メンバーチェンジなし、活動休止なし。結成36年を迎えてもなお、常に止まることなく走り続けるロックバンド、フラワーカンパニーズ。
当連載「知りたい!ミュージシャンのDIY魂」を立ち上げるにあたり、DIY魂を持つミュージシャンとしてイメージしていたのが彼らのことでした。初めてのインタビュー企画にご登場いただくなら彼らしかいないとオファーをしたところ、ベーシストであり頼れるリーダーとしてバンドを牽引するグレートマエカワさんにご登場いただくことに。
フラワーカンパニーズが挑戦を続ける理由と、その根底にあるDIY魂、そしてバンドを長年にわたってしなやかに率いてきたリーダーとしての哲学を、じっくりと伺いました。
フラワーカンパニーズがチャレンジを続ける理由
2回目の日本武道館公演は、前回より良くなる自信しかない
9月20日に2度目の日本武道館公演を控えていますが、その前後もアルバムツアー(正しい哺乳類ツアー2025)やアコースティックツアー(フォークの爆発2025〜座って演奏するスタイルです〜)、その他イベント出演など全国でのライブがビッシリ詰まっていて、まったく止まる気配がありません。その原動力は何なのでしょうか?
うーん、まあ「走り続けないと食ってけない」という現実的な理由もありますけど(笑)。行きたいライブハウスが全国にたくさんあるので、できるだけ出演したいんです。メンバーからも「少し休ませてくれ」っていう声が出るわけでもないですし。もちろん、「休みがないな」って口では言うんですけど、多分本心ではそう思ってない(笑)。スケジュールは基本的に僕が決めているので、「休みたい月があったら早めに言ってね、そうしないとどんどん入れちゃうよ」とは伝えているんですが、この20年以上、メンバーからそういう要望が出たことはほとんどないですね。
2025年は1月にアルバム『正しい哺乳類』をリリースされて、日本武道館公演も発表されてとトピックが多い年ですが、どのようなスケジュールを立てられていたんでしょうか。
1月にアルバムが出てツアーをやるから、9月の武道館公演の前、夏ぐらいに1曲か2曲か新曲が欲しいなと考えていました。鈴木(ヴォーカル:鈴木圭介)にもそのつもりでいてほしいと伝えていたら、バッとすぐ作ってきましたね。彼はこの2、3年ぐらいすごく調子が良くて、頼もしい限りです。
武道館公演に向けて、準備期間を大幅に取りたいとは思われなかったんですか?
10年前、2015年12月に初めて武道館をやったときは、バンドにとって本当に大きな挑戦で、そこで一区切りという感覚が強かったんです。だから、公演が終わってから2ヶ月くらいライブをしなかったんですよ。でも、今回は2回目。もちろん武道館は特別な場所ですけど、もっと自然なかたちで、僕らの今の活動の延長線上にあるものとして捉えたかったんです。ツアーの一環としてファイナルを武道館公演にするということも考えましたが、スケジュールの都合がつかなくて。でも「ツアーの流れの中で武道館をやる」という意識はありますね。
前回とは、武道館に対する心持ちが違うのですね。
まったく違いますね。前回は武道館という一点に集中していましたが、今はもっとバランスよく活動を進められている感覚です。緊張はしてますけどね(笑)。特に竹安(ギター:竹安堅一)は前回本番1週間前くらいからの緊張がすごくて、いつもと違って周囲からも心配されるほどでした。今年は緊張対策として、武道館を何度も見に行って慣れようとしているようで、たぶんあとまだ2回くらいは行くんじゃないかな(笑)。でも今回は緊張したとしても、あの頃から10年キャリアを重ねているので、絶対に前よりは良いプレーをお見せできると思います。

ルーティン化しないことが、バンドが成長し続ける秘訣
その自然な流れの中で、近年はライブのあり方にも新しいチャレンジが見られます。特に「着席ライブ」は大きな変化ですね。
そうですね。昔からファンでいてくださる方は僕らと一緒に年を取っていきますから、疲れるだろうなって。僕自身、ライブを観に行くときに「(スタンディングだと)最後までもつかな…」って思うことが増えてきたんで、みんなもきっとそう思っているはずだと。だったら、椅子があることでライブに来やすくなる人もいるんじゃないか、と考えたのがきっかけです。新しくファンになってくれた方にも、スタンディング、座席ありのどちらのライブも楽しんでいただきたいですね。若い頃は変なこだわりがあって「ライブはスタンディングじゃなきゃ」って思っていましたけど、それでは自分たちの首を絞めるだけだって気づいたんです。
