メジャーデビューから10年。日本のポップスシーンに鮮烈な足跡を刻み続けてきたTWEEDEESが、メンバーの脱退を経て「第二期TWEEDEES」として新たなフェーズへと進み出しました。最初の一歩として発表された、クラウドファンディングによる5thアルバムの制作には、驚かれた方も多かったのではないでしょうか。
開始わずか4日で目標金額の180%を達成したこのプロジェクト。首謀者である沖井礼二さんに、なぜ今、あえてDIYな手法を選んだのか、なぜ返礼品としてアイコニックなベースを選ばれたのかをお伺いしました。そして、生成AIなど技術の進歩とともに激変する音楽制作環境の中で、沖井さんが見据える「人間にしかできない表現」と、楽しむ心についても語っていただきました。
クラウドファンディングサイト
2026年2月28日まで、「CAMPFIRE」にてクラウドファンディングを実施中。
https://camp-fire.jp/projects/922124/view
2026年2月18日現在、支援総額は目標の294%!
「好き勝手やりたかった」気持ちと、ファンの熱量が後押ししたクラウドファンディング

クラウドファンディングは開始早々、大きな反響を集めました。ご自身ではどのように受け止めていらっしゃいますか。
もちろん感謝の気持ちはすごくあるんですけれども、いかんせんクラウドファンディングに初めて挑戦するので、この反響が普通のことなのか、すごく大きなものなのか自分ではよく分かっていないんです(笑)。ただ、ご支援いただくことによってアルバムも返礼品もクオリティが大きく変わってくるのは事実なので、本当に助かるし、ありがたいなと思っています。
沖井さんが書かれた「世に出た瞬間にコレクターズ・アイテム」という殺し文句にクラっときましたが(笑)、5thアルバムは第二期TWEEDEESのはじまりを告げる音源となります。それを一般流通ではなく返礼品というかたちにした理由を教えていただけますか。
これまでTWEEDEESはメジャーレーベルという非常に良い環境で、スタッフの皆さんとは今でも仲が良いのですが、第二期に入り、音源のリリースも4年ぶりとなるこのタイミングで腑抜けたものは作れないぞ、という思いがありました。自分のキャリアの最高傑作をこのタイミングで作るためには、予算の管理も含めて、自分の手の届く範囲で好きにできる環境を作りたかった。特に僕はアナログレコードの音が好きなので、アナログでも出したい。そういう自分のわがままに多くのスタッフを付き合わせるのも違うかなと思って、今回はクラウドファンディングでやってみようと決めました。
長々と語ってしまいましたが、要するに一言にまとめると「沖井が好き勝手やりたかったから」です(笑)。
今回のクラウドファンディングには驚きが色々とありましたが、何よりも沖井さんにとってアイコンとも言うべき3本のベースが返礼品となっていたことはファンの間でも大きな話題となりました。
ファンの方であれば、3本とも何かしらのかたちで目にしたことがあるかと思います。僕が初めて買ったものだったり、Cymbalsをはじめる頃に買ったものだったり、どれも思い入れが強い楽器なので、手放すかはものすごく悩みました。ただ、5thアルバムは自分の音楽人生の中で決定的な意味のあるものを作りたいという決意表明として、受け取っていただきたいと思っています。
正直どれも楽器としての価値が高いので、楽器屋さんに売ったりすることもできるのですが、知らない人に買われていくよりも、僕がどれほどこのベースたちに思い入れを持っているのかを分かってくださっている方、「里親さん」とお呼びしますが、その元に「里子」として出したいと考えました。
そのうち2本はかなり早い段階で里親さんが見つかりましたね。
安いものではないのに、それを支払ってでも手に入れたいと考えていただいた方は楽器を大事にしてくれるんじゃないかと思っています。里親さんに対しては「うちの子をよろしくお願いします」、ベースに対しては「大事にしてもらうんだよ」という気持ちです。
12月にはお渡し会をやるのですが、おそらく僕は泣かずにはいられないでしょうし、会場の皆さんがもらい泣きしてくれたら最高ですね(笑)。
お渡し会は「おしゃべりTWEEDEES」内で予定されていますが、これはリリース前の試聴会というかたちになるのでしょうか。
そうですね。アルバムの中で3本のベースは必ず使う予定なので、「この曲で鳴っているのがこの子だよ」と、里親さんや他の皆さんにも分かるようにご紹介したいですね。その方が、作品自体も楽しんでいただけるんじゃないかと考えています。涙、涙の「おしゃべりTWEEDEES」ですよ(笑)。ぜひお誘い合わせのうえでお越しください。
バンドは生き物。10年かけて育てた「トゥイーディーちゃん」を終わらせないための決断

2025年に清浦夏実さんが脱退されて、第二期TWEEDEESは新体制で動き出します。解散ではなく、継続を選ばれたのはどういう思いがあったのでしょうか。
