音楽をビジネスの分野で活用する「サウンドマーケティング」の開拓に挑む作曲家・経営者、山田智和。氏が代表を務める株式会社Go2Eのトークイベントが6月11日に渋谷QWSにて開催されました。音楽と企業コミュニケーションの未来を示唆する、革新的でアツいプレゼンテーションが展開されたイベントの模様を詳しくご紹介します!
音楽と記憶の関係性を体感するオープニング

イベントは、山田智和氏による意外なクイズで幕を開けました。モニターに映し出されたのは「桃太郎さん、桃太郎さん」という言葉。参加者の頭には続くフレーズ「お腰につけたきび団子」が自然に浮かびます。「ある日、森の中」では「熊さんに出会った」が、「カラスなぜ泣くの」では「カラスは山に」もしくは「カラスの勝手でしょ」(ドリフ!)が自ずと出てきます。
このテストが示しているのは、童謡のような馴染み深いメロディーと結びついた言葉はしっかり記憶されるということ。ひいては、音楽が人間の記憶と感情に与える強力な影響力です。
山田氏が率いるGo2Eは、この音楽の持つ力をビジネスの世界に応用し、企業や組織のメッセージをより効果的に伝える新しいアプローチを提案しているというわけです。
Go2Eのチームとビジョン

次に紹介されたのは、Go2Eの設立背景とメンバーです。
山田氏は、AKB48や乃木坂46、ラブライブなどへの楽曲提供経験を持つ実力派作曲家。彼が目指すのは「物語や想いを音楽で伝える」ことです。
その志に共感して集まったのが、NTTデータ出身で地方創生・観光マーケティングにも関わる川本真聖氏、そして出版業界で企業経営者の書籍を手がけてきた志摩晃司氏。
三者三様の専門性を持つチームが「音楽×ビジネス」という新しい市場に挑んでいます。
音楽がもたらす効果の科学的根拠

プレゼンでは、音楽のマーケティング効果に関する具体的なエビデンスが紹介されました。
たとえば、アメリカのスーパーではBGMの違いによって売上が最大30%変化したという研究や、介護施設での音楽療法が認知症患者の記憶を呼び覚ます事例など、音楽が人間の心理や行動に強く影響することが科学的に実証されていることが語られました。
また、映画『ジョーズ』や『ゴジラ』のように、音楽が視覚を超えて感情を操る道具として機能しているという具体例には、多くの参加者が頷いていました。
成功事例に見る音楽の可能性

イベントの中盤では、Go2Eの実際のプロジェクト事例が次々と紹介されました。
ひとつ目は、山田氏が手掛けた声優・小野大輔氏のデビュー曲「雨音」を用いた高知県・司牡丹酒造の取り組みです。司牡丹酒造は、この楽曲を日本酒として商品化。かつ酒の発酵工程で同曲をBGMとして流し、音の振動で酒質に影響を与えるというユニークな背景でも話題を集めました。

次に紹介されたのは、香川県のトヨタ系列会社によるCSR活動「笑顔の架け橋プロジェクト」。このプロジェクトのテーマソングを山田氏が制作し、その過程を地元テレビ局が1年間にわたって密着取材。
さらに、その楽曲に感銘を受けた小学校教員から「合唱曲として使用したい」との申し出があり、2番の歌詞を追加制作するという新たな展開も生まれました。

また、本田圭佑氏のマネジメントアドバイザーを担うなど、日本サッカー界の裏方として尽力する今野敏晃氏へ感謝の気持ちを込めて、氏のテーマソングを制作し、プレゼントしたというエピソードも語られました。言うなれば「人間のキャラソン」。個人の哲学や価値観を音楽で表現するという斬新な取り組みと言えるかもしれません。
最後の事例として紹介されたのは、株式会社わかさ生活の社長が原作を手がける女子野球漫画『花鈴のマウンド』のテーマソング制作。この楽曲「希望のFLAG」はTikTokに投稿された結果、約1ヶ月で30万再生を記録。マンガ作品に音楽とSNSの力で光が当たるという好例となりました。
音楽のアレンジで変わる「伝え方」

イベント後半では、山田氏によるサウンドマーケティングの実制作にフォーカス。同じメロディーでもアレンジによって印象が大きく変わるという実演が行われました。
このイベントのために制作したという会場・渋谷QWSのキャッチフレーズをもとにした楽曲を2パターンにアレンジしたものを披露。ひとつは力強い男性ボーカルにシンプルなアレンジを添えたもの、もうひとつは柔らかな女性ボーカルと跳ねたリズムを組み合わせたものです。
それぞれがどんなイメージをもたらしたかという問いを投げかけ、何人かの参加者が実際に受けた印象を語りました。そのうえで、山田氏が2つの楽曲をどのような世界観で制作したかを明らかに。前者は「未来を見つめている起業家の決意とビジョン」、後者は「優しさ、楽しさに包まれている家族の特別な日」というものです。
同じ曲でもアレンジによってまったく異なる印象を聴き手に与えること、また山田氏の意図と参加者が受けた印象がおおむね重なっていたことに、参加者も登壇者もびっくり! ターゲットに応じた音楽演出が可能であるということが実例によって証明されました。
音楽を「使う」時代へ

イベントの最後には、Go2Eが描く未来のビジネスコミュニケーション像が語られました。
Go2Eが目指しているのは、「音楽とビジネスが切り離せない」世界の実現です。
企業が新しい商品やサービスを発信する際に「動画でもつけよう」という発想は一般的になっていますが、「オリジナルテーマソングをつけよう」という発想はまだ浸透していません。
この状況を変えるために、Go2Eでは音楽を起点とした発信戦略を提案していると言います。まず楽曲を制作し、それに映像を付けるという順序で進めることで、音楽の持つ記憶に定着させる効果や感情を喚起する効果を最大限に活用できる。それが彼らのビジョンです。
また音楽の活用範囲は楽曲制作だけにとどまりません。企業のWebサイトやアプリケーションで使用される効果音、店舗に入った際の音響効果、電話の保留音など、あらゆる音響要素が企業のブランドイメージ形成に影響を与えています。Go2Eでは、これらの音響要素も含めた総合的な音響ブランディングサービスの提供を視野に入れているとのこと。
デジタル技術の進歩により、音楽の制作・配信・活用の可能性はさらに広がっています。
AIキャラクターとの連携、VTuberへの楽曲提供、TikTokなどのSNSプラットフォームでの拡散……新しい技術と音楽の組み合わせによる革新的なサービスの開発も期待されています。
そして最後に、Go2Eは音楽を「聞くもの」から「(ビジネスに)効くもの」へと認識を変え、発展させることを目指しているという強い想いが語られ、特別に制作されたエンドロールと共にイベントは幕を閉じました。
イベントを終えて
企業や個人が自分たちの想いや価値観を表現し、それを効果的に伝えるためのツールとして音楽を活用する文化を根付かせることで、より豊かなコミュニケーション社会の実現を目指す――山田氏が率いるGo2Eのアプローチは企業のマーケティング戦略や組織運営にも大きな変化をもたらす可能性を秘めていると言えるでしょう。
彼らの挑戦は、音楽とビジネスの新しい関係性を築く先駆的な取り組みとして、引き続き注目していきたいところです。