庭は進化していくもの 森本庭苑舎の森本隆嗣さん

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庭は進化していくもの 森本庭苑舎の森本隆嗣さん

以前からお話を聞いてみたかった若手の庭師さんがいます。森本庭苑舎の森本隆嗣さんです。

神奈川県の箱根を拠点に、住宅の庭や店舗の庭を手掛けているそうで、さまざまな挑戦をしているとのこと。どんなお庭を作り、どんな思いで挑戦を続けているのでしょうか。お話を聞きに、いざ、箱根へLet’s Go!

電話で取材を申し込んでみると、「分かりました。では、箱根の仙石原にあるお店の庭を見ていただきたいです!箱根湯本駅でお待ちしています!」と元気の良い声が返ってきました。

とても楽しみな一方で、ひとつ悩みが。下調べをすると、いろいろ分かるけれども、写真で庭を見てしまう。一方で、あえて調べずに行けば、知識はなくとも初見の感動が生まれる。さて、どうするべきか。悩んだ末に、後者を選択して当日を迎えました。箱根湯本駅で森本さんと合流して、車で「箱根とうふ茶屋 八十八」さんへ。

庭師さんと、庭師さんが作った庭を鑑賞

いかにも良い庭がありそうな佇まい。そして、何よりもおいしそう。

ババーン!なんと、湯豆腐と釜めしの専門店でした。一体、どんなお庭なのか気になります。

では、早速ですが、お庭を見せてくださいっ(力こぶ)!

いえいえ、腹が減っては戦ができぬ、ですよ。
まずは、湯豆腐を食べましょう。

次々と運ばれてくる豆腐料理。そして、奥には待望の庭が!

(心の声:なんだかすごい展開だなぁ)

先月できたばかりの庭です。いかがですか?

流れと景石で主要部分が構成された庭。抜け感が良く、爽やかです。

落ち着いている中にも、どこか心が揺り動かされるような魅力があります。これは、なぜなのでしょう?オーナーさんからはどのような依頼があったのですか?

湯豆腐のお店なので、「小さな川(流れ)がほしい」とだけ言われました。あとは、「お店に来る人が喜んでくれたら良い」という一般的なご希望です。

条件、少なっ!それって、ほとんどノーヒントじゃないですか。極端な例を言うと、流れがあれば、あとは何をやっても良いってことですよね?

そうですね。八十八はそうでしたが、けっこう細かいお客様もおられますよ。

先ほど、浦田さんが「どうして?」と話されましたが、庭は自由に感じていただくものと考えています。私の意図どおりでなくても、AさんとBさんで感想が違っても、まったくもってOK。

ひとつ、おもしろい実例を見せましょうか。窓際に並んでいる3つのテーブルにそれぞれ座ってみてください。

庭って見る場所、時間帯、季節、経年、その人の気持ちで感想が変わるものなんだなぁ。

うわ!座席によってまったく景色が変わりますね。すごくおもしろいです!

個人的には、渓谷っぽい一番右の席が好みかな。
あれ?湯豆腐だから流れを作ってくれという依頼でしたよね?なんだか、石が湯豆腐に見えてきたような。

調子が出てきましたね(笑)。
庭というと、みんなかしこまってしまいますが、その緊張感が必要なのは、ごく一部の庭だけです。一般的な住宅やお店の庭は、フィーリングのまま楽しんでいただければ。だから、「あの石、豆腐みたいだな」って素晴らしい感想なのですよ。心が豊かになって、おいしいご飯がさらにおいしくなってくれたら、私はそれで十分です。

お気に入りの釜めしをよそう森本さん。庭師さんはたくさん食べます。

奥の石造品は、けっこう凝っていますね。

水源ですから、自然と視線が集まる場所です。そこに、特徴的なものを持ってきたいというのは、私の想いですね。もちろん、役物を溶け込むように配置したいという庭師さんもおられますし、そこは作り手の味です。

あと、私は黒板塀が好きなんですよ。馴染んで少し色が抜けてくると上品になります。植栽、苔、石が映えて見えるので。

「庭ってすごいなぁ」、「湯豆腐がおいしいなぁ」、「庭ってすごいなぁ」、「釜めしおいしいなぁ」のループになっています(笑)。

<そして、二人とも食事が終了>

今、たまたまお客さんが一気に出て行かれたので、店内の別の場所から庭を見てみましょうか。

店舗の奥にあるカウンター席。1人か2人なら、ここは眼福の贅沢席ですよ!