昨年12月の浅草公会堂でのライブは、着席で、かつ「立たないでください」というアナウンスがあったのが印象的でした。
会場がスタンディングNGだったので、あれは完全にお客さんが座ったままでも楽しめるセットリストを組んで臨みました。やってみたら、スタッフからも「これでツアーをやりたいね」って言われるくらい、すごく手応えがあったんです。1回限りのつもりでしたが、今後は東名阪で着席ツアーをやるのも面白いなと考えています。長くバンドをやっていると、どうしても活動がルーティン化してきてしまうことが多いんです。ただ、そうなるとバンドとしての成長は止まってしまうと思うんです。だからこそ、こういう新しい挑戦を取り入れることは、自分たち自身が「面白いな」と感じられるし、それがバンドの先の希望にも繋がっていくんですよね。
ルーティン化しないというのは、セットリストにも言えることでしょうか。最近は定番曲の「真冬の盆踊り」をやらないライブも増えましたね。
そうなんですよ。気付いていましたか(笑)。「真冬の盆踊り」は最後に演奏することが多い曲なので、みんな疲れるかなと考えたりもしますし、お客さんの表情を見ていると「またか」みたいな空気を感じることもあって。何より、やりたい曲がたくさんあるのに、あの曲に頼りすぎていたなっていう反省もあるんです。それで今年のツアー前半はほとんどやらなかったんですが、久しぶりにやってみると、また別の楽しさが生まれる。この曲のパワーを再確認できて、それはそれで面白い発見でしたね。

全曲レビュー企画で見つけた、新たなチャレンジ
Instagramで全曲レビュー企画「フラカンの音楽目録」をやられていますが、「これもライブで聴きたい!」と感じたり、「こんな曲もあった!」と懐かしくなったり、とにかくフラカンの曲の強さを感じます。
それは自分でも感じました。セットリストを考える際、「今、聴いて欲しい曲」をまず入れて、「ライブで盛り上がりそうな曲」を加えて…とやっていると、特に持ち時間の短いイベントだと大体同じような曲順になってしまうんですよね。京都の磔磔で毎年やっているライブではレアな曲もやっていますが、先ほど言った通りのルーティン化はどうしても起こってしまいます。ただ、この企画をはじめたことで初期の曲を改めて聴いてみて「今だったらこういう風に演奏できるかな。やってみたい」と思ったので、これからのライブにも取り入れていきたいですね。新曲を作るのとは別のチャレンジになって、面白いかなと思っています。
そもそもキャリアが長いので、曲の数もハンパないですよね。
これだけライブをやっていても、ほっといたら一生ライブでやらない可能性がある曲もありますから(笑)。でもそれはちょっと嫌だなって思いました。5年、10年、どれぐらいかかるかわからないですけど、1曲でも多くやってみたいですね。
参加されているライターさんの熱い想いも、読んでいて共感することが多いです
これは個人的にもめちゃくちゃ楽しみに読んでいます。参加してもらっている方たちから「正しく書けるか不安」と言われたりもしましたが、これはあくまでもライターの皆さんが感じることを書いていただく企画なので、基本的に間違いなんてないんです。年月日のことは聞いてくれれば答えられますが、それ以外はライターの皆さんにおまかせして、自由に書いていただいています。1回最新曲まで終わったら別の人に書いてもらったり、何年かごとにやったり、続けるのも面白いかもしれない(笑)。
グレートマエカワさんが大事にしている「DIY魂」
面白いと思うことはやってみる
マエカワさんご自身も、うつみようこ&YOKOLOCO BANDやサポートベース、DJ活動、トークイベントなどフラワーカンパニーズ以外でも精力的に活動されています。スケジュールはご自身で管理されているとのことですが、そのバイタリティはどこから来るのでしょうか?
僕はもともと落ち着きがない性格で、家でじっとしているのが本当に苦手なんです。面白いことを思いついたり、面白そうな話が来たら、フラワーカンパニーズのスケジュールを確認して「あ、ここ空いてるな、やっちゃおう」ってすぐに入れちゃう。ファンの方からは「働きすぎじゃない?」って心配されることもありますけど、無理してやっているわけではなくて、自分が楽しいと思うことをやっているだけなんです。
バンド以外の活動が、バンドに良い影響を与えることもあるのでしょうか?