僕はバンドを一つの生き物だと思っているんです。最初はメンバーが生み出しますが、作品を作ってしまったら、そのバンド自身が意思を持って動きはじめるという感覚ですね。TWEEDEESの場合、僕は「トゥイーディーちゃん」と呼んでいますが、親としてご飯をあげたり服を着せたりして、この子が幸せに育つために何をすべきかを考えるんです。11歳になったトゥイーディーちゃんは次に何を求めているのか。これまで10年かけて育ってきた個性を、ちゃんと伸ばしてあげたいという親心ですね。
一人で看板を背負ってでも続けるという決断には、強い意志を感じます。
以前、別のバンドを解散したときに、「もう二度とこのバンドを生き返らせることはできないんだ」と痛感しました。
あの時の、取り返しのつかないことをしてしまったという思いは、今でも僕の根底にあります。だからこそ、今度は何があってもトゥイーディーちゃんの手を放さず、最後まで責任を持って生かし続けていきたい。その一心なんです。
確かに明確に解散したのはCymbalsだけですね。
SCOTT GOES FORも折りに触れて「解散してはいない」とおっしゃっていますので、こちらも再始動を楽しみにしています。
実は去年の夏にスコッツのメンバーで集まって「何かやりたいね」とは言っていたんです。ただメンバーがマイペースなので(笑)、今のところは具体的に動いてはいないです。
(笑)。いつまでもお待ちしております。
TWEEDEESの話に戻りますが、5thアルバムは沖井さんのこだわりが詰まった一枚になるかと思いますが、ファンとしてはサウンドのこだわりを聴いても理解できないのではないかという怖さがあります。
リスナーの皆さんには、そこまで構えていただく必要はないと思っています。
そうですね…、お汁粉に入れる塩を僕が調整しているというイメージが近いでしょうか。ひとつまみにするか、ふたつまみにするか、あとどういう塩を使うのかは僕の音楽家としてのこだわりですが、結果として美味しいものが出来上がって、皆さんが「美味しいね」って食べていただくのが本当に一番喜ばしいことですので。
自分はこうしたら美味しくなると分かっているのに、制作の過程で使う塩の種類や量に制約がかかって、やりたいように調整できなくなるというのが嫌なわけです。そういう意味合いでのクラウドファンディングでもありますね。
すごくわかりやすいです!
ネクストゴールが達成できたら、沖井さんの絶妙な塩加減を味わえるわけですね。
そうは言っても、やりたいことは無限にあるので(笑)。どこまでできるかですね。返礼品の小冊子も予算が潤沢になれば装丁も豪華にしたいですし、ライブにもストリングスやホーンを入れてみたい。僕自身もワクワクしていますし、ファンの皆さんと一緒にお祭り感覚で楽しみたいと考えています。
勝手に、5thアルバムはファンのみんなと一緒に作っているという気持ちでいるんですが、そのように考えていても問題ないでしょうか。
そうであって欲しいと思っていますよ。これからレコーディングが本格化してきますが、今どういう進捗なのかは逐次報告できればいいなと考えていますし、支援いただいた方たちに、自分のお金がこういうかたちになっていくんだなというところはちゃんと見えるようにしていく予定です。
「自分はこれだけ支援したんだから、沖井はもっとやるべきだ」という方も出てくるかもしれません(笑)。そういうところも含めて、みんなで楽しんでいきたいですね。
株主総会みたいですね(笑)。
ところで、アルバムの構成はすでに出来上がっているのでしょうか。
何をやりたいのか、どういう風景のレコードを作りたいというのははっきりしていますね。今回はアナログで出すという前提なので、A面とB面という考え方をしていて、今は曲を作っては捨てを繰り返すしんどい段階ですが、そのなかからA面、B面ともに1曲目とラストは決まっている状態です。B面をどのように展開させるかというところを一生懸命作っています。
僕は作品づくりが好きなのですが、集中していると何でしょう、ちょっとした謎の汁が脳内に出てくるんです(笑)。締切は守るけど、最後の最後まで汁を出しながらあがくと、良いものが出てくるんですよね。締切が残り5分だとして、良いものが出るのであればその5分は精一杯あがきたいと思って今までやってきました。
生成AIは「創作の時間を生むツール」

少し話が変わりますが、クラウドファンディングのアイコンをはじめ、沖井さんは生成AIの進歩を楽しんでいるように感じています。音楽業界でも大きな変化が起こっているかと思いますが、どのように受け止めていらっしゃるのでしょうか。
たとえば音楽を生成してくれるSunoについて言えば、クライアントが作曲家に具体的なアイデアを伝えるのが難しい場合、ディレクションの道具として使うのは非常に良いことだと思っています。今まで「何となく違う」という感覚でしか意思疎通ができなかったことが、クライアント側から「こういう風にしてほしい」と具体的に言えるようになれば、リテイクのストレスが双方になくなりますよね。
作家にとって最もストレスなのは、リテイクが繰り返された結果、自分で愛せない作品になってしまうことだと思っています。自分の作りたい作品で評価されたいというのが音楽家の本能だと思っていますので、生成AIを活用することでそれができるようになるのであれば、どんどん使っていった方が良いと考えています。
アイコンは…あ、カイゼル髭を忘れてきました!