うわぁ、こっちの席も良いですね。庭が迫ってくるようです。ちょっと、窓に近づいてみようっと。

絶対にストーリーがあるくせに、感じてほしいと種明かしをしてくれない森本さん。もう、ツンデレなんだから…。

もう、今日の私は石が豆腐にしか見えません(笑)。
こちらからだと流れがしっかり見えますし、石にもストーリーがあるように見えてきました。植栽や配石って緩急が大切なんですね。とにもかくにも、庭って素敵です!

お庭の中に潜入!

では、さらに場所を変えてみましょうか。お庭の中に入りますよ。

庭に入るって緊張しますね。門って結界なんだと気付かされました。

この門は、これから変更する予定です。もうちょっと格式高くできたらなと。

実は私、ひとつ趣味があって、作った庭をパトロールするのが大好きなんですよ。もちろん、お店の営業とか、人々の暮らしをジャマしない範囲でやっていますが、一度、現場から離れてリセットしてから見直すと「もっとこうしたいな」というアイデアが湧いてきます。

規則性を持たせるか、持たせないか、それすら自由。小さな石もおもしろい。

おぉ!入って気付きましたが、この軒下の石、方向が揃っている気がします。これは意図的なんでしょうか?

うれしいところに気付いてくれますね。
もちろん、意識しています。龍の鱗みたいだと言ってくれる人もいます。デザイン的には視線誘導みたいな理屈が成り立つので図面やパース画にも描きますが、こういうものは現場でやってみないと、本当の意味で最適かどうかは分かりません。ここから一回り大きくても小さくても、ガラリと印象は変わりますね。


庭の素材は不定形のものばかり。木も石も、計画したとおりのものなんて世の中に存在しないんです。でも、お客様はその図面やパース画から想像を広げてしまっている。ならば、それを超えるものを現場力で生み出すしかないんですよ。ここが、庭づくりの楽しみであり苦しみ。庭師としては、技術力に加えて総合力で差が付く部分です。

庭は異世界と感じる。でも、水の音を聞くと仙石原にいると思い出す。不思議。

お店の中では気付きませんでしたが、水が流れる音も素敵ですね。この横にテントを張って、一杯飲みながら寝たいくらいです。

(浦田くんの与太話はスルーしつつ)ガラス張りのお店ですから水の音は聞こえませんが、庭師として五感が喜ぶ庭づくりを心がけています。聞こえないだろうな、と思っても手は抜きません。まずは見た目で良い高さを基本として作り、そこから音が良い据え方を模索しています。


この石造品は真壁石(茨城県で産出される御影石、国会議事堂などでも使われている)で、作家さんに特注で作ってもらいました。乾燥状態ではもっと白い石ですが、水を吸うと青みがかってきれいですよね。

これ作るの、大変だっただろうなぁ…。

ちょっと工事中の写真を見てみますか?(サッとiPad登場)

庭づくりの基本は「運搬」。これだけの石を運ぶのは大変だっただろうな。(写真提供:森本庭苑舎)

石だらけじゃないですか!!!すごい、パズルみたい!ここを一体、何人で工事したのですか?

2人ですね。けっこう厳しい現場でした。すごく目をかけていた弟子が辞めてしまって、そういう時にこの現場だったので。ちょっと目から汗が(笑)

本当に、若い人を育てるのは難しいです。私は修行時代に茶庭で日本随一という金綱重治親方(東京都:金綱造園事務所)から、かなり厳しく育てていただきました。悩んで悩んで十円ハゲができたこともありますが、あの時期があったから、今の私がいる。とてつもなく感謝しています。だから私も愛情を持って厳しく育てようとしましたが、一朝一夕では金綱親方のようにできませんね。まだまだ親方として修行しなければ。ということで、誰かウチで一緒に庭を作りませんかーーー!!!(2025年末現在、本当に求人中のようです)

この規模の庭づくりを経験できて親方が若いところは、数少ない。若者よ、森本庭苑舎へGOだ!(写真提供:森本庭苑舎)

あ、求人してる(笑)。
どんな人に来てほしいですか?

