『IZON.』クリエイターインタビュー 前編

  1. TOP
  2. 大検索!トガりまくりゲーム生活
  3. 『IZON.』クリエイターインタビュー 前編
大検索!トガりまくりゲーム生活

シェア

X X(Twitter) Facebook Facebook
『IZON.』クリエイターインタビュー 前編

カプセルトイの人気作がクラウドファンディングを経てゲーム化?摩訶不思議な経緯を聞く

ゲーム化にあたりちょっと不思議な道筋をたどった『IZON.』とは?

2025年3月──クリーク・アンド・リバー社よりリリースされたアクションアドベンチャーゲーム『IZON.』。幻想的な世界観、個性あふれるキャラクター、3D技術を駆使して作られた美しいビジュアルで話題を呼んだ本作は、リリースにこぎつけるまでにちょっと不思議な経緯をたどったことでも注目を浴びました。

企画の発端は、造形作家であるYoshi.氏がプロデュースを手掛け、シリーズの累計販売数は120万個を超える人気カプセルトイ『紡ギ箱』。こちらの世界観やキャラクターをベースに、待望のゲーム化を果たしたのが『IZON.』となっています。

開発にあたって、プロジェクトに賛同したクリーク・アンド・リバー社がバックについてパブリッシングを手掛けることになったり、事前にファンからの応援を募るクラウドファンディングが実施されたりと、一般的なゲームのリリースとは少し毛色が異なる道を歩んできたこの『IZON.』という作品。成功への道筋の背景にある、クリエイター陣の奮闘とチャレンジをインタビューで紐解いていきます。

前編ではカプセルトイでスポットが当たった『紡ギ箱』が、なぜ『IZON.』というゲームとして開発されることになったのか……その本質部分からお聞きしてみました。

お話を聞かせてくれた方々

Yoshi.氏
本作のディレクターであり、『紡ギ箱』シリーズの生みの親。

Yoshi.氏 X(旧Twitter)@Yoshi6054

いちみ氏
フリーのシナリオライター&ゲームプランナー。Yoshi.氏とともに、企画の立ち上げ段階からプランナーとして本作に携わる。

いちみ氏 X(旧Twitter)@ichimimm000

木下陽童氏
クリーク・アンド・リバー社所属。Yoshi.氏といちみ氏が作り上げた本作の世界観やキャラクターに惚れ込み、会社を説得して資金を確保し、ゲーム化プロジェクトを推し進めた。

木下氏 X(旧Twitter)@yodo_izon

カプセルトイがゲームになる……!? 世にも珍しい経緯

カプセルトイでの展開を経てゲーム化を果たした『IZON.』は、多様な構造を誇るインディーゲーム業界においてもかなり異質なプロジェクトだと思います。そんな本作の成り立ちやプロジェクトの全体像について、生みの親であるYoshi.さんにお聞きしてもいいですか?

承知しました。そもそも『紡ギ箱』の世界観やキャラクターは、僕が大学時代の頃から構想を膨らませていたものなんですよ。当時の僕は大学で特殊メイクや着ぐるみなどの特殊造形を学んでいたのですが、アイデア自体はその時からずっと温めていました。

特殊造形……つまり最初からゲーム化を睨んでいたわけではないどころか、ゲームクリエイターを志していたわけでもないってことですか?

そうですね。大学生の頃は映画や特撮の特殊メイクを目指していたので。アメリカのハリウッドで、映画の特殊メイクを手掛ける工房にインターンとして勤務していたこともあります。そしてその製作現場で実際に目にしたCGによる特殊技術に衝撃を受け、それをきっかけに急きょ進路を変更したんですよ。その後はプラチナゲームズ(※1)というゲーム制作会社に所属して、CGを使った造形物の制作に携わるようになりました。

(※1)プラチナゲームズ

大阪に拠点を置くゲーム開発会社。『ベヨネッタ』シリーズ、『NieR:Automata』、『ASTRAL CHAIN』など、精緻で美しいグラフィックと作り込まれた世界観、爽快なアクション要素でファンを魅了する作品を数多く世に送り出している。

一方で『紡ギ箱』の構想自体は就職後もずっと考えていらっしゃったわけですよね?

