1999年にバンド、GOMES THE HITMANでデビューして以来、バンド、ソロ、ユニットなど形態を問わず独自のスタイルで音楽を続けてきた山田稔明さん。
SNSでは愛猫のママンが「シャー!」と威嚇する動画に国内外から「いいね!」が殺到。最近は猫がきっかけでライブに来たり音源を求めるお客さんも増えているのだとか。
10月29日には待望のニューアルバムならぬ“ニャーアルバム”の『シャーとニャーのはざまで』をリリース。タイトルどおり猫にまつわる曲ばかりを収録しており、猫と長年暮らす山田さんならではの優しい視線を感じられる一枚となっています。
そんな山田さんに猫との暮らし、そして“自分の手で作り続ける”ミュージシャンの原点と今を伺いました。
愛猫への想いと日常の暮らしから生まれた“ニャーアルバム”。

『シャーとニャーのはざまで』は“ニャーアルバム”と謳っていますが、確かに猫の曲ばかりですね。猫愛をビシビシ感じました。
GOMES THE HITMANの「饒舌スタッカート」というシングルのジャケット撮影で出会ったポチを飼いはじめたのが2001年で、そこから作る曲にどんどん猫が出てくるようになりました。ラブソングに聞こえるけど、実は猫への想いを歌っているという曲もあるくらい、猫はインスピレーションをたくさんくれますね。
ジャケットの表面はママン、裏面はポチ実ちゃんと山田さんの愛猫の写真が使われていて、特にママンが塀の上に凛と立つ姿が素敵だなと感じたのですが、実は壮大なストーリーが裏にあったんですよね。
リリース後にネタばらし的にnoteに顛末を書きましたが、そうなんです。ママンは10年くらいうちの庭に来ていた通い猫で、ポチ実の母親でもあるんです。外にいるから夏は蚊に刺されてしまうんですけど、毎年左耳に見ていて心配になるぐらいの炎症ができてしまい、アレルギーかと思って餌に抗生剤を混ぜたりもしていたのですが、効果がなかったんです。もうこの数年、夏がくるとママンの耳が痛々しくなってしまうというのが嫌で、どうしたら良いのか考えた結果、昨年保護することにしました。SNSでも人気になっていますが(笑)、とにかく「シャー!」と威嚇しながら猫パンチしてくるんですけど、その後に「ニャー」と甘えた声で鳴いたりもしていたので、そこまで僕のことは嫌ではないのかなと思って、家に入って来たタイミングで窓を閉めてうちの子にしました。
病院に連れて行ってお薬を処方してもらい、少しは快方に向かったのですが、それでも治らないので春に炎症部分の病理検査をしてもらったら蚊のアレルギーではなくて、扁平上皮がんだったんです。かかりつけ医からは、悪性だった場合でもママンの年齢や病気の性質を考えると積極的な治療はしないほうが良いと言われ、「ママンが死んでしまったらどうしよう」と心がズーンと重たくなってしまって。そんな次の日に、ママンが家から脱走してしまったんです。ジャケットの写真は、その脱走しているときに「ママン!」という僕の呼びかけに振り向いた瞬間ですね。
てっきり外猫時代の写真だと思っていました。
ママンの病気が判明したのが今春ということは、『シャーとニャーのはざまで』の制作にもかなり影響があったんじゃないでしょうか。
そうですね。元々は新しいアルバムをどういうかたちにしようか考えていたとき、ストックしていた楽曲のテーマが「猫」と「猫ではない」と分けられることに気付いて、ダジャレですけど(笑)、猫の曲だけを集めた“ニャーアルバム”にしようと決めたんです。演奏は打ち込みとかではなく、全部生音にしたくて、子ども用の小さなドラムを買ったり、ベースも自分で演奏したり。それが2月とか3月のことですね。そうしたらママンが病気になってしまって「ママンが死んでしまったら、“ニャーアルバム”は追悼アルバムになってしまうのかな」とか色々考えて、ママンのケアをしながら陰鬱な気持ちでの作業が多かったです。
ただ彼女の生命力は強くて、手術で左耳を切除することになりましたが、今は元気になっています。手術跡も病院で先生からお墨付きをもらうくらい綺麗になりました。ママンの回復が転換期といいますか、これならうまくいきそうというタイミングがあって、ようやく夏ぐらいにアルバムが完成しました。だから、これまでの猫と生活と今年の春のいろんな出来事が重なって、僕が考えたことや体験したことがベースとなって完成した作品だなと思っています。
ママンが病気になったり、山田さんがケアをされたりと日常と違うことが続いたと思うのですが、ポチ実ちゃんはどういう様子だったんですか?