めちゃくちゃあります。フラカンのワンマンライブだけを繰り返していたら、多分ここまで続かなかったと思います。対バンで他のバンドから刺激を受けたり、トークイベントで普段話さないようなことを話したり、そういうところに、実はバンドのモチベーションになるものがたくさん隠されている。それにだいぶ前に気づいちゃったんですよね。例えば、閉館が決まっていた味園ユニバースで5月に怒髪天とトークイベントをやったのも、あそこは僕らにとってもすごく好きな特別な場所だったから。ツアーで忙しい合間でしたけど、何とかして出たいと思ったんです。そういう一つ一つの活動が、バンドを転がし続ける力になっているんだと思います。

フラワーカンパニーズの代名詞、ハイエース
長年、自分たちで機材車のハイエースを運転して全国を回るスタイルも、まさにDIY精神の表れですね。
さすがに東京-九州みたいな12時間もかかる無茶な長距離移動はやめましたけど(笑)。でも、東京-大阪くらいの5時間程度の移動なら、駅や空港までの移動時間や荷物のことを考えると、公共交通機関よりも自分たちの車の方が断然楽なんですよ。飛行機の場合、何時間か前には空港にいないといけないですが、車ならメンバーの家に行ってピックアップして、そのまま会場に行けますし、終演後も機材と一緒に車でホテルに行けますからね。意外と便利ですよ。
長時間の車内、メンバーの皆さんはどう過ごされているんですか?
席が大体決まっていて、そこがもう自分の部屋みたいになっている感じです。僕は助手席が多いので、後ろのメンバーが何をやっているかはよく見えない(笑)。でも、それぞれが本を読んだり映画を観たり、快適に過ごすための工夫をしていますね。竹安は首に巻くやつとか、ふわふわした座布団とか、快適グッズを色々持っていますね。そういうのが好きなんですよ。鈴木も嫌いじゃないかもしれない。逆に小西(ドラム:ミスター小西)はそういうのに一番無頓着で「何でもいいよ」ってタイプ。僕はその中間くらいかな。そういう4人4様のキャラクターの違いも面白いですよね。
行きたいライブハウスが全国にたくさんあるとのことですが、ルート作りは大変じゃないですか?
そこの日程を決めるのも含めて、僕は好きなんです。どうしてもライブが終わってすぐに移動しないと次の日が大変だなってブッキングになることも年に何回かありますが、ライブ後に2時間くらい走るのはどうってことないです。初めて行くところじゃない限りは、大体どれぐらいかかるかっていうのは体に入っているので、想定していた通りの時間で着いた時なんかは嬉しいですね。うまくいかないことの方が多いですけど(笑)。
バンドマンとして大切にしたい「DIY魂」とは
バンドマンとして、これだけは失ってはいけないと思う「DIY魂」はありますか?
やっぱり「自分のこだわり」を持つこと、これに尽きますね。ライブの日はお客さんは僕たちのベストパフォーマンスを観に来てくれているわけですから、「今日はライブハウスの機材だからしょうがないや」みたいな妥協は絶対にしたくない。その場での最高の音を出せるなら、自分の機材じゃなくても良いと思っているほどです。そこのこだわりをなくしたら、バンドとしてはアウトだと思います。たとえライブ中に機材トラブルが起きても、それをお客さんに感じさせない何かで楽しませる。僕ら自身が心から「楽しい」と思いながらやることが、お客さんの「楽しい」に直結すると信じているので、その気持ちだけは絶対にブレさせないようにしています。

4人だからこその連帯感もありそうですね。
全部を自分たちでやるということは、全責任を負うことでもあります。大きな会社にいると、人が多い分、自分のミスなのに誰かになすりつけるという発想が生まれてしまう。でも今は4人だけなので、自分のミスは自分でカバーしないといけません。この想いは、DIY魂なんじゃないでしょうか。今回の武道館も、興行面で失敗したら、自分たちで負債を抱える覚悟を持って挑んでいます。
その武道館のチケットは、マエカワさんが手売りされていますよね。私も、見やすい場所のアドバイスをいただきながら購入しました。
ありがとうございます!前回もやっていたんですけど、武道館の座席一覧を出力した紙をお客さんに見せながら「ここが見やすいよ」って伝えるのが楽しいんですよね。武道館にはお客さんとして行ったことがある分、どこの席からだとどう見えるという知識があるので、自分なりにアドバイスをしながら売るのは好きですね。ぜひ多くの方に物販に来て、どの席がいいか聞いてほしいです(笑)。
リーダーとして大切にしていること
50歳を過ぎてなお、視界良好!
マエカワさんはバンドのリーダーであり、所属事務所の社長でもありますが、メンバーとの関係で心がけていることはありますか?
