「オーイ」と耳元で響く恐怖の呼び声……兵庫県丹波篠山市・栗柄峠の謎多き実話怪談、“紅白着物の怪人”について 【絶滅危惧怪異ファイル#02】

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絶滅危惧怪異ファイル
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「オーイ」と耳元で響く恐怖の呼び声……兵庫県丹波篠山市・栗柄峠の謎多き実話怪談、“紅白着物の怪人”について 【絶滅危惧怪異ファイル#02】

目的一切不明・紅白着物の絶叫系怪人

紅白着物の怪人のイメージ(Geminiで生成)

「オーイ……オーイ……」

山からのその呼び声に、決して答えてはならない。なぜならその声の主は……次の瞬間にはあなたの耳元に立っているからだ

かつて、兵庫県に位置する栗柄峠(くりからとうげ)で起きたという、息の詰まるような実話怪談。現代のインターネットの海をどれだけ探しても、この怪異を詳細に語るページは皆無に等しい。

この怪異の恐ろしさは、その執拗な手口である。暗闇の山道で明かりを消し、同行者を奪い、じわじわと精神を追い詰めた果てに、逃げ場のないゼロ距離から鼓膜をぶち破るほどの絶叫を浴びせてくる。

かつて生身の人間が遭遇し、腰を抜かすほどの恐怖を味わったという、名前すら持たない謎多き怪異。今回は、この“紅白着物の怪人”の驚くべき生息記録を紐解いていく。

【絶滅危惧怪異ファイル】No.02:紅白着物の怪人

呼称:シロと赤のキモノを着た者

怪異タイプ:怪人

主な目撃地: 兵庫県丹波篠山市・栗柄峠

時代:大正時代

カテゴリー: 野生絶滅

カテゴリー(略称)生息状況(本連載における独自定義)
絶滅(EX)文献すら残っておらず、人類の歴史から完全に消え去った怪異。本ファイルでも追跡不可能。
野生絶滅(EW)一般の記憶からはほぼ完全に消滅しているが、古い文献や資料データベースにのみ痕跡が残っている状態。
絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)ネットの深海に数件の足跡があるのみ。コアな民俗学者や、ごく一部のオカルトマニアの脳内にのみ、辛うじて生存が確認できるレベル。
絶滅危惧Ⅱ類(VU)一般知名度は低いが、Wikipediaや一部のまとめサイトに個体が確認できる状態。
準絶滅危惧(NT)昭和〜平成の怪談ブーム時は野生に溢れていたが、令和のZ世代・α世代へのバトンタッチに失敗し、じわじわ生息数を減らしている怪異。

栗柄峠の怪

それは大正時代末期、1920年頃に吉見栄吉氏という人物が体験した話だという。

当時、吉見氏は茶の取引のために丹波の草山村本郷(現在の兵庫県丹波篠山市)を訪れていた。用事を終えた頃にはすっかり夜も更けており、彼は茶を二俵背負わせた牛を引きながら、帰路を急ぐため、栗柄峠を越える山道を選んだ。

夜の峠道は樹木がうっそうと生い茂り、ひどく寂しい場所だったが、吉見氏にとっては歩き慣れた道であった。彼は提灯を下げ、肩にはチギ(荷物を担ぐための頑丈な木の棒)を担いで、暗い山道を一歩一歩上っていった。

山からの呼び声と、奇妙な影

すると、はるか遠くの山の上の方から、「オーイ」と、人を呼ぶ声が聞こえてきたのだという。 吉見氏は、村の者が心配して出迎えに来てくれたのだろうと思い、提灯を大きく振りながら、「オーイ!」と大声で返事した。

……その瞬間だった。どこからともなく、紅白の着物を着た何者かが、吉見氏の目の前の道をスッと、横切ったのだという。

驚くと同時に、それまで行く手を照らしていた提灯の火がパッと消え、彼は完全な闇に包まれた。彼は提灯の火を灯し直した。しかし、山の方からは相変わらず、「オーイ……オーイ……」と、不気味に呼ぶ声が響き続けていたという。

イメージ(Geminiで生成)

怪異との対峙

吉見氏は怯むことなく、再び歩みを進めた。すると奥の方から、今度は

「一人か、大勢か」と問いかける声がした。 もしや山賊か、と思った吉見氏は、ナメられてたまるかと、「連れなら、この後ろにも大勢いるぞ!」とハッタリをかました。もし襲われたら、持っているチギで殴りつけてやるつもりだったそうだ。

しかし、その覚悟とは裏腹に、彼の身体の芯から、ゾクゾクとした気味の悪い寒気が込み上げてきた。

……その時、またしても突然、あの紅白の着物を着た者が目の前をスッと通り過ぎた。 今度は、連れていた牛が過剰に反応した。恐怖のあまり跳ね上がった牛は、吉見氏の手から提灯を激しく蹴散らすと、暗闇の奥へと猛スピードで走り去ってしまったという。