はい。現在の僕はフリーランスとして活動しているのですが、プラチナゲームズに所属しているころはディレクターの世界観のものをデザインしたりアーティストのデザインをモデリングしたりといったことが業務だったのですが作っていくうちにやはり自分だけのオリジナルコンテンツも作りたくて、大学時代から温めていた『紡ギ箱』のキャラクターたちをワンフェス(※2)で発信していきました。

(※2)ワンフェス

ガレージキットを中心に、プロ・アマチュア問わず造形作品を展示・販売するイベント“ワンダーフェスティバル”の略称。夏と冬の年2回開催される本イベントは、日本の造形物文化の発展に大きく寄与しており、たくさんのファンから愛されている。

なるほど。そこらへんは元々特殊メイクなどを学んでいたYoshi.さんならではのクリエイティブですね。当時から人気があったのでしょうか?

パッと見はちょっと気持ち悪いけど、よく見れば可愛いと評価してもらえたというか、独特の世界観を気に入ってくれるファンの方がついてくれましたね。こうしているうちに運よくカプセルトイメーカーのスタジオソータ(※3)さんの目に留まり、カプセルトイとして世に送り出すことが出来たんです。そしてちょうどその頃、当時のプラチナゲームズで社内コンペが開催されていまして。

(※3)スタジオソータ

アートフィギュア・玩具などの製造・販売を行うトイメーカー。多くのカプセルトイやボックストイを手掛けている。

社内コンペ!そちらに『紡ギ箱』のプロジェクトを提出した感じですか?

はい。最初こそ僕一人で考えていたのですが、一緒に『NieR:Automata』や『ASTRAL CHAIN』に携わっていて、個人的にも仲が良かったプランナーのいちみさんにアドバイスを受けるようになりました。

お話を聞いた段階で骨格はかなり固まっていて。少なくともYoshi.さんがやりたいことはしっかり見えていたんですよね。
なので私は、これをゲームで表現したいならこうすべきでは……といった細部を固めるお手伝いをしながら、2人で企画書を詰めていきました。

こちらが一番最初の企画書。Yoshi.氏が温めてきたアイデアがいちみ氏との話し合いを経て研鑽され、すでにこの頃からゲームの骨格は固まっていたようだ。

そうして応募したコンペの結果は……。

実はコンペ自体は通ったというか、一回「やってみよう!」という段階までは進んだんですよ。ただ、ちょうどそのタイミングでコロナ渦に突入してしまい、ゲームの開発現場にも大きな変革が必要となりまして。結果的にそれどころではなくなってしまったというか、お蔵入りするかたちになってしまったんです。

なるほど、そんな経緯があったとは。

時期や情勢的に仕方なかったとはいえ、企画を「面白い!」と言っていただけたことへの手ごたえと、お蔵入りするという事実への喪失感の両方がないまぜでした。そうしているうちに『紡ギ箱』のカプセルトイが、僕の想像以上に軌道に乗り、多くの方々に受け入れていただけたんですよね。自分としては「こんなニッチなものが?」と驚きもあったのですが、日本だけでなく中国などでも多くの人気を博しました。これは自信になりましたし、素直にありがたかったですね。

そういった経緯もあってフリーランスとして独立され、インディー作品として『IZON.』のゲーム化を目指し、クラウドファンディングを立ち上げた……ということですか?

いえ。順番としては先にクリーク・アンド・リバー社さんがパトロンというか、木下さんが開発資金を集めてくれて、プロジェクトを立ち上げてくれたんです。じつは最初からクリーク・アンド・リバー社さんに決まっていたわけではなく、色々な会社に企画を持ち込んだこともあり、別のパブリッシャーさんが支援してくださる可能性もあったのですが。紆余曲折を経てそのお話が白紙に戻り、わりと困っているときに木下さんが尽力してくださって……。会社を説得して資金をかき集めて来てくれたんですよ。

めちゃくちゃドラマチックじゃないですか!

