前回わかさ生活からGMOグローバルサイン・HDへの衝撃的な「キャラクター転職」と、その裏にあった緻密なキャリア戦略について語ってくれた中の人。
異例のスタートダッシュを決めた彼でしたが、その直後、X(旧Twitter)というプラットフォームそのものの激変に直面することになります。
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2025年、XのアルゴリズムはAIの介入によってかつてない変化を遂げました。
本記事ではGMOサインの「中の人」が、X社が提供するAI「Grok」との対話や複数の生成AIによる検証を通じて導き出した、仮説と検証のプロセスを公開します。
なお以下の内容はあくまで同氏が運用データとAIの回答を元に推測した「仮説」であり、公式に発表されたアルゴリズムではない点にご留意ください。
しかし正解のない暗闇の中で模索した考察だからこそ、かえって公式発表よりもリアルで興味深い内容になっているはずです。
それでは、見えないアルゴリズムと戦い続けたある運用担当者の記録をお届けします。
「いいね」がいきなり半減 ── 2025年、人気アカウントを襲った“不可解な急落”の原因
―― 2025年、Xは大きく変わったと言われました。運用者として感じた“肌感”の変化を教えてください。
ウマ氏(以下、ウマ): 2025年の3月中旬からGMOサインの公式X(@GMO_Sign)を担当させていただき、おかげさまでインプレッション(表示回数)は昨年対比で累計200%増を記録し、フォロワーも増加するなど、はた目には好調に見えていたんじゃないかと思います。
ただ裏側ではXのアルゴリズムの変化に翻弄され悩み続けた1年でした。
一番わかりやすいのが「いいね数」の減少です。
例えば3月~4月頃は大体の投稿が1,000〜3,000いいねの間で着地していた感覚でした。ところが5月に入った瞬間目に見えて反応が減り始め、いいね数の平均は500台へと落ち着いてしまったんです。
そもそも投稿へのいいね数が1,000を超える企業アカウント自体が多くはない中で、減少幅だけで言えば企業アカウントの中でも目立つ方だったかもしれません。

―― 転職直後のタイミングでしたね。
ウマ: そうなんです。さらに厳しかったのは、最初はこれがアルゴリズムのせいなのか、アカウントの勢いが尽きただけなのかの判断がつかなかったことです。
多少Xの環境が変われどその対応を含めて運用者のスキルであると思っているので、数字の低下を安易にアルゴリズムのせいにしたくはなかったんです。
ただ以前からXのアルゴリズムの動きを分析するために、Grok(X社の生成AI)を使って仮説検証を行っていたのですが、6~7月頃からそのGrokの回答傾向に変化が現れ始めました。
Grokの回答の変化と実際のアカウント数値の減少が一致し始め、「これは投稿の質だけの問題ではないな」と考えるようになりました。
―― 確信に変わったのはいつ頃ですか?
ウマ: 10月頃です。時間をかけて春先の投稿を分析した際、当時反応をくれていた方々がフォローを外したわけではないのに、その人たちの元に投稿が届かなくなっているという事実に気づきました。
「これは戦っているXという場所そのものが構造的に変化しているんだ」と納得できたことで、ようやく対症療法ではなく、構造を変える方向に舵を切ることができました。
―― AI(Grok)の影響で、企業Xアカウントの発信はどのように変質していると感じますか?
ウマ: 投稿の内容・会話・初速・滞在時間など、あらゆる要素がAIによる評価にさらされるようになったと感じています。「誰が発信するか」も大切ですが、それ以上に「投稿そのものがユーザーに選ばれる設計になっているか」が問われているのだと思います。
つまり企業のX運用は「情報を並べる」運用から、「選ばれる投稿を設計する」運用へシフトしたと考えています。
人間だけが武器にできる「空気読み」と「ニュアンス」の力
―― 「これはAIには勝てないな」と感じる瞬間はありますか?
ウマ: アルゴリズムの変化を読み切る「速さ」ですね。
人間の運用者は、数字の違和感や反応の質など、微細な兆候を積み上げてようやく変化に気づきます。しかしAI(Grok)はプラットフォーム全体の動きを一瞬で整理し、判断をほぼ“秒”で終えてしまう。
このスピードには絶対勝てませんし、そこで勝負する必要もないと思います。

―― 逆に、「ここは人間(自分)が絶対に勝てる」と感じるポイントは?
ウマ: 「文章の細かいニュアンス」と「その場の空気を読む力」です。
AIは情報の整理は得意ですが、人の感情の揺れや温度を読むのはまだ苦手です。
ちょっとした言い回しや語尾のニュアンス、そして「今この投稿をしたらどう受け取られるか」という“その場の空気”を読む投稿。
ここはまだ人間の直感の方が圧倒的に強い部分だと思っています。
―― AI時代の企業運用において“キャラで発信すること”の価値は変化しましたか?