チミ(ポチ実ちゃん)はめちゃくちゃドライですね。ママンのことも「何あのおばさん」って感じで見ていますし(笑)。そういう意味では、色々な経験を通じてチミが大人になったのかもしれないです。2匹には仲良くしてほしいですけどね。今の関係性も気に入っていますよ。
今回ジャケットで使われている写真もそうですが、グッズにもポチちゃん、ポチ実ちゃん、ママンが登場していますよね。グッズが出るスピードがとても速いように感じます。
自分がライブに行ったとき、物販に欲しいものがないとちょっと残念な気持ちになるんですよ。だからグッズをたくさん作っておいて、来てくれたお客さんが「どれを買おう」って悩むくらい物販が充実していると、ライブとはまた違った楽しみができるかなと思いまして。小ロットのものだったらハンドメイドに近いかたちでこういうアイデアをかたちにできるなとか、いつも考えていますよ。
新曲を作ることで、昔の楽曲を見つめ返すことができる。

すごく失礼な聞き方になるかもしれないですけど、山田さんは今メジャーレーベルに所属していないので、「いつまでにアルバムを何枚リリースしないといけない」という契約があるわけではないじゃないですか。それでもリリースをされる理由やモチベーションはどういうところにあるんですか。
作品はどんどん更新していかないと、自分が飽きてしまうということがひとつ。あとは新しいものを作ると、昔の曲の知らなかった面が見えてくることがあるんです。たとえば今年はGOMES THE HITMANが『ripple』をリリースして20周年ですが、当時は捻くれていてあまり素直に演奏できなかった曲も、今になると楽曲の内容をちゃんと理解して、年相応にしっかり演奏できるようになったりするんですよ。それをやるためには新しいマテリアルがないといけないし、ライブでも「昔から好きな曲をやってくれて嬉しいけど、新曲がすごく良かった」って言われたいです。
リスナー側も、リリース当時と今とでは楽曲が違って聴こえることも多いですけど、演者側でもそうなんですね。
意地とこだわりもありますよ。今の時代、これだけ楽曲がたくさんある中で新曲を書く意味ってすごく重要だし、ハードルの高いことだと思うんですよね。だから同年代ぐらいのアーティストのライブに行って「新曲です」って言われると「その新曲、本当に必要?」ってドキドキしますもん(笑)。新曲を書く必要がないのに、それでも出来てしまって、どうしてもライブで演奏したいというような曲しかやっちゃダメだと感じているぐらいです。
『シャーとニャーのはざまで』には新曲といってもこの10年ぐらいで書き溜めた曲が多く収録されているんですけど、「最後のお願い」という曲はこの春、ママンが脱走したときに書いた一番新しい曲なんです。だから、それを新しいアルバムに入れられたのはとても嬉しいことですし、次に作るニューアルバムもそういう作品になって欲しいと思っています。
サブスクリプション全盛の今、CDを作るという行為自体の意味も変わってきそうですね。
特にインディペンデントなアーティストにとっては、CDを作ってお店で売るということは難しくなっているんじゃないかと思います。今はCDってサインをもらうための色紙みたいなものになってきているというか、アーティスト側もそれに甘んじてみなさんに買ってもらうというのも違うと感じていると言いますか。僕自身はCDだったりレコードだったりが好きなので自分もリリースしたいし、他のアーティストのものも買いたいですし、この流れに抗っていきたいという想いは強いです。
今回『シャーとニャーのはざまで』をリリースするにあたって何店舗かレコード屋さんに挨拶に行ったんですけど、GOMES THE HITMANでデビューした頃から当たり前にやっていたレコード屋さんに行ってバイヤーさんに会ってというプロモーションのも、もしかしたら次のアルバムで最後なんじゃないかなという予感はあります。
DIYで生きるということ。

山田さんはライブをかなりやっていらっしゃると思うのですが、出演するライブはどのように決めていらっしゃるんでしょうか。
公式に活動休止と言ったわけではないのですが、GOMES THE HITMANは2007年から7年間ライブをしていなかったので、僕はそこから山田稔明というソロアーティストとして、ギターを一本持って全国をまわる活動をはじめたんです。そうなったとき、まず考えたのは月に何本ライブをやって、どれだけの売り上げがあれば生活が成り立つのかということでした。インディペンデントなミュージシャンは自分で考えて好きなことをやれる分、それでは生活が成り立たないかもしれないというリスクを常に背負っています。なので、どうすれば生きていけるのか真剣に考えて、活動をするようにしています。そうしているうちにルーティーンとなったライブが増えてきて、逆に今は新しい挑戦ができなくなっているのが悩みですね。
ルーティーンを一旦やめてみることは考えていないんですか?
