旬の素材のおいしさを引き出す「スパイス」使いを追求する。押上「スパイスカフェ」

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こだわり食材グルメ探訪

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旬の素材のおいしさを引き出す「スパイス」使いを追求する。押上「スパイスカフェ」

押上のスパイス料理店「スパイスカフェ」は、日本におけるスパイス料理のパイオニア的存在です。現在のように「スパイスカレー」というものが一般的でなかった時代に開店し、本場のスパイス料理のテイストを日本に伝えながら、日本ならではの独自のスパイス使いを追求。その味を求めて、遠方からも多くの人がお店を訪れます。店主の伊藤一城さんに、お話をお伺いしました。

きっかけは「世界中のスパイス料理を紹介したい」という思い

伊藤さんが押上に「スパイスカフェ」をオープンしたのは2003年。きっかけは、20代のときに世界一周をする中で「スパイス料理の面白さ」を知ったことでした。

会社勤めを辞めて、3年半で48カ国を回る旅をしていたんです。当時の日本では“スパイス=カレー”みたいなイメージがあり、それ以外のスパイスは家庭に入り込んではいなかったように思います。ところが世界中を旅する中で、いろいろな国でさまざまなスパイスが使われている事に気づいたんですね。
 
インドやスリランカはわかりやすいですが、タイや南米でもそう。ヨーロッパでも、シナモンやクローブ、カルダモンなどが普通に使われていたり、もう本当に世界中でいろんな使われ方をしているわけです。
 
だったら僕は、日本に帰って、いろいろなスパイス料理を紹介したい。そう思ったのがきっかけでした。

古民家を改装した店内は、シンプルながらもスタイリッシュ

帰国後にイタリア料理、インド料理、スリランカ料理の店で修行したあと、セルフリノベーションで古民家を改装し、「スパイスカフェ」をスタートさせた伊藤さん。その本格的、かつ独創的なスパイス使いから店は評判を呼び、2012年には「食べログ」のカレー部門で全国1位に。

現在はランチはインドスパイスをベースにしたオリジナルカレーを、夜はスパイスを使ったディナーコースを提供しています。

さまざまな国のスタイルを取り入れたメニューたち

ランチのカレー 2種1,600円(1種は1,300円) 

ランチメニューは、さまざまな国のスタイルを取り入れた7〜8種のカレーから好きなものをセレクトできます。今日はどの組み合わせにしよう……と悩んでしまいそう。

写真の奥は南インドの野菜カレーでスパイスカフェの人気定番メニューの1つ「ラッサム」。南インドのカレーで、酸味と辛さ、さまざまなスパイスの風味が絶妙です。手前はココナッツ風味が効いた甘口のカレーに、トマトやほうれん草などトッピングのフレッシュさが新鮮な「ココナッツ」。
ほかにも「ポークビンダル」や「サンバル」、「骨付きチキン」などの定番メニューに加え、旬の素材を使った期間限定メニューも。

ディナーコースの前菜(一例)。ウドの春巻きカレーリーフ塩添え、フェンネルシードをかけた紅大根と柑橘のサラダ、カスリーメティをふりかけたしいたけのロースト、ニゲラをつかったカリフラワーのムース、アニスシードをかけたブロッコリーのキッシュ

伊藤さんが思う「スパイスの面白さ」をより深く味わえるのは、夜のディナーコースです。

例えば人参が一本あったら、まず焼いたり揚げたり煮たり、いろんなことができますよね。ところがそこにスパイスを加えることによって、味が激変するんです。それがスパイスのすごく面白いとこだと思います。

スパイス料理というと「さまざまなスパイスをたくさん組み合わせて複雑な風味を楽しむもの」と思う人もいるかもしれませんが、伊藤さんの目指すところは逆。あくまでも主役は“旬の食材”であり、そのおいしさをスパイスで引き出すことが目標だと言います。

カレーとかは特にそうなりがちなんですが、何十種類もスパイスを加えることで、素材の味がわからなくなってしまうことが多い。そうではなく、なるべく使うスパイスを減らしつつ、スパイスが加わることでの新たな表現を追求したい。
 
これは、日本人にしかできないスパイス使いの考え方だと思いますし、僕らだからできることなのではと思うんです。

スパイスの可能性を模索し、食材を探求する

緑に覆われた店の佇まいは、街なかの喧騒を忘れさせてくれそう

既存のスパイスと食材の組わせだけではなく、これまでスパイスとして使われてこなかった素材をスパイスとして使ったり、新たな使い方を考えたり……ということも伊藤さんは模索しています。

例えばマッシュルームを乾煎りして粉状にしてふりかける。人参をビネガーに漬け、発酵したものを乾燥させパウダーにする、この前菜に使われている「ふきのとうオイル」のように様々な素材を使用してオイルを作る、など。どんなものが「スパイス」として使えるかは発想とアイデア次第、無限の可能性がある……と伊藤さん。

ディナーコースの魚料理(一例)、サヨリとホタルイカのサラダ。上にかかっているのはふきのとうオイル、フェンネル、アジュワンシード、ニゲラ、クミン

もともとの“旅好き”も高じて、食材を探求するために全国の生産者を自らの足で回るようにしているという伊藤さん。信頼できる生産者から手に入る素材は、味の濃さも香りも全く違うとか。

たとえばこのサラダに使っているクレソンも、安曇野の農家さんから送られてきたものです。スーパーではまず売っていないようなクレソンなんですよ。
 
この間も加計呂麻島に行って猪を獲っている猟師さんに会ってきたんですけど、来週は長野県の佐久に行ってセリを獲ってくる予定です。

全国の食材の話をしている伊藤さんは、とにかく楽しそう。ディナーコースでは、そういった伊藤さんが厳選した食材がさまざまな形で登場するのが、大きな魅力の1つです。

スパイス料理のこれから

昨今のスパイスカレーブームやもあり、日本の家庭にもスパイスが徐々に浸透。インドやスリランカなどの料理も、地域性による違いなどが知られるようになってきました。

今後の「日本におけるスパイス料理」はどうなると思いますか?と聞いてみると、現地のオリジナルに近づけていく方向、伊藤さんのようにその国ならえはのスパイス使いを追求する方法、北海道のスープカレーや大阪のスパイスカレーのように独自性を持った形の方向と、3方向に進むのでは……と伊藤さん。

それとは別に、“新しいスパイスを発見する”という方向もあるような気がしています。
 
例えば今、気候変動の影響で、これまでは作れなかった場所でもスパイスが作れるようになってきているんです。特に沖縄は今、胡椒をはじめいろいろなスパイスが栽培され始めているんで面白いんですよ。
 
僕はそう遠くない将来、スパイスもいわゆるシングルオリジン……どの農園で作られたスパイスか、というようなところで選ぶようになるのではと思っています。それもまた面白そうですよね。

スタッフのみなさんと

とにかく、やってみたいこと、行ってみたい場所がたくさんある……伊藤さんのお話からは、スパイスの面白さと奥深さに対する果てなきエネルギーと好奇心が伝わります。スパイスカフェの料理から、ぜひその魅力を感じ取ってみてください。

スパイスカフェ

東京都墨田区文花1-6-10
TEL:03-3613-4020

営業時間:
11:30〜15:00(14:00 L.O.)
※予約はできません
18:00〜23:00 (20:30 L.O.)
※週末はコースのみ

定休日:月・火曜日
https://spicecafe.jp/1-1

取材・文:川口有紀、撮影:後藤秀二

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