に残っているエピソードや、思わず笑ってしまった出来事を教えてください。

この子を引き取ったとき、最初は何事にもあまり興味を示さないとお話しましたが、一つだけ例外がありました。
高校生の女の子の声がすると、すっと歩いていって、撫でてもらいに行くんです。
最初は、エディおくんもオスだなぁ、なんて思っていたんですけど、あるとき、はたと気づいたんです。そういえば、この子の前の飼い主さん、専門学校の講師さんだったなって。
専門学校なので20代くらいの若い子がたくさん身近にいる環境だったんじゃないかと思うんです。そのときのことを思い出しているんじゃないかなって。撫でられているのを見て思いましたね。
話を聞いているだけで、胸がいっぱいになります。
そうですよね。私はそのとき「やっぱり昔のほうがよかったのかな」と思ってしまいました。
でも今では、膝に頭をのせてきたり、いびきをかいて寝たり、舌を出したまま眠ったりしてくれて。
そういう無防備でかわいい姿を見ると、安心してくれているんだなと分かって、ほっとします。
盲導犬として過ごしていたころのことを思い出すことも、きっとあるのだと思います。
それでも、今は安心して過ごしていることが、中西さんのお話からも、エディおくんの様子からも伝わってきました。
これまで一緒に生活する中で、エディおくんに“盲導犬らしさ”を感じる場面はありますか?

預かって最初のうちの散歩では、ずっとまっすぐ歩いていて、基本的には何にも興味を示しませんでした。
それが今では、ほかの人に会うと、私がやきもちを焼くくらい、関心を示すようになってきました。
すごいなと思ったのは、雷の音がしても、びくともしないところです。「さすが盲導犬!」って感心しました。
あとは、指示するまではごはんを勝手に食べないところも、盲導犬だったころのクセなのかなと思います。
たとえば、机の上に食べ物を置いたまま外出してしまったことがあったんですが、家に帰ってみると、まったく手をつけていなかったんです。
うちに来て一周年のときにケーキを出したときも、ちゃんとこちらが言うまで、待っていました。

とてもかしこいですね。家に来て一周年をお祝いしているのも素敵です。
逆に盲導犬らしくないなと思った部分はどんなところですか?
自分から手を出すことはないんですけど、ごはんの催促はするところですね。
こう、私の腕にそっと片手を載せてきたり、悲しそうな声を出して催促してくるんです。そういうところを見ると、盲導犬というより、もうペットみたいだなって思います。
それから、食後は必ず「へそ天」をして、“撫でて”と催促してくるんですよ。

それはかわいいですね。お話を聞いているだけで、頬がゆるんでしまいます。
そうなんです。とってもかわいいんです。が、満足するまで撫でさせられるんです。途中でやめると、また催促されるんですよね。
そのくせ、自分が満足すると、さっとベッドに行って寝始めるんです。
でも、そういうところも、やっぱりかわいいですね。
この子の個性とこれから
ここまで、たくさんエディおくんのお話を聞かせていただきました。
愛にあふれたお話ばかりで、すでにおっしゃっているところとも重なるとは思いますが、
この子の性格や、家庭での様子を改めて教えてください。

人懐こくて、優しい。でも甘えん坊な性格ですね。
外の散歩でも、家に誰かが来たり、私が帰ったときでもちゃんと歓迎してくれますし、ごはんが欲しいとか、撫でてほしいとか、要求もちゃんとしてくれます。満足すると、すぐにベッドに行って眠ってしまうのも含めてやっぱりかわいいなと思いますね。




エディおくんらしいクセや行動はありますか?
寒さには、とても弱いと思います。寒い日は、エアコンの風が当たるところや、ストーブの前、陽が当たっている場所から、ほとんど動かないですね。外に行くときは服を着せるんですが、それもまったく嫌がらないんです。
むしろ、着せるときには自分から足を上げて、着やすくしてくれますし、散歩から帰って足を拭くときも、同じように足を上げてくれます。こういうところは、盲導犬のころに自分で学んだことなのかな、と思いますね。


それから、少し前に“吠えない”という話はしたと思うんですけど、吠えるというより、うなるのに近い声を出すことはあります。引き取ったばかりのころは、何か気に入らないことがあってうなっているのかな、と思っていたんですが、撫でているときや、耳掃除をしているときなど、うれしいときにそういう声を出しているんだと分かりました。
あとは、“第二のご飯”をあげようとすると、よくよだれをたらしますね。最初はそんなことなかったんですけど、一緒に過ごしているうちに、だんだんよだれを流すようになってきて。それを見て、甘えていいんだって安心してくれているんだなと思えて、うれしかったですね。
ここまでお話をうかがってきた、どのエディおくんのエピソードも、かわいらしくて素敵です。
これからエディおくんと、どんな時間を過ごしていきたいですか?
いろいろなところに行きたいと思っています。
ただ、車で行ける近場を中心に、無理のない範囲で、出かけたいと思っています。
エディおくんは、長い時間車に乗っていても嫌がることはないんです。でも、もしかしたら言わないだけで我慢している可能性もあるので、無理はさせたくなくて。できるだけ負担をかけずに、楽しい思いをしてほしいと思っています。




でかけた先ではエディおくんはどんな様子ですか?
家の近くを歩くよりも、出かけた先での散歩のほうが、楽しそうに見えますね。
耳がぴっこぴっこ動いて、ステップを踏むみたいに歩くんです。そういう姿を見ると、「あ、楽しんでくれてる」って分かって、うれしくなります。
本当に楽しそうですね……! 中西さんの「無理せず、楽しんでもらいたい」という思いが、エディおくんに伝わっているのが表情からもわかります。
ありがとうございます。あとはお出かけした先では、おいしいものも食べさせてあげたいと思っています。
例えば、モネの池に行ったときには、近くのお店でアユ料理を食べさせてあげました。
アユ料理を食べたんですか!?
はい。中には「よくない」と言う人もいると思うんです。でも、もう長くは生きられないかもしれないし、これまで盲導犬として本当によく頑張ってきたので、その分もいい思いをしてほしいと思っています。
もちろん食べてはいけないものは食べさせていないですし、量や成分にも気は使っています。けど、あまり我慢させすぎないようにしたいんです。
人間が食べているのに、自分は食べられない。それでつらい思いをさせたくないですからね。
ついこの前も、孫と一緒にスシローに行ったのですが、ちゃんと帰りにお寿司を買ってきて、食べさせてあげました。食べるときだけ、顔つきが変わるのもまた可愛くて、おいしいのがうれしいっていうのが伝わってきて、とても幸せでした。

メッセージ
いろいろな場所に連れて行ってもらって、おいしいものも食べられて、家では食事が二回もあって、食べたあとはたくさん撫でてもらって、あたたかい場所で眠れる。
お話をうかがう中で、中西さんがエディおくんをどれだけ大切に思い、愛情を注いでいるのかが、自然と伝わってきました。
最後に、これから引退盲導犬のボランティアをやってみたいと思っている人へのメッセージをお願いします。
盲導犬として一生懸命頑張ってきた子たちなので、「頑張ってきたね」って、たくさんかわいがってあげてほしいです。
最初は、盲導犬として身につけた癖がなかなか抜けないこともあります。でも、それも含めて、その子の時間だと思って、ゆっくり向き合ってもらえたらうれしいですね。

取材協力してくださった中部盲導犬協会について
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