松本「栞日」代表に聞く「街のサードプレイス」であり続けること

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松本「栞日」代表に聞く「街のサードプレイス」であり続けること

自宅でも、職場でもない、ふとした時に足を運びたくなるあのお店。みなさんにも、そんな風に過ごせる場所があるでしょうか。

2013年、長野県松本市にオープンした「栞日」は、独立出版を扱う新刊書店&カフェ。オープン直後からその独自の世界観が話題を集め、地元の方のみならず、栞日を目的に県外から松本を訪れるという方も少なくありません。

オープンから13年経ってもなお、多くの人が栞日へ足を運ぶ背景には、「街に開かれたサードプレイスを作りたい」という、代表・菊地徹さんの想いがあります。

そんな菊池さんに、街のサードプレイスのあり方や「栞日」が目指す未来について伺ってきました。

学生時代のアルバイトで気がついた「サードプレイス」の重要性

1杯1杯丁寧にコーヒーを入れる菊地さん

菊地さんのなかに「栞日」の構想が描かれたのは、大学生の頃。

国際的な仕事への興味から進学したものの、どこか将来へのイメージが湧きづらくなったタイミングで出会った、大手カフェチェーンでアルバイトをしている瞬間でした。

コーヒーや接客のおもしろさに気づきアルバイトに明け暮れるなかで、栞日の原点となるような出来事に出会ったといいます。

同じ時間帯に来店される女性がいて、その日はどこか落ち込んだ表情をされていたんですよね。でも、いつもの席でコーヒーを飲み、読書して帰る頃には少しだけ明るい表情になっていて。
 
そのとき「この人にとってこのカフェで過ごす時間は、日常のなかでとても重要なんだ」と気がついたんです。同時に、街の人に対して変わらず開いている場所で働くことってすごくいい仕事だなと。
 
国際的な仕事への興味が薄れてしまったのは、「国際」という大きなスケールを自分ごとに置き換えられなくなってしまったからでした。でも、自分の暮らす街の人たちにとってプラスになるような場所を作ることは、とてもリアルに感じられたんですよね。
 
自分はローカルな場に根ざすことが合っているなと気がついて、いつか自分なりのサードプレイスを作りたいという気持ちが大きくなりました。
 
どこに、どんなお店を出すことも決まっていませんでしたが「流れ続ける毎日に、そっと栞を差す日」というコンセプトの「栞日」という店名も、この時点ですでに決めていましたね。

ずっと暮らし続けたい街に「あったらいいな」を表現した栞日

店内の様子

大学卒業後は、温泉旅館、ベーカリーと、それぞれちがったサービス業のおもしろさを学びつつ、お店を開くことを目標にしていた菊地さん。

2013年、26歳のときに「栞日」をオープン。松本を選んだのは、新卒で入社した温泉旅館が松本にあったことや、その後の転職先が軽井沢だったこと、さらにパートナーが松本に残っていたことから、自然と足を運ぶ機会が増え、「ずっと暮らしたい」と感じる街になっていたからでした。

松本は、個人店同士の横の繋がりが強いんです。
 
店主同士でお互いのお店で過ごすことが当たり前だったり、気になるパン屋さんに入ったら「あそこのパン屋さん行った?おいしいよ!」と別のパン屋さんを紹介してくれたり(笑)自分たちの手でお店出して、イキイキと働く先輩方の姿が実に楽しそうで、自分もこの街の一員として暮らしていきたいなと思いました。
 
私がお店を開く上で大切にしたのは、その街にポジティブな影響を与える存在であること。自分の暮らしたい街に住まわせてもらうことに対する恩返しとして「栞日」を営むことができたらいいなと。
 
松本ではそういう暮らしをパッと想像できたことも大きかったですし、個人店の店主のなかにも移住者も多くて、ここなら自分らしいサードプレイスを表現できるに違いないと感じました。

店舗2階の書店スペース

「喫茶併設の本屋」というスタイルを選んだのは、自分の好きな街に「あったらいいな」を表現するため。

喫茶文化が盛んな松本ではカフェや喫茶が多く、単なるカフェではこの街にポジティブな影響を与えられないと感じていたそう。そこで考えたのが、大手書店が扱わない独立出版を主として扱うブックカフェでした。

ローカルなお店に置かれているフリーペーパーやZINEを手に取ると、その街に住んでいる人しか知り得ないようなスポットやカフェに出会えることが多々あって。もともと、個人の想いがのった出版物が好きだったんですよね。
 
当時の松本にも書店はありましたが、独立出版に触れられる場所は少ないなと。そこで、カフェに書店を併設させて、ブックカフェとしてオープンしました。
 
他では出会えない価値観や情報と出会える場所があれば、松本という街にポジティブな影響を与えられると思ったんですよね。

喫茶スペースではコーヒーや焼き菓子を楽しみながら購入前の本を読むことも
手作りのおいしい焼き菓子も豊富(個人的に全粒粉のスコーンがだいすき)