耳元の絶叫

唯一の明かりも失い、完全に足止めを食らった吉見氏は、どうしようもなく暗闇の地面に腰を下ろした。

その刹那、彼の耳のすぐ真横で、鼓膜が破けるのではないかというほどの凄まじい大音量の叫び声が響いた。

「……オーイ!!!!」

吉見氏は身の毛もよだち、弾かれたように飛び上がった。もはや一刻の猶予もない。彼はただがむしゃらに立ち上がり、一目散に夜道を駆け抜けた。

イメージ(Geminiで生成)

峠の境界を離れる頃には、ようやくあの恐ろしい呼び声も聞こえなくなった。 山道を抜けると、前方からいくつかの提灯の火がこちらに向かって動いてくるのが見えた。家に取り残された牛は、慣れた我が家へ一直線に逃げ帰っており、それを見た家族が、彼の身に何か起きたのではないかと、村の人々を頼んで大急ぎで迎えに来てくれたのだそうだ。

参照

・鷲尾三郎「藏人爐邊話」(民俗学会『民俗学』2巻12号所収)

・国際日本文化研究センター(日文研)「怪異・妖怪伝承データベース」

白と赤の着物を着た者 | シロトアカノキモノヲキタモノ | 怪異・妖怪伝承データベース

※今回の調査の端緒として参照

栗柄峠に潜むもの

恐ろしき「紅白着物の怪人」、まず注目すべきは舞台となった栗柄峠という場所なのではないだろうか。
民俗学において山の峠は、しばしばこの世とあの世、村と外の世界を分ける「境界」として捉えられる。「境界」は怪異が出没しやすいデッドゾーンとされてきた。

現代の都市伝説においては、峠といえば「首なしライダー」や、恐ろしい速度で車と並走してくる「100キロババア」など、やたらとアクティブでスピード感のある怪異が多い。

そのことを踏まえて、件の怪人について考えてみる。
はるか遠くの山の上から呼びかけられたと思ったら、次の瞬間には目の前を横切られ、そして耳元で大絶叫を浴びせられる。 この凄まじいフィジカルと執拗さ。もしかしたら紅白着物の怪人は、怪異における「峠のスピードスター枠」の先駆者だったのかもしれない。

仕掛けられた恐怖のルール

もう一つ、この怪異のディテールで興味深いのが、その行動パターンだ。

山の中で「オーイ」と声をかけてくるシチュエーション自体は、日本の山の怪の定番である。声を真似して返事をしてくる「呼子(よぶこ)」や「山彦(やまびこ)」の伝承は全国にあるが、彼らは基本的にこちらに害はなさない。

しかし、今回の紅白着物の怪人は一線を画している。 ただ脅かすだけでなく、暗闇の中から「一人か、大勢か」という奇妙な問いかけを仕掛けてくるのだ。

「質問にどう答えるかで、その後の展開が変わる」という構造は、現代の都市伝説である「口裂け女(私、きれい?)」や「赤マント(赤い紙、青い紙、どっちがほしい?)」のルール設定に通ずるものがある。 吉見氏は「連れは大勢いる!」とハッタリをかましたため、怪異側も「じゃあ、まずは牛を散らして孤立させてから、吉見氏にいこうか」と、段階を踏んでゲームを進めたように思える。

100年前の栗柄峠には、独自のルールを持って人間にゲームを仕掛けてくる、知的で凶悪な存在が、確かに潜んでいたのだ。

「絶滅危惧怪異ファイル」について

現代の「口裂け女」や「トイレの花子さん」、「きさらぎ駅」などのように、人々に噂され、その存在をその時代に生きる誰かに確実に認知されていた怪異は数えきれないほど存在するにちがいない。しかし噂の性質上、それらの多くは、時の流れによってやがて人々から忘れ去られてしまう。

人々に語られなくなること。それは怪異にとって、死と同義と言っても過言ではないだろう。

筆者は、こうした消失の危機にある怪異を「絶滅危惧怪異」と呼び、それらに今一度日の目を見せたいと考えている。よって、本連載ではこれからもどんどん歴史の影に隠れた奇妙な存在たちを紹介していくつもりだ。

次は、あなたの住む町のすぐ隣に眠る、忘れ去られた恐怖を呼び覚ますことになるかもしれない。

番外編4コマ:怪人の叫び声

ライター紹介

永井四不象

オカルト系ライター。連載「絶滅危惧怪異ファイル」を担当。忘れ去られた古い妖怪や都市伝説を発掘し再び日の目を見せたいと考えている。粘土造形や仮面作りが趣味で、プライベートではたまに自作の仮面を付けてフリマなどに店を出す。(自己紹介記事:わかさ生活にオカルト系ライター爆誕!? 日常に潜む「不思議」を追う。新人・永井の奇妙なご挨拶

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