Yoshi.さんが仰ってくださったように、当初、我々への相談内容は「パブリッシャーを探してほしい」という内容だったのですが、中々簡単には見つからず……。そんな中、私自身がYoshi.さんといちみさんが生み出す世界観やキャラクターに惚れ込んでしまい、「他社でできないなら当社でやりたい!」となり、社長に直談判しに行ったことが始まりです。

木下さんには本当に感謝していますし、恩返しをしなければならないと常々思っています(笑)。

とんでもない!僕としてもとても楽しいプロジェクトですから。そもそもYoshi.さんもいちみさんも、なかなかプロジェクトが進まないなかで決して諦めることはなく、色々な企業に営業をかけたりしていたじゃないですか。あの行動力に後押しされた部分はありますよ。

それまで営業なんてしたこともなかった2人が、二人三脚で色々な企業にプレゼンに回ったりしましたよね……。

懐かしい(笑)。
実は私自身、Yoshi.さんとは違ったタイミングでプラチナゲームズを退職していたのですが、その時はもうクリエイターの道そのものを諦めようと思って、ゲームとはまったく関係ない業種に転職していたんです。

そうだったんですね……。

ただ、やっぱり自分のなかに情熱は燻っていて。あらためてゲーム業界に戻ろうと決意したタイミングで、折よくYoshi.さんから「自分たちの手で『IZON.』を本格的に作りたいからまた力を貸してほしい」と声をかけてもらったんです。

あの時にはもう『IZON.』は僕1人のものではないってくらい、いちみさんには世界観などを深堀りしてもらっていたので。なんとしても力を借りたかったんですよね。

いちみさんとしても、自分が惚れ込んでいた『IZON.』にもう一度関われるチャンスなわけですから。再びタッグが結成されたわけですね。

そうですね。愛着はありましたから……と言っても、じつは最初にYoshi.さんに世界観やキャラクターのお話を聞かされたときは、そこまでピンと来ていたわけでもないんですけど(笑)。

えっ、そうなの?ちょっとショック……。

あくまで最初のお話ですよ(笑)。企画に携わっていくうちにYoshi.さんの趣味嗜好は自分のそれと合うなって確信しましたし、そこからは色々な提案をして自分好みの設定も付け加えさせてもらったりしたので、今ではめちゃくちゃ愛情が生まれています。

それならよかった!(笑)

面白いタッグですね。木下さんがお2人をバックアップしたくなる気持ちもわかります(笑)。

本当に(笑)。そもそもお2人の『IZON.』プロジェクトは、我々クリーク・アンド・リバー社が掲げる「プロフェッショナルを支援することで人と社会の豊かさを創生していく」という企業理念に通じるところがありました。「これほどまでに魅力的な人たちの挑戦を支援しなかったら企業理念に反するのでは?」と、脅迫ではないにせよ、ちょっと変則的な攻め方で社長を説得した部分はあります(苦笑)。

なるほど(笑)。でもそれが見事に功を奏したわけですもんね。

当時からすでに社長が『IZON.』の魅力の本質を理解していたわけではないと思うのですが。「木下がそこまで言うんだからやる価値があるに違いない!」と舵を切ってくれまして、頑張るお2人に道を示すことができました。自分でいうのもなんですが、当時16年ほど社に在籍して貢献してきたことで蓄積していた“信用貯金”のようなものを使った感じです(笑)。

面白いですね。Yoshi.さんやいちみさんが持つクリエイターとしての熱気とはまた違った熱量が、木下さんから感じられて印象的です。

ありがとうございます。先ほどもお伝えしましたが、私自身がお2人の作品の世界観やキャラクター、そして何よりそのクリエイター気質に強く惚れ込んでいたもので。これは私の父親の影響が大きいかもしれませんね。

お父様の影響とは、具体的にどのようなものでしょう?