オープン当時は、気になる書籍の作者や版元に一つひとつ声をかける形で、地道に本を集めていったという菊地さん。

現在は、暮らしのヒントになるようなエッセイ、雑誌、アートブックなど、誰かに伝えたい考えや願いが託されている本が中心に並んでいます。

フリーペーパーが置かれるラックも
ギャラリースペースも併設。企画展示を頻繁に開催

ブックカフェから「宿泊」「銭湯」へと表現を広げていった背景

1週間〜最長4週間、長期滞在が叶う「栞日INN」(公式Instagramより)
※現在は別会社へ引き継ぎ

2016年には移転後の旧店舗で、暮らすように泊まるをコンセプトにした「栞日INN」(現在は別会社へ引き継ぎ)をオープン。

松本への移住、個人店の開業について相談を持ちかけられることが多かったことから「松本の暮らしを体験できる宿泊施設があったらいいのでは」という想いでスタート。

栞日INNをきっかけに実際に移住を決めた方、現在も栞日に通う方もおり「やってよかった」と心から感じているといいます。

2020年には、新たな挑戦がスタート。栞日の向かいにある老舗銭湯「菊の湯」の運営を、前オーナーから引き継ぎます。

一度は廃業が決まっていたそうですが、日々、店の外で開店を待つ常連さんの姿を見て「この人たちにとっての大事なサードプレイスをなくしてはいけない」と感じ、運営継承を申し出たといいます。

浴場(菊の湯 公式Instagramより)

これまで自分のアイデアをひとつずつ形にするスタイルで、「ブックカフェ」「宿」と事業を展開してきた菊地さんでしたが、「菊の湯」は、常連さんが変わらず通い続けられる場にすることを最優先にし、浴場や脱衣所にほとんど手を加えなかったそうです。

2階休憩スペース(公式Instagramより)

一方で、曇りガラスをクリアなものに変更し、外から中の様子が見やすいようにしたり、ロビーの環境をととのえたり、新たに畳の休憩室を設けたりと、銭湯を次世代へつないでいける場にするための工夫も重ねています。

ご年配の方から親子連れ、学生、単身者、旅行者など、老若男女が立ち寄りやすい場にすることを常に心がけているとか。

ブックカフェから宿、そして銭湯へ。

一見すると異なる営みにも見える「栞日」ですが、その根底には、街にとって必要な場所をつくりたいという、一貫した想いが流れています。

私の中では、最初から「本屋をやりたい」とか「宿をやりたい」っていうよりも、自分が暮らし続けたい街に、よりよいインパクトを与えるサードプレイスでありたいっていう考えが根底にあるんです。

じゃあ、「栞日」の構想を思い浮かんでいたときに、今の栞日の姿を想像できていたかと聞かれると、全くできていなかったですが…(笑)でも、街に対して開かれたサードプレイスという意味では、本屋も宿も銭湯もひとつに収まっているんですよね。
 
「自分が何をやりたいか」というより、“今この街にこういう場所があったらいいよね”っていう感覚を大切にしています。街のニーズに応えることを続けていった先に、今の栞日があって、“あったらいいな”っていうパズルのピースを、自分なりに形にしている感覚がありますね。

栞日が目指すのは、街の「サードプレイスの選択肢」であり続けること

オーナーの菊地徹さん
1986年生まれ静岡市出身、株式会社 栞日の代表でありながら、現在は市議会議員としての活動も
取材時「いい街なんです、松本は」と笑顔で街への想いを語ってくださる姿が印象的でした

栞日の原点にある「サードプレイス」という考え方。

家でも職場でもない「第三の居場所」は、人や地域にどのような役割をもたらすのか、菊地さんに聞いてみました。

「サードプレイス」は、「あってもなくても構わないけれど、あったら嬉しい日々の句読点」ですよね。

家と職場の社会生活だけでも、もちろん人は生きてはいける。でも、その2つの場所だけを往復していると、どうしても精神的にしんどくなってしまうことがあると思うんです。家庭には家庭の、職場には職場の人間関係の難しさがあって、そのなかだけで生き続けるのは、現代だと少し苦しいこともあるじゃないですか。

だからこそ、家でも職場でもない、第三の場所があることで、少し楽な気持ちになれたり、自分らしさを保てたりするんじゃないかなと。

一人ひとりのコンディションが良くなるってつまり、地域そのものが豊かになっていくことだと思ってるんです。「栞日」が誰かにとってのサードプレイスになれたら、松本という街が豊かになっていくし、私は自分の好きな街をより好きになれる。これが私なりの好きな街に対しての恩返しです。

ただ、「栞日だけが唯一のサードプレイスであってほしい」とは全然思っていません。その人にとって居心地のいい場所は、その日の気分や状況によって変わりますから。今日は栞日の気分だけど、明日は別の場所かもしれない。

だからこそ、この街の中にいろんなサードプレイスがあること自体が大事だと思っていて。その中の選択肢のひとつとして、栞日があり続けられたらいいなと思っています。

今回の取材後、改めて栞日で過ごしてみました。

おいしいドリンクを片手に本を読んだり、窓から向かいの「菊の湯」の様子を眺めたり……。ただそれだけの時間でしたが、ふっと肩の力を抜いて、自分のペースを取り戻せたような感覚がありました。

「おいしいコーヒーを飲んで癒されたい」
「手作りの焼き菓子を食べて満たされたい」
「静かに読書を楽しみたい」
「菊地さんとおしゃべりしたい」

栞日に流れる時間や空気は、きっと訪れる人によって違った役割を持っているのだと思います。

菊地さんのお話を聞いたあとに過ごした「栞日」での時間は、“サードプレイス”という言葉を静かに実感させてくれるものでした。

栞日

住所:〒390-0815 長野県松本市深志3-7-8

営業時間:7:00〜20:00

定休日:水曜日

HP:https://sioribi.jp/

instagram:https://www.instagram.com/sioribi/

取材・執筆・撮影:はせがわみき

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