楽屋Aの星と呼び声高い女ピン芸人「ハヤイカガヤイ」。彼女は芸歴3年目にして、早くも今年、女芸人のNo.1を決める大会「The W」の準決勝まで残るという偉業を成し遂げる。養成所に通わず、お笑いのすべては舞台に立つことでひとつずつ覚えていった。彼女はなぜその道を選んだのかを取材した。

自分と他者を比較してしまい、溜まっていたフラストレーション
━━お笑いはいつから好きだったんですか?
気付いた時には好きでしたね。 ずっとテレビがついてる家で育ったんです。アニメ、映画、バラエティ……とにかくどんな映像も好きで、お笑いもそのひとつでした。ただ、4歳上の姉の影響は強かったです。姉は今は無きお笑い劇場「baseよしもと」のチュートリアルさんや、ブラックマヨネーズさんが所属していた頃のファンでした。だから私は同級生より早めにお笑いを知ってたと思います。M-1もずっと見ていました。
━━ 幼い頃からお笑い好きだったんですね。芸人を目指す上で、パーソナリティに影響を与えたエピソードはありますか?
姉とは別に、双子の弟がいます。弟はすごく明るくて、可愛げのある人なんです。対して私は小さい頃は目がつり上がってて、声も高くいわゆる金切り声であんまり大人に好かれませんでした。
弟は人に好かれやすい上に努力家で、部活動に精を出していました。ちゃんと頑張った分だけ結果も出てて。母は手も目もかけてましたね。その一方で、私は次女だからなのか、気にかけてもらえていないと感じていまして……。「誰も私を大事にしてくれないんだけど!」って、ずっとイライラしていました。でも、へこんだことはマジで一度もないんです。不当な扱いを受けてブチギレてましたね。
怒りをエネルギーに変えていたんですよね。それは今も続いている気がします。今は特定の個人に対してというより、民衆とか社会に対しての「こうだよね」っていう暗黙のルールみたいなのがめっちゃ腹立つというか。生き方が限定されてるのがすごく嫌だなっていつも思います。

渡辺直美と若林正恭に救われた
━━どんな芸人さんが好きでした?
まず、好きな芸人のカテゴリーを陽と陰に分けますね。陽のカテゴリーでは「渡辺直美さん」です。中学から学校生活がずっとしんどい人生だったんです。探って、牽制して、自分のポジションを取るあの鬱屈とした環境が窮屈で仕方なかったんです。毎日暗い気持ちで過ごしていた中学3年のときに、渡辺直美さんが東京ガールズコレクションでリップシンクをされている映像を見て、衝撃を受けました。なんかかっこいいって思って。こういう生き方があるなら、自分に合った生き方がどこかにあるのかも、と気づいたんです。そこで能動的に「お笑い好きだ」って思うようになって、芸人の道を薄っすらと志すようになりました。
受験は母の母校を志望校にして、勉強していました。でもその過程で同級生たちが成績や目標校のレベルの高さでマウントを取り合うようになって。ただ全員勉強して、自分の目標校に行けるように努力するだけなのに、志の高さや途中経過の結果で人間に優劣をつけていて、嫌でした。気にしなきゃ良いのに、その価値観を許容する自分も嫌で。なにもかも嫌になって、勉強をやめて志望校よりいくらかレベルを落とした学校に入学しました。
自分で決めたことなのに、自分が許せなかったです。親の期待に応えられなかった、自分で決めたことを守れなかった。自分で自分に負けの烙印を押してしまったようで、劣等感に苛まれたまま高校生活が始まりました。
心機一転頑張ろうとしていましたが、中学と高校で一気に環境やまわりの考え方がガラリと変わることはなく、期待外れでした。結局高校は居心地が悪くて入学して2週間で辞めてしまいましたね。
次に陰の好きな芸人さんなんですけど「オードリーの若林さん」です。高校を辞めて悶々としていた時に、オードリーのオールナイトニッポンを聴いたんですよ。衝撃でした。
「私が表に出しちゃいけないと思っている考えを、公共の電波でありのまま言ってる人がいる。こんなのアリなのか!!!」って。それがすごく嬉しかったんです。
「私は間違ってますが、そのままでいます」って言ってる感じ。それで「いい悪いをつくらなくていいんだ、素直なまま生きていてもいいんだ」って思えて、救われたんです。それからもう若林さん大好きですね。

孤独で気が狂いそうだった
━━高校を辞めてから、芸人としてスタートするまで、期間が空いていますがなにかされていたんですか?
通信制の高校に入学して、フリーターをしてました。あの期間は孤独で、つらすぎました。あれがあるから今の芸人の自分があるとも言えるんですけど、まだ言いたくないぐらいしんどかったです。
大学に進学しなかった、できないと判断した、というのがやっぱどうしても負けに思えたんです。社会的な面でもそうですが、親の期待を裏切ったと考えてしまって、「自分はもういらない人間なのにな」っていう感覚を3年間抱えながら、通信の課題をこなして、週3日、本屋でアルバイトをして……っていう日々でした。
そんな日々を送りながらも、お笑いを始めたい気持ちは常にあったんですけど、怖かったんです。人から評価されて、成績や気持ちに上がり下がりがつきまとうのは絶対に苦しいだろうと。
━━それでも芸人という世界に飛び込んだのはなぜでしょう?
めちゃめちゃしんどかったんですよ。毎日寝て、起きて、ご飯食べて、バイト行って……なんの生産性もなくて、毎日毎日同じ日々の繰り返し。気が狂いそうだったというか、もう狂ってたと思います。だから、「こんなに苦しいなら、好きなことやって苦しんだ方がいいな」って思って。どっちみち苦しいのは確定なら、苦しくてもやりたかったお笑いやろうってなったんです。

