イントロダクション
これまでの記事では、将来盲導犬になるかもしれない子犬を約1年間預かって育てる“パピーウォーカー”
そして盲導犬としての役目を終えた引退盲導犬を引き取るボランティアの方々を取材してきました。
今回は、第3回の記事で登場したボブくんが、現在、盲導犬になるための訓練を受けているということで、訓練士の大谷さんにボブくんのこと、訓練のこと、そして普段はなかなか知ることのできない訓練士についてインタビューをさせていただきました!
ボブくんの過去記事はこちら(画像クリックで過去の記事に飛べます。)

大谷様と訓練士という仕事について
――まず訓練士がどのようなお仕事なのか、おうかがいしてもよろしいでしょうか。
パピーウォーカーさんたちが1年間愛情を注いで育ててくれた犬たちに、今度は訓練士が代わって愛情を注ぎ、盲導犬として必要な作業を楽しく教えていく。それが主な仕事だと思います。
ただ、訓練士の仕事は訓練だけではありません。
ほかにも犬舎を清潔に保つための日々の掃除や、犬たちの健康管理、イベント業務、小学校への講師派遣など、様々です。

——大谷さんが訓練士を目指したきっかけを教えてください。
やっぱり動物が好きだからですね。犬と関われる仕事で、かつ人の役に立てる仕事に就きたいという思いから補助犬に関わる仕事を目指したいと思うようになり、まずはボランティアから始めました。
——現在は、どのようなお仕事を担当されているのでしょうか。
主に訓練犬たちの訓練を担当しています。
ほかにも実習生の指導や、繁殖に関する業務も少しずつ教えていただいたりしています。
――盲導犬訓練士という仕事の中で、特に大切にしていることはありますか。
犬も人も、常に楽しくいられるようにすることは大事にしています。もちろん、犬には訓練を楽しんでもらいたいですし、人も楽しくないと続けられないと思います。
それぞれ成長のスピードが違うので、それぞれの犬に合わせて訓練を進めていくことも大事にしています。

――訓練士という仕事をされていて、うれしいと感じる瞬間を教えてください。
やっぱり、犬が作業を覚えたとき、できなかったことができるようになった瞬間は、とてもうれしいですね。
あとは、自分が訓練した犬が盲導犬となってユーザーさんのもとへ行き、ユーザーさんから「盲導犬がいてくれてよかった」と言っていただけたときはものすごくうれしかったです。
――逆に、訓練士として、難しいと感じる瞬間はどのようなときですか。
私自身の性格と正反対のタイプの犬を訓練するときですね。
例えば、ものすごくゆっくり歩く、マイペースというか、のんびり屋さんな犬は苦手です。
というのも私がせっかちな性格なので、そういう犬の訓練は忍耐勝負みたいな感じになります。
もちろん、犬の性格はそれぞれ違うのは当たり前ですし、その都度、見極めて訓練すること自体は楽しいです。
ただ、昔はそうやって悩むことも多かったんですよね。今は自分が苦手なタイプもちゃんとわかっているので、そういう犬の担当になっても楽しんで訓練できるようになりました。

歩道がない道の脇道で端に寄って止まっています。
――訓練の中で壁にぶつかったとき、大谷さんはどのように気持ちを切り替えているのでしょうか。
気負いすぎずに、その瞬間が来るのを気長に待つようにしています。
私の場合ですが、訓練をしていると、どの訓練犬にも2、3回くらいスランプの時期が来るんです。
そのことがわかっているので、「なんかうまくいかないな」と思ったら、きっと今はそういう時期なんだなと受け入れるようにしています。
ときには訓練をいったん休むこともあります。そのあと、気持ちを切り替えて訓練に出ると、急にめちゃくちゃいい作業をしてくれることがあるんです。スランプを受け入れられると、訓練で何かにぶつかっても乗り越えやすくなりますね。
――次は、パピーウォーカーさんから犬を引き継いだあとのことについてお聞きします。訓練士さんは、犬とどのように信頼関係を築いていくのでしょうか。
最初からガッツリ訓練をするのではなく、まっすぐな道や何もない道をただ楽しく歩いてみたり、走ってみたり、状況に応じてフリーランで遊んでみたりするようにしています。
ほかにも日常の中で、排せつやブラッシングなどのお世話を通して信頼関係を築いていく側面もありますが、一番はやっぱり歩行の中で築いていると思いますね。

