イントロダクション:いま、インディー映画がおもしろい理由

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インディー映画の現在地

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イントロダクション:いま、インディー映画がおもしろい理由

あらゆるチャレンジャーを応援するメディア「DEKIRU!」では、映像の分野でチャレンジを繰り広げている人たちにも光を当てていきます!

この連載では、映像の世界のなかでもとりわけ「インディー映画」にフォーカス。コンパクトな制作体制や制作規模で撮られた作品を広義の「インディー映画」と捉えて、その制限がありながら自由でもある環境においておもしろい試みを実践している作家やその作品を紹介していこうと思います。

社会現象となったインディー・ドキュメンタリー作品

2024年12月にわずか4館のミニシアターで上映をスタートしたにも関わらず、絶大な反響を巻き起こし、公開から2か月足らずで全国100館に拡大。興業収入2億円を突破するという商業的にも破格の成功を収め、2025年5月現在もロングラン上映を続けているインディー映画があります。
藤野知明監督によるドキュメンタリー作品『どうすればよかったか?』です。

『どうすればよかったか?』は、監督が自身の家族ーー特に統合失調症を患った姉と、彼女を病院での受診から遠ざけた両親との20年以上にわたる対話をカメラを通して記録した、とても私的でデリケートな問題を扱った作品です。

監督は当初、この映像をドキュメンタリー作品として公開するつもりはなく、あくまで「医師に見せるための記録」として残すことが目的だったと語っています。このこともあって、映像は必ずしも一般的なドキュメンタリーの撮影手法に則っておらず、監督自身が「シーンがぶつ切りになっている」と表現するような未加工の断片として記録されています。
加えて、映画冒頭の監督による説明を除いてはナレーションも音楽も用いない形式で完成させています。

こうした個人的な「記録」という動機と、異例とも言える手法が生み出した剥き出しのリアリティが、観客に大きなインパクトを与えた要因なのでしょう。

そして本作は、藤野監督と淺野由美子プロデューサーが設立した「動画工房ぞうしま」によって、極めて小規模な体制で制作されました。
インディペンデントな体制だからこそ商業的な制約にも拘束されず、先述したような生々しい表現や、監督の個人的なビジョンを追求することを可能にしたとも言えるかもしれません。

インディーなドキュメンタリー作品の隆盛

インディーな体制の映画作品は、そんな『どうすればよかったか?』のようなドキュメンタリーのカテゴリーにおいて特に隆盛し、また高い評価を得ている作品も増えているように感じます。
なかでも国外からもひときわ高い評価を得ている作家として挙げたいのが、小田香と小森はるかです。

小田香

ドキュメンタリーの枠組みを時に飛び越えるような実験的なアプローチを見せる小田監督は、2019年公開の『セノーテ』でメキシコの「FICUNAM映画祭」とスペインの「ムルシア国際映画祭」でそれぞれ特別賞を受賞。
16mmフィルムでの撮影に挑んだ2024年の最新長編作『Underground アンダーグラウンド』は、「第37回東京国際映画祭」でワールド・プレミア上映され、「第75回ベルリン国際映画祭」にも正式出品されています。

小森はるか

小森監督は東日本大震災後の東北をテーマにしたドキュメンタリー作品で知られる作家です。2018年には『空に聞く』でドイツの日本映画祭「ニッポン・コネクション」の審査員賞を受賞。
2021年には、瀬尾夏美氏との共同制作作品『二重のまち/交代地のうたを編む』が、イギリスのシェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞を受賞し、文化庁映画賞(文化記録映画部門)でも優秀賞に選ばれています。

両監督とも小規模かつ機動性の高いチームで映画を制作し、非商業的でありながら、文化的・社会的に意義の高いテーマを持つ作品を一貫して送り出しています。
日本のドキュメンタリー映画界におけるインディーな映画作家の代表格と言っていいかもしれません。

インディー映画に着目したい理由

インディー映画はいまなぜ隆盛しているのか? そんなクエスチョンにはーー

・デジタルカメラや動画編集ソフトウェアの進化などによって制作コストが劇的に低減したこと
・クラウドファンディングや公的な支援制度など、資金を調達する手段が多様化したこと
・オンライン配信プラットフォームの普及などによって上映・流通の機会が拡大したこと

などが要因として挙げられるでしょう。

いずれにしても、映画制作の敷居がぐっと下がったことで、個人や小規模なチームが映画制作に参入しやすくなったことは間違いないし、こうした制作の「民主化」がインディー映画の裾野を大きく広げたはずです。

つまり一言でまとめるなら……


いまのインディー映画をめぐる状況は相当におもしろい!

ということです!

次回からは個々の作家や作品を掘り下げていきます。お楽しみに!

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