新商品の中から、特にチャレンジを感じるアイテムを紹介する『チャレンジみっけ隊』。
今回見つけたのは、視覚障がい者向けの歩行ナビゲーションデバイス「あしらせ」です!

「歩く人をナビゲートする」と聞くと、イヤホンやスマホの音声案内、あるいは骨伝導ヘッドホンなどを想像しませんか?
でもこの「あしらせ」は、なんと“足”に装着して、振動で道を教えてくれるというんです。「え、どういうこと !?」って思いますよね。
足元からの“おもてなし”が生み出す新しい道案内
株式会社Ashiraseが開発したこの「あしらせ」は、靴に装着してiPhoneアプリと連携することで、目的地までの道を振動でナビゲーションしてくれる画期的なデバイスです 。

このアイデアは、本田技研工業の社内新規事業創出プログラム「IGNITION」から誕生したもので、同社初のスタートアップ案件として2021年4月に設立されました 。創業者の千野歩氏は、新卒でHondaに入社し、電気自動車や自動運転システムの開発に携わっていましたが、加齢による視力低下で転落事故に遭った義理の祖母の悲劇をきっかけに、このデバイスの開発を決意したそうです 。
晴眼者は歩行時、8割の情報を目で取得していると言われていますが、視覚障がい者は資格での情報取得が困難なためでは、多くの情報を聴覚、白杖操作、足の裏の感覚、匂いなど様々なインターフェースで取得し同時に処理して歩いています。一方、何かに集中してしまうことで危険を察知できずに事故にあったり、曲がり角に気づかず道に迷ったりしてしまいます。

「あしらせ」の最もユニークな点は、そのナビゲーション方法です。一般的なナビゲーションシステムのように、聴覚を塞いだり、顔の周りに装着するのではなく、足に直接振動を伝えるという発想は、既存の概念にとらわれない独創性から生まれました。これにより、ユーザーは交通音や周囲の音といった、安全な歩行に欠かせない情報を妨げられることなく、直感的に道を知ることができるのです 。

失敗を“共に歩む仲間”に変えた挑戦
私たちが「あしらせ」を『チャレンジみっけ隊』で取り上げたのには、単なる製品のユニークさだけではない理由があります。それは、この製品が辿ってきた、困難に立ち向かう姿勢です。
量産化に向けた道のりは決して平坦ではありませんでした。2023年に実施した初期のクラウドファンディング利用者からのフィードバックでは、なんと満足度がわずか30%に留まり、基本性能の不具合で120台すべてを回収せざるを得ないという厳しい現実に直面したのです 。多くの企業ならここで撤退を考えるかもしれませんが、代表の千野氏は「利用者の声に真摯に耳を傾け、ともに開発を進める」ことを決意しました 。
クラウドファンディングの初期協力者には次期モデルを無償で提供することを約束し、多くの意見を募った結果、わずか半年後にはユーザー満足度が70%以上に向上し。これにより2024年10月1日には新モデル「あしらせ2」として量産化に成功しました 。この「共創」のプロセスは、単に製品を改善しただけでなく、ユーザーとの間に「一緒に開発する仲間」という強い信頼関係を築き上げたのです。

Hondaが事業創出プログラムを立ち上げたのは、創業者である本田宗一郎氏の「人の役に立ちたい」という思いがあったためです。千野氏自身もHondaで培ったコンセプトや哲学、特に安全に対する考え方が、「あしらせ」の開発の前提となっていると語っています。この強いビジョンがあるからこそ、困難を乗り越え、ユーザーから愛されるブランドへと成長できたのでしょう。
チャレンジみっけ!
今回見つけたチャレンジは…
- 個人の悲劇から生まれた社会課題を解決する商品アイデア(ペインポイント・イノベーション)
- 失敗を隠さず、ユーザーを巻き込み「共創」で乗り越えた開発手法(顧客エンゲージメント戦略)
- デバイス販売だけでなく、歩行データ活用によるプラットフォーム事業の可能性を秘めた点(マルチサイド・プラットフォーム)
個人的な経験から始まったアイデアが、大企業のリソースと結びつき、利用者とともに成長する。こんな新しい企業のあり方が、今後のスタートアップのモデルになるかもしれませんね!