ウマ: キャラ発信の価値は「投稿を見てもらえる入口」を作れることです。
企業が情報を一方的に発信するだけだと、AIによる選別以前にそもそもユーザーに見てもらえません。そこにキャラクターが入ることで心理的なハードルが下がり、温度が生まれ、会話が始まる。
この“入口の作り方”に関しては、まだAIより人間の方が上手い部分だと思っています。
「勝ちパターン消滅」── AIが見ている“エンゲージメントの質”の正体とは
―― アルゴリズム変更で、最も影響を感じたポイントはどこだったのでしょうか?
ウマ: 一番は「フォロワー外へのリーチ低下」です。
GMOサインはBtoB企業のアカウントですが、個人の方から多くの反応をいただけるのが強みでした。
しかし、アルゴリズムにAIが試験的に入りだしたと言われる2025年5月頃から数値が下がり始めました。
現段階でのGrokによる分析(推測)も踏まえると、春先と比べて10月~11月はフォロワー外へのリーチが30〜50%ほど縮小していたんじゃないかと思っています。
実際の数字の落ち方とも一致しているため、構造的な変化による影響が大きいと理解しています。

―― 以前と比べて、重視する指標(KPI)は変わりましたか?
ウマ: はい、変わりました。これまで投稿単位では「いいね数」を重視していました。
というのも、以前は「いいね数が伸びれば、それに比例してインプレッション(表示回数)も伸びる」という、自分なりの感覚をもっていたからです。「いいね数」を見ていれば、アカウントの状態をある程度把握することができていました。
しかし2024年末あたりからその前提が崩れました。「いいね」の重み付けが大きく下がり、代わりにリプライや滞在時間といった「会話の深さ」が評価されるようになっていきました。
―― 具体的にはどういうことでしょう?
ウマ:たとえば、すでに万単位のインプレッション(imp)が出ている以下の2つの投稿があるとして、それを比較してみるとその価値観の変化がわかりやすいかもしれません。
① 50いいね / 3万imp
② 1,000いいね / 1.5万imp
一見すると①の方が広く露出しているように見えますが、以前の私の感覚では、本質的に価値が高いのは圧倒的に「②」の投稿でした。
なぜなら①はフォロワーを中心にただ表示されただけで、深い反応を伴わず“消費されただけ”である可能性が高いのに対し、②は表示回数こそ少なくても、内容に対してユーザーから強い反応が返ってきている状態だからです。
私自身、Twitterと呼ばれていた頃から「いいねが伸びればそれに比例してimpも伸びる」という運用感覚を持っていました。長い間いいね数を通じてアカウントの状態を把握してきたんです。
ところが2024年末あたりから体感としてその前提が崩れ始めました。
いいねの数そのものよりも、リプライの発生や会話の継続、そして投稿に対する滞在時間といった“関わりの深さ”が、明らかに評価へ強く影響していると感じるようになったのです。
これは公式発表ではなくあくまでGrokによる解説や推測モデルを踏まえた私なりの解釈ですが、「いいねは補助的なシグナルに留まり、リプライや会話が中心となる評価軸へ比重が移っている」という方向性は、実際の数値の動きとも見事に整合していると考えています。
結果として、「いいね」中心で伸びてきたアカウントほど、急にアルゴリズムとの相性が悪くなり不利になる構図が生まれてしまった。
この構造的な変化を確信してからは、私自身も「いいね数」を主要な指標として追うことはほとんどなくなりました。
―― もはや「投稿を伸ばす勝ちパターン」は存在しないのでしょうか?
ウマ: 前みたいに「これをやっておけば勝てる」みたいな固定パターンは、AIが評価に入ってから減少したのではないでしょうか。むしろ、同じ構造の投稿を続けるほど評価が伸びにくくなる傾向すらあるのではないかと思います。
だからこそ大事になってくるのは、その時々の空気やノリ「このタイミングなら刺さる」という判断で、これからのX運用は運用者自身の感覚と判断が試される時代だと思います。
ここに人間の価値が強く残っていて、自分の強みも一番出る部分でもあるのかなと考えています。
―― その中で、多くの人に見てもらうためのコツはありますか?
ウマ: こんな状況だからこそ、「本質の理解」が大事になると思います。AIがどれだけ進化しても、投稿を見ているのは“人”。
スクロールを止める一瞬のインパクト、感情の振れ幅、思わず参加したくなる「余白」。
人が動く導線をどう設計するかの方がアルゴリズムを細かく追いかけるより本質的に効くのかなと考えています。
また、単発のバズよりも「日常的に見られているアカウント」の方が長期的には強いと思います。
アルゴリズムの波で投稿が流れてこなくなっても、「最近見ないから見に行こう」とわざわざ検索して来てくれるフォロワーさんがいてくださる。そうしたフォロワーさんとの「関係性」は、アルゴリズムがどう変わっても揺らぎません。
巻き込みを生むための3つの条件とは
―― これからの企業Xアカウントの“理想の姿”はどう変わると思いますか?