実は私の父親はコピーライターで、かなりクリエイター気質が強い人物なんです。幼い頃からそんな父親の背中を見て育った私としては、クリエイターへの尊敬の念がとても強く、そういった方々を応援したいと考えてクリーク・アンド・リバー社に入社したんですよ。ただ、会社に所属するなかで自分が思ったようにすべてのクリエイターさんにチャンスを与えてこられたかというと、なかなかそうはいかない事も多くて。

そこはビジネスでもありますし、仕方ない側面もありそうですが……。

おっしゃる通りなんですけどね。だからこそ「いつか本当に自分が惚れ込んだプロジェクトがあったら、なんとしてもその花を咲かせたい」とずっと決意していました。

そんな木下さんにとって、『IZON.』こそが“花”だったわけですね。なんともいいお話!
Yoshi.さんたちにとっても、クリエイター冥利に尽きるのでは。

本当に木下さんに感謝してもしきれないです。ありがとうございます!

では、そうしてクリーク・アンド・リバー社のサポートも得て、ようやくゲーム化のお話にこぎつけた『IZON.』ですが。ここでクラウドファンディングを仕掛けることになった理由はなんだったのでしょうか?

一言でいえば「ずっと『紡ギ箱』を支えて来てくれたファンの方と一緒に『IZON.』を作りたい」という部分に尽きますね。

もう少し具体的にお聞きしていいですか?

僕自身、かなり長いこと『紡ギ箱』をゲーム化したいと動いてきたなかで、一番の支えになっていたのはファンの方々の存在なんですよ。くじけそうになるたびに「『紡ギ箱』がゲーム化されるなら応援します」って励ましてくれるファンの声があったから、なんとか頑張ってこれた側面があって。木下さんのおかげでようやくゲーム化の目処が立ったとき、応援したいって言ってくれる方々の声や想いを何らかの形に残したいと考えました。そうしてクラウドファンディングのリターンとして、エンドロールにお名前を載せるというアイデアが思いついたんです。

素敵なアイデアだと思いますよ。ファンにとっては自分の推しコンテンツを支えながら、自分の名前をそこに刻めるわけですから、すごく大きなご褒美ですよね。

こう言ってはなんですが、クラウドファンディングのお金で儲けようとはまったく考えていなくて。ファンの皆さんからお寄せいただいたお気持ちは、返礼品であったり、ゲームを豪華にしたりといったところにすべて費やそうと決めていました。正直なところ、ちょっと返礼品を豪華にし過ぎて予算が想定以上になったこともあり、ゲームの開発に回せた額面が微々たるものになってしまったんですよ。そこは木下さんに申し訳ないことをしてしまったという気持ちもあるのですが(苦笑)。

いやいや。Yoshi.さんのそういうファンを大事にする気質もすごく素敵なところだと思いますし、僕としてはむしろリスペクトしていますよ。

おかげさまで、返礼品はちゃんと喜んでもらえたようですし、ゲームも面白かったとおっしゃっていただけた方がたくさんいて、僕としてはすごくホッとしました。やっぱりエンドロールに名前が載るというのは特別なことだと思いますし、それこそがファンの方と一緒に作った証でもあるので。僕自身も大変ではあったのですが、やってよかったなと感じています。

インタビュー後編は!?

後編では、『IZON.』のテーマに込められたこだわりや、今後のクリエイターへのメッセージなどについて伺います。お楽しみに!

なお、5月23日(金)に発表された「電撃インディー大賞2025」(主催:電撃オンライン)で、『IZON.』はアドベンチャー部門および総合ランキングのいずれも第5位にランクイン!第2節以降のリリースも楽しみになるばかりです。

またDEKIRU!では、ゲームブロガーの双葉ラー油さんによるレビューも掲載。『IZON.』をまだプレイしたことがない方も要チェックです!

シェア

X X(Twitter) Facebook Facebook