え、つけ髭をお持ちだったんですか!
最近持っていました(笑)。アイコンも、自分一人だから誰に何を言われてもいいという気持ちで作っています。「沖井をこんな風にしやがって!」と思う方がいたとして、やっているのは僕ですからね。
イラストレーターに発注する場合、「リキテンスタインだったらこう描く」みたいな部分まで細かくディレクションをする必要があったところを、今は生成AIですぐに出力できますから。黎明期なので、とことん遊んでやろうという気持ちでやっています。
クリエイターの中には生成AIの進歩に対して警鐘を鳴らしている方もいらっしゃいます。
作曲することによってお金を得ているわけですから、生成AIの台頭によって機会が減るんだとしたら確かに問題だと思います。ただ、生身の作曲家じゃないとできない曲を求められる機会ってのは今後もあると思うし、作家側もそうでなければいけないと思っています。出し戻しの回数が減る分、作家にとっては創作に充てる時間を作れるわけですし。
僕の書くメロディーは「沖井節」と言われることが多いのですが、それも一つの側面ですよね。「沖井みたいな曲を作って」と生成AIに依頼したところで、僕の新曲ができるわけではありません。生成AIが近しいものを生み出せるからこそ、「沖井に依頼して良かった」と言ってもらえるように成長できる環境なんじゃないかと考えています。
AIが進化しても、人間にしかできない部分は残るんですね。
人間だから作れる作品は確実にあると思っています。自分のアーカイブを作成した際に、作品に通底する「匂い」のようなものを再発見しました。それが「沖井節」と呼ばれているものなのかもしれません。
過去の自分が作ったものを通じて、今の自分が視野に入れていなかったアイデアを教えてもらうような体験。それを新作の中に「出汁」のように染み込ませていく作業は、やはり沖井礼二という人間だからこそできることだと思います。生成AIは今が一番面白い黎明期なので、遊び倒しながらも、その出汁をファンの皆さんに感じ取っていただいて、「これはTWEEDEESだ」と納得できるものをかたちにしていきたいですね。
プロフィール
沖井礼二(おきい・れいじ)
1969年広島県生まれ。1999年にCymbalsのベーシストとしてメジャーデビュー。多くのアーティストへの楽曲提供やプロデュース、CM音楽制作などで活躍。2015年にはTWEEDEESを結成。現在、第2期TWEEDEESとして5thアルバム制作に向けたクラウドファンディングを実施中。
TWEEDEES オフィシャルサイト
クラウドファンディング「CAMPFIRE」
https://camp-fire.jp/projects/922124/view
ファンサイト「TWEEDEES CLUB」
沖井礼二公式X
沖井礼二公式Instagram
https://www.instagram.com/okiireiji/
リリース情報
Cymbalsのアルバム3作品が7月1日にアナログでリリースされることが決定。
1stアルバム『That’s Entertainment』と4thアルバム『Love You』は2015年に続いて2度目、2ndアルバム『Mr.Noone Special』は待望の初アナログ化となる。
現在、disk union.netでは予約を受付中。この機会をお見逃しなく。
https://diskunion.net/jp/ct/list/0/722731