━━養成所ではなく、いきなりフリーで始められたのはなぜですか?
行こうとは思っていたんですけど、養成所の紹介動画を見た時に「空気感が学校に近いな」という印象を受けました。それで「あ、私これ馴染めないやつだ。無理だ」って思って。
その頃丁度「ラランドさん」や、「フワちゃん」がテレビに台頭していて、フリーでもやっていけるのではないかと思い、実家の近い大阪で一旦フリーで始めることにしました。プロアマ問わず誰でもエントリーできるライブを調べて、一番上に出てきたやつに応募したのが初舞台です。
━━とんとん拍子で結果が出ていたのでしょうか。
いや、全然そうではなくて。楽屋Aの一番下のライブって、毎週のように出ていれば普通1〜2ヶ月くらいで1位になれて、次のステップのライブに出られるんですが、私はまず1位を獲るのに半年かかりました。し、それを維持し続けるのにも時間を要しました。
ただ楽屋Aに初めて出た時に、「ゆるい13世」という学生芸人が見ていて、「面白かった」って言ってくれたんですよ。それが初めて他人から面白かったって言われた経験になるんですけど、あのひとことがとても励みになっていました。
━━やはり、フリーで活動しているからこそ、同じ志を持つ人との繋がりは大切になってきますよね。居心地はどうですか。
フリーって集団にならないからフリーだと私は思っていて。どこにも属せなかったからフリーになってる。私は割と今の形は気に入ってますね。全員が自分のやり方で個人プレーでやるっていうのが割と落ち着くというか。この個人と個人を繋いでくれている楽屋Aには本当に感謝してますね。

私を正しく認識して欲しいから、嘘は吐かない
━━ ところで、けっこう慎重に言葉を選んで話されることがありますね。
そうですね、スパっと喋れないことが多いです。なんか、嘘をつきたくなさすぎるのか……。 自分の意見とか思いを、絶対に正しい言葉で表現したいと思いすぎてるんですかね。相手に私のことを「正しく」わからせないといけない、正しく伝えないといけないっていう感覚が強すぎて、言い方を迷うことがありますね。
でも今気づきました。これって人をコントロールしようとしてるんですかね?基本どう受け止めるかは相手の勝手なのに、「これはこういう意味だから、私の思った通り認識しろ!」みたいな。 うわ、良くないな。良くないですねこれ。
━━ いや、めっちゃ分かりますよ。過不足なく伝えたいということですよね。
正確じゃないことを言ってしまって誤解されるのとか、めちゃめちゃ嫌なんですよ。中学生くらいの時はひどいイジり方をされても、結構明るく返して笑いを取ったりしてました。ただその時は、嘘ついてたから安心できてたのかもしれません。
でも今は、ライブだと自分の思想とか考えが全部出てしまうんで。嘘で作り上げることができないから、もしそれをジャッジされたら、本当に私の価値が決まってしまうんじゃないかっていうのがすごく怖い。泣くくらい怖いです。
今笑ったお前ら全員共犯だ
━━ハヤイさんがもっとも好きなネタはなんでしょうか。
「一番」を決めるのは非常に難しいですが、敢えて決めるならかが屋さんの『面白い男の人が好き』というネタですね。コントって通常悲しいことや、恥ずかしいことが起きて、それに対して笑いが起きるんですけど、かが屋さんは「素敵なこと」が起きるんです。自分にとって新しい価値観で衝撃的で、忘れられないです。そこからかが屋さんが大好きになりました。
━━ハヤイさんのネタも割とそういったテイストが多いような気がするんですが、やはり影響を受けているのでしょうか。
影響は受けていると思いますが、私の場合は「誰も悪くない」っていうよりかは、「全員悪いです」というニュアンスの方が正しいかもしれないです。「悪意は持っていなくて、純粋な気持ちで良くないことをしている」というか。私がそういった変なキャラクターを演じて、笑う。笑うって容認じゃないですか。そのキャラクターは私の中にある膿なので、笑った瞬間「全員これはOKにしたよね」って言いたい。もう何も否定はさせません、共犯ですよという感覚ですね。
━━なるほど、その感覚は面白すぎますね。現在、年間250本程度のライブに出演されていたり、ユニットでM-1にも出られていますが、今後の展望を教えてください。
拠点をなくして、あっちこっち飛び回りながらいろんな仕事がしたいです。ネタは勿論、テレビの仕事もしたいです。ロケや、コメント……恋愛リアリティーショーでコメントするのとかもやってみたいですね!
ただ、一番大切にしていたいのはやっぱりネタですね。ネタをやっていないと、生きた心地がしないんですよ。特にピンネタ。一人で立つ時のスリルは特別なんです。なんか、死ぬかもしれないぐらいの怖さがあるんです。私が喋らなかったらライブ終わるし、私がウケなかったらこのライブの価値が4分間なくなるわけじゃないですか。それに対する恐怖と、しっかりできたときの喜びみたいなのがやっぱ怖ければ怖いほど際立つというか。報酬も全部独り占め。あの瞬間は唯一無二です。是非それを皆さんに生で見て欲しいです。劇場に来てください!

ライター紹介

後藤華子
サブカルと外食が生きがいのアラサー人妻ライター。
ライブハウスと居酒屋が実家です。
短所は好きなものの話になると、早口になるところ。