ウマ: 「宣伝だけを流すアカウント」ではもう戦えない時代に突入しています。今のXは、一方通行の宣伝投稿はアカウント全体の評価を下げるリスクすらあると推測されています。
理想は、情報を押し付けるのではなく「このアカウントの話なら聞いてもいいかな」と自然に思ってもらえる存在。
つまり企業であっても“人として見られるアカウント”になることが求められており、これからの時代で強い理想の姿になっていくのかなと思います。
―― 企業内でSNS運用の価値を証明するには、どうすればいいでしょうか。
ウマ: SNS運用は社内から価値が見えにくい仕事です。私が前職で学んだのは、「外部で評価されることが社内理解の一番の近道」だということでした。
メディア掲載やイベント登壇など「外の文脈」で成果が可視化されると、それがそのまま強力な「社内向けの翻訳」になります。第三者の評価は、自分で説明するよりもやっぱり説得力があるなと思いました。

さらば企業クラスタ ── “拡散の壁”を超えていく
―― 直近1年で試した新しいチャレンジを教えてください。
ウマ: 2025年はとにかくGrokが示す仮説に向き合い、判断に迷い続けてきました。
「構図がマンネリ化している」と言われれば動画やGIF画像を混ぜ、「交流と宣伝ばかりでバランスが悪い」と言われれば情報提供型の投稿を増やす。まさに日進月歩ならぬ“秒進分歩”で変わるアルゴリズムに対し、毎回構造から作り直し続けました。
その過程で、複数のAIを横断的に使って答え合わせをする習慣がつきました。
Xのアルゴリズムに関するGrokの回答を、ChatGPTやGeminiなど別のモデルに見せると「これはGrok特有の推論であって正確ではない」と指摘されることも増えてきて、AIを使う側としてのリテラシーが鍛えられたと感じています。
1つのAIの答えだけを鵜呑みにせず、複数のAIを比較して仮説を立て、最後は自分で数字を見ながら検証する。このプロセスが運用の土台になった1年間でした。
―― まさに、2025年で最も注力していた実験はありますか?
ウマ: 12月頃から取り組んでいた「企業クラスタからの脱却」というチャレンジです。
これはあくまで複数AIを使った推論にはなりますが、2025年5月頃のアルゴリズム変動以降、GMOサインのアカウントが「企業アカウントが集まる領域(クラスタ)」に強く固定されてしまったと考えています。
※本記事でいう「企業クラスタ」は、X内部で用いられている興味・行動ベースの推薦構造を指すもので、公式用語ではありません。
―― 「企業クラスタ」にいると何が問題なのでしょうか?
ウマ:当時のアルゴリズムでは、 企業向けの世界には届きやすい反面、一般層への広がりが一気に弱くなる傾向があると考えていました。
数字の落ち込みに焦って他社企業との交流(リプライの応酬など)を増やした結果、アカウントの属性がさらに「企業寄り」に強化されてしまったと考えています。
その結果、本来の強みだった「toBアカウントなのに個人の方からの反応が多い」という強みが失われて、負のループにハマっていたのが5月〜11月の状態でした。
また企業アカウントを中心にリプライが集まっている投稿を見ていても、必ずしもimpの増加につながっていないように見える場面が少なくありません。
「企業」対「企業」のやり取りは、交流自体は生まれても感情の揺れや熱量が生まれにくいため、AIから見ても「拡散価値が低い(一般層へ広げる必要がない)」と判断されているのではないか?というのが考えていた仮説です。
―― なるほど。だからあえて「企業クラスタ」から抜けると。
ウマ: はい。「企業なのに、あえて企業のカテゴリーから抜け出す」という一見無謀な挑戦です。
具体的な調整内容は明かせませんが、本来持っていた「企業なのに一般層からも自然に反応が取れる」状態を取り戻すためにアカウントの立ち位置や距離感を調整し、いいね数を含むエンゲージメントが少しずつ上向きになった経験を得ることができました。
現在はまたアルゴリズムが変わってしまいましたが、当時の企業クラスタからの脱却という挑戦が正しかったのか、いつか答え合わせができる日を楽しみにしています。
―― 最後に、AI時代の企業X担当者へメッセージをお願いします。
ウマ: AI時代のX運用はこれまでの時代の運用とは違い、過去の正解にしがみつくほど置いていかれます。
例えば、X社のGrokの答えもそのままX運用に使える「正解」というわけではありません。僕がこの1年で痛感したのは、AIを答えとして使うのではなく「仮説を出してくれる相棒」として扱うべきだということです。
複数のAIで答え合わせをし、最後は自分のアカウントの数字で判断する。この地味な往復こそが、AI時代のSNSアカウントが力をつけるために必要なことなのかなと思います。
AIがどれだけ進化しても、人は人にしか共感をしません。
ちょっと笑ってしまう温度感、思わず返したくなる余白。「このアカウントなんか好きだな」と思ってもらえる積み重ね。など、人間にしか出せない領域をこれからも手放さずにいたいと思います。