訓練時とはまた違う豊かな表情を見せてくれる。
――訓練中の犬とは、訓練以外の時間はどのように接しているのでしょうか。遊んだり、触れ合ったりすることもあるのですか。
将来は視覚障害の方と一緒に生活する犬たちなので、そこは考えながら接しています。
ただ、ざっくり言えばペットと変わらないというか。遊んだりもしますし、こうやって寝たり、ゴロゴロしたり、自由に過ごしています。
歩行訓練以外でしか見られないその子の一面もありますので、日常のそういった時間も大事にしています。



――訓練内容は、カリキュラムが決まっていて、その通りに進めていくものだと思っていました。実際には、犬に合わせて訓練内容を変えていくのでしょうか。
基本的なカリキュラムのようなものは決まっていますが、その犬の得意・不得意によって訓練の進め方は変わっていきます。
まず、基本的な作業は停止、誘導、回避の3つ。
停止は、横断歩道などで止まること。
誘導は、横断歩道や階段などに誘導すること。
回避は、障害物を避けることです。
これが基本的な三大作業です。
それに加えて、例えば近側通過というものがあります。
自転車や人がハンドラーの横ギリギリを通過するときに、危ないよ、という意味で犬が止まる作業です。他にも、目の前を自転車や車が走っているときには進まないという交通訓練という作業など、レベルの高い作業を徐々に増やしていきます。





――そうした訓練を終えると、試験に進むのでしょうか。
アイマスクテストというものがあります。訓練部職員がアイマスクをつけて実際に歩くんです。妨害などもある中で、決められたコースをきちんと歩けるかを見るテストなのですが、それが全部で3回あります。訓練が進んできたころ、大体3〜5か月くらいで1回目があります。その1回目のテストでどれだけできるのかを見て、合格できたら、次は人を変えて歩いたり、慣れていない環境でコースを歩いたりします。
それも合格したら、最後は繁華街に行ってテストをします。それをクリアできたら、歩行においては盲導犬としてのレベルに達したと判断します。ただ、盲導犬は歩行だけができればいいというわけではありません。排泄の問題や日常管理の問題なども含めて、すべての課題がクリアになれば盲導犬になれますね。
――試験は必ず3回あるんですね。
3回は絶対にあります。3回とも合格しないといけません。
ただ、一回でも落ちたらだめということではありません。不合格になったら、そこで分かった課題に向けて1か月間くらい対策して、もう一回チャレンジする、というように進めています。
――訓練を終える犬たちに対して、どのような思いがありますか。
本当に、「お疲れさまでした」という気持ちです。
盲導犬になる犬でも、ならなかった犬でも、これからも楽しく、幸せであってくれればいいなという思いだけですね。
離れることで少し寂しさは残りますが、幸せでいてほしいというのが一番です。

歩道の場所まで誘導するボブくん
――これから訓練士を目指したいと思っている方へ、メッセージをお願いします。
犬が好きなだけでは絶対に続けられない仕事だと思います。
自分が成長するうえで、悩むときや悔しいとき、つらいときは絶対に来ます。
ただ、本当にどんなときも犬が支えになってくれますし、励ましてくれるし、助けてくれます。だからこそ奥が深くて面白い仕事なんだと思います。
簡単な仕事ではないと思いますが、志を高く持って忍耐強く頑張っていただければ、必ず「この仕事をやっていてよかった」と思える日が来ると思います。もし目指している方がいたら、ぜひ頑張ってください。
ボブくんについて
――ここからは、ボブくんについてうかがいます。今の訓練状況はいかがでしょうか。
取材時点(2026年5月)ではもうすぐ3回目の繁華街でのアイマスクテストがあるので、今はそれに向けて訓練をしているところです。