僕はバンドの活動の仕方、方向性を示すリーダーではありますが、音楽的なリーダーは間違いなく鈴木なんです。メンバーはそれぞれが自分のパートのプロなわけですから、そこは全面的に信頼しています。よっぽどのことがない限り、僕から「ああしろ、こうしろ」とは言いません。小西がよっぽどのことをし出したら、さすがに止めますが。彼は未だに読めないところがありますから(笑)。
先ほど、ここ数年は鈴木さんの調子が良いとおっしゃっていましたが、彼の変化をどう見ていますか?
世間の人は鈴木のことを「歌詞もああだし、難しい人かもしれない」と思ってるかもしれないですけど、僕は昔からそういうふうに感じたことはないです。もちろん、彼が自分で考えすぎて迷路に入り込んじゃうような時期もありました。でもそれは、誰かが外から何かを言っても解決しない。彼自身が突き破るしかないことだと分かっていたので、ずっと見守っていました。それが、コロナ禍が明けたあたりから、完全に何枚も皮がむけたような感じになって。本当に頼もしい存在です。
まさに覚醒、という感じですね。
そうですね。最近は彼から「こういうふうに変えようと思っている」という意志をすごく感じるので、もう曲も歌詞も全部任せています。

他のメンバーとの関係性はいかがですか?
みんなそれぞれ自分の役割を分かっていますね。この部分は竹安がいないと困るし、ここは小西がいないと、という絶妙なバランスがある 。それぞれが自分の仕事と、他の3人のことを見ていれば、それでバンドはうまく回ると思っています 。
信頼できるスタッフさんの存在も大きいと伺いました。
それはもう、めちゃくちゃ大きいですね 。10年くらい前までは、何か新しいことを始めるときは、大体僕が「よし、やろう」って言い出す感じだった。そうすると、どうしてもメンバー4人だけの小さな視点になっちゃうんです。でも今は、僕らを俯瞰で見てくれるスタッフがいる。彼女が先ほどの「フラカンの音楽目録」とか色々な企画を提案してくれるので、僕はすごく楽になりましたし、そのおかげで自分の個人的な活動に時間を使う余裕もできました。本当に良いチームで活動できていると思いますね。
2025年のロードマップを描くうえで、武道館前にリリースされる新曲が大事になるのかなと思ったのですが、鈴木さんが書かれた新曲はイメージ通りでしたか?
鈴木には「武道館の2ヶ月ぐらい前に出すとしたらこういうもの」と考えたものを作ってほしいと伝えていたら、すぐに勢いのある2曲を作ってきたんです。武道館でやるかどうかは置いておいて、「今のフラカンはこういう気持ちだ」というのを鈴木なりに入れた曲になっています。レコーディングの日が1日しか取れなかったので、1曲だけ録音しようかとも考えたんですけど、「この勢いを閉じ込めるなら1日で録ろう」って。そういうバンドとしての勢いが、今の僕らにはありますね。
7月16日に配信リリースされた新曲「ただいま実演中」と「ピュアな匂いがチョイナチョイナ」ですね。まさか1日で録音されたとは思いませんでした。
コロナ禍は、さまざまな活動が制限された時期でしたが、バンドにとっても大きな影響はあったのでしょうか。
めちゃくちゃありました。一度ライブが完全に止まったことで、いろんなことが客観的に見えてきたんです。それまでは勢いだけでやってきて気が付かなかったことに、たくさん気付かされた時期でもありました。「いかに俺たち、基本的なことを見てこなかったんだ」って(笑)。でも、それは悪いことばかりじゃなくて、「こうすればもっと良くなる」という改善点がたくさん見つかったということでもあります。だから、今はすごく視界が良好なんです。50歳を過ぎてからこんな基本的なことに気づくのかって、ちょっと恥ずかしいですけどね。でも、そのおかげで、自分たちの音楽はまだまだ良くなるっていう期待感しかないです。
貴重なお話をありがとうございました!
武道館、楽しみにしています!
グレートマエカワ
1989年に愛知県で結成されたロックバンド「フラワーカンパニーズ」のベーシスト兼リーダー。メンバーは鈴木圭介(Vo)、竹安堅一(G)、ミスター小西(Dr)。1995年にメジャーデビュー。メンバーチェンジ、活動休止を一切行わず、コンスタントな作品リリースと年間100本近いライブ活動で「日本一のライブバンド」との呼び声も高い。2015年に初の日本武道館公演を成功させ、2025年9月20日(土)には、バンド史上2度目となる日本武道館公演『フラカンの日本武道館 Part2 〜超・今が旬〜』を控えている。