たまに体調不良で休まなくてはいけないことがあるんですけど、いざそうなると不安になってしまう自分がいるんですよね。ライブもやらない、SNSも更新しないと言ってしまいたい気持ちもあるけど、性格的にちょっと無理かなと思っていて。だから、1年のスケジュールが大体決まったライブで埋まってしまうんですよね。
確かに「山田さんがこのライブをする時期か」と、ファンからすれば季節を感じることも多いですね。これからミュージシャンとしてどのように活動していこうと考えていらっしゃるのでしょうか。
ミュージシャンってすごく自由だと思うんですよね。自分で曲を作って演奏することもできるし、依頼されたら楽曲提供もできる。ライブもライブハウスの人と音を作ることもできるし、これぐらいの規模なら自分だけで音響からセッティングまで対応できるということも分かります。そういうことに流れを任せて、自分がライブをするでも良いし、若いアーティストが活躍する場を作るでも良いし、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」さながら、何かを求めている人のところに駆け付けられる人でいたいなとは思います。
インディペンデントなアーティストって、究極は互助会を求めているんだと思います。誰かが困っていたら助けたいし、自分が困っていたら助けてもらいたい。だからこそ、他の人に対して優しくいありたいですね。
貴重なお話をありがとうございます!
プロフィール
山田稔明(やまだ としあき)
1973年佐賀県出身。1993年に大学在学中にGOMES THE HITMANを結成し、1999年にメジャーデビュー。2007年にソロ活動を開始し、ソロ、バンド、ユニットなど様々な形態で日本中でのライブ活動を展開する。愛猫のポチ実とママン、また先代猫ポチとの日常を綴ったSNSも人気を博している。
GOMES THE HITMAN/山田稔明 公式LINE
山田稔明ブログ(毎日更新中)
http://toshiakiyamada.blog.jp/
オフィシャル通販STORE(CDはじめさまざまなグッズを販売中)
http://gomesthehitman.shop-pro.jp/
https://www.instagram.com/toshiakiyamada
リリース情報

山田稔明『シャーとニャーのはざまで』(GTHC-0022)
2025年10月29日全国発売 / 各サブスクリプションサービスでも配信中
- きみは三毛の子
- 明け方のミー
- 猫のふりをして
- シャーとニャーのはざまで
- 最後のお願い
- ニャンとなるSONG
- lucky star(独奏)
ライブ情報
詳細はオフィシャルサイトをご確認ください。
- 2025年11月22日(土)@ 愛知・瀬戸市 STUDIO 894 ギャラリー(ソロ弾き語り)
- 2025年11月23日(日)@ 名古屋・大須 モノコト(ソロ弾き語り)
- 2025年11月24日(月祝)@ 大阪 雲州堂(ソロ弾き語り)
- 2025年12月7日(日)@ 吉祥寺スターパインズカフェ(バンド編成 山田稔明ワンマン)
- 2025年12月12日(金)@ 下北沢lete(ソロ弾き語り)
- 2025年12月23日(火)@ 下北沢 440(GOMES THE HITMANワンマン)
- 2025年12月27日(土)@ 奈良 ボリクコーヒー(トリオ編成GOMES THE HITMAN)
- 2025年12月28日(日)@ 大阪 雲州堂(GOMES THE HITMAN)
- 2026年1月11日(日)@ 下北沢CLUB Que(w/カイヌシゆうさく)