最近ニュースを見ていて、「叱ってくれないから辞めた」という若者もいるんだと知り、うれしかったです。愛×厳しさで若手と歩んでいける気がしました。ですから、叱られた方が成長できると考えている人が良いですね。あと、独立して自分の庭を作りたいと思っている人。これがないと積極的に勉強しないでしょうから。

なんとなく、職人さんの世界って一周回って最先端ではないかなと。造園業界は、ここのところ斜陽産業と言われてきましたが、底打ちして回復傾向のような気がします。特に、伝統的な技法を知って、技術力がある人は貴重になり始めていませんか?希少性が増して価値が上がり始めていると思います。


今、AIに仕事を奪われているのって、いわゆるホワイトカラーと呼ばれている人たちですよね。ライターなんて、もう危なさMAXですよ。次回からこの連載も「AI浦田くんが行く」になりそうなくらい。そう考えると、庭づくりって図面はさておき、施工はAIや機械にはまだまだ難しいですよね。先に実現するなら、規格が決まっている建築からですし。


さっきおっしゃられていた、現場合わせの現場力。やってみないと分からないというのが庭のおもしろさですし、AIでは不可能なこと。感性がモノサシですから。しかも、伝統を継承しているジャンルです。だから庭っておもしろい。アンテナが高い若者にも、そのうち気付いてほしいですよね。

(この人、さっき庭の中で一杯飲んで寝たいって言ってたのに、急によく喋るようになったな)
ウチだけの話では、今日にでも庭の仕事のおもしろさに気付いてもらって、明日にでも来てほしいです(笑)

庭とは「育つ」もの

そういえば、庭に対して不思議に感じているところがあるんです。「竣工」って言葉があるじゃないですか。あれって住む人はスタート地点ですが、建築業種にとってはゴールですよね。その後、維持管理という形でお付き合いしていくとしても。でも、庭は竣工が明確にスタート地点。だって、庭って育つじゃないですか。この概念はすごいなと思います。

いずれは苔の緑に覆われる護岸。これもまた、今だけの景色、今だけの庭。

またまた良いところに気付いてくれてうれしいです。今日は絶好調ですね(笑)
庭は訪れる時間帯、天候、季節、経年、あと心情や周辺環境で変わっていきます。さっきのように立ち位置や身長でも違いますよね。ですから、同じ庭は生涯、存在しません。そこが庭の美しさの原点と考えています。


先ほど竣工がスタート地点と話されましたが、例えばこの流れの護岸。今は白く縁取りされていて格好良いとは言えませんよね。これは分かった上でこのように仕上げています。湿気を吸いやすい多孔質な素材ですから、今後はハイゴケが成長して、やがてはこの白い護岸を埋め尽くす。流れに到達したら、この白い護岸は見えず、より自然な風景に落ち着きます。こういう変化を、草や木でも考えて庭づくりをしています。


石っておもしろいという話もされましたが、石は基本的に人間の時間軸で変化がないもの。そういう時間の流れが異なる素材を渾然一体でありながらも、心の情景としてまとめたものが「庭」ではないかというのが、現在の結論ですね。もっと経験を積んだら変わる意見かもしれませんが。

この八十八さんの庭づくり苦労されたところはありますか?

水量の調整は難しかったですね。流れの構造ができたと水を流してみたら、川底よりも水位が上がらなくて、地下河川になってしまいました(笑)。そこで、川砂利の下にいくつか堤防を作って水を貯めたことで、今ご覧になっている水の表情が生まれています。表層は流れていますが、すぐ下は水が貯まっている状態です。これも現場合わせした箇所ですね。


せっかくだから、これから作庭が進行中の現場を見てみますか?

ぜひ!

<庭談義をしながら、森本さんの車で移動>

なんだこのスケール感。しかも、これを「好きにやれ」ってどういうこと?