――前回、パピーウォーカーさんに取材させていただいたとき、ボブくんはマイペースで塩対応だとうかがいました。訓練中も、そういったボブくんらしさは感じますか。
とても感じますね。
例えば塩対応という話だと、訓練に行く前は、犬舎でジャンプしてアピールするんですけど、訓練から帰ってきて部屋に戻ると、「あ、僕もう終わったんで」みたいな感じですぐに寝るんです。そういうところを見ると塩対応だな~と思いますし、同時に賢いなとも思いますね。
――大谷さんから見て、ボブくんはどんな犬だと感じますか。
ボブは繊細で、新しいことに順応するのが少し苦手なところがありますが、時々、王子様みたいに見えるときがあります。本当に頭がよくて、誠実で、まじめで、優しくて、頑張り屋さんです。甘えるときには、思いっきり甘えることもあります。まだ1歳5か月くらいなので幼い部分ももちろんありますが、ほかの兄弟と比べると、比較的精神年齢が高いような気がしますね。

――お話をうかがっていると、繊細な一面は、盲導犬には不利にも思えます。そういった性格が、そのまま向き不向きにつながるわけではないのでしょうか。
そうですね。いろんな要素があって、それがいい面にも悪い面にもなるんです。
例えば、頭がいいことも一見すると長所なんですけど、予想力が勝っちゃうことがあって、“前に行ったことがあるから、きっとこっちだ”と勝手に行こうとしてしまうこともあります。
そう考えると、頭がいいということも、利己的な行動(ユーザーの望まない行動)につながる場合があるので、一概にいいことばかりではないというか。
――ボブくんらしさが、訓練の中で難しさにつながることはありますか。
ありますね。先ほどもお話ししたように、ボブは繊細なタイプなので、いろいろなことを気にし過ぎてしまう部分があります。
それがいいところにつながることもあれば、直していきたい部分につながることもあります。
ただ、ボブはボブを貫いているというか、曲げないところがあるんです。それは盲導犬として必要な部分でもあるので、すごく難しいですね。
――できるようになったことや、成長したなと感じることはありますか。
成長したなと感じるところはたくさんあります。
例えば、これまでは電柱や草が生えているところを、すごく大きく回避することがありました。
マンホールなども嫌がって進まなかったんですけど、今はすらすら歩けるようになりました。そういうところを見ると、本当に成長したなと感じます。
――どういうところがボブくんが盲導犬に向いていると感じますか。
やっぱり、賢さ、素直さ、いい意味での利己的な部分。あとは、“違うよ”とちゃんと意思表示してくれるところと、健康なところですね。
――パピーウォーカーさんに大切に育ててもらったんだな、と感じる瞬間はありますか。
とても素直なところは、パピーウォーカーさんとの生活で育まれたものだと感じます。人に対する信頼や安心感があるからこそなんでしょうね。
ちょっと王子様気質なところも、きっとパピーウォーカーさんにうんと甘えて、可愛がってもらったからなんだろうなと思っています。

――ボブくんのこれからに、どんなことを期待されていますか。
盲導犬として活躍してもらうことへの期待はもちろんあります。
でも、盲導犬として働きながら、ユーザーさんとの生活を思いきり楽しんでほしいなという気持ちの方が大きいですね。
――最後に、盲導犬について、多くの人に知ってほしいことや、読者の方に伝えたいことがあれば教えてください。
盲導犬や訓練中の犬を見かけたときに、「頑張ってね」とか「わんちゃん可愛いね」などの温かい言葉をかけてくださる方が多く、訓練をしている私たちにとっては励みになりますが、訓練犬たちは人が大好きなので、話しかけられるとうれしくなってしまって、集中力が下がってしまうことがあるんです。
中には勝手に触ろうとしたり、餌をあげたり、無断で写真をたくさん撮ったりする方もいらっしゃいます。それは絶対にやめていただきたいです。
基本的には、訓練中でも、ユーザーさんと歩いているときでも、“優しい無視”が一番ありがたいですね。
普通に人が歩いている中に、盲導犬もいるな、くらいの感覚で見守っていただけると助かります。
ただ、盲導犬ユーザーさんや視覚障害のある方が困っている様子だったら、「何かお手伝いすることはありますか」とか、「どんなお手伝いが必要ですか」と声をかけていただけると、とても助かると思います。
それはぜひお願いしたいですね。

インフォメーション
取材協力してくださった中部盲導犬協会について
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