小さな情熱が繋がり広がる場所。大阪インディーズ書店『シカク』

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小さな情熱が繋がり広がる場所。大阪インディーズ書店『シカク』

阪神なんば線「千鳥橋」駅から徒歩5分ほど。住宅街のなかに突如現れる、インディーズ書店『シカク』。「知らない価値観に出会える」をコンセプトに、個人出版のリトルプレス(ZINEなど)の販売、ギャラリー、書籍の出版と、幅広く活動する独立書店・出版社です。専門学校卒業後すぐ自宅の一角でお店をはじめた、店主の竹重みゆきさんは、出版業界に精通していたわけでも、本屋を出すことを夢見ていたわけでもなかったといいます。一体、どんな原動力が彼女を突き動かしたのか伺いました。

「この想いを残しておきたい」個人の情熱が伝わってくるリトルプレスの魅力

現在の「シカク」。2017年に移転

2011年、ワンルームの自宅一部を店舗として開放する「住み開き」スタイルでスタートしたシカク。きっかけになったのは、竹重さんが個人出版の作品からとてつもない「情熱」を感じ取ったことでした。

はじめて手に取ったZINEのひとつに、大阪の建築家たちが、さまざまなビルを独自の視点から紹介する『月刊ビル』というものがありました。正直、かなりマニアックな内容だなと思ったのですが、読み進めるうちに「売れる・売れないは関係なく、とにかく自分たちがおもしろいと感じるものを残しておきたい」という熱量を強く感じて。

個人出版の作品は、これまで私が触れてきた出版物とは別次元の感性でつくられている点に強く興味を惹かれました。

個人出版の作品に魅了され初代店長(現在は退任)とともに、インディーズ書店「シカク」をスタートさせる竹重さん。いきなり「店舗」を持つことを決意した背景には、当時の大阪ではZINEやリトルプレスに出会える場所が少なかったことが大きかったそうです。

今でこそ即売会イベントが一般的になりましたが、シカクがオープンした当時の大阪では、ZINEやリトルプレスなどの個人出版の作品に出会える場所が少なく、認知もほとんどありませんでした。

正直、こんなに面白い本がたくさん出ているのに、それを発表できる場所がないなんてもったいないな…と感じて。だったら自分たちで作品を発表できる場所をつくろうと思ったことが原動力でした。

情熱こそあったものの、右も左も分からない状態だったこともあり、当初はどこか“おままごと感覚”が抜けなかったそう。気持ちが切り替わるきっかけになったのは、お客さんの期待に応えたいという気持ちが大きかったといいます。

実は、オープン当日お店に並んだ本は3冊しかなくて……。とはいえ「まだまだ小さいお店だし、これからゆっくり作品を集めていこう」と、のんびり思っていたのですが、HPやTwitter(現・X)をきっかけにお店に足を運んでくれる方が想像以上にいらっしゃいました。

決して「書店」とはいえない状況も逆におもしろがってくれる方や、応援してくれる方もいて、次第に「期待に応えられるお店でありたい」と思うようになりましたね。

小さなワンルームからスタートしたシカクも、お客さんの期待に応えるように徐々に規模を拡大。2014年には、中津商店街へ移転し、約3ヶ月間DIY等を駆使して店舗を完成させました。

現在の「シカク」。2017年に移転

2017年には、商品や出版物の在庫数が増加したことをきっかけに、現在の千鳥橋駅近くの住宅街へ移転。広さは中津商店街時代に比べて約3倍の規模へ。「おままごと感覚だった」と語るお店も、2026年には15周年を迎えます。

考え方や視野が広がる作品に出会えるシカク

そんなシカクで出会えるのは「知らない価値観」に出会える作品たち!大手の出版社・書店では出会えないようなZINEや同人誌、雑貨など、ニッチな商品たちが並びます。

開店当時こそ、ミニコミ(※)世代の40代前後の方が多く来店されたそうですが、現在は、10代から60代まで幅広い年齢層の方が来店されているとか。意外にも「ZINE」の存在を知らずに来店する方も多く、ほかの書店の雰囲気とは違ったシカクに興味を持つ方が多いそうです。

※1970年代・1980年代に盛んになったカルチャー。少人数で作ったメディアのこと。現在のブログの前身ともいわれる存在

シカクには、実用性はあまりないけど、読むと視野が広がったり新しい考え方に触れられる作品が集まっているなと思います。

個人出版の魅力は、商業出版では決して扱えないようなユニークで、かつ独自の視点に触れられるところ。シカクを始めた当初から大きいお店では扱えないものこそ、シカクで置いていきたいという想いがありました。そんな想いがあったからこそ、自然と知らない価値観に触れられる作品が集まったのかもしれません。