ここは好きに庭を作ってくれという依頼でしたが、敷地内の山の伐採からスタートしたので時間がかかっています。私が立っているところあたりがリビングでそこから庭につながるイメージです。まだ、奥の園路だけ目処がついた段階で、これからは左奥の方からリビング前に来る流れを作ろうかなと。

デカい木、良いですねぇ。財力があれば、こういう人生の先輩みたいな木がある敷地を買って家を建てたかったです。

ところで、庭師さんって職業に定義はあるのでしょうか?
造園業とは何が違うのかなって。

まだまだ作庭の途中段階。それにしても、大きい木は萌える(私だけ?)。

あくまでも私個人の意見にはなりますが、法人格の有無や事業規模の大小に関係なく、庭師は親方が中心の職業です。お客様はその親方に図面を描いてほしいし、施工をしてほしい。良くも悪くも属人的です。でも、親方が中心だからこそ、技術や魂の伝承が繰り返されてきたのではないでしょうか?

私は金綱重治親方に育てていただきましたが、兄弟弟子たちにもそれぞれ濃淡はあれども親方のDNAが受け継がれています。その金綱親方の師匠は、足立美術館庭園やボストン美術館天心園などを作庭した中根金作さん。つまり、金綱親方は中根先生のDNAを引き継いでおられ、私たち弟子にも受け継がれた部分があると信じています。このようなことが、平安時代の寝殿造とその庭の時代から日本中で行われてきたから「庭師は伝統を受け継いでいる」と評価してもらえるのでしょう。

いや、これをあらためて人前で話すと、どこまで自分はできているんだ?と気が引き締まりますね。ここカットでも良いです。まだ若造なのに、ちょっとリキみ過ぎました(汗)

ほーい(生返事すみません、良いお話なので掲載する気満々です)。


つまり、受け継がせてもらったものを、後世に手渡していきたい。そのためには、特に森本さんには叱られて伸びるタイプの若手が必要ということですね。それでは、森本さん個人で何か「夢」ってありますか?

これだけを言うと浅く聞こえてしまいますが、庭で有名になりたいです。
理屈をこねるよりも、シンプルな夢の方がモチベーションを上げていけるじゃないですか?

浦田さんはどうですか?

私も職人さんや道具のことで爪痕を残したいですね。
そうだ、「Wikipediaに載る」を目標にしましょう。勝負しませんか?

いいですね!切磋琢磨の関係性は願ったり叶ったりです。

でも、ちょっと待ってください。大丈夫かな。なんだか今日はうまく乗せられて、普段よりも大きいことを言っているような…。

いえいえ、豊かな一日でした。今日は、ありがとうございました(気が変わる前に退散だ)。
目指せ、Wikipedia(笑)!

ということで、なぜだか突拍子もない目標を世間に公表してしまうことになった森本さんと私。

これからどうなるのか、乞うご期待☆

今回出会った職人さん

森本庭苑舎の森本隆嗣さん

会社名:株式会社 DESIGN PLACE 森本庭苑舎

代表者:森本 隆嗣

所在地:〒250-0631 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原444-101

お問い合わせ:公式サイトのフォームをご利用ください

公式サイト:https://morimototeiensha.com/

取材協力

店名:箱根とうふ茶屋 八十八

公式サイト:https://www.hakone-yasohachi.jp/

ライター紹介

浦田浩志公式サイトInstagram
得意:インタビュー記事、コンテンツ企画。
兵庫県神戸市出身、神奈川県逗子市在住。大学を卒業して入社した広告代理店で、求人広告の制作を担当。いきなりボスから「女性の求人を書くときは、君は女性になりなさい」という謎の教育を受ける。社長取材などを多数担当したことで、心臓に毛。近年は、初の永世七冠を達成した棋士の方や「宮さんがぜーんぶ破っちゃったの」と語ってくれた方、「問うな、踊れ、そして生きろ」という名言の方など、著名人も取材。一方で、大学時代からバックパッカーとして50か国以上を訪問。子連れでSUPを持ち込みインドへ行くなど神出鬼没。つながりがある造園関係者は100名以上、取材した鍛冶屋は50件以上を数える。

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