店舗に置く作品はすべて一度目を通すのがシカクのモットー。過去には一度、売上が落ち込んだこともあったそうです。

たった3冊の状態でオープンした経験もあり、基本的に持ち込み作品は断っていなかったのですが、徐々に自分が心から勧めたいと思える本が少なくなっていることを感じて……。

そこで思い切って売れない本は返品し、置く本を見直すことにしました。その結果、お客さんに自信を持って商品を勧められるようになって。作家さんたちからは「シカクはきちんと作品を読んだ上で商品を勧めてくれるからありがたい」と言ってもらえたこともうれしかったですね。

お店を続けていく上でもっとも大切なのは、モチベーションを保つことだと思います。私の場合は、商品にこだわり、「本当にいいと思えるものだけを扱う」ことだと気付かされた瞬間でした。

現在は数名いるスタッフのうち誰か1人でも「おもしろい」と発言した作品は店頭に並べるようにしているそうです。ひとつの価値観に偏らず、多様な視点の作品が集まるシカクだからこそ、新しい価値観に出会えるお店になっています。

シカクを通して個人の影響力の可能性を伝えていきたい

ギャラリーでは、定期的に個展や展示会を開催。

マニアックなテーマに特化した写真展や同人誌作品に関連した展示、個性的なイラストレーターやアーティストの個展などなど……「この作品いいな」と感じた作家さんに直接アプローチを行っています。

シカクのギャラリーには、いくつかのルールがあります。
 
 ひとつは、展示スペースをレンタル貸しにしないこと。以前一度だけ「場所を貸すだけ」の展示を行ったことがあるのですが……。正直、企画や運営への熱量が薄れてしまい、お店にとっても作家さんにとってもいい結果を生まないと感じました。
 
ふたつめは、展示は人間性にも惹かれると感じた作家さんにお願いすること
 
作家さんのなかには、商業用の作品と自己表現のはざまで、模索をくり返しながら制作を続けている方が多くいます。だからこそ、自分だけの表現を探し続けている人の作品には、自然と心を動かされて「応援したい」と思わされるんですよね!
 
それに正直、シカクのようなニッチなお店で展示をしてくれる作家さんとは、自然と「友達になりたい!」と思ってしまうところがあります(笑)。

さらに、デザインが苦手な作家さんの場合はDMを代わりに作る、作品に合った展示方法を提案するなど、作家さんや作品に合わせたオーダーメイドの展示づくりを大切にしています。

竹重さんは、「シカク」を続けていくにあたり、これからも個人が社会に与える影響力の可能性を伝えていけたらといいます。

シカクを通して、おもしろい作品や世界を作っている人がいることを知ってくれたらうれしいです。同時に、大きな仕組みのなかにいると、自分ひとりの声は無力に思えてしまいがちですが、個人には大きな力と可能性があることも伝えていきたいです。

私自身、はじめてZINEを手にしたときに「こんな世界もあるんだな」と、自分の見ていた視野が広がった感覚がありました。個人の出版物には、そういったパワーやエネルギーを秘めているものですし、自分の力が誰かに影響を与える可能性があることを、シカクを通じて伝えられたらなと思っています。
 
また、ZINEの販売イベントは頻繁に開催されるものではないので、イベントになかなか足を運べない方に、ZINEの魅力や熱量の一端を体験できる場所としていられたらなと思っています。

取材時(2025年12月)には、長年の夢でもあった「移動書店」を実現させるためバイクの免許取得に励んでいる途中だという竹重さん。

離れた地方に住む友人の作家さんとの交流を計りつつ、ご自身も旅を楽しみながら、都市部に集中しがちなZINE文化を、もっともっと地方にも広げていきたいという想いがあるそうです。

シカク店主の竹重さん

人々が新しい価値観と出会える場所であると同時に、自分自身の可能性と出会える「シカク」。

取材時に印象的だったのは、竹重さんが終始楽しそうにお店やリトルプレスの魅力を語ってくれたこと。その表情から、新しい世界観に触れることの楽しさが伝わってきました。

「思い切って、今いる世界から飛び出してみたい」と感じている方はぜひ「シカク」へ。きっと、今までにない価値観に出会える冒険が待っているはずです!

シカク

住所:大阪市此花区梅香1-6-13

営業時間:12:00〜18:00

定休日:火曜・水曜

HP:https://tanoshikaku.net/

X:https://x.com/n_SHIKAKU
instagram:https://www.instagram.com/konohanashikaku/

note:https://note.com/shikakunote

取材・執筆:はせがわみき

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